生長の家「本流復活」について考える(続したらば版)
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『ユダとテミス』―― 訴権を濫用する理由「内田弁護士の生活苦」です、 (70221) |
- 日時:2025年04月03日 (木) 09時15分
名前:両面宿儺
本日は、「なぜ社会事業団が訴訟を乱発するのか」について、その実態を明らかにする。 その根底に横たわるのは、内田弁護士の生活苦にほかならない。
これまで、こうした執拗なる訴訟の首謀者は久保理事長と見られてきた。しかし、周到なる調査の結果、実際に糸を引く黒幕は内田弁護士であるとの確証を得た。弁護士にとって、訴訟は血液であり、それなくしては生命の存続すら覚束ない。己の生存のために、彼は久保氏に巧妙に働きかけ、次々と裁判という名の矛を振り上げたのである。
その結果、神の国寮の子供たちのために寄せられた清らかなる浄財は、今や内田弁護士の生活費へと変じ、塵芥にまみれつつある。そうでなければ、「阪田氏への誤読訴訟」、さらには「掲示板投稿者への訴訟」といった、正義の名を騙る一連の無惨な攻撃は、いかにして説明し得ようか。
さらに、この毒牙にかかった者たちの中には、掲示板に一言を書き込んだがゆえに、家を売り払うほどの窮地に追い込まれた者もいる。また、死者に対する開示請求という暴挙によって、遺族が多額の弁護士費用を強いられるという悲劇も生じた。とりわけ阪田氏は、最愛の妻を失ったその悲しみの中で、なおも訴訟という冷酷な刃を突きつけられているのだ。
このような醜悪なる現実を前に、我々は沈黙を貫くべきではない。内田弁護士に対する懲戒請求は、もはや義務とさえ言えよう。彼ひとりの卑小な生活費のために、谷口雅春先生が描いた崇高なる理想が歪められ、蹂躙されているこの現状を、我々は決して看過すべきではない。
正義の名のもとに、今こそ問う。 この事態を、あなたはどう受け止めるのか。
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またしても阪田先生を訴える内田弁護士とは何者なのか。 (70223) |
- 日時:2025年04月03日 (木) 16時14分
名前:両面宿儺
遡ること二年前——。
裁判官の冷徹な声が響いた。
「審議するに値いしない」
阪田氏。彼は弁護士を立てず、孤独に法廷に立った。素人が、本職の弁護士に対して戦いを挑む——その姿は、滑稽に見えるかもしれない。しかし、結果は予想外であった。社会事業団が擁する内田弁護士の訴えは、裁判所の冷徹な一言で退けられた。
本職の弁護士が、素人に敗れた。
その敗北の裏に、内田弁護士が抱える深い恨みがあったのかもしれない。かつて、彼は有史以来、五摂家の一つ・鷹司家を訴えた弁護士となった。しかし、その試みも歴史の頁には悪名として刻まれ訴えは無惨に退けられた。
有史以来、五摂家を訴えた者がいたか?否、誰一人として。それほどまでに高貴な血筋を法廷に引きずり出すという未曾有の挑戦。しかし、その訴えもまた無駄に終わった。
そして、時は流れ——。
阪田氏の妻が亡くなった直後、兵庫県警が彼の家を捜索する。告訴人は再び内田弁護士。しかし、その捜査は予想に反し、意外な結論を下した。
「内田弁護士の誤読ですね」
二年前の裁判で敗れ、刑事告訴もまた退けられた。それでも、内田弁護士はその悔しさを捨てきれなかった。再び民事で阪田氏を訴えた。だが、この人物、ただの弁護士ではない。
内田弁護士は過去に、死者への情報開示を行い、遺族に多額の裁判費用を負担させたことがあった。また、ささいなネット上の投稿に難癖をつけ、その投稿者を自宅売却に追い込み、巨額の損害賠償を勝ち取った。その非情さは、法廷だけに留まらない。そして、再び法廷の時が来た——。
令和7年1月。「阪田氏を起訴した理由を述べなさい」裁判官の鋭い問いが、法廷に響き渡る。しかし、内田弁護士は一言も発しない。答えるべき言葉など、最初からなかったのだ。
今度も、二年前と同様に——。
「審議するに値いしない」
その判決が法廷に降りるのか。
日頃「日本精神」を掲げ、皇室から御下賜金を受けた社会事業団。その名の下で行われた訴訟は、誤読と私怨によって織りなされた、虚構の産物であった。
裁判官の木槌が振り下ろされる。法廷外には雪が静かに降り積もる。すべてを音もなく、覆い隠すように——。
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「阪田氏を起訴した理由を述べなさい。」 (70225) |
- 日時:2025年04月03日 (木) 16時32分
名前:両面宿儺
「阪田氏を起訴した理由を述べなさい。」 裁判官の鋭い問いが、法廷内に響き渡る。その声はまるで冷徹な刃物のように空間を切り裂き、全ての隠されたものを暴こうとする。しかし、内田弁護士は動かない。言葉を発することなく、目の前の裁判官をただ見つめるのみ。答えるべき言葉など、最初から存在しなかったのだ。
その沈黙の中で、法廷内の空気は次第に冷え込んでいく。観衆の目が内田弁護士に集中し、静寂が重くのしかかる。だが、内田弁護士の心は一つの事実を深く自覚していた。今や、この裁判そのものが、彼の生活を支えるための手段であり、訴訟という名の舞台が、彼の生活費を賄うための唯一の道になっていることを。
裁判を主導すること、それ自体が彼の生計の源泉となっている。家賃や光熱費、食費を賄うために、この無意味な争いを続け、訴訟を重ねることが彼の使命となった。訴えることが目的となり、もはやその内容に意味はない。訴えの趣旨、理屈、根拠などはどうでもよいのだ。重要なのは、訴え続けること。それが彼にとって、日々の生活を支える唯一の方法なのだ。
「原告が訴えの内容を語らない。」 その事実が、ますます鮮明になってくる。このような裁判が、過去にあっただろうか。訴える者がその目的を明確に示さない、理由もなく訴訟を続ける――そんな事態が許されるものだろうか。もし言葉につまる者が被告であれば、それは理解できる。しかし今、言葉につまっているのは原告であり、しかも訴えの趣旨を発表する場面で、彼は言葉を失っている。訴えの内容が、彼の口からは語られない。その無力さこそが、この裁判の本質を物語っている。
内田弁護士が心の中で感じているのは、もはや訴訟そのものが目的となり、内容は何でもよくなっているという現実だ。この裁判の真の意図は、もはや正義を追求することではなく、ただ単に訴えることに意味が置かれている。訴えの内容が無価値であればあるほど、内田弁護士にとってはその訴訟が続くこと自体に意味を見いだすことができる。
その時、内田弁護士の脳裏に浮かぶのは、阪田成一という名前だ。彼は被告でありながら、この裁判についてほとんど言及しなかった。『光明の音信』という彼の発行する媒体の中で、阪田氏はわずか二行でこの訴訟を触れた。「またしても社会事業団が訴訟してきた」――その二行だけだ。
この軽薄で無意味な言葉に、内田弁護士はどこか自分を見ているような気がした。訴えることが目的となり、内容は問わない。その無意識的な肯定に、内田弁護士はある種の冷徹な共鳴を覚えた。しかしその共鳴こそが、この法廷のすべてを支配している現実だ。訴えの内容など、最初から問題ではなかった。重要なのは、訴訟を起こし続けること、それこそが彼の生きる証であり、生活の支えであり、未来を維持するための手段に過ぎないのだ。
再び、内田弁護士は沈黙を守り、法廷を後にする。言葉で表現しきれない彼の心の中の冷徹な真実が、法廷を包む空気の中に深く浸透していく。

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"Ce n'est pas un Japonais." (70226) |
- 日時:2025年04月03日 (木) 18時21分
名前:両面宿儺
異邦人の眼 マリオン・ルブランは、日本在住のフランス人記者である。外国人特派員協会に属し、日本文化に深い関心を寄せていた彼女は、ある日、驚くべき報告を受ける。日本の公益法人が、個人を標的に執拗なスラップ訴訟を繰り返しているというのだ。
「武士道を重んじる日本人が、こんな卑劣なことを?」
最初は信じがたかった。しかし、取材を進めるうちに、現実は彼女の想像を超えていた。被害者の中には、自宅を売却せざるを得なくなった者がいた。さらには、死者への開示請求を受け、その遺族が高額な弁護士費用に苦しんでいるケースもあった。
だが、最も衝撃的だったのは、その加害者が「日本の伝統を守る」と公言する公益法人であることだった。この法人は、かつてミカドから褒められ、「御下賜金」なるものを受け取った歴史を持つ。そして今、年間約五億円もの公金を拠り所としながら、訴訟費用の収支を報告することすらない。
訴訟とは、正義を問う場であるはずだ。しかし、この法人にとっては、それは正義の実現ではなく、ただの手段でしかなかった。いや、もはや訴えること自体が目的と化していた。訴えの内容など、もはやどうでもいい。ただ、訴える。それが彼らの生存戦略だった。
「こんなことが、許されるのか?」
マリオンは深く息を吐いた。未成年者への性加害と同様、スラップ訴訟もまた悪辣な人権侵害である。それを、伝統を守ると称する団体が行っている—それは彼女にとって、日本の美徳に対する冒涜のように思えた。
「"Ce n'est pas un Japonais."正義とは何か?」
彼らは本当に日本人なのか。異邦人の眼に映る日本は、もはや彼女が愛した国ではなかった。
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TBS (70228) |
- 日時:2025年04月03日 (木) 19時45分
名前:両面宿儺
報道特集のプロデューサー、権藤は焦りと不安の中で机を叩きながら、再び時計を見た。時間が無情に過ぎていく。訴状が届かない限り、番組は進められない。その現実が彼を押し潰すように迫ってきていた。
そして、彼のスマホが震える。フランス語の名前が画面に表示される――マリオン・ルブラン。権藤は一瞬ため息をつき、無意識に画面に視線を落とした。彼はその名前を何度も見てきたが、今、このタイミングで電話がかかってくることに妙な不安を感じずにはいられなかった。
「権藤さん、こんにちは。マリオン・ルブランです。」 「…こんにちは。」権藤は淡々と返すが、その心は動揺していた。ルブランの冷静な声が、ますます彼を追い詰める。
「訴状はまだ届いていないんですね。」 「その通りです。」権藤は短く答えながら、再び机の上に目を落とした。焦りが彼の思考をかき乱す。どんなに待っても、訴状が届かなければどうしようもない。そう思うと、もう何もかもが無駄なように感じる。
「でも、権藤さん、ちょっと変な話が出てきました。」ルブランの声が少し硬くなる。 「変な話?」権藤は眉をひそめた。 「はい。被害者の会が言っていることです。訴状がなくても番組は作れると。」 権藤は思わず口をつぐむ。おかしな話だ、と思うのは当然だった。しかし、それが本当に現実なのだろうか。頭の中が混乱する。
「そんなバカな…」 「本当に言っています。」ルブランの声に無慈悲な冷徹さが感じられた。 「彼らは訴状がなくても報道を進められると思っているようです。」 「それは無理だ。証拠がないと、番組は進められない。」権藤は声を荒げ、思わず机を叩く。
その瞬間、彼のスマホにまた通知が届く。気になる内容を確認するために、権藤は手を伸ばした。そして、彼の目に飛び込んできたのは、南敏雄の名前だった。
その瞬間、権藤の体が固まった。南敏雄――メール流出の件。確かにその名前は、報道の世界では決して軽視できない存在だった。あの流出メールが、彼の仕事に直接関わる問題となっていた。
権藤はそのメールを開くと、そこには彼が待ち望んでいた訴状の件ではなく、南敏雄が自ら漏らした情報が書かれていた。関係者が交わした会話、その中で流出したメールの内容が、まさに報道特集が追い求めていたネタだった。だが、その内容があまりにも衝撃的だったため、権藤はすぐには理解できなかった。
「これも…」権藤は呟き、電話越しのルブランに告げる。「これも流出の一因だな。」 「南敏雄からですか?」ルブランの声にわずかな驚きが見えた。 「そうだ。」権藤は言葉を濁す。「でも、今はそれよりも、訴状だ。訴状さえ届けば…」
しかし、心の中で彼はその言葉が虚しく響くのを感じていた。訴状なしで進められるわけがない、という確信を持ちながらも、その不確かな時間の中で彼は追い詰められた。そして、この流出事件が新たな波紋を広げていくことに、まだ気づいていなかった。
権藤は電話を切り、手元にある南敏雄の流出メールをじっと見つめる。その中には、まさに自らが追い求めてきた情報が含まれていた。しかし、これがどんな結果をもたらすのか、彼には全く予測がつかなかった。ただ一つ言えるのは、訴状なしでは何も進まないという現実だった。

