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第8章 1節:敗北 - 翼無き天使 (男性) - 2008年11月08日 (土) 20時48分 [771]
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冷たい。体に力が入らない。出血も酷い。生命の流れ出る感覚。死の感覚。どんどん迫ってきてる。 ――足音。近づいてくる。あいつは何者だ?あの強さ、不死身としか思えない。 (天峰は、どうなった?) 一緒に戦っていたはずだ。 首をかろうじて動かすと、地面に横たわって微動だにしない天峰が視界に入った。 「…天峰?……天峰!!」 血の味が広がった口を懸命に動かし、天峰を呼んだ。それでも動かない。 「無駄だよ。そいつはもう死んでる」 この現状を作り出した男、足音の正体はもうアルトのすぐ近くまで来ていた。 「…嘘だ。この程度で…天峰が、死ぬはず、ない」 「少年。人は死ぬもんだぜ?少年ももうすぐ死ぬ。俺が殺す」 男はさらにもう一歩アルトに近づき、その場にしゃがんだ。 闇にぼやけていた顔がはっきり見える。そこには笑みが浮かんでいた。この状況を楽しむような無垢な笑み。 「まぁ、なかなか頑張った方だよ、少年。そっちに倒れてる方もな。けっこう楽しめたぜ」 「あなたは…いったい…?」 呼吸が苦しい。意識も朦朧としてきた。 「わからないか?少年たちとは因縁浅からぬ仲なんだけどな」 「…DIC、なのか…?」 「まぁ、少年たちはそう呼ぶな」 「…どういうことだ」 「驚きか?俺にDICの特徴がないのが。言っとくけど、擬態なんてしてないぜ。あんなもん下等な奴がすることさ。これが俺の素の姿」 姿が人間のDIC。 「真実を教えてやってもいいが…、謎を残したまま死ぬってのも、またオツなもんだよな」 そう言うと、男はゆっくり右手を振り上げ、アルトの心臓に向けて構えた。 手が蒼い光を帯び始める。またあの攻撃だ。 「そういや、まだ聞いたなかったな。少年、名は?」 「……アルト」 「アルトか。いい名前だ」 「あなたの、名前は…?」 「俺?…まぁ、それくらい教えてやるよ。俺はティック=エルシェント。少年を殺す男、さ」 「ティック…エルシェント。あなたは、僕が…消去、します」 「…はは。いい夢を、少年」 右手が振り下ろされた。
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2節:犠牲の選択 - 翼無き天使 (男性) - 2008年11月08日 (土) 20時49分 [772]
――約2週間前。 ルーマニアの首都ブカレスト。WPKOルーマニア支部の一室。 アルトと天峰はテーブルの上に資料を広げ、これからの計画を考えていた。 天峰はいつも通り不機嫌そうな顔で資料を読み返してる。 DICの組織を潰すに当たり、大事なことは何か。 いたって単純。根城を見つけることだ。組織である以上、必ずどこかに拠点がある。 「調査報告書を見る限り、ここブカレストが一番DICの被害が多いですね。227件中93件です」 2年間にわたる膨大な資料の束をパラパラとめくりながら、天峰に話しかけるともなく話しかける。 「…だろうな。首都だけあって人も多い」 世界鉄道に乗ってルーマニアに来るまでの3日間。いくつかの口論を経て、ようやくチームらしい会話が成り立つようになった、気がするアルト。 しかしまだ天峰個人のことはほとんど知らない。自分から話すようなタイプではないのは明らかだ。そのうち知る機会もあるだろう。 「やはり根城は都内にあると考えるべきですね」 この被害件数から考えて、DICの数は20、いや30はいるか。 でも全部が全部この街にいるわけではあるまい。範囲はルーマニア全体。多少なり各地に分散してるだろう。 「どうやってDICの拠点を探しますか?」 天峰は資料から視線を離さず答えた。 「…根城を探してDICを消すだけじゃ任務を完了したとは言えん。組織の目的を調べる必要がある」 「『目的は何ですか?』って聞いて、答えてくれるわけないですしね」 「…活動範囲はこの街に絞る。現段階でここ以外の街での犠牲者は、見捨てるしかない。ここで粗方始末をつけた後、残党を消す」 「……仕方ない、ですよね」 心苦しいが、国全体をカバーするのは不可能だ。まずは一刻も早く、DIC組織の根本を絶つ。 「それで、根城はどうやって探しますか?」 「DICに案内してもらう」 「……それはつまり、跡をつけるってことですか?」 「…他にどういう解釈の仕方がある」 苛ついた眼がアルトをとらえる。普通に考えればそういうことになるわけだが、そこには大きな問題がある。 当然、天峰もそれを承知の上で言ってるのだろう。 「僕らがDICを見つけることができるのは、擬態を解いたとき、つまりは人を襲ってる時です」 「…だからなんだ」 「DICの跡をつけるためには、見つからないようにしなくちゃいけません。襲われてる人はどうするつもりですか?根城を探すために、助けることができる人を一人、見殺しにする気ですか?」 「…早期解決のためには、それが最良だ」 「僕は、そんな作戦には賛成できません」 それが最も効率的な方法だとしても、賛成などできない。しらみ潰しに調べていく方法だってある。 「…ここで手間取ると、他の街での犠牲者が増える可能性がそれだけ高くなる。