歌帖楓月 |
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ガイガー管理官(25歳 男): こんばんは皆さん! いやー、言葉が話せるって、素晴らしい。 それでは、「書類の取り合い」最終回いってみましょうかね? とりあえず、ここまで載せときますね。
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「書類の取り合い」その15
「ルイセ聞いて!」 翌朝、珍しく不機嫌な顔をしたロイエルが、ずんずんとルイセの机までやってきた。 「あー。おはようロイエル。なーに? ずいぶん景気の悪そうな顔ね? ……何かあったの? ええいいわよ。聞きますとも!」 珍しく早朝から学校に居るルイセが、満面の笑みでうなずいた。そしてなぜかルイセの方が、ロイエルを屋上へと引っ張っていった。……恐らくガイガーから何か聞いたのかもしれない。
「こっちが嫌がってるのにっ! 信じらんない、どういう思考回路してるの? 全くっ!」 吹き渡る風がさわやかとしか言いようがない朝の校舎の屋上で、ロイエルは顔を真っ赤にして怒っている。ルイセは、「……ほほうー」と渋い口調で合いの手を入れて、目線を、すい、と、右に流し、ほんのちょっとの間、何事か思案した。そして、口を開いた。「そーれでー? ロイエル君は、どんな嫌がり方したのよ? ちょっと、私の耳元で教えてご覧なさい?」 「うん」 ロイエルは、憮然とした顔のまま、声は潜めたが、はきはきと、ルイセの耳元で語った。 「……」 ルイセは、お経でも聞くような、むっつりと無表情な顔で、聞いた。 そして、わかりきった常識を唱えるかのように、どうでもいい荘厳さをもって、ルイセは言った。 「……ロイエル。世間のおじさん達が、こんな言葉を好んで使いたがるんだわ? 『いやよいやよも好きよのうちさ。』ってね。わかる?」 ロイエルは、心外だというふうに、毅然と言い返した。 「だからあたしは嫌だって言ったのに! 好きだとは言ってない。全然! なのに!」 ルイセは馬鹿にしたように長ーいため息をついた。 「だからー、『いやよいやよも……』」 ロイエルは、だから、と言い返す。 「だからあたしは、好きだとは絶対に言ってないし、本当に嫌だったの!」 ふー、と、ルイセがため息をつきなおし、わかったわかった、と、なだめるように、適当にうなずきをくりかえした。 「まあったく。だからー。あんたが、やだやだって言うのが可愛かったから、ゼルクさんも、ちょっと、くらっと、……やめた。わかんないお子様に言ってもしょうがない。そのうちわかるわ……あんたがもう若くなくなったころにね」 「なにそれ?」 ロイエルはむっとして尋ねるが、ルイセはそれには回答は出さず、別のことを言った。「じゃあね、今度そんなんになったら、あんたはもうまるで興味ないって顔で、ゼルクさんのこと無視すれば、多分絶対そういうこと無くなる。断言するわ」 ところが、ロイエルはぶんぶんと首を横に降った。 「中将根性悪だから、あたしが怒るまで、延々嫌なこと言うんだよ! どっかで怒んなきゃ、全然きりがないんだから! でも頑張る! 絶対無視する。私も昨日そう決めたの!」 「は……?」 ルイセは、きょとんとした。 なんだと……? 「じゃあなに? ゼルクさんがそういうふうに仕掛けたの?」 ロイエルは、許せない、という風に、憮然と大きくうなずく。 「そうだよ!」 「……へええー?」 ルイセが、何故か、笑った。何がうれしいのだろうか。 「なるほど。成り行きでそうなったんじゃなく、そうなるよう仕掛けたってわけねえ? ほほお。今度会ったときに、めずらしくからかうネタができたってわけだわ」 「……? 何笑ってるの? ルイセ?」 ロイエルがルイセの笑いを疑問に思っている。 「ロイエル、」 ルイセが、ばっ、と、ロイエルに向き直った。なんだかさっきと一転して、理解ある顔になっている。 「良く分かったわ。