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アークブレード - 漆黒の騎士 (男性) - 2009年04月30日 (木) 16時29分 [916]
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重々しく構える門構え。白く大きく立ちはだかる建物、それこそがレギュウム総合化学研究所である。アレンは徐々に建物との距離を詰めて行く。すると重々しさを感じさせる扉があり扉の右側の壁にはチャイムがある。そしてそこには「御用の方はチャイムを鳴らして下さい」と書かれていてアレンはチャイムを鳴らした。
「はい、どちら様でしょうか。」 ドアの向こうから応対する若い男の声が聞こえてきた。
「私は陸軍大尉アレン=エクスターです。今日は総司令官の代わりに参りました。」
「少々お待ち下さい。」
アレンは暫く待つ事になりその場に立ちながら待つ事にした。
━━━
「フン!雑兵を代わりによこすだと、全く貴方と言うお方は何を考えているんだ。大体メールで送った内容にも総司令官殿に来て下さいと書かれていると思うのだが。」 白衣を着た金髪の男が部屋の一室で電話で話をしているが激しく激高しているようだ。
「仕方ないだろう。今は忙しくてそっちに行けなくなって代わりの者をよこすからそいつの為にこうやってアポを取ろうとしているんじゃないか。」
「私の優れた研究の結果など頭の悪い雑兵に理解が出来る訳がない。だから総司令官殿、貴方でないと話にならないのですよ!」
「頭の悪い雑兵とは心外だなぁ。今回は陸軍大尉アレン=エクスターという男をそっちに行かすのだがお前さんも彼の噂は知っているよな。」 電話の向こうで総司令官は相手がどんなに怒っていようともだるそうな喋り方で答えた。
「私は研究で忙しくてそんな奴知らないな。」 白衣を着た金髪の男は思い出す素振りもなく即答でそう答えた。
「そうか。じゃ、説明させてもらおうか。陸軍大尉アレン=エクスターは18の時にガソリンスタンドで働いていてある日突然軍に入隊しないかと誘われ軍人となった。誰もが士官学校を卒業していない彼を罵ったが彼は入隊試験の全ての項目を難なくクリアしたそうだ。晴れて軍人となった彼はめきめきと力を付け異例の早さで出世をしていった。そして何よりも凄いのは戦争等の実戦で自分の隊の兵士をどんな事があっても一人の犠牲も出さないと言った所だな。ルイナート、お前の様に学術に長けている訳ではないがそう言った点では切れ者だとは思わないか。」
「フン!要するに兵士は兵士でも私の研究を無駄にしようとする不届き者が来るって事だな。百聞は一見にしかずと言う事で一度は顔を拝んでおくか。」
「承諾してくれたのだな。」
「ああ、今回だけだからな。」
「よしっ頼んだぞ。」
「フン!」
「相変わらずだな。じゃ切るぞ。」 受話器の向こうで総司令官が電話を切った。
「…陸軍大尉アレン=エクスターか。」 白衣を着た金髪の男も受話器を本体に戻し深い溜め息を吐きそう呟いた。
━━コンコン
まるでタイミングを計ったかの様にドアをノックする音がした。
「何だ。」
「陸軍大尉アレン=エクスター様がお越しになりました。」 白衣を着た青年はドア腰にそう言った。
「丁重にお迎えしろ。」
「はい!」
━━━
少々お待ち下さいと言う割にアレンはかれこれ10分以上待たされていた。何時になったら入れるのだろうかと思いつつ待っていると重々しい扉がギィと音を立てながら開いた。
「お待たせ致しました。どうぞお入り下さい。」 先程の声の主が立っていてその後ろには白衣を着た金髪の男が立っていた。
「君はもういい、自分の研究に戻りたまえ。後は私に任せるといい。」
「はい。」 白衣を着た青年はそう言うと白衣を着た金髪の男に一礼しその場を去って行った。
「コホン、私の名前はルイナート=ケビン、この研究所の所長だ。君はアレン=エクスターだね。」 ルイナートは咳払いをすると自己紹介し、アレンにアレンである事を確認した。
