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RAGNAROK - 翼無き天使 (男性) - 2009年03月22日 (日) 20時35分 [882]
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†Report2
夏は過ぎ去ったものの、やはりまだ本格的な秋というわけではないらしく、その日の昼は実に麗らかだった。 ヴィンセントはこれといってやることもなく、活動拠点として構えた事務所「KERBEROS」のだだっ広い部屋の、応接用のソファーで昼寝をしていた。
先日の討伐は全く歯ごたえがなかった。世間を賑わせていた連続誘拐殺人犯。その正体は悪魔だと言うことを彼のパートナーは嗅ぎつけた。 そんな折りに、とある大企業の社長の娘が新たな被害者となって誘拐される。殺された者は5人に上り、これはなかなかの獲物かと心躍らせていたのに。 討伐に向かってみれば、魔力もなく、自己再生もおぼつかない、でかさと数にモノを言わせて殺しを楽しむだけのとんだ雑魚ばかり。
大企業の社長だけあって報酬はかなりのものだったらしいが、ヴィンセントの心は、彼の血は、あんな戦闘では満たされなかった。 早く次の依頼なり任務なりを、相棒が持ち込んで来ないものかと夢現で考えていた。
――ゴンゴン
事務所の扉がノックされた。ヴィンセントはソファーからむくっと起き上がる。
「……来たか」 この事務所を訪れる人間は限られている。人の意識を遠ざける人避けの結界に囲まれているため、訪れて来るのは訪れることができる者のみ。
ゴンゴンゴン
ノックは続く。そう言えば、どこかでこんなシチュエーションがあったなと、彼は扉に向かいながら思った。そして扉のドアノブに手をかける直前に思い出した。 そう、あの時の悪魔は、こんな感じにここで頭を吹き飛ばされたんだ。この自分に。 我ながら妙に芝居がかった登場だったと思う。そんなことを思い出していたら口元が自嘲で曲がってしまった。
「はいはい、どちら様?」 幸い扉の向こうの人物は、こちらに大型の拳銃を向けたりはしていなかった。
「――私、何かおかしなことしたかしら」 セシリー=ルーカス。ヴィンセントに「その手」の情報を持ち込んでくれる、悪魔討伐のパートナー。 真紅という色彩表現がぴったりなしなやかな髪に、びしっと紺のパンツスーツで決め込んでいて、髪の紅がよく映えた。 ヴィンセントの顔を見るなり、彼女はそんなことを言う。どうやらヴィンセントの笑みは自分に向けられたものに見えたらしい。
「いや、ちょっと思い出し笑い」
「思い出し笑い?……あぁ、さっきのノックがこの間の依頼の状況と被って、我ながら凝った演出だったと自嘲してたってわけ?」
「……いつから読心術を覚えたんだ」
「わかるわよ。あなたの考えそうなことくらい。それより、そろそろ入っていいかしら」 セシリーは返事も待たずにカツカツと中に入っていった。ヴィンセントは溜息混じりに扉を閉める。
「相変わらず殺風景ねぇ。少しは部屋を飾ったらどう?」 さきほどまでヴィンセントが昼寝していたソファーの向かいにセシリーは腰を下ろし、部屋をぐるっと見渡しながら言う。
「食って寝るだけの事務所だ。飾ったって意味ないだろ」 ヴィンセントの事務所、KERBEROSは二階建ての建物で、一階は応接室、二階は寝室になっており、風呂やトイレを除けばどちらも広い空間が一つだけという非常に簡素な造りだった。 約30坪の一階にあるものと言えば、4人掛けのソファが2つ、そのソファに挟まれて置かれているテーブル。それに隅に冷蔵庫と、割と大きめのテレビくらいのものだった。
「それで、今日はどういった御用向きで?依頼か?」 ヴィンセントもセシリーの反対側に腰掛けた。
「ええ。それもあるわ」
「そうか」
「嬉しそうね。先の依頼は不満だった?」
「ああ。弱すぎだ。ヒューマノイドの一人でも期待してたんだけどな」 人間に様々な人種・種族があるように、悪魔もまた多種多様な類型がある。猛獣や化け物と呼ばれるような姿から、ほとんど人と大差ない姿まで、その種の豊富さは人間の比ではない。 そして一般に、人に近い姿の悪魔「ヒューマノイド」は強力である。先日の依頼のような「ビースト」というカテゴリーに分類される悪魔より、知性・魔力・身体能力、いずれも遙かに高い。