今度そんなになって、それが嫌だったら、いいからゼルクさんのことグーで殴りなさい、グーでよ? ね? やっぱこういうのは男女対等にガツンとね」 ロイエルは、力強くうなずき返した。 「うん! もうやった」 「……。ああ、そう……」 そうよねあんたなら、と、ルイセは脱力しながらうなずいた。 「……でもね、ルイセ、本当言うと、あたしもちょっとおかしいんだ」 「ああ……?」 ルイセは、力抜けしたまま惰性で返した。 「……何が? あっ……もしや、わかっててわからないふりしてたとか?」 だが、言っている途中で、ロイエルの言葉を、ルイセは、自分好みの方向に捉えたらしく、にやにや笑いになった。 「なによなによ! もー、なーんだ! わかってて焦らしてたわけねえ? くー、この盛り上げ上手!」 「は?」 ロイエルは、怪訝な表情に変わった。 「わかるだのわからないだの、何? 一体、どうしたの?」 ルイセ、変。と、ロイエルが首をかしげた。 「……」 ルイセは、しばし沈黙した後、ロイエルを頭の先から足の先までつくづくと見て、ため息を付いて首を振った。 「……。なんだ。違うのか。そうよね、ロイエルにそんな気が回る訳ないか」 「わけわからないこと言ってたの自分のくせに、そうやって私のこと非難するのっておかしいわ」 「ああもう、いいでしょ! あんたにはわかんないんだからまだ! で? なんだっけ? 『あたしもちょっとおかしいんだ』だっけ? はいはい、素直に聞きますわよ、何でおかしいのかな? ん?」 なんだか、やけになったルイセが聞いた。 ロイエルは、いいかげんにあしらわれているようで、ちょっとむっとしたが、答えた。少しうつむいて。 「うん……。あたしもおかしいんだ……。力が抜けちゃって、やめさせられないの」 「んー。それは恐怖で竦んでしまうとか、驚きで動転してしまうとか、そういうのでしょう」 「……」 すこし沈黙した後、少女は、首を横に振った。 「そういうのだったらわかるの。そういうのもあったけど、……ルイセわかる? なんだかね、一瞬頭にかすみがかかったみたいに、ふうっ、となって、そして体から力が抜けていっちゃうの」 ルイセは、きょとんとした。 「それは、どんなとき……?」 問われて、ロイエルは少々考え込んだ。 「ええと」 ロイエルはそうなる状況をあげていく。ルイセは、それらを聞いて、素の顔で、ロイエルの言葉を引き取る。 「それで、頭のどこかでは『ちょっと待ったあ! 』とも思ってるのに、力が抜けてされるままでぽーっとなる……感じ?」 ロイエルが目を丸くした。 「わかるの? おかしいよね! こういうの、……もっとしゃきっとしなきゃって……わかってるんだけど、」 ロイエルは本当に悔しそうに唇を噛んでいるが、 「ふうーん。そーうなのねえー」 少女の内に芽生えた感情を、それがなんなのか、友人は教えてやりたかったが、真剣に悩む彼女の顔を見ていると、どうも何も言わずに今はそっとしておいた方がよさそうだった。言ってしまったら、とても混乱させてしまう、ことが目に見えている。 「私、しっかりしなきゃ」 少女はそういう結論にしたようだ。友人は「うん。まあ頑張んなさい」とだけ言っておいた。
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ガイガー: ええと、ルイセっていう子は、ロイエルの同級生だね。 てなわけで、さよーならーーー!
ブルックリン(24歳男 ガイガーの部下): ……管理官、あなた、ルイセちゃんについての説明、かなり省いてませんか?
ジェニファー(23歳女 同じくガイガーの部下): 「あやしい!」と思っていてくださいね、皆様。 それでは、ひとときの休息をいただきます。 またお会いしましょう。
ガイガー: ではまた! そのうち会いましょうね!
二人の部下: (怪しすぎる……)
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(81)投稿日:2004年08月01日 (日) 00時10分
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