「はい、私が陸軍大尉アレン=エクスターです。今日は総司令官の代わりに参りました。」
「うむ、そうか君がアレンか。話は総司令官から聞いているよ。さぁ、ついて来るといい。」 ルイナートはそう言うとそそくさと歩き出した。アレンはその後ろをついて行く様に歩き出した。
「アレン、君は何故スタンドマンから兵士になろうと思ったんだい?」
「(!?何故あの所長がそれを知っている。総司令が喋ったか…)分かりません。気が付いたら兵士になっていました。」
「そうか。じゃあ入隊試験で全ての項目をクリアしたって言うのは本当かい?」
「はい、事実です」
「何か苦手な項目が一つ位はあったよね。」
「学科は苦手ですがあの時はなくてラッキーだと思いました。」
「ははは…そうかい。」 ルイナートは思わず苦笑いをした。
「所で所長は何故化学者になろうと思ったのですか。」 「幼い頃に一冊の化学書に出会って自分の知らない事が沢山あってどれも興味が湧く内容で私はそれらの謎を全て解明したいと思ったから化学者になったんだよ。」
「ちなみに所長は化学者になってその本に描かれていた謎はいくつか解けましたか。」
「う〜ん、そうだな…皆が怪物と呼んでいるあの魔性の者達だが奴等は元々この地球(ほし)に住んでいた訳ではない。他の惑星から来た侵略者だ。最も太古の昔にその親玉が降って来てこの地球(ほし)を侵略しようとしたがそれを阻止しようとした神との戦いで引き分けたそうだ。その後両者の消息は不明だが魔性の者達が未だに襲来してくるあたり親玉はまだ滅んではいないのだろうな。」
「そうなんですか…」 この話を聞いてアレンは一瞬ハッとした。
「ま、あくまでも推測の域だがね。」
「いいえ、推測何かではないと思いますよ。現に私も何回か魔性の者とは戦った事がありますから。」
「そうか。だが奴等が何処から来るかって事はソルジャー共でも分かっていないのだろう。」
「はい、依然として分かりません。けれどソルジャーは随所に配置され巡回しているので今の所一般人が被害に遭う事はありません。」
「クックック…お前らソルジャーならそう言うと思ったよ。これだから凡人は…」 ルイナートは人が変わった様に突然冷めた笑い方でそう言い放った。此が彼の本性なのであろう。
「では貴方は奴等を見つける画期的な方法でもあると言うのですか?」 アレンは笑いながら言ったつもりだが目だけは笑っていなかった。
「………」 ルイナートは何も言い返さなかったが密かに不敵な笑みを浮かべていた。そして暫くの間沈黙が続き施設内を歩く二人の足音だけが虚しく響いた。
(こいつは現場で奴等と戦った事もないくせに偉そうにしやがって頭に来るな…) アレンはそう思いながら握り拳をぎゅっと締めた。
施設内に響き渡る二人の足音は暫く続いたかと思えば急に止まった。それはある部屋の前に来てルイナートが立ち止まったからである。その部屋は押したり引いたりするドアではなく入り口の左側にはカードキーを入れる溝がある電子機器が備え付けられておりカードキーを溝に通せばドアが開く仕組みのようだ。
「さあ、此所だ。入りたまえ。」 ルイナートは白衣のポケットからカードキーを取り出し溝に通しドアが開いた。そして二人は部屋の中へ入りルイナートが部屋の電気をつけた。部屋はとても広く本格的にサッカーが出来る程のスペースであるが不自然に物が何一つも置いていない。
「忘れ物を取りに戻るから君は其処で待っていたまえ。」 ルイナートはそう言うといそいそと部屋から出た。其はまるで何かを隠しているかの素振りにも見えた。
アレンは何もない部屋に一人取り残された状態になった。部屋を見渡しても何もないが上を見上げると天井は吹き抜けになっている。一体何の為にある吹き抜けかはアレンには知るよしも無かった。そして今度はいざと言う時の脱出方法を探る為にドアの開閉を確かめようとしたがドアの前に立っても開く気配がない。内側からはカードキーは使えない構造でどうやら外側からカードキーで閉められたようだ。
