From:じゅりんた(8) [関東/51歳から60歳]
2007年 光文社刊 グレーの濃淡に唇のほんのりとした紅色。少女の肖像をほっそりとした月に透かせた装丁がこれから読もうとする読者を幻惑します。
この魅力的な表紙を持つ一冊を思わず手に取っていました。三上洸さんは2003年に光文社が主催する日本ミステリー文学大賞新人賞を「アリスの夜」で受賞しています。期待を大いに抱きつつ最初のページをめくりました。悪くない出だしです。好奇心に突き動かされてぐいぐいと読み進みます。
私の場合恥ずかしいのですが、長編ですので流れに乗って読み進めていく内に既出の人物の登場場面を忘れてしまうことがあります。どういう来歴の人物だったろうか。この作品で言うと、ルドルフ、有馬、オーソン・ウェルズこの3人を後戻りまでして探しました。
ちなみにそれぞれ最初に登場するページはルドルフがP.275、有馬がP.292、オーソン・ウェルズがP.307。
それ以外の人物は読んでいるうちは頭から外れようがなかったです。何しろ登場人物たちは皆、派手でしたから。とにかく派手な行動を取ります。
これは作者が作品に肉付けをするためには必要な行動だったのです。作品をほぐしてみると、その構図は意外なほど単純で善悪がはっきりと識別出来ます。そこで味付けとして甘い物は思い切り甘く、辛い物は思い切り辛くという基本方針を定めて、主要登場人物たちを設定し、行動もそれに則らせたのではないかと思います。
敦史のアートワークグループへの入れ込み、貴美の豹変ぶり、一矢の非道、小田島の瀕死のラグビー、ルドルフの超人ぶり、そして真里亜の超越した能力。どれもこれもこう考えるときちんと納得がいきます。
ラストでは信じられない活劇シーンも盛り込まれて、まんまと作者のペースにはまってしまいました。この物語の展開に納得がいくかと聞かれれば、素直にハイとは言えません。どうしてこれほどの事件が連続しているのに有馬さんたちがもっと出てこないのだろうかとか、つい考えてしまうのです。
しかしこれだけの長編を一気に読まさせてしまうほどの熱意が私には十分に伝わってきたのです。だから、その作者の熱意は評価したいと思います。
尚、冒頭のページで私が知らない単語が出てきます。「既朔の二日月」こんな言い回しがあるんですね。さらに言えば、色々とカタカナ語が作中には頻出しますが、わからないものを調べようかとは思ったのですが、雰囲気で流してしまいました。マジメにちゃんと調べたいと思いますが、でもやっぱり物語の先を知りたくて端折ってしまいました。
2008年05月24日 (土) 09時29分
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