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タイトル:日記帳 短編

最後の言葉を残さずに死んでいった彼。
その彼と私の懐かしい日々の【交換日記】

千歳 大結 2015年12月20日 (日) 23時23分(97)
 
題名:日記帳

中学校の同級生だった彼の死を知ったのは、その彼が死んでから三週間後の事だった。都会に働きに出ていた私に、同級生として線香を上げて欲しいという彼の母からの連絡が来たのだ。
故郷に向かうバスの中で、彼の姿を思い出す。
中学一年の時は名前も知らなかった。
二年で同じクラスになり、いわゆる男友達だった。
三年では、あまり話さなくなった。
とにかく、そこまで深い付き合いでもなく、彼の事なんて今回やっと思い出したほどだ。
そんな彼の母が何故私に線香を上げに来いと言ったのか。いくら考えても謎は解けなかった。



彼の母は最後に見た時よりもかなり老け、目は腫れていた。何度も何度も私に頭を下げ、ハンカチで目頭を抑えていた。
遺影の彼の表情は、あの時のままのように見えたがどこか暗く重たい。線香に火をつけ、手を合わせ、それでも涙は一滴も出てこない。
来た時と同じように、彼の母が何度も頭を下げ送り出してくれた。



久々に実家に帰った。父は仕事でいなかったが、母はさして驚くこともなく私を迎え入れてくれた。
私が、彼が亡くなったことを伝えると、
「あら、あそこお子さん彼一人だったじゃない。お気の毒にねぇ。」
と眉をひそめていた。



昼食を食べ、くつろいでいると母がテレビを見ながら声をかけてきた。
「あんた、中学の時の荷物持って帰ってくれない?ちょっと邪魔なのよ。」
面倒だったが、さすがに十年近くも自分の荷物を置いておくわけにはいかない。しぶしぶ二階へ上がった。



大きな箱を開けて懐かしいノートを取り出す。国語、数学、理科、社会…。ここを出る前、一通り並べていったのを覚えている。
捨てる物と仕分けをしていると、底の方に黄緑色の表紙のノートがあった。黄色と白の水玉模様のマスキングテープでデコレーションされている。
そのノートを開いた瞬間、一気に身体の力が抜けて行った。
そこには男の字とは思えない程美しい彼の字で、【日記帳】という字と、彼と私の名前が書かれていた。


〈返事は書いても書かなくてもよし。
気が向いた時に、量は制限なし〉

《なにそれw。ま、いいよ。たまにしか書かないと思うけど。》

頭がズキリと痛んだ。このノートを自慢げに見せてくる彼の顔が浮かんで消えた。

〈なんだよそれ(笑)。
とりあえず、今日は体育がありました。お前のサッカースキル最悪だな。〉

《そんな書き方なの。
サッカー苦手なんです。てか見てたの?》

サッカーの授業中、涙目で笑いながらからかってきた彼を思い出す。

〈見てたよ。お前だけを、な。(笑)〉

《オエ…。
今日は音楽で歌のテストがありました。アンタの隣の人かわいそうでした。》

〈ん?俺が上手すぎてってか?〉

《違うよ、音外し過ぎてだよ。この音痴め。》

大声で音の外れた【サンタルチア】を歌う彼が、こっちを振り返りVサインをだしてくる。

〈俺音痴じゃねーし!

なぁ、お前さ、彼氏とか作んねーの?〉

《唐突に何?
特に予定とかありませんが。》

〈はっはーん、お前モテねぇもんな笑〉

《アンタに言われたくないですよーだ。》

〈うるせー。
でもあれだぞ?お前しゃべりやすいから案外モテてんぞ?〉

お前喋りやすいから好きだわ〜。と、少し冗談めいた言い方の彼を思い出す。

《でしょー?
ちゃーんと私の魅力分かってんじゃん!》







何かを消した跡がある。
筆跡からして、彼の字に間違いはない。ただ、何が書いてあるのかまではわからなかった。

まだ半分も書き終えていない小さなノートは、私の知る彼と私の姿がしっかりと描かれていた。
それを読んで再び、彼が死んだのだと気付く。
それでも涙は出なかった。




その後三日ほど実家で過ごして、いよいよ職場に帰る日が来た。
父と母に見送られ、あの日記帳を片手にまっすぐ彼の家に向かった。



「また来ていただいて…。あの子も喜びます。」

彼の母は、やつれた笑顔でそういった。
愛想笑いも何もせず、ただ頷く。そして彼に手を合わせた後、日記帳を取り出して熟れたミカンの隣に置いた。
「それは…?」
彼の母が訊ねる。
彼の遺影を見たまま、その日記帳の説明をする。
全て話し終えると、彼の母は泣いていた。泣きながら、彼の最後を語り始めた。

「あの子っ…最後に…私達を見て、急に笑顔になってっ……自分が死んだら貴女に地元に帰ってくるよう伝えてっていって…っ………。母親として、ちょっと悔しかったけど……あの子の最期の願い、聞いてあげない訳にはいかないでしょう?……これ、貴女にって。」







電車の中で、彼が書いたという私宛の手紙を取り出す。あの日記帳の表紙と同じ黄色と白の水玉模様のマスキングテープで封をされている。
真っ白な封筒を、そのままカバンに突っ込んだ。

きっと、この手紙が開かれるのはずっと先になるだろう。
あの手紙を見るのか、それともまたすっかり忘れてしまうのか。あの二人の日記帳の最後の言葉を知る日は来るのか。そんなの誰にもわからない。

なんとなく、そんな事を思いながら窓の外を見た。
そこに、あの頃のままの彼の笑顔が浮かんで

胸がズキリと痛んだ。



痛くなんかない。

何かを隠すように、そっと上を向いた。

千歳 大結 2015年12月20日 (日) 23時25分(98)


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