アレンが溜め息を吐いていると上の方から音がした。その音はエレベーターの様なもので何かがそれによってアレンの居るフロアまで下降して運ばれようとしている。思わず上の方を見上げると上の方からスピーカーから聞こえる耳障りな音がして聞き覚えのある声がした。
「アレンよ、今、物流エレベーターが下降しているがこれから君には私が研究により蘇生させた骸共と戦ってくれたまえ。クックック……!」 ルイナートが言い終えると物流エレベーターによって運ばれた傷だらけの二人組の男が無言でそこに立っていた。二人組がエレベーターから降りるとエレベーターは上昇を始めた。
(二人を同時に相手にするのか…) アレンはそう思いながら剣を鞘から抜き構えたが二人組は構えたと思いきやアレン等相手にせずに一目散に壁の方へ目掛けて走り出した。
「お前ら誰のお陰で生きていると思っているんだ!少しでも恩があると思うなら私の言う通り奴を殺せ。」 上の方からルイナートの叱責の声が響くが二人組は聞いている様子もなくただひたすら壁を殴ったり蹴ったりを繰り返していた。
(所長はそう言えば研究で蘇ったと言ってたな。この間の化け物も彼奴が生み出したのだろうか…。だが奴等はまるで何かに取り憑かれた様に壁を攻撃し始めたが襲って来る気配がないな…)
二人組は相変わらず壁を攻撃し続けているがアレンは様子を伺っていた。
「おい、あれを使って言う事を聞かせろ。」 上の方から再び声がした。どうやらスピーカーのスイッチを切っていないようだ
「し、しかしあれを使って検体がもっと暴走して研究所の外にでも出たら大変です!」
「愚民共の事等知った事か。とにかくあれを使って言う事を聞かせろ!」 (アレンには攻撃しないが壁を壊そうとして一体何をしようと言うのだ。いや、待てよ。私の立てた仮説の通りに魔性の者の細胞を持つ彼奴らが親玉に導かれる事を利用してそのまま親玉を始末してくれれば"半人半魔"の実験は成功したも同然だな。)
「はい。」 そう言うと吊り下げられた金属のノズルらしきものが下降し、先端は二人組に向けられていた。
「出力40%!」 するとノズルからは目には見えないが電波が二人組のうちの一人に命中した。電波を浴び一瞬痛そうなリアクションを見せたが再び壁を攻撃し始めた。
「じゃ、もう片方には違う出力の電波を浴びせろ。」
「出力60%!」 ノズルは電波を浴びてない相方の方に向き電波が放たれたがこちらも先程と同様の動きである。
「催眠電波でも言う事を聞かないならなる様にしかならないな…」 ルイナートはふと呟くとエレベーターに乗った。そしてエレベーターが下降して行く。
「…風…、彼処から来ているのか…」 アレンは何処からか吹く僅かな風の気配を感じ取って目をやると壁には大穴が開いていて、二人組は破壊した大穴から部屋の外へと飛び出しそのまま走り出した。そしてアレンはその後を追いかけようとした。
しかし…!
「待ちたまえ。彼らを追う必要はない。」 ルイナートはエレベーターから降り、ゆっくりと歩きながらそう言った
「何故止める。さっき俺には攻撃を仕掛けては来なかったが他の民間人に被害が出たらどうするつもりだ。」
「これは実験の一環に過ぎない。魔性の者の細胞を持つ検体が親玉に導かれる事を利用して親玉を始末できればと考えている。例え言う事を聞かずに暴走したとしてもな…」
「そうか、じゃあ聞くけどこの間、人間が化け物に変化して襲ってきたのだがあれもあんたの研究の成果の一つか…。最もバラバラにした後に火を放ったから、マスコミとかは精々放火程度にしか見ていないけどな。」
「ああ、あれか。ベースとなった人間は生前重犯罪を犯して死刑となった理性の低い兵士で魔性の者の細胞も雑魚い部類のものだったから直ぐに覚醒したのか…」 「覚醒…。何だそれは。」
「人体に魔物の細胞を植え付けると人の細胞を侵食するも全体の5割位で留まりその状態で人が蘇る事で"半人半魔"の完成である。そしてその彼等が戦闘等で傷つき興奮して感情が高ぶると"半人半魔"が保てなくなり心身とも完全に魔物になる事を私は覚醒と呼んでいる。最も理性がきちんとしている奴は多少の事では覚醒しないがな。」
