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ドラゴンクエスト・ファイナルファンタジー小説投稿掲示板


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  第4章 1節:殺人事件(仮) - 翼無き天使 (男性) - 2008年01月14日 (月) 23時52分 [737]   
   彼の名はロバート。ギリシャ共和国のとある港町で、日々町の人々の平和を守るために犯罪者と戦う、現役バリバリの自称凄腕警部。
彼がこの町にいる限り、犯罪者は町の中にのさばることはないらしい。
彼のおかげで町は平和そのもの……だった。ついこの間まで平和そのものだったのだ。
しかし、今この町は近頃連続して発生している不可解な凶悪事件に悩まされていた。
次々と人が殺されているのだ。いや、正確には「殺されているのではないか?」と予想されているのだ。
 事件現場はいずれも人通りの少ない裏道。現場にはおびただしい血痕。
地面は深くえぐれていて、石壁にも深いひっかき傷やヒビが入ってることからして、犯人は相当な怪力で、鉤爪のような凶器を使用していると思われた。
人間が生身の指でこんなに地面をえぐれるわけないし、まして頑丈な石壁にヒビなんて、論外だ。鋼鉄製の太い鉤爪でもない限り、こんな現状はありえない。
 そして事件現場の数と、事件の日以来いなくなった人の数も一致していて、ときには現場にいなくなった人の所持品も落ちていたりすることから、被害者は消えた人達だと推測された。
 これは間違いなく殺人だろう。誰もがそう思った。だが肝心の死体がなかった。どこにもないのである。
おかしいではないか。ロバートは訝しんだ。殺したならどうしてわざわざ死体を持ち帰るのだろう。邪魔ななるだけだ。
仮に死体を処分しようとしたと考えても、あれだけの血をまき散らして、地面をえぐって壁を壊せば、警察が動くのは子供でもわかりそうなものだ。
万が一被害者が殺されてないなら、どうして通報してこない?家にも帰らず事件以来ずっと行方不明のまま。
消えた被害者に最後にあった人たちはみんな、いつもと変わりなかったと話している。自己失踪の可能性は低い。
誘拐?現場の惨状からしてそれも考えにくい。誘拐ならあそこまで血が流れることはないだろう。身代金要求もない。
「ふぅむ。さっぱりわからん……」
ロバートは行き詰まった。矛盾が多すぎる。消えた人達にも特に接点はない。
署内では早くも迷宮入りが囁かれていた。
「くっそ〜、見てろ!俺が必ずとっ捕まえて、無差別殺人および死体遺棄および器物破損の罪状で監獄、いや死刑台に送り込んでやるからな!」
そう意気込んでロバートは今日も警察署へ出勤した。

 インドネシアを出発して早3ヶ月。船に乗り、列車に乗り、道行く人に乗せてもらい、アルトはとうとうギリシャに到着した。
もう一度船に乗り、イオニア海を横断したらイタリアだ。そこまで行けばヴァチカンはもうすぐそこにある。
 師匠アデル=キースロードの睡眠ガス入り煙幕をくらってから、思えば長い道のりだった。
インドネシアから船でインドまで行き、そこから世界鉄道を乗り継ぎながらインド、パキスタン、イランを横断。トルコを経由して現在のギリシャに至る。
 アルトはアデルの弟子とはいえ、まだ正式にWPKOの人間ではないので、各国の支部に世話になることもできないし、WPKO宛に請求書も切れないから交通費も宿泊費も全額自腹になる。
トルコに着いたところでとうとう一文無しになり、ヒッチハイクして旅人や行商人に同乗させてもらいながらここまで来た。ちなみにトルコ―ギリシャ間は密航だった。
しかしこんな旅路もアデルとの修行の6年間に比べれば大したことはなかった。密航はお手の物だ。「金を稼いでくる」などと言ってカジノに行き、借金作って帰ってくる奴がいないだけまだ快適な旅だったと言える。
 そしてギリシャの地を踏んだアルトには今、旅路には有り余るほどの額の金がある。船内のギャンブルで稼いだ金が。
アルトにカードゲームで勝とうなど無謀もいいとこだった。ダテにアデルの借金の連帯保証人をやっていたわけではない。
挙げ句の果てにはカードはイカサマがあったかもしれないから、全財産を賭けて、といってもすでに向こうは一文無しだったが、正々堂々射撃で勝負なんて言い出す始末。
これには思わず笑ってしまった。船上から物を投げて打ち落とす簡単な射撃ゲーム。結果は火を見るよりも明らかだった。
そして挑戦者たちの身ぐるみを引っぺがして悠々と下船。久々にまともな食事と宿がとれそうだ。
 それにしてもこのギリシャ、美しい町だ。地中海特有の白壁の町並み。エメラルドグリーンの海、透き通るような蒼天。
といっても今は夜だからわからないが、夜は夜でまた趣がある。趣があるが、少し気になるのは警官の数。かなり多い。ここから見えるだけでも7人。
事件でもあったのだろうか。
アルトは調査に乗り出した。