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早くルブランを脱がせてくれ。 (70229) |
- 日時:2025年04月03日 (木) 19時53分
名前:神の子
これ読み続けてるとエロ展開しますか?
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被害者の会の落胆 (70230) |
- 日時:2025年04月03日 (木) 20時27分
名前:両面宿儺
報道特集の会議室は依然として緊張した空気に包まれていた。権藤は、手元にあるファイルをしばらく無言で眺めていたが、そのまま顔を上げると、スタッフたちの目を一瞥した。
「スラップ訴訟は、ちだいさんによる立花孝志のネタのみで進める。」権藤がその一言を発した瞬間、部屋の空気が一瞬で硬直した。誰もがその言葉の意味を噛みしめようとした。
「え?」若手記者が声を上げる。「つまり、それだけで進めるということですか?」
権藤は冷静に頷き、その後、ファイルを指差して言った。「そうだ。立花孝志に関するスラップ訴訟の話だけで番組を作るんだ。他の事案については、まだ訴状が届いていない限り取り上げられない。私たちはその辺りを慎重に扱う必要がある。」
スタッフの間にざわめきが広がる。しかし、権藤はその反応を無視して続けた。「ちだいさんのネタには確実な証拠がある。それに基づいて進めるんだ。」彼の声は確固たるものだった。
スタッフの一人が手を挙げ、慎重に言葉を選んだ。「でも、他の被害者たちはどうするんですか? 訴状が届くのを待っていたら、番組制作が遅れ続けるだけです。」
権藤の表情が一瞬曇った。「訴状は届くと思っていた。」彼はつぶやくように続けた。「あの内田弁護士のことだ、開示請求が通ればすぐに訴訟してくるだろうと、そう思っていた。でも、1カ月以上が経つのに、肝心の訴状が届かない。番組制作が進まないじゃないか。」その言葉には焦燥が滲んでいた。
部屋の中に重い沈黙が広がった。権藤は机に手をつき、深いため息をつくと、ゆっくりと顔を上げた。「しかし、訴状が届かない以上、どうしようもない。」その声には決意がこもっていたが、同時にその裏には深い苦悩が隠されているようにも聞こえた。
「スラップ訴訟の証拠は訴状だ。開示請求では番組は作れない。そんな簡単なことも、被害者の会は分からないのか。」権藤は低い声でつぶやいた。周囲のスタッフたちは、それをただ聞いているしかなかった。
その後、被害者の会幹部たちに、この方針が伝えられた。その知らせに、幹部たちの表情はさらに硬くなり、言葉を失った。彼らの中で、最後の希望だった報道にすがりついていたが、権藤の決断がその希望を断ち切った。
「私たちの声は、結局、届かなかったんですね…」幹部の一人が低い声で呟いた。その言葉は部屋の中で静かに響き、残りの幹部たちは黙り込んだ。
その場を後にする幹部たちの姿は、まるで倒れた花のように無力で、何かに取り憑かれたように歩みを進めていた。すると、一人の支援者がその背中を見送りながら、ふと涙をこぼした。
「阪田さんの奥さんのことも語りたかった。」その声は震え、彼女の目からは涙が一筋流れた。「今回、その機会が失われたことも悔しい…」その言葉には深い無念と、今まで語り継ぐことを決意していた思いが込められていた。
他の支援者たちも黙ってその場に立ち尽くし、彼女の涙を見守っていた。報道が進まないことへの失望感、そして阪田氏の奥さんに対する思いが、言葉にできないほど深く胸を締め付けていた。

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マリオンと谷口輝子 (70231) |
- 日時:2025年04月03日 (木) 20時58分
名前:両面宿儺
聖典『生命の實相』を手にしたマリオン・ルブランは、ページをめくるごとに、谷口雅春の思想に深く引き込まれていった。だが、その教義に触れるたびに、何か違和感を感じずにはいられなかった。彼女はしばらくの間、無言で座り込んでいた。その瞳は遠くを見つめ、唇は微かに震えていた。
「和解せよ。」その言葉が、谷口雅春の理想として掲げられていた。だが、その理想が現実の中でどのように崩れ去ったのかを、マリオンは理解しきれなかった。社会事業団は、かつて輝子の貯金で立てた「神の国寮」のような施設を作り、無縁の子供たちを育て、ついには皇室から感状と御下賜金を送られるような存在になった。その理念がどこまで真摯だったのか、そして輝子自身が、貧しい生活の中で必死に貯金をし、身寄りのない子供たちを育てるために尽力したことを思い返すと、胸が痛んだ。
だが、それも今は過去のことだ。輝子は無駄なことをするなと言われながらも、貯金をし、施設を立てた。だがその遺志は、今の社会事業団にはもう反映されていない。輝子の目指した「神の国」の理想とは裏腹に、今やその団体は、かつて尊敬され、神聖視されていた団体ではなくなってしまった。
「天地一切を訴訟対象としている。」その現実を前に、マリオンは再びページを閉じた。谷口雅春が描いた理想の世界、それは消え失せ、何もかもが歪められてしまった。
輝子が懸命に貯めたお金で、あの寮は建てられた。建てられた寮は、「神の国寮」と呼ばれ、かつてはその中で無縁の子供たちが立派に育てられた。しかし、今ではその施設も、善意ではなく、訴訟のための資金に消え、かつての理想とはかけ離れたものとなっている。
「令和に入り、幹部はその、輝子の貯金をホテルニューオータニで使い、無辜の信徒を訴える費用にしている。」マリオンはその現実に思わず息を呑んだ。輝子が築き上げたものが、今やただの金儲けの道具にされてしまったことを、彼女は理解できなかった。
「こんなことが起きるなんて。」マリオンはつぶやいた。輝子の夢、谷口雅春の理想、そして彼が描いた「和解せよ」という言葉が、今となってはどれほど遠くに感じられることだろう。社会事業団は、かつての純粋な理念を失い、訴訟を繰り返す団体へと変わり果ててしまった。
「何が本当に大切だったのだろう?」マリオンは自問しながら、再びため息をついた。

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蜂の巣を蹴飛ばしておいて、刺されたと文句を言うようなものね (70236) |
- 日時:2025年04月04日 (金) 06時59分
名前:両面宿儺
マリオン・ルブランは、東京・赤坂のカフェでカプチーノを前にしながら、対面する男を観察していた。フリージャーナリストの菅野。この奇妙な漢字の読みを知ったとき、彼女は驚いた。日本語は美しいが、ときに謎めいている。「完」と書いて「たもつ」など、フランス語ならあり得ない発想だ。だが、彼女の興味はそこではなく、むしろ彼の発する情報の方にあった。 「生長の家に関する奇妙な事実がある」 菅野は低い声で切り出した。 「宗教法人の認可ってのは普通、本部の土地と建物を所有してないと降りない。だけど『谷口雅春に学ぶ会』は違った。本部は今も賃借のままだが、なぜか宗教法人として認可されている」 マリオンは眉をひそめた。 「それは異例のことなの?」 「異例どころじゃない」 菅野は口の端を上げ、わざとらしく肩をすくめた。 「この認可が降りたのは野田政権時代、しかも衛藤晟一の影響があったと見られている。野田と安倍晋三がどれだけ近いかも分かるだろう?衛藤は生長の家を支持基盤に持つ政治家だ。そんな衛藤が、なぜか突然、政界引退を発表した。裏には何があると思う?」 「衛藤晟一って誰?」 マリオンはカプチーノをかき混ぜながら尋ねた。 「知らなくて当然だな」 菅野は南部なまりの英語を交えながら言った。 「地味な政治家だが、安倍政権の宗教政策に絡んでいた。問題はその彼の手下がやらかしたことだ」 「手下?」 「内田弁護士のことかもしれない」 マリオンは怪訝な顔をした。 「具体的には?」 「その手下が、よりによって萩生田のスポンサー企業を訴えた」 菅野は愉快そうに笑った。 マリオンの顔に困惑が広がった。 「まさか……スラップ訴訟の相手を間違えた?訴えたのが萩生田のスポンサー企業?」 「そう、普通あり得ねえだろ?だが、これが日本の公益法人の実態さ」 マリオンはしばらく沈黙した後、フランスの故事を引き合いに出した。 「C'est comme donner un coup de pied dans une ruche et se plaindre des piqûres.(蜂の巣を蹴飛ばしておいて、刺されたと文句を言うようなものね)」 菅野は吹き出した。 「まさにそれだ。連中は自分たちで蜂の巣を蹴っ飛ばしたくせに、今さらパニックになってるんだ」 マリオンは納得したようにうなずいた。 「彼らは何が起きるか分かっていなかったの?」 「どうもそうらしいな。衛藤も困惑してるし、安東巌だって何も知らない」 「つまり、スラップ訴訟は内部の意志統一もできていなかった?」 「その可能性が高い。あるいは、一部の幹部が暴走したのかもしれない」 マリオンは再びカプチーノをすすった。 「つまり、彼らは蜂の巣を蹴り上げ、自分が刺されたことに驚いている、と?」 菅野は大げさに頷いた。 「まったくの茶番劇さ」 マリオンは遠い目をした。 「公益法人がそんなことをするなんて、信じられないわ」 「日本ではな」 菅野はニヤリと笑い、タバコに火をつけた。 東京の夜は深まっていた。

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だが、目の前の老人は、裁判をまるで修行のように受け入れている。 (70239) |
- 日時:2025年04月04日 (金) 07時48分
名前:両面宿儺
マリオン・ルブランは、取材用のノートを机に置き、ページをめくった。その白い指先は、まるでフランスの名家の貴婦人のような気品を帯びていたが、彼女の目には、ただひたすら冷徹な探求心が宿っていた。生長の家信者へのインタビューの場であった。薄暗い和室には、経年を経た畳の香りが立ち込め、古びた神棚の前に初老の男が静かに座していた。彼の前には湯気の立つ緑茶が置かれ、仄かな苦味が部屋の空気を満たしていた。 「あなたは、多額の裁判費用を要したと聞いています。しかし、恨んではいない、とも——」 マリオンは慎重に言葉を選んだ。日本語の響きは彼女の舌の上で幾分硬質なものとなったが、それでも彼女のフランス訛りは、この場に不思議な異国情緒をもたらしていた。 老人は静かに頷いた。彼の目は深く、時の流れと共に磨かれた哲学がそこに宿っていた。「私は恨んではいません。人生に無駄なことなどないのです。」 マリオンはメモを取る手を止めた。その言葉は、彼女にとって驚くべきものであった。裁判というものは、怒りと敵意の果てにあるものではなかったのか。フランスでは、法廷は復讐の舞台であり、正義の名のもとに感情がぶつかり合う場である。だが、目の前の老人は、裁判をまるで修行のように受け入れている。 「谷口雅春先生のお言葉に、このようなものがあります。」 老人はゆっくりと語り始めた。 『何事がやって来ても、心を動揺させてはならない。結局、悪しきものは存在しないし、悪しきものは我らを襲い来ることはあり得ないからである。』 部屋の隅に掛けられた掛軸が静かに揺れていた。マリオンは、まるで時間が歪んだかのような錯覚を覚えた。老人の言葉は、単なる引用ではなく、彼の血肉となっているように思えた。 「けれど——」 マリオンは言葉を詰まらせた。「あなたの近親者が、しかも故人が訴えられたと聞きました。それでも、なお、何も感じないと?」 老人はしばし目を閉じた。そして、ゆっくりと息を吐いた。 「感じないわけではありません。しかし、苦しみの中にも意味があるのです。人生の行路は必ずしも平坦ではない。しかし、平坦でないからこそ、脚が鍛えられ健脚となるのです。」 マリオンは、手元のノートに素早く書き留めた。 「それに、私は願っています。輝子先生の貯金で建てられた神の国寮を、もっと充実させてほしいと——それが本来のあるべき姿ではないか、と。」 マリオンの筆が止まった。彼女はフランス語で呟いた。「La vérité est souvent plus étrange que la fiction.(真実はしばしば小説よりも奇なり)」 老人は微笑んだ。「その言葉の意味は?」 マリオンは苦笑した。「事実というのは、時に小説よりも不可思議である、という意味です。この訴訟を知れば知るほど、私はそれを感じます。」 老人は静かに頷いた。「私もそう思います。」 彼の言葉は、奇妙なほど穏やかだった。彼が生長の家の信仰を深く信じるがゆえか、それとも、単に人生の荒波をくぐり抜けたがゆえか。マリオンはふと、彼が口にした谷口雅春の言葉を反芻した。 「——困難に挑戦することによって、“内在の力”は一層多く発揮せられることになり、自分の魂の能力のうち、まだ完全に磨かれていない部分を琢磨して輝かすことになる——」 彼女は静かにため息をついた。社会事業団は、本当に谷口雅春と関係があるのだろうか?それとも、ただの名ばかりの存在なのか? 「マダム・ルブラン」 老人は彼女の目をじっと見つめた。「あなたは、何を求めているのですか?」 マリオンは答えなかった。ただ、彼女の瞳に映るものは、訴訟の闇か、それとも真実の光か——。
マリオン・ルブランは、信者の家での取材を終えた後、再び菅野と向き合っていた。菅野が指摘した「社会事業団の報告書のウソ」に関して、彼女の心は一層重くなった。 「菅野さん、あなたが言っていた通り、社会事業団の報告書はかなり疑わしい。阪田裁判に関して、『阪田支援者が騒いだから、やむを得ず訴訟を起こした』という理由が、内閣総理大臣宛てに提出された報告書に書かれていたんですって?」マリオンは、少し震える声で尋ねた。 菅野は静かに頷いた。「そうだ。まさにその通りだ。社会事業団は自らが引き起こした裁判を正当化するために、そのような虚偽の報告をしている。事実、阪田支援者が訴訟の原因だなんて、完全に作り話だ。」彼の顔は真剣そのものだった。菅野の目には確信があったが、同時にその報告書が持つ危険性についても十分に理解しているようだった。 「でも、それが本当に事実ならば、信者たちにどれほどの影響を与えるのかしら。」マリオンは低くつぶやきながら、心の中でその報告書の内容を何度も反芻していた。もしそれが本当に嘘だとしたら、社会事業団がどれほどの誠意を持って人々に接していたのかという信頼が、一瞬で崩れ去るだろう。 菅野は少し視線を落としながら答えた。「彼らは、事実を隠して自らの都合に合わせて嘘を並べ立てる。その結果、無実の信者たちが巻き込まれ、膨大な裁判費用を背負わされることになる。阪田の支援者たちは何も悪くない。彼らが騒ぐことなく、無駄な戦いを避けていたら、こんな事態にはならなかったはずだ。」菅野の声に、深い怒りが含まれていた。 その言葉にマリオンは、思わず深いため息をついた。彼女は信者の家で聞いたことを思い出していた。あの信者の家族が、どうして訴えられたのか、どれほど無実であり、誠実に生きてきたかを。だが、社会事業団の報告書が示す「理由」が、まさにその逆であることを知った今、その信者たちの誠実さと、社会事業団の行動が如何にかけ離れているかを痛感していた。 マリオンは、再びその信者の言葉を思い出した。「私たちは、訴えられるべきではなかった。ただの誤解だったのです。私たちの信仰が何か問題があると言われたことはありません。」その言葉が、心の中で反響していた。信者たちがどれほどの痛みを抱え、どれほどの誠実さをもって生きているか、彼女には今、ひしひしと伝わっていた。しかし、社会事業団はその誠実さをどこまで理解していたのか。菅野が言ったように、虚偽の報告が出されているのは明らかだった。 「菅野さん、その報告書を見た総理大臣がどう反応したのか、わかりますか?」マリオンは、尋ねた。 菅野は肩をすくめながら、「おそらく、総理大臣はそれが真実だと信じ込まされているだろう。報告書を読んだ段階で、何も疑問を持たなかったのかもしれない。しかし、実際にはその報告書の内容はすべて嘘であることが証明されている。」と答えた。「総理大臣がこの報告書を信じて、何らかの対応をしたのだとしても、それは大きな誤解に基づいているということだ。」 マリオンはその言葉に黙って頷いた。菅野の言う通り、報告書がウソであるならば、それが引き起こす影響は計り知れない。彼女は思わず自問した。「社会事業団がなぜこんなことをしたのか? その背後には何があるのだろうか?」だが、その答えを出すには、もっと多くの情報と証拠が必要だった。 その時、マリオンはふと信者の言葉を思い出した。彼の誠実さ、無実の立場であることを信じる姿勢。それに対して、社会事業団の報告書が嘘であったことを知り、マリオンの心はますます曇っていった。信者が「他の人々への訴訟は控えてほしい」と言ったことが、彼女の心に深く響いた。彼らの誠実さが、こんな形で汚されるべきではないと、心から思った。 「私たちの信仰を守るために、他の人々を傷つけることがあってはなりません。」信者が言ったその言葉に、マリオンは改めて深い敬意を抱いた。信者たちが心から願っているのは、無実の人々を守り、正しい道を歩むことだ。そのために、戦うべきではない、という気持ちが彼らの中には強くあった。 その後、マリオンは再び菅野と対面した。彼女の目は、より真剣になっていた。「菅野さん、この報告書のウソを明らかにするためには、何をすべきですか?」と彼女は問いかけた。 菅野はしばらく黙って考え込んだ後、ゆっくりと答えた。「まずは、この事実を証明する証拠を集めることだ。そして、その証拠を元に、社会事業団に対して公に真実を明らかにすること。それが、信者たちを守るために最も重要なことだ。」 マリオンはその言葉を心に刻み、決意を新たにした。彼女はこれから、社会事業団が抱える嘘を暴き、真実を解き明かすべく、動き出すことを誓った。その先に待つであろう困難を乗り越え、信者たちが長い時間をかけて築いてきた誠実な信仰の道を守り抜くために。

