From:じゅりんた(8) [関東/51歳から60歳]
2007年 集英社刊 奥付の前のページに馳さんの紹介文が載っています。そこには「日本を代表する暗黒小説の書き手」と書かれてました。うん、確かにそうかも知れないと思う。こういう小説ばかり書いてりゃ、日本一の暗黒小説家になれると思う。
実際、見事に暗澹(あんたん)たる小説でした。読み終わってもわだかまる私の中の暗鬱(あんうつ)たるこの気持ちをどうしてくれようか。
本作品は暗色に彩られた短編小説が5編収められています。脇役のように登場する人が次の短編の中心人物になるという、凝ったリレーで連なる短編集です。
物語はとても魅力的な筆致で書かれているんです。一歩でもこの作品世界に足を踏み入れた者を作者は簡単には解き放ってくれはしません。読み出すと、もう読んじゃうんです。そしてますます暗雲に包まれてしまう。
素直にいいます。面白かった。面白かったんです。 例えて言えば、愚かしくも悲しい事件をワイドショーで見ているような人ごとの面白さ。
でももう忘れたいです。なるべく早くこの暗然たる気持ちを遮断したい。とても悲しい。
登場する人物の誰ひとりとして思いやりも優しさも暖かさもない。見せかけだけ。そこですべての人たちの心の成長が止まっている。自分のことだけ考えている人々が目の前のことだけしか見ていない。
人間らしいと言えば人間らしいが、これだけじゃ人間とは言えないのでは。笑えないですよ、全然。笑わないままで生きてく意味あるの?と、私は思うのです。
是非いつの日にか、この短編集で出会った作中の人々が笑顔を見せてくれるような物語に出会いたいとなぁと思ってます。希望でもあり、願いでもあり、祈りでもあります。
2008年06月03日 (火) 00時16分
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