命。 僕らにも当たり前にあるように持っている、命。 命があるのは、当然だと思っていた。 ―違うのだ。
季節がまためぐった。 僕は、坂の途中にいた。 黒雲が空を覆う、どこまでも長い坂を。 坂には、あちらこちらにハードルが置かれていた。 高いのも、低いのもある。 「エイッ」 自分の飛び越える声が、空間に響いていた。 人々も、当たり前のようにきついハードルを飛び越える。 その先に、なにか目指す物があるように。 坂の上は、ここからは見えない。 横には、この曲がりくねった坂をではなく、最短距離でひたすらに坂の頂上へと上がる、エスカレーターもある。 エスカレーターには、坂のここまでも上がってこられなかった人々が乗っている。 小さな子供の姿もある。 でもそれは、この長い坂の随所に置かれた給水所は通らない。 僕は何度もエスカレーターに、楽に行こうとした。 でも僕は今、あの曲がりくねった坂にいる。 ハードルを、飛び越えている。 次の給水所目指して。 命。 坂を走り抜け、黒雲の向こうの頂上に着いたとき、青空の下私は言うだろう。 あの言葉を口に出すだろう。 人は皆、人生と言う長い坂を登っている。 命は当然の物じゃない。ここまで登るための力である。 この坂にはやり直しが利く物も少なからずある。でも命は違う。 唯一無二。 頂上に着いたときにも、きっと後悔しないように今日を走りぬけながら、誰に言うともなく叫びを上げる。 「頑張れ!!」
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