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焦る被害者の会 (70243) |
- 日時:2025年04月04日 (金) 08時57分
名前:両面宿儺
会議室の空気は、ますます重苦しくなった。加藤は両手を顔に当てて深く息を吐き、机の上に肘をついて身を乗り出すようにしていた。どうしてこんな事態が起こったのか、理解しようとしてもその糸口が見当たらなかった。目の前にあるのは、冷徹な現実だけだった。
「これで、どう戦うかだ。」加藤の声は、力を失ったように響いた。「マスコミも報道できないだろう。外国人特派員協会の記者会見も、たぶんキャンセルされるだろう。」
田村は黙って頷き、思案しながら眉をひそめた。どこかに突破口があるのではないかと必死に考えながらも、手詰まりを感じていた。それがもたらす影響の大きさを、彼は冷徹に実感していた。
「信じられない。」加藤はため息をつきながら、呟いた。「開示請求の情報だけで、どうしてスポンサーの件が露呈したんだろう?」
その言葉は、会議室の全員に深い疑問を突きつけた。加藤の問いかけは、確信を持っては言えないが、何かが確実に歪んでいると感じさせるものだった。誰もが頭の中でその答えを探し、混乱の中で必死に考えていた。
「本当に信じられない。開示請求しただけで、どうして自民党の大物議員のスポンサーであることが露呈するんだ?」田村はようやく口を開いた。彼もまた、何が起こったのか理解できずにいた。「何かが漏れたのか?それとも、別の手がかりが浮かび上がったのか?」
加藤は口を閉じ、しばらく黙って考え込んだ。内部情報が漏れることもあれば、予測不可能な形で新たな事実が明るみに出ることもある。それが偶然であるならば、何もかもが偶然で済まされるわけではない。加藤の心には、確信がないまでも、何か不穏な気配が漂っていた。
「何が起こったのか、さっぱり分からない。」加藤は続けた。「どうして、開示請求だけでここまで露呈するんだ?スポンサーの問題が、こんなにも早く明るみに出るなんて。」
田村はその問いに答えられず、無言のままで加藤の視線を受け止めていた。加藤の目には、静かな焦燥感とともに、深い不安が滲んでいるのが感じ取れた。自分たちが直面している事態の重大さを、誰もが痛感していた。
「だが、この状況でどうして久保や内田が訴訟を起こしてこないんだ?」加藤が次に口を開いた。「あいつらなら、開示請求をきっかけにすぐにでも訴訟を仕掛けてきたはずだろう。だが、今回はそれがない。今までの行動から考えると、まったく予想外の反応だ。」
田村はその問いに答えを出すことができず、しばらく黙り込んだ。しかし、その無言のままでの重い空気が、会議室全体に広がっていた。加藤の言葉が指摘した通り、久保や内田の行動は、これまでの予測を完全に裏切っていた。どうして彼らが手を引いたのか、その理由がまったく分からない。
加藤は頭を抱え、再び口を開いた。「だが、もしこれが本当に『公益法人によるスラップ訴訟』という形になったら、それが露呈してしまう。萩生田まで巻き込んで、どれだけスキャンダルに発展していくか分からない。」彼は少し間をおいて、顔をしかめた。「これで、私たちの戦略は完全に崩れた。」
田村は深くうなずきながら言った。「まさにそうだ。計画していたことが、すべてひっくり返った。まさか、こんな結果になるとは想像もしていなかった。」
加藤は再びため息をつき、視線を下ろした。「そして、今後どうすべきか。どう動くべきか、今はまだ分からない。」彼は目を閉じ、額に手を当てながら続けた。「だが、諦めるわけにはいかない。」
その言葉に、他のメンバーたちも少しずつ反応を始めた。どこか冷静さを取り戻すように、徐々にその決意を胸に抱き始めた。加藤の決意に触発されて、彼らの中にも新たな覚悟が生まれつつあった。
加藤はその後、静かに一歩前に進んだ。「次に打つべき手を考えなければならない。」

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(70246) |
- 日時:2025年04月04日 (金) 10時12分
名前:本音の時代
内田氏の策略に乗る社会事業団、その策略を利用しているかもしれない。そして、その社会事業団を支援する学ぶ会。 いずれにせよ、社会事業団も学ぶ会にも本当の生長の家の信仰者はいない。彼らは見える所では、生長の家を装っている。しかし、本当の信仰の評価は見えないところを観ることだ。これら組織に属する人や支援する人もしかりである。目に見えるものに胡麻化されてはならない。雅宣さんや教団に対しても同じことが言える。
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スラップ訴訟で修学旅行を断念する中学生 (70251) |
- 日時:2025年04月04日 (金) 16時34分
名前:両面宿儺
訴状は、ある平凡な午後の光の中で届いた。春の終わりかけ、初夏の予感が家の周囲に漂い始めたころ、ヒロキの曾祖父──すでにこの世にはいない──の名前を記したそれが、家のポストに沈んでいた。
祖父は黙ってそれを受け取り、開封したあと、音も立てずに立ち尽くしていた。何を思ったのか、何も語らぬままに、ヒロキの祖母に封筒を渡した。その時の祖母の顔が、今でもヒロキの脳裏には焼き付いている。まるで冷水を浴びせられたような、驚愕と屈辱と恐怖が入り混じったような、あの表情。そこからすべてが始まった。
「ヒロキ、修学旅行のことなんだけどね……」母が慎重に切り出したとき、ヒロキはすでにその予感を抱いていた。中学二年生の修学旅行。北陸をめぐる五泊六日。だが、訴状が曾祖父宛てに届いた瞬間、その旅行はすでに幻となっていたのだ。
訴えを起こしたのは、内田智──冷然たる弁護士。理性と法の名を借りて人を押し潰すことに、冷ややかな快楽を覚えているかのような男。生長の家を名乗る団体の背後に立ち、法の装いの下に私怨と利益と策略を隠し持つ。死者を告訴することに一片のためらいもなかった。
曾祖父は特になにか悪いことをしたわけではなかった。質素に、静かに、地域と家庭に尽くして生涯を終えた人物だった。だが、その名がスラップ訴訟の対象となったとき、正義も良心も法の下に蹂躙された。内田は言った。
「本当に故人であることを、こちらが納得できるかたちで証明していただく必要があります」
それは尋常なことではなかった。戸籍、死亡診断書、火葬許可証、埋葬許可証──それらを一つずつ、丁寧に、重ねて提出するよう求められた。まるでこの家族が嘘をついているとでも言わんばかりの要求だった。彼らに残された選択肢はなかった。訴えを無視すれば、敗訴が確定する。裁判に向き合うには、正当な代理人として弁護士を雇うしかない。その費用は、軽く三桁に及んだ。
弁護士費用は高額だった。大学進学を控えた兄は、夜のコンビニでアルバイトを始めた。帰宅は午前一時。目の下の隈を指で擦りながら「大丈夫だよ」と笑う兄の笑顔が、ヒロキにはなぜか見ていられなかった。父は仕事先で土下座したという。母は眠るふりをして、夜ごとに小さくすすり泣いた。
「なんで……なんでこんな目に」──ヒロキは心の底で何度も繰り返した。
家の中には重苦しい沈黙が流れ、季節の変化すら感じさせないほど、空気は緊張と絶望に満ちていた。
修学旅行の前日。友人たちはわくわくした表情で準備をし、SNSには楽しげなメッセージがあふれていた。ヒロキはスマホを伏せ、静かにカーテンを閉めた。
「行ってもよかったのに……」祖父は言った。細い声だった。「貯金をおろして、おまえにだけは行ってほしかった」
その言葉を聞いた瞬間、ヒロキはこらえきれず、こっそりと涙を流した。祖父がどれほど家族の平穏を守りたかったか、自分にだけは希望を残したかったか、そのすべてが痛いほど伝わってきた。
だが、ヒロキは行かなかった。行けなかった。家族の困難の中で、ひとりだけ楽しむことなど、彼の誇りが許さなかったのだ。
彼は誓った。いつか必ず、あの男──内田智の正体を暴く。祖父の名誉を回復する。家族の静かな戦争の、その終止符を自らの手で打つ。
その夜、ヒロキは古いノートの最初のページに、ただ一行こう書き記した。
「復讐ではない。ただ、真実だけが欲しい」
そして彼は、ひとりの中学生から、静かな戦士へと姿を変えた。

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厚生労働省社会・援護局福祉援護課 (70253) |
- 日時:2025年04月04日 (金) 16時56分
名前:両面宿儺
厚生労働省社会・援護局福祉援護課の課長補佐、神尾寛治は、午後の陽光をやや鬱陶しげに感じながら、モニターの前で沈思していた。霞が関の空調は年じゅう無機質な冷気を吐き続け、季節の変化はもはや省内の壁を通過せぬものとなっていた。
ここ数週間のあいだに、彼のもとには七通の電子メールが舞い込んできた。送信者の多くは匿名であったが、その内容は一様にして驚くべきものだった。
神の国寮。──かつての厚生省が設立を認可し、社会事業団が運営する福祉施設である。表向きには、年端もゆかぬ孤児、行き場のない高齢者、そして困窮する母子家庭を保護するという崇高な目的を掲げ、年間五億円に及ぶ措置費を国から拠出されている。
だが、その背後に、福祉という名の白布の下に、別の色をした血が流れているとしたらどうか──。
神尾は、メールの文面を読み返す。そこには、言葉を選びながらも、鋭く鋼のような不信が貫かれていた。
「本法人が提起している複数の訴訟は、いずれも公益のためではなく、批判者を沈黙させるためのものに過ぎません」
「訴訟費用の原資に、措置費が流用されているのではないかという内部職員の懸念があります」
七通。──神尾のように、公益法人に対する監督を担う実務官僚の感覚からすれば、それは異様な数であった。通常、公益法人に関するたれこみは、せいぜい年間に二、三件あればよいほうだ。しかも、その大半は労務管理や財務報告の形式に関するもの。だが、今回のそれは違う。根幹に関わる問題、つまり──金の流れ、そして目的の歪みである。
さらに神尾は調査を進めた。内部の電子訴訟データベースにアクセスし、法人名で検索をかける。画面に現れた結果は、彼の予想を超えていた。
「……知財法……?」
表示された裁判名のほとんどが、知的財産権を巡る訴訟であった。しかも、令和年間に限っても、原告として登場する回数が全国の公益法人の中でも異様なまでに突出している。
社会福祉法人──その看板のもとに、なぜこれほどまで知財訴訟に血道を上げる必要があるのか。まるで、刃物を研ぐように、知識と権利とを武器にして争うその姿勢に、福祉の柔和な微笑は見えなかった。
神尾はそっと目を閉じた。
──メールの内容は事実だった。いや、事実を越えて、むしろ事実が告発を裏打ちしていた。
「五億円……。その血の金は、誰の口を封じるために使われたのか」
神尾は独りごちた。その数字には、霞が関のどの部署も無関心ではいられない重みがある。税金である。民の血と汗が凝縮された国家の胎液である。それが、もしも言論封殺の訴訟──いわゆるスラップ訴訟──という、最も反倫理的な用途に転用されていたとすれば、それはもはや「福祉」ではなく、福祉の名を借りた暴力であった。
寮の名は「神の国」。だが、訴状を連ねるその手が、神の名のもとに悪魔の剣を握っているとすれば、それはもはや地上の偽りの天国に過ぎぬ。
神尾はゆっくりと立ち上がった。彼の内にある、無名の公務員としての誇り──それは、血統でも思想でもなく、ただ「まっとうさ」という曖昧な言葉に宿る価値であった。
「調査を指示すべきではないか……」
低く、だが確かな声でそう呟くと、神尾はスーツの袖を正し、文書課へと向かった。神の国寮の扉の奥に、いかなる欺瞞が潜むのか──神尾の戦いは、まだ始まったばかりである。