  第4章 2節:わかる人 わからない人 - 翼無き天使 (男性) - 2008年01月14日 (月) 23時54分 [738]   
 事件に進展無し。今日もまた収穫のない捜査の1日が終わった。
これだけの人員を割いて捜査しているのに目撃者1人見つからないことに、ロバートは腹立たしさを感じずにはいられなかった。犯人も知能派ということか。
イカれた殺人者と知能派のミックスほど厄介なものはない。犠牲者はすでに5人。3ヶ月で5人である。早く捕まえなければ犠牲者はどんどん増えていく。
前回の事件からもう2週間たっていた。いつ次の事件が起きてもおかしくない。
「ロバート警部!奴が出ました!」
部下の一人が駆け込んで来た。
「どこだ!」
「西区の港倉庫の近くです。大量の血痕を港の人間が見つけて通報しました。死体はないそうです」
西区。事件現場の位置もバラバラ。全てにおいて共通点はない。死体を残さないという手口以外は。
「またファントムの仕業か…」
犯人の全く手掛かりを残さない犯行から、新聞や週刊誌では「幽霊」“PHANTOM”という通称で騒がれていた。
「警部、現場に向かいますか?」
「当然だろ!」
6人目の犠牲者。ロバートは怒りに息を荒げながら扉を出て行った。

 景色は綺麗だし、料理もおいしい。ギリシャは本当に良いところだ。
 情報収集をしつつ腹ごしらえをするなら、行くところは一つ、居酒屋だ。
情報収集は酒場というのが定石。しかしアルトはまだ未成年なので、完全なバーやパブなどではなくレストランも兼ねているような小さな店舗に入った。
要は多種多様な人が集まり、会話を行う場所であればいいのだ。
「ここの料理はおいしいですね」
カウンター席に座り、羊肉のグリルを口に運びながらマスターと覚しき男性に話しかけた。
当然ギリシャ語だ。覚えておいて正解だったとアルトは思った。
まずは何気ない会話から切り出すのが情報収集の基本。白髪の口ひげを蓄えた気さくそうな人だった。
「そう言ってもらえると嬉しいね」
「僕ギリシャに来たの初めてなんです。町の景色も綺麗だし、いいところですね」
「旅人さんかい?」
「ええまぁ。今はイタリアを目指してるんです」
嘘ではない。ヴァチカンはイタリアの中だし。でもこの歳でヴァチカンに行くなどと言ったらたぶん怪しまれるだろう。
「そうかい。お若いのに大変だね」
「いえ、もう慣れてますから」
それはもう嫌という程に。
「ここは本当に良い町なんだけどねぇ。最近妙な事件が立て続けに起こっていてね。みんな怯えてるんだ」
「へぇ、そうなんですか」
向こうから切り出してくれるとは。願ってもない。
「怯えてるなんてもんじゃねぇぜ。みんな完全にビビっちまって、夜に出歩く人間が一気に減っちまったんだ」
同じカウンターに座っている無精髭を生やした男が話しに入ってきた。かなり酔っている。
話に乗ったらいろいろしゃべってくれるかもしれないと思い、アルトは話を合わせた。
「どんな事件なんですか?」
「なんでもよ――……」
 話を整理するとこうだ。5人の人間の失踪。5件の殺害が行われたと思われる血まみれの現場。死体はなし。人間離れした力による鉤爪のような傷。
ここまで聞けば考えるまでもない。DICだ。
 これだけ騒ぎになっていれば、ギリシャ支部が聞きつけて、ヨーロッパ地域本部にターミネーター派遣要請を出してると思うのだが。
でも解決は早いに越したことはない。早ければそれだけ犠牲者の数も減る。
それにアルトもすぐにターミネーターになるのだ。ここでDICの1体や2体、倒しても問題ない。
「なんだか外が騒がしいね…」
マスターが窓から外を覗く。
 レストランに若い男が新たに1人入ってきた。カウンターに座る。
「いらっしゃい。外が騒がしいけど、何かあったのかい?」
マスターが彼に尋ねた。
「またファントムの野郎さ。すぐ近くの港倉庫だよ。今回も死体はないらしいぜ」
「またか…。これで被害者は6人だね」
「まったく、冗談じゃねぇぜ。とんだ殺人鬼が現れたもんだ」
酔った男が再び会話に入り込む。情報収集はもう充分だった。
「マスター、どうもごちそうさまでした。おいしかったです」
「今日は宿をとるんだろ?」
「はい。そのつもりです」
「気をつけるんだよ」
「はい、ありがとうございます」
「殺人鬼に殺されんなよぉ〜」
代金を払って、店を出た。たしか、この近くの港の倉庫だと言っていた。
これ以上被害者を出させはしない。そう決意してアルトは港倉庫へ歩き出した。


