From:じゅりんた(8) [関東/51歳から60歳]
23ものお話があります。
『百物語』…怪談です。いきなり怪談を読まされるなんて思ってませんでした。だから心の準備もしてませんでした。
万華鏡』…北村さんが書くとなんだかこんな事もありそう。これは江戸川乱歩風の怪奇譚です。
雁の便り』…雁の便りとは手紙の別称。綺麗な日本語です。さて来るはずのない手紙がひとりの女性の元に届いた。その手紙は暑中見舞いだったのですが、そこに書かれていた文は目を疑ってしまうような内容だった。誰が出したのだろうか。うん、きっとあの人だと私は思うな。
『包丁』…スリラーの味わいです。鋭利なものに対する恐怖は誰にでもあります。
『真夜中のダッフルコート』…宮部みゆきさんが登場します。肩の力を抜いてリラックス。最後は脱力度100%の快感。
『昔町』…良いですね、このお話。もう「20世紀少年」の北村薫バージョンって感じですね。泣きました。
『恐怖映画』…きっと何か恐ろしい思いをした原体験があるから、恐怖を感じるのだと思う。でも、それは人それぞれなんだ。
『洒落小町』…浅草にあるとろろ料理の名店「むぎとろ」は馴染みのある店だった。しかし経営者が変わり店舗を改築してビルにした。それ以来その店には行ったことがない。でも気をもまずに今度は行ってみようかな。「山芋気から」と言うことだし。
『凱旋』…北村作品らしい小品。文章の記憶の謎をたどっていくと、荘厳な答えに行き当たりました。言葉は記号であると共に、謎解きの鍵でもある。
『眼』…あのブラウン神父が登場してきても違和感がない世界。
『秋』…主人公は中年男性で、心理学が専門の大学教授。ずっと独身を通してきた。独身の理由は20数年も前から心の中に思い続ける女性がいたから。彼女はやがて結婚。それでもこの心理学者は妄想の中で彼女へのストーカー行為を繰り返していた。あくまでも妄想の中。しかし少し事情が変わった。彼女の夫が海で亡くなってしまったという。彼は悲しみに沈む彼女の気持ちを癒してあげたかった。と同時に悲しみに沈む彼女を見て、亡くなった夫に嫉妬する気持ちが湧いてくる。心理学者は思いきってある決断を下した。彼女を殺そう。やがてしばらくした後、今ではあの20数年前と同じように胸を焦がしてあこがれていた彼女が心理学者のあとから静かに一緒に歩いて来てくれるのだ。妄想と現実との区別が曖昧になって行く、心理学者の心模様を描き出した作品。多分そういう作品だろうと、私は勝手に妄想してみた。
『手を冷やす』…流しの洗面器の中には、氷が薄くなって浮いていました。タオルを冷たい水で絞ったのです。早く熱を冷ましてくれますように、そんなことは言葉にならなくても頭の中にあります。少しぼうっとしていたら、家計簿を付けていた万年筆のペン先から黒いインクが今にも垂れて落ちそうになってます。寒い夜、もう一時。
『かるかや』…艶(つや)のある話です。流石、北村さん。やっぱり本に絡めてきました。
『雪が降ってきました』…白い紙は何色にでも描いていくことが出来るから、可能性を秘めた若者の未来の色。なんてのは、ありきたりです。でも甘い香りがする白なんです。ベッツィ&クリスの「白い色は恋人の色」を聞いたことがありますか?
『百合子姫・怪奇毒吐き女』…私は好きだなぁ、こういう子。賢くて可愛いじゃない。
『ふっくらと』…なんてホカホカなんでしょう。この作品を読み終わって気持ちの良い余韻に浸っている人は多いと思います。掌編小説の白眉。
『チョコレート』…思い出し笑いしている。少し苦めのチョコレートのお話。
『石段・大きな木下で』…段落が変わると視点が変わる。長く連れ添った男と女。見つめる先はテレビ画面の中の女の子。幼い頃の娘にそっくりでした。思い出をつなげてくれる可愛い姿。
『アモンチラードの指輪』…アモンチラード?時々出くわす知らない単語。知らない単語なんて星の数ほどあります。でも届かないと知っていても一つ一つ調べて、知りたいものを知っていく。これも楽しみ。
『小正月』…どんな人生でも良いです。一生懸命自分の信じた生き方をしてきた人から受けるものは、やはり感銘です。彼女の母親の人生は「ナリマス」と言う、いわばお守りのようなその言葉に守られた素敵な人生だったに違いないと思う。きっとそうに違いない。
『1950年のバックトス』…本当に素敵な物語。この本に出会えて良かったと思う。北村薫はこれでなきゃ。もう目から熱いものがこぼれてしまいました。
『林檎の香』…これはこれはふくよかな香り。林檎の甘酸っぱい香り。ラブストーリーです。
『ほたてステーキと鰻』…有終の美をなす作品。まず「月の砂漠をさばさばと」を読んで、次に「ひとがた流し」を読んでからお読み下さい。
2008年03月22日 (土) 10時06分
|