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両面宿儺様 (70256) |
- 日時:2025年04月04日 (金) 18時58分
名前:志恩
数々のサスペンスのようなストーリーは フィクションではなく、ノンフィクションぽく 読まさせていただきました。 よくここまで表現されたと驚いております。 すごいです。
コメントは、書くと、訴えられそうなので、 私は怖くて、これ以上は、書けません。
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FCCJラウンジにて──記者たちの囁き (70259) |
- 日時:2025年04月04日 (金) 19時40分
名前:両面宿儺
「最近、内田智という弁護士が日本で話題になっているわね。」
フランス人記者のマリアが顔をしかめながら言った。その隣でドイツ人記者のアンドレがうなずく。
「彼の関わる案件は、どれも一筋縄ではいかないものばかりだ。特に、サハダイアモンド関連の問題に関して、何か怪しい匂いがする。」
「サハダイアモンド?あの会社、確か反社会的勢力との繋がりが疑われているんじゃなかった?」マリアが聞き返した。
「その通り。内田がその企業から報酬を受け取っている件について、弁護士としての倫理に関わる問題が浮上しているんだ。日本の弁護士法や弁護士職務基本規程によれば、反社会的勢力との関わりや業務の独立性を侵すような金銭の授受は、重大な倫理違反に該当する。」
アンドレはその言葉を深く理解した様子で頷く。「でも、あんな小さな弁護士事務所の内田が、なぜそんなリスクを取るのか理解できない。あれだけ悪名が認知された弁護士が、自らの名声を汚してまで、そんな危険な案件に関わる意味が分からない。」
「それが重要なポイントね。」マリアは話を続けた。「内田が関与している案件の一つが、まさにスラップ訴訟だということ。スラップ訴訟は言論封殺を目的としている。社会の中で不正が隠蔽され、無関心が助長される危険な手段なのよ。」
「そうか…スラップ訴訟という手法を使うことで、実際の被害者たちは声を上げられなくなるというわけだ。だけど、彼はその金銭的報酬と引き換えに、そんな無責任な行為をしているんだろう。」
アンドレの言葉には、疑念と驚きが混じっていた。
「確かに、スラップ訴訟の数が増えれば、言論の自由がどんどん制限されていく。日本国内では、この問題はまだ表面化していない部分も多いけれど、ジャニーズ問題など他の社会的スキャンダルと同様に、これも同じ構造だわ。」マリアは声を落としながら話し続けた。「言論封殺目的のスラップ訴訟は、明らかに反啓蒙的な行動よ。ジャニーズの性被害に対する反応があれほど敏感だった日本人が、なぜこの問題には鈍感でいられるのか、理解に苦しむわ。」
アンドレは、ジャニーズ問題について触れた部分に深く頷いた。「確かに、あの問題は世間を騒がせたが、反啓蒙的な活動の本質を見逃しているのかもしれない。維新の党やN国党が行った言論封殺的な動きと同じく、公益法人がスラップ訴訟を仕掛ける行為も、社会に対する一種の抑圧だ。欧米なら間違いなく大スキャンダルになっている。」
マリアの顔に憤りの色が浮かんだ。「ええ、そうよ。私たちが報じるべきなのは、内田智がどんな組織と繋がり、どんな不正に加担しているのか、そしてその影響力がどれほど広がっているかを明らかにすることだわ。」彼女は視線をあらため、アンドレに向き直った。「スラップ訴訟は、決して無視してはならない。日本の弁護士会も、この問題に目を背けてはいけないと思う。」
アンドレは深く息を吸い、ゆっくりと答えた。「今は日本の社会にとって非常に危険な時期だ。言論の自由を守るためには、これ以上スラップ訴訟を容認してはいけない。内田智のような弁護士がその背後にいるのは、倫理的に許されるべきではない。」
マリアはしばらく黙って考え込んだ。「もし内田が、これまでの行動が原因で懲戒処分を受けるような事態になったら…それは大きな問題だわ。」
アンドレは厳しい表情で言った。「間違いなく、弁護士としての職業倫理を欠いた行為だ。懲戒は避けられないだろう。」
「その時が来たら、私たちがどう報じるかが問われる。」マリアは強い意志を込めて言った。「私たちが世界にその真実を伝えなければならない。」

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某所にて (70260) |
- 日時:2025年04月04日 (金) 20時07分
名前:両面宿儺
「この間の久保理事長、いったい何を考えているんだろうか。『著作者人格権は谷口雅春先生の固有の権利』だと言いながら、あの人は『生命の實相』の章を勝手に改変してしまっている。矛盾しているとは思わないか?」
佐藤の声に、田中が無表情で頷いた。彼は、画面越しにわずかな疲れを見せるものの、その目には冷徹な意志が宿っていた。
「まったく。彼が『著作者人格権は相続できない』と強調する一方で、自らその権利を無視して改変しているわけだ。自分がいかに矛盾しているのか、全く気づいていないんだろう。」
鈴木が口を開いた。彼の声はどこかひんやりとした印象を与え、室内の空気を一層重くした。
「久保理事長は、どうやら『著作権を持っていれば、章を変えられる』と思い込んでいるようだな。だが、著作者人格権がなければ、章を勝手に変えることなどできるわけがない。もし本当に彼がそのことを理解していたら、改変を試みることなどなかったはずだ。」
その言葉に佐藤が鋭く反応する。
「そして、もし理解していたら、あの人は勝手に変更を加えなかっただろう。だが彼は、自分の無知を誤解のまま突き進んでいる。『生命の實相』という作品に対する意味や価値を、まったく理解していない。もし理解していたら、こんなことにはならなかった。」
田中が再び口を開く。彼の声は低く、重みを帯びていた。
「それにしても、久保理事長がこの矛盾を指摘された際、どのように反応するだろう。おそらく、反論を許さないかのようにスラップ訴訟をかけてくるだろうな。それが彼のやり方だから。」
鈴木は冷笑を浮かべた。
「その通りだ。久保理事長は、自分の正当性が揺らぐたびに、訴訟という武器で口封じをしようとする。それが彼のやり方だ。だが、そんな行動を繰り返す限り、彼の立場はどんどん弱くなっていくだけだ。むしろ、自分の間違いを隠そうとする姿勢が、逆に彼の信頼性を失わせる。」
佐藤が息を吐き、カメラの前でじっと沈黙を守った。彼の思考は、無言のまま会議室の空気に溶け込んでいった。
「しかし、あの人はそれに気づかないだろう。スラップ訴訟を繰り返すたびに、ますます自分を孤立させていく。それを感じ取っているのだろうか。彼の意識はまるでガラスのように脆く、ひとたび指摘されれば、すぐに反撃に転じる。だがその反撃が、ますます彼を孤立させる。」
田中が再び口を開いた。彼の表情は、より深刻さを増していた。
「根本的な問いとして、なぜこんなにも訴訟が可能なのかを考えてみてほしい。単純に言えば、彼が理事会に何も報告せずに、公益法人のお金を弁護士に支払い続けているからだ。あれは、純粋な信徒の浄財だ。その金を無制限に使える立場だからこそ、スラップ訴訟を無制限に行えるんだ。」
鈴木の顔に、鋭い表情が浮かんだ。
「まさにその通りだ。あの人は、理事会を無視して弁護士に支払っている。それにより、個人の利権を膨らませ、組織の資金を好き放題に使っている。その結果、訴訟が無制限に行える。全ては、内田弁護士事務所の維持のために──これは彼の私的な利益を守るための道具となっているわけだ。」
佐藤がうなずいた。その顔に、ますます冷徹な決意が見て取れた。
「信徒たちは、おそらくそのことに気づいていない。彼の訴訟は全て、浄財を使って行われている。そして、そのお金が一部の弁護士事務所を支え続けている。信徒たちがそのお金をどう使われているか知ったら、恐らく衝撃を受けるだろう。」
鈴木が顔をしかめた。
「信徒たちは、久保理事長がこの公益法人を操り、裏で私利を肥やしていることに無自覚だ。阪田先生は『ホテルニューオータニで会合する彼ら』について報じた。金はふんだんにあるのだ。だからこそ、久保は無限に訴訟を繰り返すことができる。自分が手を出せば出すほど、信徒たちがその犠牲になることを理解していない。」
田中が静かに言った。
「我々が声を上げ続ける理由はここにある。彼がどれだけ訴訟を繰り返そうとも、彼の行動が裏で組織全体を蝕んでいることを明らかにするためだ。浄財がどれほど無駄に使われているかを示さなければならない。」
会議の画面越しに、彼らの顔が一つ一つ映し出される。だが、どの顔も冷徹であり、どこか切実な覚悟を秘めていた。久保理事長が自らの矛盾に気づかない限り、この戦いは終わることはないだろう。しかし、会員たちの目には確固たる信念が宿っていた。それが、彼らが戦う理由だった。

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同時刻の八ヶ岳にて (70262) |
- 日時:2025年04月04日 (金) 20時34分
名前:両面宿儺
その同時刻、八ヶ岳の山間で谷口雅宣は、眼前に広がる自然の美しさとは裏腹に、内心では激しい動揺と深い憤りを抱えていた。彼の目には、ただの自然の風景が映っているのではない。その風景には、深く沈み込んだ義務感と家族の名誉を守るための戦いが反映されていた。
「孫としての義務を全うせん」――その言葉が彼の胸にしっかりと刻み込まれていた。谷口雅宣は今、祖父・谷口雅春の名誉と著作物が無断で改編された事実に怒りを覚えていた。身内でもない者たちが、祖父の大切な言葉を勝手に変えた。その行為は、彼にとっては到底許しがたい裏切りであった。
だが、それにとどまらず、彼の怒りをさらに掻き立てたのは、批判する者に対して裁判を起こしているという事実だった。彼は自らの正義を守るために行動していると信じていたが、その行動には明らかに矛盾が含まれていた。批判を受けたからといって、法的手段に訴えるというのは、果たして正当な行動だったのだろうか?その疑念が彼の心にくすぶり続けていた。
そのとき、秘書が静かに話しかけた。「新編『生命の実相』ですが、65巻出揃ったそうです。」
谷口雅宣はその言葉に目を細め、冷静に返答した。「あのね、新編なんて言葉はないのだよ。」その言葉には、改編という行為に対する強い拒絶が込められていた。『新編』という言葉が、彼の心に抱く不正義への反発を象徴していた。
その時、彼は心の中で再び思いを巡らせた。彼らは、私が「生命の実相を抹殺しようとした」と言っている。しかし、それは明らかにデマだ。デマなのだが、私がそんな理由で彼らを裁判にかけたことがあっただろうか?彼らは私(雅宣)が単行本版の聖典を発行しようとしていた事実を伏せ、私を悪しざまに罵った。あげくの果てには、「総裁である谷口雅宣に直接的に注意をした」と言って、後からその言葉が嘘だとばれてしまった者までいた。
その一連の行動に対し、谷口雅宣は深い憤りを感じずにはいられなかった。彼の目には、そこにまるで無秩序と不誠実が漂っているように見えた。社会事業団に、いったい何が起きているのか?いったいどこに人材がいるのだろうか?その疑問が、さらに彼の胸を締めつけた。
谷口雅宣は、すべてを守るために戦わなければならないという義務感に駆られた。だが、その戦いが、果たして正当なものであるのか、その答えが見えないまま、彼はひとり山中に立ち尽くしていた。

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今年、2025年の学ぶ会の全国大会の開催日は (70263) |
- 日時:2025年04月05日 (土) 05時54分
名前:志恩
4月20日(日)10-16、明治神宮会館で 開催されると、学ぶ会のHPに記載されて ありました。
昨年の全国大会の参加者は、予定数へ達しなかったと 学ぶ会に詳しい人から漏れ伺っておりましたが、 学ぶ会と一緒の、公益法人である社会事業団が 個人に対して 違うことを言ったからと言って、すぐに 何百万円の賠償金付きの訴訟やら、裁判を、 次から次へ、行っている世にもおぞましい行為は ネット時代ですから、今や、多くの人たちの知る ところとなっています。
あちらの講師が、いくら綺麗事を講話しても、 正しいことを口で述べましても、 実際にやってることと言いましたら、 すぐに、内田弁護士の手を通して、内容証明付き開示請求や 多額の賠償金付き訴訟を、次から次へ、 社会事業団は、やっていては、言うことと、やることが、 反比例していますから、恐ろしくて、いつ自分もそんな酷い目に 会うかしれない、と想像しますので、様子がわかってきた 人たちは、あちらを、避けるんじゃないかしらと、 思っております。
すでに、個人のお方で、200万円、160万円、 間違ったことを言ったからという理由で、内田弁護士 が間に入り、社会事業団から開示請求が来て、裁判は避け、 賠償金を払う羽目になった方達がいらっしゃることも、
社会事業団へ賠償金を払わなきゃならなくなったために、やむなく ご自宅を売ってそのお金で払ったお方も、おられるのも事実です。
その前に、社会事業団は、死んだ人にまで、開示請求を、 間に、内田弁護士を 使って行い、遺族のかたが、それを証明するために 弁護士 に使ったり、さまざまなことに使ったお金は、三桁にのぼったと 書いてありましたが、それが事実のことでしたら、三桁とは 300万円のことでしょうか。それにより中二のお孫さんだか お子さんが、修学旅行へ行く費用が払えなくなり、修学旅行 行きを断念したというようなことが書いてありますが、 それが本当のことでしたら、社会事業団は、内田弁護士を 使って、いったい、何をしているのだろうかと、悲しみと 驚愕の極みの気持ちになっております。
それに加えて、 阪田成一先生への裁判は、やっと終わったと思っていましたら、 今年の1月に、再度、社会事業団は、また内田弁護士をつかって 阪田先生に、新しい訴訟を起こしたと聞いており、このことも、 驚いております。結果は、どうなったのでしょうね。
違うと思われたら、違うという反論を、第二掲示板がちゃんとある のですから、堂々と、反論を述べるのが、フェアープレー精神 では、ないのですか。
トキ掲示板だって、違いますということを、 ここも、匿名で投稿できる掲示板なのですから、堂々と、反論を書いて 意見交換をすれば済むことだと思います。
社会事業団は、個人に対して、なんで、突然、多額の賠償金 付きの訴訟をするのかしら。不思議でなりません。
生長の家の両方の上層部の方々、どうか、正常化に動いてください!
このままでは、生長の家の評判は、地に落ちます。
谷口雅春先生は、この世を、しっかりと、ご覧になっておられます。
よろしくお願いいたします。