  第4章 3節:容疑者アルト=ナイトウォーカー - 翼無き天使 (男性) - 2008年01月14日 (月) 23時55分 [739]   

 西区港倉庫の裏路地。今回の事件現場はそこだった。
今回も今までと同様、死体のない現場に血まみれの地面。あちこちにひっかき傷。
勢いで現場に来てしまったものの、おそらくわかることは今までと大差ないだろう。
「くそっ、何なんだこの野次馬どもは!」
ロバートは群がる人々を掻き分けながら現場へと進む。
「ロバート警部、血の乾き具合からして、さほど時間は経っていないと思われます。それとこんな物が落ちてました」
部下が寄こしたのは小さな拳銃だった。あちこちに血が付着している。まだ完全に乾いてない。
「犯人の凶器か?」
「おそらく被害者の物じゃないでしょうか。今まで事件で銃が使用されたことはありませんし、ファントムを怖れて銃を所持する者も少なからずいます」
「ふむ」
ロバートも納得する。
「例え犯人の物でも、これはおそらく凶器になってないと思われます」
「…どういうことだ」
「この程度の大きさの銃なら、人間を撃った場合、ゼロ距離でもない限り弾は貫通せずに体内に残ります。ところが現場には、この銃に装填可能な6発分の薬莢と弾丸が血痕の付近に全て落ちていました。つまり、弾は誰にも当たってないんです。弾丸に血液の付着もありませんし」
「弾丸は全て地面に落ちていたのか?」
「はい」
「ふぅむ。つまりこういうことか?被害者は犯人に襲われて、身を守るために銃を発砲。ところがそれは犯人には一発も当たらず、かといって周りの倉庫なんかの壁にも当たらず、そのまま地面に落ちた…」
「不思議ですね」
「んなことあり得るか!」
「しかし弾丸は変形してますから、何かしらには当たったはずです」
「それじゃああれか?被害者が撃った弾は全て犯人に当たったが、弾丸は体内には食い込まず、地面にポトポト落ちた…とでも言う気か?もっとあり得ん。化け物じゃあるまいし」
「ですよねぇ。あ、でも服の下に鉄板でも仕込んでおけば…」
「頭撃たれたらどうすんだ。即死だぞ」
「そうか。被害者は6発も撃ってますしね……」
「とにかくこの銃と弾丸、あと薬莢は鑑識に回せ」
「はい」
全くわけがわからなかない。銃が効かない?そんなことが起こり得るはずがない。
発砲したのが犯人でも被害者でも、当たったのなら弾丸と薬莢の数にズレが生じる。外れたのなら弾が地面にポトリと落ちてるわけがない。
それに、またしても死体がない。なぜ持ち去る?未だに容疑者すら挙がってこない。
「ちっ、このままじゃお宮入りだぞ……」
ロバートは歯ぎしりしながら呟く。
そんな焦るロバートに銀髪の少年が目に留まった。見ない顔だった。
「なんだあの小僧は。勝手に現場に入りやが……」
ロバートの頭の中で何かが閃いた。いや壊れたといった方が正確かもしれない。
「怪しい、怪しいぞ!犯人は現場に再び戻るというケースもある。証拠隠滅か!?こちとら何の手掛かりもないんだ。こうなったら怪しい奴は片っ端から任同かけて、何が何でも犯人を見つけ出してやる!!」
閃きとは程遠いやけくそ状態であった。
「おい!フランツ!あの小僧に任同をかけて署まで引っ張ってこい!」
「はい?しかし警部、まだ子供ですよ?」
フランツは戸惑いながらロバートと少年を交互に見た。
「いいから連れてこい!何の手掛かりもないままじっとしてられるか!怪しい奴は片っ端から取り調べる!」
「りょ、了解しました」

 DICに通常の武器は通用しない。不思議なことは何もない。銃を撃って、DICに当たり、そして地面に落ちたのだ。
さっきの刑事の予想は見事的中だった。しかしDICを知らない人にはこの考え方ができないのも無理はなかった。
ダークマターで構成されているDICにダメージを与えることができるのは、エターナル・フォースを宿す殲滅者だけだ。
 警察ももう引き上げるようだったので、アルトは少し現場を覗いてみようと思い至った。現場を囲むロープの下をくぐって、血だまりの所まで行った。
死体がないのはDICによって捕食されたから。何をどう考えてもこれはDICの仕業で間違いない。
 不意に後ろから声をかけられた。振り返ると目の前には若い刑事がいた。
「あ、すいません。勝手に現場に入っちゃって。すぐに帰ります」
何気ない風を装ってその場を去ろうとする。しかし刑事はアルトを引き止めた。
「ちょっと署まで同行してもらえるかな」
「…………はい?」
なんとも不吉な予感がした。




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