「だったらそんな奴等尚更放って置く事はできない。」
「最後に聞くがこの間、検体を傷つけたのはお前ともう一人女がいたよな…」 ルイナートは質問しながらどんどんアレンに近づいて行く…
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アークブレード - 漆黒の騎士 (男性) - 2009年05月11日 (月) 16時39分 [917]
ルイナートはアレンの発言等無視して自分の言いたい事だけ言い彼を責め立てる。
「し…」と言葉にはなってないが「知らないな」とアレンが言おうとしたがルイナートは遮るように続けた。
「知らないとは言わせないよ。あの時撮影器材を積んで飛ばした無人のラジコンのヘリが映し出してる映像をモニタールームで観ていたんだよ。ただあのヘリは部下が操作していたから検体がどうなったかしか観ないでヘリを回収して女の方は名前が分からないからお前に聞いているのだよ。」
(あの時以来会っていないから名前なんて覚えてないな。ん 、確か……クレアって言っていたな。あの娘結構可愛かったし、あんな可愛い娘を巻き込む訳にはいかない。そうだ、そもそも彼女のような娘を出したのは俺ら兵士の責任だ…と言うよりも何だこの感覚は何故か分からないが彼女を守らないといけない気がする)
戦いの日々を過ごして来たアレンは今までにない感覚に襲われて動揺を隠せないようだ。しかし此処で悟られてはならないと必死に無表情で沈黙を続ける。
「何だその顔は!何か隠しているな…」 アレンは無表情で黙っていたがかえってルイナートの疑惑の眼差しが鋭くなる結果となった。
アレンは黙っていたかと思えば「フッ…」と突然吹き出したような笑い方をし、そのまま笑いながら話し始めた。
「何を言っているのですか。私の様な兵士風情がいちいち民間人のルックスと名前を一致させて覚えている訳ないじゃないですか。現に貴方の名前だってもう忘れてしまいましたよ。名前、何て言うんですか?」
「ルイナート=ケビンだ。」 ルイナートは芝居がかった口調でそう言った。
「ああ、そうでしたね。それで私にどうしろと言うのですか。」 アレンはまだ笑顔の余韻が残った顔でそう言った。
「君が私に出逢うまで奴等の出所が知らなかったと言うのは仕方無いにしてもあの民間人の女が私の大事な作品を傷つけたと言うのだからなぁ。そもそも民間人は政府の重要機密に関与してはならないと言う法律が存在する以上裁かれなければならない。ちなみに君は何か隠しているようだが正直に言わなければ君の場合は軍法会議にかけられるだろう。」
「貴方の研究を成功させる為なら民間人が貴方の生み出した作品に襲われてもただただやられろと言うのか!余りにもふざけた冗談だな…」
「クックック…。総理が我々政府関係者の権利を守る為の偉大なる決まり事だ。文句があるなら総理に言いたまえ。」 アレンが怒っているにも関わらず嘲笑うかの様に言い放った。
「話しにならないな。」
「そうかい。君の事は総司令官殿に報告しておくよ。さぁ、もう此所に用はないだろう、帰りたまえ。」 ルイナートはうつ向きながら不敵な笑みを浮かべ言い放った。
「ああ、言われなくとも帰るさ。失礼したな。」 アレンは表情を変えず笑顔のまま挨拶をし一礼するとそのまま二人組が破壊した壁の大穴を通り、去って行った。
「フン!青二才が。私を怒らせた事を後悔するがいい…」 ルイナートはそう呟くとエレベーターに乗った。エレベーターは無言の彼を乗せ上昇して行く。
━━━
アレンは研究所を後にし車に乗り込んだ。運転手である老夫の男は温かく迎えた。
「お帰りなさいませ。」
アレンは無言でうつ向き何か悩んでいるようにも見えた。車は動きだしたがルームミラー腰からも彼のその様子が伺える。そして運転手の老夫はルームミラーを覗き込むとこう言った。
「いかがなされましたか。」 しかしアレンは黙ったまま何も返さない。
「言いたくない事もあるでしょう。しかし言った方が楽になるって事もありますよ。今の貴方を見ているとつくづくそう思うので声を掛けさせて頂きました。」