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「集まり散じて人は変われど……」 (70264) |
- 日時:2025年04月05日 (土) 06時31分
名前:両面宿儺
午後の陽はすでに斜めに傾き、府民センターの一室を、色褪せた金色に染め上げていた。そこは、弁護士会が設けた無料法律相談の簡素な会場であり、壁には湿り気を帯びたチラシが幾重にも貼られていた。はがれかけた紙の端から、忘れ去られた年月の文字が覗き、まるで時代の亡霊たちが静かに嘆息しているようであった。
烏丸圭吾は、擦り切れた長机の向こうに腰を下ろし、傷だらけのバインダーを開いてため息をついた。白いワイシャツの襟元には、朝の慌ただしさがそのまま刻まれ、皺はもはや彼自身の疲労の模様と化していた。
「……俺も、そろそろ終わりかもしれんな。」
かつて、難関大受験を一度で駆け抜け、司法試験をも難なく通過した栄光は、今や逆に彼の肩に、見えざる鉛のように圧し掛かっていた。ホームレスの中に弁護士がいた――そんな記事を読んだのは、つい先週のことである。あり得ぬと笑い飛ばしたい自分と、いや、さもありなんと頷く自分が、内奥で拮抗していた。
その沈鬱な空気の中で、やがて扉が軋む音とともに開いた。入ってきたのは、制服の襟をきちんと正した、一人の中学生だった。烏丸はその姿に、刹那たじろいだ。年齢としては場違いであったが、その双眸には、不自然なほど乾いた炎が宿っていた。
「……すみません。法律の相談をしたくて来ました。」
少年の名は、ヒロキ。語られるうちに、烏丸は背筋を正し、ペンを握る指先にじわりと汗が滲んでいた。
「家族が……訴えられました。ネットで、ある宗教のことを書いたら……。」
スラップ訴訟。異様に膨れ上がった弁護士費用。修学旅行の積立金が、音を立てて崩れてゆく現実――。
「……相手の弁護士、誰だったか覚えてる?」
無造作に放たれた問いに、ヒロキは少し逡巡しながら答えた。
「……内田、内田智、って人です。」
その名が発せられた刹那、烏丸は目を伏せ、静かに首を傾けた。重たく鉛色をした沈黙が、まるで煙のように、二人の間に広がっていく。
「……なるほど、そういうことか。」
それは独白であり、断罪であった。内田智――法を食い物にし、正義を粘液のように捻じ曲げる男。宗教団体の顧問として、無限とも思える資金を背にして、弱者の声を沈めることに、まったく呵責を感じぬ者。しかも、彼は――稲門会の先輩でもあった。
「集まり散じて人は変われど……」
あの大隈講堂の前で幾度となく唱和した母校の校歌が、ふと脳裏に甦る。仰ぐは同じき理想の光――あれは、内田の胸にも一度は灯っていたはずの光であった。
「……そうだよな。変わってしまったのかもしれないな。人は……。」
いや、変わったのではない。逸らしたのだ。現実に、生活に、恐れに、従属して――。だが、そう呟く己自身もまた、その同じ川の流れに足を取られている。
それでも――
この少年の力になりたいという微かな思いが、まだ自分の内に残っていたことに、烏丸は驚いていた。そして、同時に言い知れぬ躊躇をも覚えていた。内田に楯突けば、どうなるかは分かり切っていた。仕事の邪魔が増えそうだ、本業にさく時間を減らされて、ただでさえ乏しい生活費が内田の対策のために、無駄に溶けていくことになるだろう。法の世界は、理想では食えぬ世界だ。それでも――
「ヒロキ……君のおうちが雇った弁護士……割り増しで請求してきたんじゃないかな。たぶん、内田さんが相手だって分かった瞬間にね。」
少年は、はっと顔を上げた。その瞳は、驚きと戸惑いに濡れていた。
「割り増しって……なんの……料金が高いのって……どうしてですか……?」
言葉を絞り出すように問い返すその声は、まるで風のない海に浮かぶ孤独な小舟のように、静かに、だが揺るぎなく響いた。
烏丸はしばし沈黙した。その純粋な問いが、むしろ彼の胸を深く刺した。そしてようやく、静かに言葉を置くように答えた。心労で倒れた母の介護のため、ヒロキは席を立たねばならないと烏丸に伝えた。
「君の家族をね……暗に、諦めさせたかったのさ。正面切って“無理ですよ”とは言えないから、値段を上げて、黙って去ってもらう。それが――大人のやり方だよ。」
ヒロキは何も言わなかった。ただ、僅かにその肩が震えていた。抗議でも、悲しみでもない。深く、静かな、世界の冷たさを知ってしまった者の、沈黙だった。
烏丸もまた、それ以上の言葉を探すことができなかった。真実という刃は、時に優しさよりも鋭く、残酷である。
窓の外では、夕陽が西の空へと沈もうとしていた。世界がゆっくりと金色に染まっていくなかで、ヒロキの瞳だけが、なおも曇ったままだった。母に食事の世話をする時間が、迫っていた。

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ヒロさん (70269) |
- 日時:2025年04月05日 (土) 09時30分
名前:両面宿儺
烏丸はふいに思い出した。ヒロキが、数日前、か細い声で尋ねていたことを。
「……弁護士保険って、入っておいたほうが、いいんでしょうか。」
そのとき彼は、明確な否定も肯定もせず、ただ曖昧に頷いたような、いや、そうではなかったか。いずれにせよ、彼の口から「やめておけ」とはっきり告げる言葉は出なかった。それが、今になって、胸の内に不意打ちのような痛みとして蘇ってきた。
(止めねばならなかった。なぜ、あのとき……)
彼の脳裏に、あの保険会社のチラシが浮かぶ。弁護士費用を補償――まるで法の騎士を一夜にして召喚するかのような、欺瞞に満ちた約束。その実、あれは鎧ではない。絹をまとった薄紙の盾だ。ましてや、相手が内田智であるならば。
内田。あの男と法廷で相まみえるには、もはや通常の法的装備など意味をなさない。軍靴に踏み潰されるために出陣するようなものだ。あの弁護士保険とやらで雇われた弁護士は、赤字を背負って勝負に出るほかない。なぜなら、保険の定める報酬基準では、到底、内田の攻撃を受け止めるには足りぬ。
(あの少年の家庭には、もう余白がないのだ。余白のない画布に、これ以上の悲劇を描き込ませてはならぬ。)
烏丸の喉元がかすかに鳴った。抑えようのない怒りではなかった。怒りというより、それは羞恥に近い感情だった。自分が、内田という名を前に、怯え、口を噤んだということ。そして、その沈黙が、ヒロキを保険という罠へと近づけたということ。
(どうして、あのとき言えなかった……いや、言わなかったのだ?)
烏丸は机の端に置かれた紙コップの水を一口飲んだ。その味気ない液体が、乾いた喉を通り過ぎると同時に、彼の内側に巣食う卑怯さまでも、一緒に流れ落ちてゆくように錯覚した。
(保険で弁護を受けた者は、やがて悟る。受けた側が得をしない弁護など、誰が真剣に引き受けるものか。正義にも利潤が要るのだ。現実はそうなっている。だが、それを……子どもに悟らせてよいのか?)
彼は、自身が抱える鬱屈に気づいていた。いや、とうに気づいていたのだ。ただ、それを名指しで言い当てる勇気がなかった。彼は気づけば独りごちていた。
「……ヒロキ、保険には入るな。あれは、正義を買うための紙くずだ。あの男を前にすれば、紙くずは紙くずのまま、焼き捨てられる。」
そして、ぽつりと、誰にも聞かれることのない声で付け加えた。
「内田と裁判するなら、君の味方であるべき弁護士も、また君を搾取するだろう……正義を、金に換えざるを得ないからだ。」
その瞬間、彼の眼前に、まるで蜃気楼のように、ヒロキの顔が浮かんだ。あの震える肩。あの、濡れたような瞳の奥の、かすかな光。希望とも諦念ともつかぬ、無垢な問い。
(あれを、守れなかったら、俺は弁護士ではない。ただの傍観者だ。)
夕陽が、窓辺を染め始めていた。赤く、鈍く、あたかも戦場の空のように。その色は、法という名の武器を持ちながら、弱き者の盾になることを忘れかけた男の、胸の奥をじりじりと焼いた。
「……ヒロキ、保険を、やめておけ。」
その言葉が届くか否かもわからぬまま、烏丸はただ、机の上の名もない書類を見つめていた。世を覆う影の中で、小さな灯を守ろうとする自分の手が、いつの間にか冷たくなっていることに、彼はようやく気がついた。
だが、そのとき、不意に彼の胸中を横切る影があった。いや、影というにはあまりに風変わりで、どこか牧歌的な、そして妙に生活感に満ちた幻影だった。
緑のジャージ。擦り切れた襟元。ゼッケンのように剥がれかけた「○○中学校体育大会」の文字。かつて商店街を颯爽とは言いがたい速度で、古びたママチャリを操って走り抜ける、あの奇妙な男。
――ヒロさん。
その名を心中で呼んだ瞬間、烏丸の表情には、微かに苦笑のようなものが浮かんだ。ひどく唐突で、文脈を無視した現実離れした登場の仕方――けれど、彼の心のもっとも奥底で、いつも必要なときに現れるのが、あの男だった。
「おう烏丸ぁ、法律ちゅうもんはな、アホを守るためにあるんや。かしこい奴のために法律あると思てるから、おまえはあかんのや」
むかし、まだ若く、権威に恋していたころ。烏丸が法廷戦術に陶酔し、人の人生よりも勝率に酔っていたあの季節。そんな彼の肩を無遠慮に叩き、商店街のたい焼き屋の前で言い放ったのが、ヒロさんだった。
「ほんまに困っとる奴はな、相談する勇気すらないねん。そいつの口が開いたときが、ほんまの勝負やで」
あの男は、もはや弁護士の体裁をとってはいなかった。スーツは着ない。会議にも出ない。裁判所の廊下でも、その緑のジャージのせいで警備員に呼び止められる始末だった。だが、地域では“緑ジャージの先生”と慕われ、夜道で迷子を連れた子どもが、彼の事務所の前で泣いていることもあったという。
(ヒロさん……あの人なら、ヒロキを……)
思考は、徐々に速度を帯びていく。ヒロキのあの目の奥にあった、助けを呼ぶような光。内田智という巨獣に対し、無謀にしか思えぬその姿勢。だが――ヒロさんなら、たとえ勝てずとも、共に立つことを選ぶのではないか。
(あの人は、いつも誰かの負け試合に、ちゃらんぽらんに見えて、ちゃんと付き合ってくれた。)
「人間、ほんまに折れそうなときはな、勝ち負けちゃうねん。どない生きたかや。そこんとこ、ちゃーんと見たらんとあかん」
彼の言葉が、心の奥に木霊した。まるで、今この瞬間のために残されていたかのように。ヒロさんなら、ヒロキを断らないだろう。報酬の話にも乗らないだろう。ただ一言、「おもろいやんけ」と笑って、ぼさぼさの髪をかきあげるだろう。
烏丸の指が、スマートフォンへと伸びる。いつか受け取ったきり、登録もせずにいたヒロさんの番号が、着信履歴の下のほうにあった。見るたびに躊躇い、ためらい、手を引っ込めてきたその数字。
だが今、彼の胸の奥には、一つの確信が灯っていた。誰かが、ヒロキの隣に立たねばならない。それも、勝率や賠償金ではなく、その生を、真正面から受け止められる者が。
「ヒロさん……今度こそ、あんたの出番かもしれん。」
そうつぶやいたとき、沈みゆく夕陽が、彼の頬をうっすらと照らした。まるで、一度だけ赦された者の横顔に、静かに触れるように。

