21世紀後半、科学技術が発達し、着るだけで誰もが超人的な力を出すことのできるパワースーツが発明された。 その後、主に介護業界で広く使われるようになり、数年後には一般家庭にまで広まっていった。 しかし、パワースーツを用いての凶悪犯罪が世界中で社会問題となったことで、世界はパワースーツを回収し、使用を禁止することにした。とはいえ使い方さえ間違えなければ確実に人の役に立つ優れた発明だ。このままお蔵入りというのも惜しい。そこで世界はある男に使命を託した。
「君、今日からヒーローやってくれないか。」 「…、はい?」 男の名はヒロ。何の変哲もないただの大学生だ。彼は今日、道端で突然黒いスーツ姿の男に話かけられた。 「なぜ、僕なのですか。ていうか、ヒーローって何なんですか。」 「ヒーローとは簡単に言うと、人助けをする専門的な職業のことで、世界で唯一パワースーツを着ることが許されている。実は世界中に候補がいたんだが、体力があり、頭脳明晰で、人格者…まあ、他にもいろいろあるが、そういう条件から総合的に見て、君が選ばれたんだ。」 (なっ、なんだかそこまで言われると照れるな。) 「正直選考の途中から面倒くさくなってきて、最終的にあみだくじで決めたんだが。」 (なんと適当な…照れた自分が恥ずかしいじゃないか!) 黒スーツの男は続ける。 「それで、やってくれるの、ヒーロー。亅 「そんなこと急に言われても困りますよ。正直世界の平和とかどうでもいいし。それに母親にも相談したいですし、時間を下さい。」 「なるほど、情報通りのマザコンだな。そう言うと思って、君のお母さんにも協力してもらうことになっている。今君のお母さんはある場所に監禁され、眠らされている。このままだと君のお母さんは…。」 ヒロの顔色がさっと青ざめる。 「なんだって!母さんに何をする気だ!」 「このままだと君のお母さんは、スーパーのタイムセールに間に合わないだろう。」 ヒロは息をのんだ。 「…そっ、そんな…。タイムセールは母さんの元気の源なのに…。母さんは俺が産まれてからは一日も欠かさずにタイムセールを狙ってスーパーに通っていたのに…。…その努力を踏みにじると言うのですか!」 次第に感情的になるヒロに対し黒スーツの男は冷静に言った。 「落ち着きたまえ。君がヒーローになると言えば、君のお母さんを起こしてあげようじゃないか。」 「くっ…。」 黒スーツの男はニヤニヤと笑っている。 「どうなんだ?なるのか?ならないのか?」 ヒロは覚悟を決めた。もう彼の頭は母のことでいっぱいであった。 「…なります。やってやりますよ、ヒーロー。」 世界の平和よりも母の平和を守る、マザコンヒーローの誕生である。
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