「……もしも貴方に彼女がいて、その彼女が得体の知れない奴等に狙われていて守るとすればどんな手段を使う?」
「これはまた変わったシチュエーションですな。そうですね、私なら敵さんを刺激しないようにあからさまに彼女を守ると言う行為は避けて何かにカモフラージュして相手の様子を探りつつそっと彼女を見守ると言う方法で行きたいと思います。」
「成る程、何かにカモフラージュしてか…」
「どう言う経緯でそのような質問をされたかは存じませんがこんな年寄りの意見を参考にして頂けるなら光栄でございます。」
「話しは変わるが二人組が研究所から出て来るのを見なかったか。」
「二人組ですか。生憎私は一人しか見ていないです。ですがその一人は山道を目指して走っています。」
「帰りは先程よりも速い速度で頼む。そして見つけ次第追跡を開始してくれ。」
「かしこまりました。」
(あの似非化学者に余計な事をされては動き難くなるな。失礼は承知の上で総司令官に携帯で成果を報告しないとな…)
アレンはポケットから携帯を取り出し折り畳み式の本体を開き、電話をかけ始めた。
「誰だ。」 総司令官が電話の向こうで電話に出た様だ。
「アレンです。任務が完了したので報告したいと思います。」
「うむ。」
「ルイナート氏が人を蘇らせたと言うのは死んだ人間に魔物の細胞を植え付け、人間の細胞をある程度侵食させた状態で擬似的に蘇生させる事だそうです。」
「やはり人体実験か…。続けてくれ。」
「それでその蘇生した人間の事を"半人半魔"の存在だと言っており彼等に親玉を探し出させて始末させるのが目的だそうです。」
「ほう、それならお前達兵士の出る幕はないな。」
「はい、表向きはそうかも知れません。しかし薬の様に副作用が生じています。」
「副作用だと?」
「はい、それは"半人半魔"が故に理性が乏しい奴は感情の高ぶり等で直ぐに"覚醒"と言う現象を引き起こして完全に魔物になってしまう事です。私がこの間相手にした奴もそのパターンでした。」
「それは厄介だな…」
「はい。その時に民間人の女性が襲われて怪我をしています。私が偶々巡回していたから幸い彼女を救う事が出来ましたがもしも誰も居なかったら犠牲になっていたと思います。」
「確かにそれは見過ごす事が出来ない多大なデメリットだな…」
「民間人を犠牲にしてルイナート氏の研究を推進するか民間人を守る事を最優先にするかどうか貴方の意見をお聞かせ願いたい。」
「ルイナートの研究は確かに画期的かもしれないが民間人の安全が最優先事項だ…。」
「そうですか、分かりました。それともう一つ、民間人が政府の重要機密に関与してはいけないと言う法律が存在しますが民間人がどうやって彼の試作品種だと見抜いて手を出さない様に出来ますか。あの人は私が救った女性が関与していると言っていて何か危害を加える虞があります。」
「ルイナートは民間人がその法に触れているから裁きを下したいと言う所までは分かったが彼は何故其処まで事細かに状況を把握しているのだ。まさか現場にいたと言う事はないよな…」
「はい、撮影器材を搭載した小型のメカを介してモニタールームで観ていたそうで幸い民間人の女性が名前を明かすところまでは撮影されていません。」
「だが彼奴の性格からして自分の試作品を台無しにした者は何処の誰かを躍起になって探すだろうな…」
「そして最後に、彼の研究所から検体2体が脱走を図っていて。その内一体は行方不明でその片割れが現在車が通るルートを走っている模様です。引き続き追跡を実行します。」
「街中には絶対に入れるな。お前は今追っている奴を始末しろ。ルイナートの方は俺が何とかする。」
「了解!」 アレンはそう言うと電話を切った。切ったと同時に車の屋根に何か重たいものがのし掛かった音がした。
「おや、何でしょうかね。」
「俺が調べる。」 アレンはそう言うと車窓を開け様子を伺いながら顔を出すと研究所で目撃した二人組の内の一人が車外にいた。
「アンタの目的は何だ。何故其処にいる。」