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「アホか。礼なんかいらんわ。ただな、“問いかける”っちゅう行為を、諦めるな。 それだけや」 (70270) |
- 日時:2025年04月05日 (土) 10時19分
名前:両面宿儺
夕暮れの空は、まるで焼け落ちる社殿の屋根瓦のように赤く、かすかに煤けていた。商店街のアーケードに、冷えた風が一筋吹き抜ける。看板のひとつが軋み、微かに揺れた。 その静寂を破ったのは、シャラリと鳴る自転車のベルだった。
「おう、カラスちゃん、こんな時間にどないしたんや。魂の抜けた顔して」 緑のジャージに身を包み、泥だらけの運動靴を履いたまま、ヒロさんは涼しい顔で自転車から降りた。背中のリュックは膨らみ、端から書類がはみ出している。
烏丸は無言で、すこしだけ目を伏せた。彼の手には、ヒロキが手配しようとした弁護士保険のチラシが握られていた。くしゃくしゃになったその紙は、彼の迷いの痕跡であった。
「……ヒロキが、保険に入ろうとしておりました。弁護士保険など無駄だということを、止めるのを忘れておりました」 そう言った声は、微かに震えていた。 ヒロさんはそれを聞き、静かに鼻を鳴らした。
「そら、気ぃ張るわなあ。……けどな、カラスちゃん。弁護士保険ちゅうもんはな、相手が普通の人間のときにしか通用せぇへんのや。相手が“智”みたいな法廷の魔物やったら、そら通りゃせん」 ヒロさんは言葉の末尾で、少しだけ怒気をにじませた。
その言葉に、烏丸の視線が上がった。 「……内田智のことを、ご存知なのでしょうか?」 彼の言葉に、少しの沈黙が流れた。ヒロさんは軽く肩をすくめ、そしてゆっくりと答える。
「知っとるもなにも……あいつがやる裁判は、**正義やない。演出や。**相手が反論できんように、言葉の網を張りめぐらして、ゆっくり首を絞めるんや。阪田さんの件も、そうやった」
烏丸ははっと息を呑んだ。 その名を、自らの心に封じていた裁判の記憶とともに、もう一度思い出した。
「ええか、聞いとき。阪田さんな、ただ言うただけや。“著作権、ほんまに移転された記録あるんか?”ってな。そんなん、当たり前の疑問やろ? せやけど事業団はカチンと来よって、『名誉毀損や!』ゆうて訴えてきたんや」
「……しかし、それは本当に名誉毀損となるのでしょうか?」 烏丸の声には、少しの疑問とともに確かな緊張が宿っていた。 ヒロさんは深いため息をつき、そしてまた静かに語り始める。
「せや。裁判所もそう判断した。“疑問を呈することすら許されん”っちゅうたんや。けどな、それ、ほんまに法の番人が言うことか? 阪田さんは“真実かもしれんこと”を丁寧に言うたんやで。そんなんで訴えられたら、ワシらの口なんてもう動かんようになるわ」
「では……裁判所の判断は、間違っていたということなのでしょうか?」 烏丸が尋ねると、ヒロさんは少し間をおいてから、静かに頷いた。
「間違ってた、ちゅうより、怖がったんやろな。“宗教団体相手に深入りしたくない”ゆうてな。判決文見てたら分かる。妙にフワッとしてるねん」
ヒロさんの口元に、かすかな皮肉が浮かんだ。
「そやから言うたやろ、カラスちゃん。あんたが内田智とやり合うなら、保険なんかでどうにかなる話やあらへん。けどな……もしヒロキくんがまた誰かに食い潰されそうになったら、ワシが行くわ。緑ジャージの弁護士が、チャリ飛ばして、どこへでもや。」
烏丸は、その言葉に胸が熱くなるのを感じた。 緑のジャージが、裁判所の廊下を、自転車のチェーンのように軽やかに駆け抜ける情景が、なぜか脳裏に浮かんだ。 重く張り詰めた心に、一筋の風が吹いたようだった。
「……ヒロさん」 「ん?」 「……ありがとうございます」
ヒロさんは、にやりと笑い、そして言った。
「アホか。礼なんかいらんわ。ただな、“問いかける”っちゅう行為を、諦めるな。それだけや」

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ケセラセラやでしかし (70271) |
- 日時:2025年04月05日 (土) 10時39分
名前:両面宿儺
静かな昼下がり、マリオン・ルブランはヒロさんと向かい合って、手元に置いた紙にペンを走らせていた。その周囲には、時折店の鐘が鳴り響くのみで、他の客たちはそれぞれの時間を過ごしていた。だが、彼女の目の前に座るヒロさんの存在感は、無言のうねりのようにその空間に浸透していた。
ヒロさんは、普段はボロボロのジャージ姿で自転車を走らせるという一見して普通のおっさんに見えるが、その佇まいには、どこかしらで無言の威厳が漂っていた。彼の姿勢、表情、言葉には、決して言葉に出さないが、確固たる自信が宿っていた。それは、まるで何世代にもわたる家系の知恵と経験が凝縮されたような、静かで確実な力強さを感じさせた。
「ヒロさん、あなたが弁護したあのヒロキ君、かなり大変な状況にありますね。」
マリオンは質問を投げかけながら、ヒロさんの瞳を見つめた。彼女の目には、単なる知識を得るための冷徹な視線ではなく、何か真剣に彼の意見を求める気持ちが込められていた。
ヒロさんはしばらく黙って、グラスに手を伸ばし、ゆっくりと水を飲んだ。それから、彼の口から出た言葉は、どこか冷徹で、でも温かい。
「まあ、あのガキ、いいヤツやけど、ちょっと世の中の厳しさを知らんのやろな。」 ヒロさんの口元に薄く笑みが浮かんだ。「訴訟のことはあんまり考えてないけど、そいつがどんな結果になっても、なんだかんだで成長するもんやと思うわ。」
マリオンはその言葉をしばらく味わいながら、彼の次の言葉を待った。ヒロさんが放つ言葉は、ただの法的見解や理屈ではない。そこには、どこかしら「生きる力」のようなものが感じられた。それに気づき、彼女は不意に声を漏らした。
「ヒロさん、あなたの言葉って、どこか不思議ですね。」 マリオンは微笑みながら続けた。「あなた、普通の弁護士とは全く違います。」
廣山はニヤリと笑った。その笑みには、あたかも無言の誇りを感じさせるものがあった。
「普通って、なんやろな?」 彼はゆっくりと目を細めながら、目の前のマリオンをじっと見つめた。「ワシなんて、ただのおっさんやで。まあ、あんたが言うように、ちょっとは人と違うかもしれんけど。」
その瞬間、マリオンは思わず吹き出してしまった。彼の言葉の裏に潜む、確固たる自信と、決して表に出さない謙虚さが、彼女の心に強く響いたからだ。
「まるで何かの師匠みたいです。」 マリオンは笑いながら続けた。「ヒロさん、あなた、実はすごい人ですよ。」
ヒロさんは手を上げて笑った。「ほんなら、今日はワシがフランス語のジョークを一発かますで。」 そう言って、彼は少し間をおいて、どこか楽しそうに続けた。「聞いたか、フランス人が言うてるジョーク。『Pourquoi les plongeurs plongent-ils toujours en arrière et jamais en avant? Parce que sinon ils tombent toujours dans le bateau.』」
マリオンはその言葉を理解した瞬間、思わず手で顔を押さえて笑い転げた。「それ、ただの冗談ですよ!本当にフランス語を話すおっさんだと思ったら、まさかのユーモア!」 彼女は声を上げて笑い、涙がこぼれるほどだった。
「ヒロさん、あなた、最高ですね。」 マリオンは涙を拭きながら言った。
ヒロさんはにんまりとした顔を浮かべながら、またゆっくりと続けた。「でもな、ワシはほんまに思うんやけど、あの訴訟とか、他の開示請求とか、そんなんでガタガタ言ってもしょうがないんや。」 彼の口調には、相変わらずの冷静さと、どこか心の奥にある寛容さが滲んでいた。
マリオンはその言葉に、またもや感動した。彼の態度には、ただの法律家としてではなく、どこかしらの哲学者や、長い人生を経て得た知恵が感じられたからだ。
「ヒロさん、あなたが言う通りです。」 マリオンは深く頷きながら、改めてペンを紙に走らせた。「あなたには、他の弁護士にはない、何か特別な力がありますね。」
ヒロさんは微笑んで答える。「力なんかいらん。あんたが言うようなことは、世の中にいくらでも転がっとる。ただ、自分の思うことをしっかりとやるだけや。」
マリオンはその言葉を胸に刻み込んだ。彼女がこれまで見たどんな日本人弁護士とも違い、ヒロさんにはただ者ではない「何か」がある――それを、今ここで感じ取っていた。彼の言葉には、表面上の理屈ではなく、深いところから湧き出る「人間らしさ」があったのだ。
ヒロさんがフランス語の冗談で笑いを取った後、静かな余韻が店内に流れた。マリオンは深く息を吸い込みながら、ペンを紙に走らせた。だが、心の中には次第に一つの疑問が湧き上がってきていた。内田智の動きがどうしても気になり始めたのだ。
「ヒロさん、内田智側が次に動いた場合、どう対応されるつもりですか?」 マリオンは慎重に言葉を選びながら問いかけた。内田智は、過去の裁判において数々の訴訟を重ねてきた人物であり、その冷徹さと戦略には、誰もがげんなりしてきた。しかし、ヒロさんが手掛けたヒロキの案件には、どうしても一筋縄ではいかない要素がある。内田智が動けば、これまでのように法廷で単に戦うだけでは済まないだろう。
ヒロさんはゆっくりと口元に笑みを浮かべながら、マリオンを見つめた。その目には、なんとも言えない余裕と信頼が宿っていた。
「まあ、内田先生が何をしてこようと、そんなに焦ることはない。」 ヒロさんはそう言うと、わずかに間を置き、次の言葉を発した。「もしあの人が動いたら、次は別の手があるから心配せんでもいいよ。」
その瞬間、マリオンは思わず息を呑んだ。ヒロさんが言った言葉には、ただの予測や見積もりではない、確かな自信が感じられた。そしてその自信の中に、彼が握る「次なる手」の存在が、まるで暗闇の中で光る刃のように感じられた。
「え?」 マリオンは声を上げてしまった。驚きのあまり、思わず口をつぐんだ。
「そんなに驚かんでも。」 ヒロさんは軽く肩をすくめながら、余裕の笑みを浮かべた。「わしはね、もう少し先のことを見とるだけや。」
マリオンは、その言葉を聞いても何も言葉を返せなかった。彼が持つその余裕は、ただの楽観主義や自信ではない。むしろ、それは計算された冷徹さと、何か大きな秘密を抱えた策略の一端が感じられるものだった。彼の言葉に込められた意味は、まるで見えない糸で繋がれた運命を操るような、独特の力強さがあった。
「ヒロさん、その『次の手』って、具体的にはどんなものなんですか?」 マリオンは、すでにその言葉に心を奪われていたが、それでもなお、冷静さを保とうと必死に質問を続けた。
ヒロさんはその質問に、ただ静かな目を向けて答えた。「それは、言わんとこ。今はただ、内田先生がどう動くかを見ておけばいい。何にしても、先に動いた方が負けやからな。」
その言葉に、マリオンはさらに深く驚くと同時に、何か異様な期待感を抱き始めた。ヒロさんの「次の手」が、まるで盤上の駒が進んだかのように、何か大きな勝負を決するものだという予感がした。だが、それが何であるのか、まだ全く見当がつかない。
「まさか、そんな手があるなんて…」 マリオンはもう一度驚きの表情を浮かべて、声を漏らした。彼女が見たことのない、そして誰も予想していなかった「秘策」を、ヒロさんが持っていることに、ただただ驚愕するばかりだった。
その時、ヒロさんがにっこりと微笑んだ。その微笑みには、まるで全てを見越しているかのような静かな自信が漂っていた。
「まあ、あんたには言うてないけど、心配せんでもええんや。最後には、全部わかるから。ケセラセラやでしかし」 彼の言葉は、謎めいていたが、どこかしら温かさが含まれており、マリオンはその言葉の奥に何か確かなものがあると感じ取っていた。

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「……これからも、生長の家のために。雅春先生のために……どうかご活動ください」 (70273) |
- 日時:2025年04月05日 (土) 16時10分
名前:両面宿儺
斎藤は、古びた電源コードに繋がれたノートPCの画面に顔を寄せていた。隣では『ほぼ日刊カルト新聞』の記者・大嶺が、湯気の立たない紙コップの紅茶をすする。
斎藤は『宗教問題』のライターとして、数々の宗教団体とその周縁を取材してきたが、この件ほど不可解で、そして文学的倒錯に満ちた訴訟には、未だかつて出会ったことがなかった。
「……この投稿、見てください」
斎藤が囁くように言い、指差したのは掲示板《生長の家本流復活について考える》の、ある一つの投稿であった。
「阪田さんは“著作権は社会事業団にない”なんて、言ってもいないのに、社会事業団は“阪田がそう言ったから訴える”と言い張った。で、和解では“そう言ったとは、今後も言いません”って……なんだそれ?」
大嶺はしばらく沈黙し、それから肩を揺らして笑った。
「……つまり、何も言っていないことを、これからも言わないと誓わされたってことですか」
「そう。言わなかったことを、言わないと。しかもそれで“勝利宣言”だとさ。これは……宗教法人というより、文学的パロディだな」
この裁判は、始まりからして奇怪であった。阪田成一は、社会事業団の著作権を否定したわけではない。否、そもそも著作権が社会事業団に「ある」とも「ない」とも、明言したことはなかった。ただ、ある席上において、その所在について沈黙を守ったにすぎない。それを社会事業団は、「著作権は社会事業団にないと言った」と読み違え――否、読み誤った。
それが、この“誤読裁判”の発端である。
事業団は誤読を根拠に阪田を訴えた。そして、裁判の形勢が自らに不利と見るや、あろうことか、「阪田が言ってもいないことを、今後も言わないと約束する」という和解案を提示し、それを勝ち取ったと吹聴したのだった。
調停の場は、落ちた音すら反響する静寂のなかにあった。
――それは、告白ではなかった。否、撤回でも、謝罪でも、ましてや敗北の印ではなかった。 あまりにも奇矯で、あまりにも捩れた和解文言が、調停の静寂の中で読み上げられたとき、阪田成一はただ眼を閉じ、冷えた珈琲に口をつけた。
曰く、「今後、原告が主張していると誤解されるようなことは言いません」。 されど、その「誤解」とやらこそ、初めより彼が口にしてもおらぬ主張であった。つまりそれは、「何も言っていないことを、今後も言わない」という声明である。
何という空疎。 何という虚飾。 何という裁判の、退廃。
阪田は何も語らなかった。語り得ぬものがあるとすれば、それは敗者の無念ではなく、勝者の沈黙である。あるいは、勝者であることすら拒否する者の、誇り高き不語。
阪田の脳裏に、亡き妻の姿がふとよぎった。
――薄暗い病室。 内田の仕掛けた裁判の心労に倒れた妻、最後の夜、彼女は熱の籠った眼差しで、阪田の手を握りながらこう囁いたのだった。
「……これからも、生長の家のために。雅春先生のために……どうかご活動ください」
その言葉は、もはや宗教の枠を超えていた。信仰とは、生の最後にまで残る祈りであり、誇りであり、魂の美しき形見だった。
阪田はその言葉を胸に、訴訟の渦中にあってもただ一度たりとも声を荒げず、怒号をもって対抗せず、紙片のごとく軽い中傷にも、沈黙を以て応じた。

