歌帖楓月 |
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ガイガー(25歳 男): やあこんばんは! 今日は月曜日! うーんさわやか! 新しい一週間の始まりだ! ってことで、続きをどうぞー! ::::: 「書類の取り合い」その5 「あれは、何?」 気づかれて、中将は表情を改めた。 「……」 中将の机の上に、黄色く変色した書類の束が乗っていた。古い書類だ。そして、右上に赤色の「秘」「禁帯出」の文字が、やけに鮮やかにしるしてあった。 「ねえ?」 机に近寄るロイエルより、中将の動きの方が速かった。 「これは駄目」 書類を、机からとりあげた。だが、ロイエルはその書類に見覚えがあった。ぱっと見ただけで、何だったのかわかった。 「それ、それドクターの書かれたカルテだわ!」 中将は、書類の束をしっかりと握ったままうなずいた。 「これは私のものじゃない。他所からの借り物だからね。渡さないよ」 ロイエルは、驚いているようだ。 「……そんなのも、管理するの? ……随分昔のカルテなのに……?」 中将はうなずいた。 「そうだよ。そうか、君にとっては故郷のなつかしい人々の記録が載ってる物だろうがね、我々にとっては、医師が何をしてきたかを知る、とても重要な資料なんだ」 中将の言った言葉の後半部から、ロイエルの表情が曇り、眉間にしわが寄った。 「ドクターはとてもすばらしいお医者様だったわ。あなたたちが思ってるようなことなんて、何一つないわ」 中将は、少女の表情に、諦めたように呆れたようにちょっとだけため息をつくと、 「とにかくね、そういうわけで、これは見ても駄目だし触っても駄目」 と、言って、机の引き出しにそれをしまって鍵をかけた。 「……」 納得いかない様子で、ロイエルは眉根を寄せ、その引き出しを見つめた。 「……何が書いてあったの? そこに書かれていた、何がいけないの?」 ぽつりと、独白のようにそうつぶやいて、ロイエルは中将を見た。 「だから、厳重に扱われているんでしょう?」 じっ、と、ロイエルは中将の目を見つめた。中将もロイエルを見返した。 しん、と、沈黙が落ちる。 中将は、静かな目をしていた。 ロイエルは、中将を見つめ続ける。 「教えられないよ」 中将はそれだけ言って、すたすたと机から離れて行った。ロイエルの日記を持って。 「どうして?」 ロイエルは、部屋の中を歩く中将の背中を追いかける。彼は本棚の一番高いところに鍵を置いた。ロイエルに、その鍵を取る気持ちは浮かばなかった。カルテの中身はどうでもいいのだ。ただ、……どこがいけないのかが、知りたい。 「あたし、大体覚えてる、そのカルテの中身。だってずっとお手伝いしてきたもの。ねえ、どこがいけないの?」 何も変なことは書かれていなかったはずだ。あのカルテは、ドクターが真摯に続けてきた、医療活動の跡。 だけど、と、ロイエルの中で、疑問が首をもたげた。 私たちの認識と、彼ら軍の認識……世間の認識が、中将が常々呆れているように、違っていたら? 「ねえ! 中将、」 中将は、そこで立ち止まり、振り返って静かに笑った。 「ロイエル、違うよ。あれは、君の知ってるようなドクターの書類じゃない」 ロイエルは反論する。 「それは嘘。あれはドクターの筆跡でカルテだった。あたし、ドクターのお手伝いならほとんどしたもの! あたしが知らないカルテなんてないわ! 知らないものなんか……そう、オウバイ様直筆の経典くらいよ!」 「経典?」 ふう、と、この手の言い争いでは数え切れないほどしてきた、うんざりしたため息を、中将はついた。 「……ああ、あれか」 「見たの!?」 驚くロイエル。丸く目を見開いたロイエルに、中将は面白そうに笑った。 「見るかい?」
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ガイガー: オウバイ様直筆の経典ね。……ロイエルは見たいかもね。 それじゃ、僕はこの辺で失礼するよ! さあてお仕事お仕事! 逃げなくっちゃ!
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(67)投稿日:2004年04月11日 (日) 23時47分
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