「あのお方に呼ばれている。行かなくては…」 二人組の内の一人は意味不明な発言を繰り返しアレンの言っている事を全く聞く様子はない。
「あのお方だと…それは誰だ!」
「樹海に眠りし偉大なあの方の導きのままに…」
(樹海に眠るだと…見当もつかないな。そしてこれがルイナート氏の言っていた現象か…)
「アンタは誰だ!何がしたい!答えろ!」 アレンはだんだん頭に来て怒りながら問いかけた。
「名前…そんなものはない。 あの男が付けたNo.12と言う番号のみが身分を証明する。」 No.12と名乗る男は表情を変えずゆっくりとした話し方で話し始めた。
「No.12か。今車を停める。話はそれから聞こう。」 アレンは車外に身を乗り出していたが体を車内に戻し運転手の老夫に言った。
「すまない、一回車を停めてくれ。」
「かしこまりました。」 そう言うと運転手はブレーキペダルを踏み、その後何回かに分けて踏み込み車を停車させた。
「ありがとう。」 アレンは車のドアを開け、屋根の上に乗っていNo.12に降りて来るよう促すと素早く降りて来た。アレンはそれを見届けると車のドアを閉め話し始めた。
「アンタそう言えば相方が居たよな。」
「No.13か。何処にいるか分からないが微かにだが遠くの方で気配がする…」
「じゃ、車に乗って追跡を手伝ってくれ。」
「……!」 No.12は突然頭を抱えながら苦しみ始めた。アレンは一瞬脳裏に"覚醒"と言う言葉が過ったがそうではなく胸をホッと撫で下ろした。 「…強い……気…No.13……覚醒したか……」 No.12は苦しみながら途切れ途切れで話しだした。
「覚醒だと…。いいから乗れ!」 アレンは車のドアを開けNo.12を右後部座席の方へ押し込み、自分は左側に座りドアを閉めた。
「お連れ様ですか。」 運転手は呑気に質問しだした。
「いいから、車を出してくれ。」
「かしこまりました。」 運転手は慌てて車を走らせた。
「ところでさっき覚醒したと言ったな。何故分かる…」
「…強い気を感じる。」 彼から先程の苦しそうな表情は見えないもののまだ少し苦しそうだ。
「そうか。もう一回聞くがアンタらの目的は何だ。」
「…あのお方を探し出し始末する。」
「あのお方とは誰だ。」
「分からない。頭の中に直接語りかけられ導かれる。」 これ以上聞いても何も聞けないと思ったアレンは相槌だけ打ち後は聞き流すも彼は勝手に続ける。
「こんな自分だが魔性の細胞を死人に植え付けてはならない。そしてそうなった人間を無理矢理言う事を聞かそうとして催眠術を使う等もっての他だ。そう…力を無理に枷にはめようとして暴走が起こるのは必然なのだからな。」
「"力を枷にはめようとすれば暴走が起きるのは必然"か…。アンタは大丈夫なのか。」
「自分に浴びせられた催眠電波は大したことなかったとは言え精神状態に異常をきたして暫くの間はあんな状態になっていた。だがNo.13は自分よりも強い催眠電波を浴びさせられたのだから覚醒が起きてもおかしくない状態だろう。」
「急がないと民間人に被害が出る。アンタも手伝ってくれるな。」 アレンは念を押すかの様に聞いた。
「いいだろう。」
「先回りの必要があるな…ジィさん、獣道でも何でもいいから今通っているルート以外であるなら教えて欲しい。」
「…そうですね、此処から先に分岐点があるのですが其所を左に行くと現象では使われなくなったトンネルがあります。ただ、幽霊や魔物が出るみたいなので先程は言いませんでしたが。」 運転手の話し方が途中から盛り上げる為に恐怖心を煽る様な話し方になっていたが誰も怖そうなリアクションはしなかった。
「幽霊や魔物か…望むところだ。ジィさん、じゃ、その道を頼む。」
「本当に宜しいのですか。」
「ああ。」 どうやらアレンの決意に揺らぎは無いようだ。
「かしこまりました。」 黒塗りの高級外車が空の色と同化して見えるくらい辺りは漆黒の闇に染まっていた。そして真夜中の山道をひたすら走り抜ける…
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