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RAGNAROK - 翼無き天使 (男性) - 2009年02月03日 (火) 04時33分 [876]
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“この子は魔神の子だ。生かしておくことはできん”
“あなた、悪魔なの?”
“息子を、ヴィンセントを、頼む”
“俺たちは、共に生きていける。みんな平和に暮らせるんだ”
“私と共に来い。私と共に人間界を支配し、天から我々を見下ろす神々の翼を焼き堕とそう。我らで、ラグナロクを成すのだ”
“今日からお前は、デビルハンターだ”
“ここはお互い手を結ぼうじゃないか。お互いの野望のために、な”
“お前は俺が滅ぼす。必ずな”
“終わらせてこい。10000年の因果を”
†Report1
夏の暑さも衰え、少し肌寒さを感じるようになった10月の夜。今宵は運良く満月だった。 満月の夜は魔の力が高まる。最近は骨のない奴らばかりで退屈していたから、今夜の獲物に期待が高まった。 わずかに鼻歌を混じらせながら、彼は「悪夢」を担いで目的地に向かった。
「今夜はいい夜だな」
ブー、ブー
ポケットの携帯電話が振動する。
「はい」
「ちょっと、どこほっつき歩いてるのよ。私もう目的地着いてるのよ?」
「いや、あんまりにもいい夜なんで、ちょっとな」
「ちょっとな、じゃないわよ。早く来て仕事しなさい」
「はいはい。もう見えてる」 視線の先には目的地がうっすら見える。つと見上げればそこには妖しく輝く丸い月。見る者を魅了して離さない。
静寂に支配された明るい闇夜。響くのは彼の足音と陽気な歌。 この歌はいつ作られたんだろう。彼はふとそんなことを思う。そして気付く。10000年を超える大昔だ、と。 墨を流し込んだように黒く深い夜空では、彼の歌で月と星が踊る。この歌を知っているのは彼と月と星、それに太陽くらいのものだろう。
「今夜は本当にいい夜だ。そう思うだろ?なぁ、ナイトメア」
〓〓〓
ディングウォール市北部。
今は誰も使っていない廃屋。夜になれば闇に紛れて見えなくなるはずのその廃屋は、今夜は明かりを灯していた。中で男達の笑い声が響く。
「今日も上玉が手に入ったなぁ」 男の一人がニタついた声で手足を縛られて横になっている女を見下ろす。女の目は恐怖に凍り付いていた。
「まだ手を出すなよ。お楽しみは金をいただいてからだ」
「あぁ、わかってるさ。だけどよ、どうせ金も女も奪って逃げるんだから問題ないだろ」
「女にはたっぷり恐怖をすり込んでやらないとな」
「へへへ。待ってろよ、金をいただいたらたっぷりかわいがってやるぜ」
――ゴンゴン
廃屋の扉がノックされた。
「……誰だ?」
ゴンゴン
「警察か?」
「ばか。警察がわざわざノックするか」
「お前、ちょっと見てこい」
「おう」 男の一人が扉に近づき、のぞき穴から扉の向こうを見る。
「……なんだ?」 のぞき穴の向こうでは、巨大な拳銃が大きく冷たい口を 開け、待ちわびた獲物を前に笑っていた。 そして、銃口とのぞき穴がほんの数十センチの間を隔てて繋がる。
「――なっ!?」
――ドゥン。
「……!!なんだ!?」 男は額に大穴を開け、脳髄を撒き散らしながら後ろに吹き飛び、絶命した。
ギィィと扉が開く。月明かりに照らされた闇夜から現れたのは、右手に銃を携え、身の丈ほどもある長大な剣を背中に担いだ彼だった。
「なんだ、てめぇは……!」
「――こんばんは。お楽しみ中に失礼。そしてさようなら」
男たちは、突如現れ不気味に笑う敵に、悪寒を感じざるを得なかった。
〓〓〓
今日は人生で最もついてない日だと、断言できる。私はそう思った。
学校の帰り道、突然後ろから何者かに襲われ、変な匂いのする布を顔に押しつけられた。そしたらどんどん意識が遠のいていき、気が付いたらこの廃屋にいた。
誘拐されたんだ。私はすぐに気付いた。犯人の男達は全部で8人。みんないやらしい目つきで私を見ていた。きっとこの男達が今騒ぎになっている連続誘拐殺人犯なのだ。 なんで今日に限って一人で下校したんだろう。そんな後悔とともに、きっと自分も陵辱されて殺されてしまう、そんな結末が目に見えた。
そんな時だった。男の一人が扉ののぞき穴を覗いたら、いきなり吹き飛んだのは。 男は、体積の3分の1は失われているであろうその頭をぶらさげて、惨めに地面に倒れ込んだ。細かい肉片が飛び散り、血液が静かに地面をはった。