…多少の犠牲は仕方ない」 「でも――…!」 「…――それともしらみ潰しか?何日かかると思ってる。そんなことやってるうちに目の届かない所でどんどん犠牲者が増えるかもしれない。一人の犠牲で早急に解決できるんだ。安いもんだろう」 アルトは思わず椅子から立ち上がった。 「人の命を、なんだと思ってるんですか…!?」 「…遠くの人間の犠牲は許容できるのに、近くの人間の犠牲は許容できないのか?考えるべきは犠牲者が遠いか近いかじゃない。多いか少ないかだ。俺は少なくなる可能性が高い方を選ぶ」 反論の余地はなかった。少しも。天峰の言うことは論理的で合理的で、そして正しい。 でも、それでもアルトは、目の前で人がDICに殺されるのを黙って見ていることなど、賛成できなかった。 「…それがお前の意に反するなら、強いはしない。ここで待ってればいい。足手まといは邪魔だからな。俺が片付ける」 自分でもわかっていた。天峰の作戦が最も効率的で、最終的な犠牲者も少ないであろうことは。しかしそれは、同時にアルトの誓いを破ることでもある。母への誓いを。 「…………わかりました。……やります」
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3節:それは正しいのか - 翼無き天使 (男性) - 2008年11月08日 (土) 20時51分 [773]
それから2週間、DICに動きはなかった。今日も夜の大都会を見回る。 この間のギリシャと違って、ここは深夜でも街が静まり返ることはない。人の悲鳴は街の喧騒に掻き消されて、誰かに届くことはないだろう。 そうして100人近い人間がこの街から姿を消したのだ。 アルトはディテクターがなくてもDICを探すことが出来る。だから天峰と二手に分かれてDIC探索に出向いた。見つけたら無線で連絡し合うことになってる。 なかなか動きを見せないDICに焦燥を感じる自分と、どこか安堵する自分がいた。2つの矛盾した感情がアルトの中で渦巻き、何とも言えない悶々とした気分にさせる。 DICを早く見つけて解決したい。しかし見つけたときは、アルトの目の前で人が死ぬときだ。DICに殺されるときだ。アルトの誓いが、破れるときだ。 ――本当にそれでいいのか? 何度も心の中で自問した。でも答えはすでに揺るぎないものになってしまった。 ――仕方ない。 そう、仕方ない。より多くの命を救うための小さな犠牲。それが答え。アルトはそれを否定したい。でもそれがこの状況で導き出された最良策。 「……!」 とても嫌なものに触れたような、心を浸食されるような感覚。誰かの命が危険に冒されている信号。 「…来たか」 ダークマター捕捉。DICが現れた。すぐ近くだ。走りながら無線を取り出す。 「天峰」 「…なんだ」 「DICを見つけました。場所は…革命広場から、南に1qくらいの所です」 アルトは地図を見ながら言う。 「…すぐに向かう。…わかってると思うが、手は出すなよ」 「……はい」 ――アルト、本当にそれでいいのか……?
長い髪、色白の肌、端麗な顔立ち。しかしその顔には恐怖の表情が浮かんでいた。 少女は走った。手荷物を捨て、靴が片方脱げていることにも気づかず、息を切らしながら懸命に走った。 迫り来る恐怖から逃げるために。 それでも逃げ切れない。執拗に迫ってくる。どんなに走っても振り切れない。自分の位置もわからぬままに走り続け、ついに袋小路にぶつかり、道は途絶えた。 「ククク、追い詰めた。追いかけっこは終わりだ」 「誰か……誰か助けて…」 彼女の悲痛な叫びは誰にも届かない。涙を流しても誰にも見えない。届いてるのはアルトだけ。見えてるのはアルトだけ。助けられるのは、アルトだけ。 しかしアルトに助けることはできない。いや、できるのにやらない。助けられるのに助けない。 ――なぜ?どうして? ――より多くの命を救うため。より被害を少なくするため。 仕方のないことなんだ。どうしようもないことなんだ。 仕方ないから助けない。どうしようもないから助けない。それは、本当に正しいのか……? 彼女はその場に座り込んでしまった。疲労と混乱、そして恐怖が彼女の体を蝕み、動きを奪う。 DICは攻撃の態勢に入った。月明かりに鋭い爪が照らされる。 まだ間に合う。助けられる。彼女の命を救える。 隠れてここに立っている自分は、本当に正しいのか? アルト=ナイトウォーカー!お前は後悔しないのか!? 「いや…、助けて……お母さんっ!!」 生を望む少女の言葉。 アルトが引き金を引く理由は、それだけで充分だった。
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またこっちに戻ってみたり・・・ - 翼無き天使 (男性) - 2008年11月08日 (土) 20時57分 [774]
どーも。 再び「TERMINATER」の方を^^ ラグナロクの方はまた気が向いたら・・・(いつだ?)
いきなり「冷たい。体に力が――」とか言われても何が何だかって感じですよね^^; 話を整理すると、アルトの初任務編です。 天峰とペアでルーマニアのブカレストに向かってオリャーってなってグハーってなったとこです(?)^^ そしてなぜこうなったかを徐々に紐解いていくという・・・。 暇でしたらお付き合い下さい^^ では
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