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緑ジャージ弁護士、流暢な仏語で記者へ手紙を送る (70274) |
- 日時:2025年04月05日 (土) 16時19分
名前:両面宿儺
マリオン・ルブラン様
パリの空はいかがでしょうか。こちら京都は、春の名残の風が街路樹をそっと撫で、どこか空疎で、どこか冷たい空気が胸に沁みております。
さて、今日は貴女にどうしても伝えたいことがあって、筆を執りました。 ご存じかと思いますが、かの阪田成一氏と生長の家社会事業団との間で、和解が成立いたしました。
……和解と申しても、それは果たして“和”なるものだったのでしょうか。 否、それは“歪み”の末に書き記された、苦い詩の一節に過ぎなかった。
和解文書には、こうありました―― 「今後、原告が主張していると誤解されるようなことは言いません」。
お分かりになりますか、マリオン。阪田氏は、「著作権は社会事業団にない」とは、一言も口にしておらぬのです。にもかかわらず、彼は“そう言った”と誤解され、その誤解のままに訴えられ、そしてその誤解を永遠に沈黙で封じられる和解を“勝ち取らされた”のです。
これは「和解」などではありません。 これは“詫びぬ者”に、“詫びる義務”を課す、神の不在証明でありましょう。 いわば、静かなる弾圧。沈黙を守る者に、さらに沈黙を強いる――スラップ訴訟の極北です。
私はあの和解文書を三度、四度と読み返しました。読むたびに胸が冷え、掌がじっとりと湿り、喉元には言葉にならぬ憤りが、静脈のごとく絡みついて離れません。
阪田成一という男が、いかに誠実で、無言の中に真実を宿していたか。私は知っております。 彼の傍らにいた妻が、最期に遺した言葉――
「これからも、生長の家のために。雅春先生のためにご活動ください」
その清らかな祈りに背を向けぬため、彼はあらゆる罵詈雑言に口を閉ざし、訴訟にも一度として敵意を露わにせず、ただ静かに、凜と立ち尽くしておられた。
そのような男が、いま、何も言っていないことを「今後も言わない」と、まるで自白のように紙に書かされたのです。マリオン。貴女はこの文学的倒錯、この法の名を借りた喜劇に、涙するでしょうか。それとも、笑いますか?
わたしは、ただ静かに、カップに冷めた紅茶を注ぎ足しながら思いました。 「この国では、沈黙すら、奪われるのか」と。
どうか、貴女の地で、この話を語ってください。 沈黙のうちに声をあげた阪田成一という男の、矜持と悲哀を。 そして、誤読によって糊塗された正義の、空虚さを。
パリの春が優しきものでありますように。 敬具
廣山

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監督官庁内課長補佐 (70275) |
- 日時:2025年04月05日 (土) 16時55分
名前:両面宿儺
課長補佐神尾のその後
神尾は無言でデスクに向かい、先ほど調査した資料を広げていた。部下の田村と斉藤がその前に立っており、二人は何かを待つように息を呑んでいる。
神尾の視線は一瞬、資料の文字を追った後、ふっと外に向けられた。午後の遅い時間、ひっそりとしたオフィスの中で、時計の針の音だけが微かに響く。神尾は長い間、言葉を発することなく、部下たちの顔を見つめた。
「…5億円だな、措置費として出された金額が。」神尾の声は低く、しかし圧力を感じさせる。
田村は軽く頷いた。「はい、確かに。調査の結果、どうやらその費用の一部が、言論封殺に使われた可能性が濃厚です。」
「封殺か。」神尾は呟いた。目を細め、思案にふけるような表情を浮かべる。「もしそれが事実だとすれば、我々が今見ているのは単なる予算の不正ではない。いや、それを越えて――」
「言論の自由に対する侵害です。」斉藤が神尾の言葉を受けた。
「その通り。」神尾は少し微笑みながら、冷徹な視線を斉藤に向けた。「だが、これは単なる侵害で終わる話ではない。言論封殺に使われたとあれば、その費用は決して軽視できない。部長級の首が飛んでもおかしくないほどの問題だ。」
部屋の空気が一瞬で重くなった。田村と斉藤の顔が険しくなる。
神尾は再びデスクに視線を落とし、指先で資料を揃えた。「これまでの経緯からして、言論封殺のために措置費が使われたのであれば、誰がその指示を出したのかを突き止めなければならない。もしも、そうした指示が上層部から下されたのであれば――」
「部長級どころか、もっと上の者の首も危うい、ということですね。」田村が静かに言った。
「その通りだ。」神尾は冷徹に頷いた。「最悪の場合、今回の件は単なる一部署の不正を超え、組織全体の信頼を揺るがすスキャンダルになる。もしそのことが外部に漏れれば、政府の影響を受けていると見られ、国家全体の問題にまで発展しかねない。」
斉藤が息を呑む。「そこまで大きな問題になるとは…」
「これまでにない大事件だ。」神尾は腕を組み、深く考え込む。「だが、我々はこれを処理しなければならない。今、調査を進めるべきだ。全てを調べ上げ、全貌を明らかにしなければ。」
その時、神尾は一瞬、何かを思い出したように眉をひそめた。「だが…あの男の名前を出すことは避けたい。これは、あくまでも組織の問題だ。個人の問題にしてしまえば、ややこしくなる。」
「…わかりました。」斉藤が少し驚いた様子で応じる。「そうですね、個人を責めても本質は解決しません。」
神尾は再びしばらく黙り込むと、部下たちに目を向けた。「だが、この問題には、どうしても一つ気になる点がある。措置費5億円の使途が、もし本当に言論封殺に向けられたのであれば、我々が見過ごせないものがある。」
田村と斉藤は神尾の言葉に深刻な面持ちを見せた。
「それは…」神尾は言葉を切りながらも、視線をデスクに戻した。「神の国寮で暮らす子供たちに、影響がないようにしなければならない。これは、私個人の感情としても言わせてもらうが、我々が何かを処理することで、あの子供たちの生活に波風を立てるようなことがあってはいけない。彼らが無実のうちに巻き込まれるわけにはいかない。」
その言葉に、田村と斉藤は意外な面を感じたようだ。神尾の目に、普段の冷徹さとは異なる、真摯な感情が込められているのを見て取った。
「その点に関しては、確かに配慮しなければいけません。」田村が静かに言った。
「子供たちの未来に関わることだからこそ、我々は冷静に対処しなければならない。」神尾は少し声を低くして続けた。「それに、調査が過熱すればするほど、問題は深刻になり、無関係な人々にまで影響を与える恐れがある。そうなっては意味がない。」
「理解しました。」斉藤も真剣に応じた。
神尾は深く息をつき、再び資料に目を落とす。「だが、どうしても避けられない場合には、最終的な手段に訴えるしかない。その時には、徹底的にやる。それが、組織の信頼を守るために必要だからだ。」
部屋の空気は再び重くなり、部下たちは神尾の言葉に黙って頷いた。その視線には、神尾の決意がどれほど固いものか、そして彼が何を背負っているのかを理解する姿勢が見て取れた。
「行こう、調査を続けよう。」神尾が言ったその言葉には、迷いのない確固たるものがあった。
部下たちは神尾の言葉を受け、重々しい足取りで部屋を後にした。神尾はその後ろ姿を見送りながら、目を閉じ、深い思索にふけった。

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事務室にて──山下京子の記録 (70276) |
- 日時:2025年04月05日 (土) 19時59分
名前:両面宿儺
窓を打つ初春の雨音は、遠い祈りの拍子のように、木造の事務所の壁を繰り返し叩いていた。
山下京子は、昼を過ぎても暗い空の下、無言のまま机に向かっていた。ペン先が紙面をかすめる音だけが、静寂に染みるように響く。彼女はヒロさんから言われた通りに、一連の訴訟資料を分類し、年代順に綴っていた。
「これな、ただの判決やないで。美しい敗北と、みっともない勝利の標本や。標本箱みたく並べる気で、まとめてんか」
その言葉を思い返すたび、京子の中で、得体の知れない怒りが泡のように立ち上っては、また静かに沈んでいった。 ──敗北の方がまだ誠実に見える、という皮肉な真理。勝利を語る声ほど軽薄で、いやらしく、脆いものはなかった。
彼女の前には、社会事業団が原告となって起こした訴訟の資料が並んでいた。
──「“新しい文明”を築こう』下巻に係る訴訟、東京地裁で全面勝訴の判決」 ──「『万物調和六章経』に係る訴訟、最高裁が上告棄却で全面勝訴確定」 ──「お守り『甘露の法雨』に係る訴訟、逆転全面勝訴」……。
幾つも、幾つも、幾つも。 彼女の指先がそれらを撫でるたび、紙からあがる粉じんのような違和感が、喉の奥をかすめていった。
いずれの訴訟も、判決文を読めば読むほど、社会事業団側の主張は、正義の名を借りた呪詛に近かった。 被告たちが主張した言葉は、往々にして「そもそも言っていない」ことだった。にもかかわらず、事業団はそれを「言った」として訴え、そして敗れた。敗れたのに、広報紙では勝訴と書いた。
それはまるで、黒塗りの辞令を金箔の額に収めて「昇進」と言い張るような、滑稽で、哀れで、しかし何よりも卑劣な行為だった。
これは正義の裁判ではない――京子は確信していた。 これは、スラップ訴訟。沈黙を金で買い、自由を法で封じるための冷酷な装置だった。
「黙れ」と言うために訴え、「恐れよ」と言うために負けを勝ちと見せかける。 彼女は怒っていた。だが、裁判所も国もメディアも、誰もそれを正そうとしないことに、より深く、絶望していた。
ふと、ヒロさんの後ろ姿が脳裏をよぎる。 この数ヶ月、彼は頻繁にあるフランス人女性と会っていた。 駅前のカフェ、夜のシネマテーク、赤坂の小さなビストロ……京子は何も訊かなかった。ただその回数と場所を、淡々と心の中に数えていただけだ。
――もし、ヒロさんが不倫なんてしてたら、天地がひっくり返る。
そんな突飛な空想に自分でくすりとした。 だが、彼がそんな男でないことは、長年仕えてきた京子にはわかっていた。あのフランス人女性――マリオンとかいう名前だったろうか――は、確かに美しかったが、彼にとっては恋愛の相手ではなかった。
むしろヒロさんは、誰かの声を聞こうとしていた。沈黙させられた者の声、潰された祈り、訴訟の向こう側にある何かに、耳を傾けているのだった。
「せやけど、これはな……」 どこかで聞いたヒロさんの関西弁が、空気に染み出すように響いた。 「これは、人間が人間を“黙らせよう”とした裁判や。神に仕える組織が、神の名を借りて言論を殺しにかかってんのや」
その言葉は、京子の胸の奥を、刃のように裂いた。
勝訴の文字が踊るその裏で、いくつの命が、信仰が、沈黙に追いやられたか。 裁判にかけられること自体が、人を内側から破壊する。まっとうな仕事も生活も、信念すらも、侵されていく。 ヒロさんは、そういう人々を何人も見てきたのだ。京子自身も、その一人だったのかもしれない。
彼女はゆっくりと資料を閉じた。 そして、手元の付箋にこう書いた。
「これは正義の裁判ではなく、信仰の演劇である。悪魔の台詞回しに、天使が沈黙した劇場である」
その瞬間、雨音がふっと遠のいた。窓の外では、冬を名残惜しむ椿の花がひとつ、地に落ちた。そのとき、事務室のドアが音もなく開いた。
「京子さん、資料どうや?進んどるか?」
声の主はヒロさんだった。灰色のウールのマフラーに今日は、緑ではなく小豆色のジャージ姿。濡れた靴の底から、静かに冬の水気を持ち込んでくる。
「はい……今、まとめのコメントを、少し」
彼女は躊躇いながらも、手元の付箋を差し出した。ヒロさんは受け取るなり、一読して頷き、そしておもむろに口を開いた。
「Ceci n’est pas un procès pour la justice, mais un théâtre de la foi. Un théâtre où les anges se taisent, et où les démons récitent leurs répliques.」
その声は滑らかに、確信に満ち、かつ詩のように耳に響いた。
「えっ……フランス語、訳したんですか? 今……?」
「ん? これぐらい、そら、できるがな。マリオンに読ませたるんや。たぶん、めっちゃ喜ぶわ」
京子は絶句した。何が驚いたというのではない。ヒロさんという人物は、時折こうして、理屈では追いつかない“飛躍”を、何気なく日常に差し挟んでくる。
神に祈る人が、時折、神の応答のようにふと無言の確信を得るような瞬間。 それに似た奇跡を、ヒロさんは、実に気軽に持ち込むのだった。
それでも彼女は、苦笑しながら口を開いた。
「……ほんまに、びっくりさせんとってくださいよ。先生が不倫してへんのは分かってますけど、あんまりスマートすぎて、なんや、ちょっと……ややこしいです」
ヒロさんは一瞬だけ何かを考えたような顔をしたが、すぐに笑った。
「そらええ誉め言葉やな。せやけどな、フランス語ってのは、“戦いの詩”を語るのにちょうどええんや。なんでか知らんけど、心に傷ついたもんの言葉や。まるで、それが前提になっとる言語やな」
その言葉は、京子の胸に小さな震えとなって落ちた。
裁判、信仰、言葉、そして沈黙―― その全てが、この薄暗い事務室で、静かに息をしていた。