助けが来たんだ。私はそう確信した。しかし、扉から堂々と一人で入ってくる姿を見て、なんて莫迦な男なんだろうと思った。誘拐犯はまだ7人もいる上に、彼らも銃を持ってる。 そんな所に単身乗り込んで来るなど、無謀もいいところだった。 現に誘拐犯たちはあっという間に彼を取り囲み、出口も塞がれてしまった。彼は誘拐犯たちが作る七角形の中央に立つ。
しかしなぜか彼は冷静さを崩さない。闇夜よりもさらに深い漆黒の黒い髪。その闇の中で輝く満月のような金色の瞳。その彼の顔からは余裕、いや愉悦すら感じられる。
誘拐犯の一人が銃を構えた。
「いったい貴様は誰なんだと聞いたんだ!」
「俺か?俺は、そうだな。言うなれば狩人ってやつだな」 彼はタバコを取り出して咥える。
「……狩人?」
「そう。人間の世界に『いるべきではないもの』を狩って、秩序と平和を守る正義のヒーローさ」 彼が指をパチンと鳴らすと、タバコに独りでに火が点いた。
「もっとも、世間じゃあんまり有名じゃないんでファンは少ないけどな」
「――貴様、デビルハンターか……!」
「連続誘拐殺人犯、通称グレムリン。なかなか上手に人間らしく立ち回ってたみたいだが、プロフェッショナルをなめてもらっちゃ困る。それにしても、グレムリンとはな。よく言ったもんだ」 彼はくっくと笑う。
「知ってるか?グレムリンってのは大昔に実在した悪魔の名前だ。あいつもなかなかの小悪党だった。お前らにはぴったりのネーミングだな。その小悪党ぶりといい、その正体といい。くくく」
「なめるなよ。デビルハンターがたった一人で何ができる」
「ふふん。じゃ、始めるか?ちなみに今夜は満月だ」
「は、そうかい。なおさらあんたに勝ち目はないな。同情するぜ」
「滅多に見れない綺麗な満月だ。死ぬ前に拝んでおいたらどうだ?」
「ほざけ!!」
〓〓〓
あぁ、これは悪い夢だ。
私の脳裏にそんな言葉がかすめる。夢に違いない。これが現実のはずがない。
なぜ彼らの身体は黒いのだ?なぜ彼らの背中から翼が生えているのだ?なぜ彼らの口には牙があるのだ?なぜ彼らの爪はあんなのも鋭く長いのだ?なぜ、なぜ、なぜ、なぜ彼らは人ではないのだ?
一体なんなのだ、この「化け物」は。
悪魔。悪魔だって?そんな莫迦な。 彼を取り囲んでいた誘拐犯は、みるみる人外の化け物に変貌していった。身の丈は2メートルに及ぶだろうか。足の爪が地面を抉り、鋭い牙がぎらりと光る。そしてその黄色い目玉はみな彼を捉えていた。
「さぁ、小悪党かどうかじっくり確かめてもらおうじゃないか」
「ひひ、すぐにグッチャグチャのミンチにしてやるぜ」 彼は手に持っていた拳銃をしまうと、背中にかけていた巨大な剣を掴んだ。
「せいぜい楽しませてくれよ?最近退屈してたんだ」 そう言うと彼は剣にむかって何かを唱え始める。
「――拘束制御魔法陣アポカリプス、第一および第二限定封印解除。目前敵の認識後、その完全抹殺までの間、グラウンド・ゼロ発動――」 彼の剣に、何か文字のような光が浮かび上がり始める。
「こ、こいつ、一体何を……」
「構うな!やれ!」 悪魔たちは一斉に襲いかかった。
「――目標、認識」
〓〓〓
死ぬ。彼は死ぬ。私はそう思って目を瞑った。
あの鋭い爪で、牙で、ボロ雑巾のようにズタズタに引き裂かれ、血液を、肉を、臓物を撒き散らし、無惨な姿で地面に投げ捨てられるのだ。
悲鳴が聞こえる。液体の飛び散る音。何かがグシャッと音を上げて地面に落ちる。腕か脚あたりだろう。
また悲鳴。何かが空を斬る音。血が飛び散る。肢体が落ちる。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴――。
体が震える。もう何が怖いのかわからない。死ぬのが怖いのか。助けに来てくれた彼が殺されるのが怖いのか。血が怖いのか。千切れた手足が怖いのか。無惨な肉塊が脳裏に焼き付くのが怖いのか。飛び散った脳髄が怖いのか。潰れた目玉が怖いのか。 クラクラする。目を閉じた暗い世界がさらに深い闇になる。
音が、止んだ。
私が恐る恐る目を開けると、そこには綺麗と思えるほど滑らかに赤い絨毯が敷かれていた。しかし絨毯の上にはとても綺麗とは言えない肉塊がゴロゴロ転がっていた。
ある肉塊は頭から股まで斬り裂かれ、ある肉塊は左肩から右脇腹まで袈裟斬りにされ、ある肉塊は頭と胴と脚に斬り離され、ある肉塊は五体を斬り飛ばされ、ある肉塊は細斬れにされ、ある肉塊は魚のように三枚におろされている。
