走る。
走ることは彼らのDNAに刻み込まれている。
俺の遺伝子にはそんな物は書き込まれていない
だから立ち止まりもするし、振り返りもするし、長らく並足を出なかったりする。走るのが億劫になって、足が鉛みたいに重くて、その場に座り込んだりした。それでも、俺はここに来てしまう。怪我をしても、勝ちを重ねられなくても、前を向く。走る。職業柄、ゴールぐらい存在することはわかっている。
自分は、天才ではない。
前を向くしか出来ない。
頭は良くないし手先は器用じゃないし、この世界にしか俺の居場所はない。
馬鹿単細胞そう呼ばれてきた。漫画のキャラなら馬鹿単細胞だけど天才肌とかなんだろうけど、あいにく俺は漫画の中のキャラクターではない。ただの馬鹿単細胞だ。
それでも、馬のひずめにメット蹴られても、踏まれて背骨が嫌な音立てても
勝利から遠ざかっても、
体重落ちなくてジョギング増やしていても
俺は前を向く。
立ち止まっても、振り返っても、あの中学校の日、競馬学校に願書出さなかったらと思っても、過去には戻れない。
前を向かないと。
前を向かないと
俺の居場所はこの世にない。
俺が乗っても馬は勝てない。
でも。
俺は絶対前を向き続ける
過去の俺がどの進路を選択しようと、末路は同じだ。
惨めな無能が一文無しになって野垂れ死するだけだっただろう。
前を向いておこう。
この職業は危険だ。
乗り続ければ、
いつかは、
いつかは、
死が
事故という形で訪れてくれるだろう?
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