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>勝訴の文字が踊るその裏で、いくつの命が、信仰が、沈黙に追いやられたか。 (70277) |
- 日時:2025年04月05日 (土) 20時36分
名前:本音の時代
返す言葉を知らんだけやろ。
「どっちが良いか悪いかを決めるのなら裁判所に行きなさい。両方が幸せになることを教えるのが生長の家です。」 社会事業団にしつこく、しつこく言うたれや。 社会事業団に「あんたら、谷口雅春先生から何を託されたんや」
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措置費流用疑惑への調査 (70337) |
- 日時:2025年04月07日 (月) 15時59分
名前:両面宿儺
厚生労働省社会・援護局福祉援護課。霞が関の夕陽は、ガラス窓に薄く映える血のような朱を落としていた。神尾寛治は、しんと静まり返った官庁の片隅に独り、燃えさしのような一念を抱きながらデスクに坐していた。彼の胸裡に沈殿する思念──それは、単なる官僚的使命感の燃えかすではない。もっと原初的で、神話のように古く、個人の倫理や理屈を超えて、肉体と魂を束ねあげる力であった。
彼の脳裏には、幼き日の記憶があった。両親を亡くし、なお他人の家の子供でありながら、どこか神の祝福を受けたかのような気配を纏って育てられた日々。叔母の家。仏壇の前で、ほの白い煙を立てる線香の匂いとともに繰り返された言葉。
──かんちゃんは、神の子さんです。 ──あなたは、光の世界から遣わされたお子です。
信仰という名の光は、決して彼の眼前を照らすわけではなかった。むしろそれは、己のうちなる影を形づくる鋭い輪郭として、終生彼に寄り添い続けていた。昭和50年代、少年の神尾は谷口雅春に面会した。全国をまわる集会のようなものに叔母が神尾を連れて行ったのだ。神尾自身はその後、宗教には関心もなく、叔母の勧める本も読まず一途に勉強に明け暮れた。そのことを咎めることもなく、いつもニコニコしてくれていた叔母は5年前に亡くなった。
だからこそ「神の国寮」という名前が、彼にとっては単なる施設の名称ではなかった。それは、自身の過去と呼応する、いわば神話の断片であり、忌まわしくも崇高なる鏡像であった。
その名のもとに、子供たちが暮らす。己と同じように「親なき子」として、無垢な額に神の名を刻まれた者たちが、現代という黯然たる世に生きている。
もしその名が、言論封殺という魔手の盾となり、子供たちの未来を覆うための幕と化しているとすれば──それは、もはや神の名を騙る暴力以外の何ものでもない。
神尾は目を閉じた。瞼の裏に、かつて叔母が唱えていた祝詞が浮かぶ。神とは何か。福祉とは何か。公務とは、果たしてどこまでが業で、どこからが救済なのか。
──己がまっとうであるためには、まず何を裁たねばならぬのか。
叔母の純真も汚された気がした。彼の手がそっと資料に伸びた。その指先は、紙の上にある金額や名簿を越えて、まるで魂の鱗片をなぞるかのように、慎重に、しかし決然として動いた。部屋の扉が静かに開き、田村と斉藤が戻ってきた。
「調査班、整いました。」斉藤の声は、どこか祭壇を前にした神官のような慎みを帯びていた。
「……始めよう。」神尾は立ち上がった。
その姿には、もはや一介の課長補佐という肩書の影はなかった。国家の中枢に生きる者としての矜持、そして孤児として育ち、信仰の名のもとに愛された者の痛みが、影絵のように彼の背に寄り添っていた。
かつて「神の子」と呼ばれた彼が、今、再び神の名を問うて、闇の中へと歩み出す。
その歩みは静かで、されど確実に、権力の頸木を揺るがすものとなるだろう。神尾の声は鋭利な刃のように空気を裂いた。
「今から調査の模擬演習だ。」
斉藤は即座に姿勢を正し、神尾の前に一歩踏み出た。措置費という公金の、5億円の流用疑惑だ。模擬とは言えその面にはどこか緊張が滲んでいた。神尾は書類の束から一枚を抜き取り、それを軽く掲げてみせた。
「こんな調査が実現しないことを願う。しかし、政治はタイミングだ。いつ下令されるか分からない。その時に備えるのだが斉藤、まず事業団側が提出したこの報告書、『阪田支援者が騒いでいたから阪田を訴訟した』とあるが……。この書きぶり、いかがなものか?」
斉藤は一拍の沈黙ののち、静かに口を開いた。
「……この表現は、あまりに動機が主観的で、かつ公益法人としての訴訟理由としては説明責任に欠けると考えます。騒動があったことを理由に訴訟に踏み切ったとするならば、その騒動の性質と、訴訟がもたらす公益上の必要性を、まず理事長自身の言葉で確認する必要があります。」
神尾はわずかに頷いた。
「つまり、単に『騒いでいた』ではなく、それが法人の運営にどのような支障を与え、かつ、他の選択肢──対話や警告──を経ず、訴訟に踏み切る以外なかったという証左を求めるべき、ということか。」
「はい。」斉藤は深く頷いた。「したがって、理事長にはこう問いかけます──
『阪田支援者の“騒ぎ”が、貴法人にとっていかなる実害を及ぼし、それを法的措置によって解決せざるを得なかったと判断されたのは、どのような経緯か。書面で説明されている“騒動”の具体的な内容、その証拠と、対話的手段による解決の可能性について、いかなる検討がなされたのか──』」
神尾は数秒、沈黙した。そして小さく笑みを浮かべた。
「……良い。だが、まだ生ぬるい。」
斉藤がわずかに眉を上げた。
「理事長は、百戦錬磨だ。逃げ道を必ず用意している。“支援者の発言が法人の名誉を傷つけた”というような抽象論に持ち込むだろう。そうではなく、君は“福祉の理念”という刃で、真正面から斬り込まねばならん。」
神尾の声は鋼のように冷たく、しかも美しかった。
「次は、こう問え──『貴法人は、福祉とは“声なき者の声を聴くこと”と認識していないのか? 貧困者の、孤児の、障害者の。その声がたとえ怒声となって届いたとしても、それを“騒ぎ”と見做し、訴訟という手段に訴えるとき、そこに福祉の原点はあるのか──』」
斉藤はその言葉に、息を呑んだ。
神尾の言葉は、まるで信仰の礎を問い直す神官の声のようであった。いや、それは理性を剥き出しにした、血の通う倫理であった。
「……もう一度だ、斉藤。」神尾は言った。「今の質問を、貴様の言葉で、もう一度やってみろ。」
斉藤は頷き、今度は震えのない声で答えた。
「理事長に問います──。福祉とは、力なき者の声を聴く営みであるはずです。たとえその声が感情的で、耳障りなものであったとしても、それを“騒ぎ”と片付け、法廷に引きずり出すことに福祉法人としての正義があるのか。……私は、その根幹を問いたいのです。」
神尾は眼を細め、まるで記憶の底に沈む何かを想起するように、机上の書類に視線を落とした。
「……それでよい。」
その声は低く、どこか祈りにも似た響きを帯びていた。
斉藤は、声を出さなかった。いや、出せなかった。喉元まで出かかった言葉があった。
──神尾さん、それはやりすぎではありませんか?言葉は、まるで熱い石のように斉藤の胸に残った。神尾の言葉には正義があった。しかし、それはあまりにも鋭利で、まるで一刀のもとに真理を断じるかのようだった。その刃は、理事長にではなく、今この瞬間、演習の名の下に問いを投げかけた自分自身にも向いている気がした。
神尾の正義は、純粋であるがゆえに容赦がなかった。福祉の名を口にする者に、最も福祉を知っている者であることを強いた。斉藤は、自分がその重さに耐えうるのか、不意に不安になった。そして神尾の目は、すでに次の資料に向けられていた。斉藤の逡巡など、風の揺らぎにも値しないもののように。
「斉藤。」
呼びかけは、やや低く、研ぎ澄まされた静謐のなかに落とされた一滴の水のように響いた。
「君はさきほど、“騒いでいたから訴訟したのか”と問うた。……だが、それは本当に“因”なのか?」
斉藤は顔を上げた。神尾の視線は資料ではなく、空の一点を見つめていた。その眼差しには、過去と現在とが交錯する深い迷宮のような思索が宿っていた。
「阪田支援者は騒いだ。……それは確かだろう。だが、問い直さねばならん。騒ぎが先だったのか、それとも、訴訟という暴力が先にあったのか。もし法人が、内密に告発を潰そうとした結果、支援者たちの怒りを招いたのだとすれば──」
神尾は資料を一枚、音を立てて机に置いた。
「“騒いだから訴えた”という構図は、因果の逆転だ。国家が過去に幾度となく繰り返してきた、抑圧の美名だ。」
彼の声は、淡々としていた。だが、淡々としているからこそ、なおさら重かった。それは、鋼鉄の表面に置かれた一枚の羽根のように、異様な緊張を孕んでいた。
「斉藤、そこを問え。“支援者の行動が、訴訟の動機であったのか”ではなく、“訴訟という手段こそが、支援者の抗議を誘発したのではないか”とな。」
斉藤は息を呑んだ。今度は、反論も疑問も浮かばなかった。神尾の問いは、まるで彼自身の内なる矛盾に突きつけられているかのようだった。
「そこを理事長に問わないとな、斉藤。」
静かに、しかし確実に言い切った神尾の口元には、わずかに笑みのようなものが浮かんでいた。
それは傲慢の笑みではなかった。むしろ、深い業を自覚する者の、自嘲と覚悟の混じった表情であった。
斉藤は知らず知らずのうちに頷いていた。神尾の論理の奔流の中で、彼はただ、一つの楔を打ち込まれるようにして、立っていた。

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神尾、幼少期に叔母と暮らした家を訪ねる (70339) |
- 日時:2025年04月07日 (月) 16時48分
名前:両面宿儺
陽は午後の傾きを深め、障子越しに射し込む光が、まるで時の帷(とばり)を裂く刃のように、机上の紙片を真二つに分けていた。神尾は黙然として、その光の中に、古びた装丁の一冊をひらいていた。 『幸福を招く365章』。それはかつて、彼の反抗期をひとすじに貫いていた、あの聡明なる叔母が遺した本であった。女の書棚の奥、レースのカバーに隠されていたその本は、神尾にとっては、かつての忠告、あるいは訓戒、いや、ある種の神聖な干渉の象徴であった。指先が触れた表紙に浮かぶ金文字―― 「……ああ、これだ」 神尾は声にならぬ吐息をもらした。まだ十代の後半、感情ばかりが先走り、世界を斜に見ていたあの季節。叔母はこの本を勧めてきたのだ。「かんちゃん、良かったらこのご本を読んでみない?」と、穏やかに、しかし一歩も引かぬ意志を秘めた目で。 神尾は、そのとき本を手に取らなかった。いや、わざと取らなかったのだ。与えられるものはすべて欺瞞だと思っていた。信仰など虚飾だと、胸のうちで決めつけていた。だが今、年老いた叔母の遺品として目の前にあるこの本は、微かに甘く、そして強く、彼の中に失われた時間の香りを運んでいた。 ぱら、と頁を繰る。そこに、言葉があった。 「すべての事物はコトバによって造られたのであるから、何事でも成就しようと思ったならば、先ずコトバによって成就しなければならないのである……」 神尾は、眼を見張った。その文字列はただの文ではなかった。彼の内面に、何か明確な輪郭をもって訴えかけてきたのだ。言葉が創造の根である――それは理屈ではない。震えを伴う実感であった。 「『神は既にわが健康として、実現したまえり、ありがとうございます』とコトバによって、その『既に得たること』を表現し感謝するがよいのである」 「……ああ、叔母さん」 神尾は唇を噛みしめた。あの人がこの言葉を、どれだけ愛していたかが、初めて分かる気がした。病床にあっても、叔母は「ありがとう」と言っていた。春の空に向かって、目を細めて、「ありがとう」と、何か見えざるものに語りかけていた。 次の頁には、祈りの言葉があった。 「私はあなたの許しを得て、私の意志と感情と想念とをあなたの中に投げ込みます……」 魂の深奥にまで響く響きだった。神尾は、自らの手がわずかに震えているのを知った。意志と感情と想念――それらは長いあいだ、彼にとって武器であり、鎧であり、世界との距離を保つ手段だった。しかし今、それらすべてを神に預けるという言葉の前に、己がいかに脆く、いかに未熟であったかを思い知らされる。 「すべてが神の示現であり……絶対慈悲の世界であり、ただ恩寵によって完全に生かされている世界である」 そうだ、と彼は思う。自分は、あまりに長く、自力という名の幻想に縋っていた。勝ち取らねば価値がない。奪わねば意味がない。だが谷口は静かに言っているのだ。**「叩けよ、さらば開かれん」**と。 頁をめくるごとに、神尾の表情は変わっていった。眉間の皺はほどけ、眼差しは徐々に澄んでゆく。まるで霧が晴れるように、彼の意識の内側に何か透明な光が射し込んでいた。 「与えると受けるとは、両方とも神の出入り口である……今まで受けて来たもの、今、受けつつあるもの、未来に受けんとしつつあるもの一切に対して感謝せよ」 彼は立ち上がった。書斎の棚から叔母の写真を取り出した。そこには、若き日、彼を厳しくも暖かく導こうとした女性の面影があった。 「幸福が得られない人は、自分を此の世界に招かれたお客さまだと考えている……お客様ではなく、自分が主人公の心になって……」 神尾の心に、深い響きが走った。「主人公」――叔母が、人生の主人公として最後まで気高く生きた姿がよみがえる。誰にも媚びず、しかし誰にも優しかったあの生き様。それは、こういう思想によって支えられていたのだ。 「現象的には、まだ其の人が色々の善き徳や行いや善き性質をあらわしていないように見える時にも、その人の生命の実相には無限の善徳や善き性質や善き行為が宿っているのである……」 神尾は、思わず書物に頭を垂れた。目を閉じると、叔母の声が聞こえる気がした。「あなたの中にも、もうあるのよ。気づくだけで、いいの」と。 最後の頁を開いたとき、そこには静かな祝福の言葉があった。 「私はあなたを赦しました。私はあなたを愛しております。貴方が幸福になるようにいのります……」 そのとき、神尾の頬を、一筋の涙が伝った。それは悔恨ではなかった。悲哀でもなかった。それは、長きにわたって閉ざされていた心の扉が、静かに、そして確かに開かれた瞬間の涙であった。 彼は、声に出して言った。
「ありがとう、叔母さん……そして、谷口先生。ようやく、読めました」
そして、彼は本を抱きしめた。まるで、かつてすれ違ったすべての思いと和解するかのように。

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