「冗談じゃないわ。ヒューマノイドがこっちに来たら、被害はこんなものじゃ済まないわよ」 そう言ってセシリーはスーツの内ポケットからタバコを取り出して咥える。彼女の手がライターを探していると、ヴィンセントが指をパチンと鳴らした。 セシリーのタバコはにわかに赤く灯り、煙を立ち上げる。
「ありがとう」
「それも、って言ったな。依頼の他に何かあるのか?」
「ええ。この間の依頼の報酬よ」 バッグから小さな茶封筒を取り出してヴィンセントに渡す。厚みのある茶封筒の中には紙幣が詰まっていた。
「……これだけか?依頼主は大企業の社長だったんだろ?」
「報酬の5割が協会、2割が情報員の私の分、3割があなた。で、そこから借金返済分を差し引いたのがそれよ」
「まだあるのか。俺の借金は」
「まだまだよ。あなたいくら私から借りてると思ってるの?」
「いくらって、そりゃあ、アレだよ…………いくらだ?」 セシリーは溜息をつく。
「まずは、この事務所の土地代と建設費用、この土地の浄化・結界費用、あとDHA(Devil Hunter Association)加盟費、それにこれもずいぶん前の話になるけど、あなたが無理言って作らせた対悪魔用特注オリハルコン製50口径銃『パンデモニウム』の製造費、プラス諸々の費用を加えると……あと5億くらいね」 手帳を開いてつらつらと借金項目を読み上げる。
「ちょっと待て、そのドコサヘキサエン酸の加盟費とやらは先月の報酬で払ったはずだぞ」
「デビルハンター協会よ。先月払ったのは労災保険の代金。基本加盟費は私が立て替えたままよ」
「あと5億か。長いな」
「その自覚があるなら精を出して働くことね」
「はいはい。頑張りますよ。それで、依頼の方は?」 ヴィンセントが言うと、今度は大きめの茶封筒がバッグから出てきた。
「今回はなかなかの大物よ」
「ほう。よくこの数日で新しい依頼を拾って来れたな」
「優秀なパートナーに感謝しなさい。この依頼が成功すればあなたの借金、4分の1は消えるわね」
「まだ4分の3もあるのか」
「獲物の推定ランクはA(−)」
「A(−)?だったら協会直轄部隊のヘナチョコどもの出番だろ」
「ファルスは別件で出動中よ。だから彼らが戻ってくるまで待てって言われたんだけど」
「けど?」
「そうしたら私の取り分が減るじゃない。それに、彼らに稼がせてあげても借金は減らないしね。ごり押しで許可させて来たわ」
「許可させて来たって。すでに許可という行為の意味が崩壊している気もするが」
「ま、そんな無茶が通るのも今までの私の貢献あればこそだけどね」
「ふーん。優秀な専属情報員だこと」
「で、受けるわね?」 彼女はタバコを灰皿に押しつけながら一応、尋ねる。
「なんで否定の余地が残ってないんだ」
「受けないの?」
「いや、受けるけど。いつまでも借金があっちゃ美味い酒も飲めないからな」
「場所はキルリア地方ね」
「また遠いな。車で半日かかる」
「もう昼過ぎだし、私はこれから任務請負報告をしなくちゃいけないから、明日の朝9時に本部の派遣課で待ち合わせましょう」
「そういえば、キルリアってエクソシストの縄張りじゃなかったか?」
「そう。向こうもこの獲物に勘付いているなら、ちょっと厄介かもね」
「ほほう、なんだか色んな意味でおもしろくなってきたな」 ヴィンセントはニヤリと笑う。
「どうでもいい面倒事は起こさないでよ?」
「ああ、気をつけるさ」
「どうだか」 セシリーは溜息をついた。
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えーと…… - 翼無き天使 (男性) - 2009年03月22日 (日) 20時41分 [883]
約一ヶ月半ぶりですか? 気付けばこんなに間が空いてしまいました。
いやー実はアパートを変えることになりまして。 引越の準備とか地味に忙しかった、気がしないでもないなーということで第2話です。
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姐さん・・・・・・ - ベールゼブブ (男性) - 2009年03月23日 (月) 15時18分 [884]
セシリー姐さん、弟子にして下さい^^;(何のだ) なんか前作のマイヤさんと同じ匂いがしたもので^^;
やっぱり5億は自己破産もん(-_-;)
お引っ越しご苦労様です。
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