彼はそんな肉塊と共に真っ赤な絨毯の上に立っていた。
「なんだ、もう終わりか?」
彼は生きていた。血を滴らせる剣を悪魔に向けて。
「お前も一端の悪魔なら、脚や腕の一本や二本くらい修復して立ちあがれ。使い魔を出して、魔術を使って、闘え」
「こんな莫迦な……!俺たちがたった一人のデビルハンターに……!?貴様、一体何者だ!」 悪魔は切り落とされた右腕の付け根を抑えながら叫ぶ。左足も無かったので地面に座り込んでいた。
「言ったろ?俺は悪魔を狩る正義のヒーローだってな」
「――どうやら片付いたみたいね」 突然、廃屋に一人の女性が入ってきた。細身の体型にグレーのスーツ。髪は血とは違う、鮮やかな紅だった。 ここの惨状にも全く驚かず、カツカツと歩を進める。
「あら、まだ一人残ってるじゃない」 彼女は悪魔を前にしても少しも動じず、タバコに火を点けた。
「ああ。これから止めを刺すところだった」
「なんなんだ……。なんなんだ貴様らはぁぁ!!」
「ただのデビルハンターよ。それ以外の何者でもないわ。もっとも、彼を殺したいなら悪魔の軍隊でも引っ張ってくることをお奨めするわ」
「そういうわけで、さようならだ」 彼は剣を振り上げる。
「――だから月を見ておけと言ったんだ」
一閃。
〓〓〓
「大丈夫?怪我はない?」 悪魔たちを全員倒した後、彼女はそう言って私の口に貼られたガムテープを剥ぎ、身体を縛るロープを解いてくれた。
「あなたたち……いったい」
「難しいと思うけど、今日見たことは忘れなさい。その方があなたの幸せのためよ」 そして彼女は立ちあがって携帯電話を取り出した。
「――あ、私です。依頼は完了しました。はい、もう大丈夫です。娘さんもご無事です。はい」 パチンと携帯を閉じてまたスーツにしまった。
「すぐにご両親が来るわ」
「この有様を見たら気絶するんじゃないか?」 彼が地面に落ちている腕を足で転がしながら言う。
「そんなこと言ってる暇があったら、早く始末しなさいよ」
「はいはい、了解」 やがて複数人の足音が聞こえてきた。
新たに廃屋に入ってきたのは、両親と数人の護衛だった。母が血の気の失せた真っ青な顔で私の所に駆け寄る。 父と護衛は、目に飛び込んだ惨状に呆然としていた。
「あぁ!よかった!本当に無事でよかった!」 母は涙を流しながら私にきつく抱きつく。
親子感動の再会もどこ吹く風で、彼はまた不思議な呪文のような言葉を呟いて、悪魔の残骸を綺麗さっぱり消してしまった。 それが済むと、とっとと廃屋から去ろうとする。
「――あの!」 私は彼を呼び止めた。
「……あの、助けてくれて、ありがとうございました」 深々と頭を下げる。両親も私に続いた。
「礼を言われる筋合いはないぜ。俺は依頼をこなしただけだ。礼を言うなら、高い金払って俺に依頼したあんたの親に言うんだな」 そう言うと彼はまた歩き出す。
「報酬の件はまた後ほど」 そう言って彼女も彼の後を追った。
「あの!」 私は再び彼を呼び止める。どうしても聞いておきたいことがあった。
「お名前を、教えてもらっても、いいですか?」 彼女は忘れろと言ったけど、きっとそれは無理だろう。だったら、助けてた命の恩人の、せめて名前くらいは知っておきたかった。
「――俺はヴィンセント=トライガン。デビルハンターだ」
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まぁ - 翼無き天使 (男性) - 2009年02月03日 (火) 04時42分 [877]
改訂版というか、なんかもう別物^^; 実は一部分、あるマンガの影響を非常に強く受けているところがあります。 っていうかまぁぶっちゃけパク…… でもいちおう変えたり付け加えたりしてるんで、オッケーかなーみたいな^^;
まぁそんなことは気にせず、多少なり暇つぶしの道具になればと思います。 ではでは
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改訂版ですな - ベールゼブブ (男性) - 2009年02月03日 (火) 15時49分 [878]
前回よりドラマティックな仕上がりですね いろいろ伏線がありそうで楽しみです^^ はてさて、どんな展開が待ち受けているのやら。
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