歌帖楓月 |
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ガイガー管理官(25歳 男): こんばんは! 首都ミッドガルは天井知らずの熱帯夜です。ヒートアイランド現象万歳! ……いやはや、暑くて頭がまいっているようです。
それでは、続きをどうぞ!
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「書類の取り合い」その12
思いきり殴られた。中将は、しまった、という渋い表情で、左手で左頬を押さえた。そして毛を逆立てて威嚇する猫のように怒っているロイエルを見た。 小さな肩がわずかに震えている。 「中将なんか大っ嫌い! もう、これいい! 別にオウバイ様やドクターのじゃなくてあたしのなんだから!」 ロイエルが泣き出した。 突き出される日記。 あの最後の方は冗談とは性質が違うのだが、……弁明にはもう遅い。 「っ、……っ、」 嗚咽交じりに、握りこぶしでこすられる両目からは、ぱたぱたぱたと大粒の涙が落ち続ける。 中将が苦い顔になった。またやってしまった。 「すまない、」 ロイエルは大きく首を振った。 「悪かったとか思うのなら、普通、はじめからこういうことしないもの!」 その言葉は、中将の良心に、物凄く鋭く突き刺さった。 「ごめん……、」 ゆっくりと、迷いながらロイエルに手を差し伸べたが、なんとか拒絶はされなかった。 一人で泣いたままにさせておく気はない。……原因は自分だが。 ロイエルを腕の中に包む。はあ、と、息をついた。自身に対するためいきである。また泣かせてしまった。 「申し訳ない。嫌だというのは、……わかってたんだけど、」 ロイエルは顔を上げず震えていた。嗚咽交じりのしゃっくりが返ってきた。 「ひどい……。わかっててなんでそういうことするの?」 それに答えはあるのだが、しかしそれは答えにはならないだろう。さっき言ったら冗談にされた。 「ごめん……」 「大嫌い」
そして夕刻。 一人になったゼルクベルガーの公邸に電話が入った。 電話の主は、開口一番息子にこう言った。 「また泣かせたようね?」 電話向こうの表情は、「仕方のない子」と評するときの、あの呆れた笑顔を浮かべているに違いない。 いつもであれば、ささやかながらも何か弁明できるのだが。 「すみません」 今日に限っては、謝る以外にない。母は何が原因かは知らないだろうが、息子が本心を言っているかどうかはわかるのだ。 「どうして仲良く昼食も食べられないのかしらね? まったく」 息子はそれには返答せず沈黙で返すつもりだったが、母はそれを許さず、息子の答えを要求するように、沈黙を続けた。 「だめですね私は。どうもロイエルをいつも際限なくからかってしまって……。結果はそのようですよ」 電話向こうは、おかしそうに笑ったようだ。 「どうしてあなたにはわからないのかしらね? 加減の仕方が」 「……。始めはいいんですが、途中でわからなくなります」 「まあそうなの? ……ふふっ」 母親の楽しげな表情が、目に見えるようだ。ならば、相手はそれ以上にこちらのことをわかっているのだろうな。これでは。 そう思って、ゼルクベルガーは肩をすくめた。 「ロイエルはどうしてます?」 「もう泣いてないわよ。ただ、あなたにいじめられた後にいつもする表情をしてるでしょうね。今は自分の部屋にいるわ」 「……そうですか」 「そうよ。だから、そのうち家においでなさい? 仲直りは、きちんとね?」 「ええ」
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ガイガー: ゼルク中将のお母様ことイングリット教授登場。こんな覗き部屋から言うのもなんですが(そして相手には聞こえませんが)、お母様、ご無沙汰しております。痴話げんかとも知らず、しかし的確なご指摘、素晴らしいと思います。 教授は、ゼルク氏とロイエルの「関係」については知らないのよね。ただ、ミスリルマインから助け出してきたとしか。 今度、話しちゃおっかな。僕。
ゼルク(25歳 男): (微笑んで登場)余計なことは言わない方がいいぞ? 管理官。
ガイガー: !!!! ひいいっっっ!? なんでいるのさ、あんた!? 君は、番外の中にだけ登場してればいいの!! 誰さ、連れてきたのはっ!?
ブルックリンandジェニファー: 私たちがご案内しました。
ジェニファー: (不敵な笑顔)今日、いきなり夏期休暇を取られた管理官はご存知ないでしょうけれど。午前に情報処理課にゼルク中将が見えられましたの。夕刻でしたらば分室の方に来ますとお伝えしました。
ブルックリン: (仏頂面) そして、夕刻ふたたびいらっしゃった中将を、ここへ案内したというわけです。管理官、どこに連絡してもいらっしゃらなかったでしょう? まったく……。
ゼルク中将: 報告書を持ってきたんだが。……ところで? 面白いことを、しているな? 管理官?
ガイガー管理官: それじゃあ皆さん! ごっきげんよう!
::::::: 以下通信遮断
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(76)投稿日:2004年07月03日 (土) 21時12分
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