コレクターという人種がいる。自分の好きなものを一種類、あるいはそれ以上、集めては楽しむ人たちである。古いところでは切手収集、古銭収集など、今はアニメグッズのマニアなんて人も多いだろう。金に糸目をつけないとか、手段を選ばないとか、ときに困ったことにもなるコレクター魂だが、実は私もそのコレクターという人種に属し、様々なものを集めていた。中でも熱心だったのが、今回のお題、「消しゴム」である。小学生の頃のことだ。 今の事情はよく知らないが、その頃は、子供の気をひくための文房具がたくさん発売されていた。特によく見かけた売り文句は「香りつき」だった。女の子向けには花の香りや果物の香りが多かったように思うが、中には「ココアの香り」や「カレーの香り」なんていうものもあった。当時、津の駅前のビルに本屋があり、その片隅の文房具コーナーが、私のいきつけの場所だった。今思えば大した品揃えではなかったと思うが、津に行くこと自体、子供にとってみれば今とは比べ物にならないほど大きなイベントであったし、いつも楽しみにしていたものである。 買った消しゴムは、もちろん使わない。コレクターとはそうしたものだ。でも、せっかくのかわいい消しゴムや香りのついた消しゴムを、使ってみたいのも事実である。そこで「複数買い」という贅沢に走ることになる。贅沢といっても50円や100円の世界なのだが、同じものを2つ買って、ひとつを保存用にする訳だ。これは最近ではコレクターの常識になっているらしいが、子供の癖にそんなことを思いつくあたり、なかなか小賢しい、嫌な子供であったと思う。しかしその癖はいまだ抜けきらず、今日に至っている。 その消しゴムがどうなったかというと、今でも持っている。友人や小さな親戚にあげたりして、数は少し減ったが、引き出し一杯分はあるはずだ。かなり珍しいものやばかばかしいものもあると思うので、また友人たちと広げれば、懐かしく面白いのではないかと思っている。
消しゴムの思い出としては、「プラスチック消しゴム」というものもある。それは、消しゴムの収集に目覚めるよりも前の話になるのだが、私の使っている消しゴムがよく消えず、ノートがまっくろになるのを見て、教師をしていた父が、「勤務先の中学校の購買で『プラスチック消しゴム』を買ってきてあげる」と言ったのだ。それは、今からすればいたって普通の消しゴムだったし、その材質が本当にプラスチックだったのかどうかも分からないのだが、消しゴムなのにプラスチックでできたものがある、という情報が、よほど新鮮な驚きだったのだろう。むろんそれは、とうの昔に使ってしまったのだが、巻いてある厚紙のカバーに女の子の絵が描いてあったことはなぜか覚えており、ただそれだけの話なのだが、少し胸がせつなくなるのである。
パソコンで文章を書くようになった最近、私の生活で、消しゴムの出番は減っている。しかし、無ければ困る文房具であることも間違いない。普段は気にもとめないが、欲しい時にどこかに隠れてしまって腹を立てたりしている。なくなってからありがたみに気付くものは多いが、消しゴムもそのひとつなのであろう。
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