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アークブレード - 漆黒の騎士 (男性) - 2009年06月29日 (月) 16時32分 [938]
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黒塗りの高級外車が颯爽と漆黒の暗闇を走り抜ける。農道を抜け山岳の麓の道を行く。トンネルまでまだ距離はあるが入り口はすっぽりと口を開け吸い込まれそうな感じである。
「ふぅ、霊感のない私ですら嫌な予感が致します。引き返すなら今の内ですよ。」 運転手の老夫は冷静を装っているが実の所恐怖で手元が震えていた。だが誰一人として返事はない。
(やはり行くしかないのですね。トホホ…) 運転手はそう思いつつ溜め息を吐いた。
黒塗りの高級外車はどんどん進み分岐点を左に行き、とうとうトンネルの入り口の前まで来てしまった。近づけば近づく程入り口はガッポリと大口を待ち構えているかのようだ。
入り口はバリケードがしてあった形跡があるが若者が面白半分で心霊スポットとして踏み込んでいるのかバリケードは道路の端に放置されている。
車は徐々に確実にトンネルの中に進むが車のライトの明かりだけでは頼り無く感じる程の暗闇がトンネルを支配していた。
(むぅ、何か気を紛らわさなければ…)
運転手の老夫は気を紛らわす手段を考えに考え口を開いた。
「大尉、ご存知ですか。このトンネルはレギュウムがカメリカの支配下になって直ぐに造られたのですが、作業員はろくに食事を与えられずに病気になるものも多数いたにも関わらずカメリカ軍兵士の現場監督は無理矢理働かせ、途中で力尽きた者はトンネルの壁の一部つまりは人柱にさせられていたのです。だから壁を壊したらひょっとしたらその遺体が出てくるかも知れませんね。」
「人柱か。惨いな…」
「しかしながら命からがら上手く逃げ出せた人もいたそうですよ。」
「だが彼等に逃げ場などないだろう。逃げ出せたところでレギュウムの随所はカメリカ軍兵士で溢れ返っていただろう。」
「そうですが彼等は秘密裏に反カメリカの地下組織を作り、カメリカ軍兵士の撲滅を目論み活動をしていたとか何とか…。彼等の子孫かどうかは知りませんが、"非政府組織"と言うものが動いていて駐留しているカメリカ軍兵士を無差別に襲っているみたいですが根本的な解決にはなっていないですな。元を断たなければ元の木阿弥だと思います。」
「カメリカの皇帝とやらか。人前に一切姿を現さないと言われていて存在自体も不明、全て謎のベールに包まれていて警護には屈強な筋肉達磨が付いている臆病者の事か。」
「彼を倒すには兵士の目を掻い潜り、更にはその警護の者を倒さないといけないとなれば到底一人の力では無理でしょうな。ところで貴方も彼を倒したいとは思いませんか?」
「……誰が嫌だから倒すとか興味ないな。俺は俺なりの戦いをして金を貰うだけだ。」 アレンは俯き加減で首を横に振りそう答えた。
「左様でございますか…」 運転手の老夫はアレンが自分の意見に賛同してもらえなくがっかりしているのがうかがえる。
そして車は漸く出口に差し掛かった。運転手は何も出なくてホッとしている。 しかしトンネルから完全に出るとヘリコプターのプロペラの様な音がする。しかもかなり低空飛行していてアレン達の乗っている車の直ぐ真上を通り過ぎ旋回した後100メートル位離れた所で着地した。
「ジィさん、悪いが止まってくれ。」
「かしこまりました。」 車は少しだけ進み路肩で止まった。そしてアレンとNo.12は車を降りた。暫くするとヘリコプターから人が降りてきた。一人でなく二人いる。
「ごきげんよう!アレン君。」
この声は聞き覚えがある声だがアレンは無視した。
「おや、随分なご挨拶じゃないか。なぁ、No.13よ。」 ルイナートの後ろにいた人影はコクりと軽く頷いた。そして前へと歩き出した。人影は大分はっきりと見えてきてNo.12は息を飲んだ。彼が感じ取った気配の通りNo.13は覚醒していたが予想を越えており白骨化した骸骨の様な出で立ちをしていたからだ。
「驚く事はない。君達双子には同じ魔物の細胞を使っているのだからね。そしてお前ももう演技をする必要はないぞ。」
アレンは自身の耳を疑ったがNo.12は否定する事なく黙って上を向き呟いた。
「もう行かなくてはな…」
「そうだ。それでいい!」 ルイナートは覚醒に拍車をかけんばかりにそう言い放った。
「貴様…!」 アレンは覚醒を止めようと思わず口走ったがルイナートが更に続けた。
「もう遅い。あれを見ろ。」 ルイナートはNo.12の方に指を差しそう言った。するとNo.12は上を向いた状態で皮膚が剥がれ落ちNo.13と同様の白骨化した骸骨の姿に成り果てた。
「It's a showtime!」 ルイナートがそう叫ぶと二体の骸骨は鞘から剣を抜き襲って来た。アレンも剣を抜き一先ず間合いを取り様子を見る事にした。
「ククク、2対1はフェアではなかったな。今、楽にしてあげよう。それまで 精々時間を稼いでくれたまえ。」 彼は明らかに何かを企んでいるような含み笑いを見せると何かを呟き始めた。
骸骨はそれぞれバラバラな動きでアレンは翻弄されるも剣で片方の剣を受け止め片足を蹴り上げもう片方の攻撃を受け止め空いている腕を払い足で受け止めている方の骸骨を吹っ飛ばした。そして間合いを再び取りもう片方に攻撃を仕掛け、攻めて、受け止めるが続き背後から先程蹴散らした骸骨が迫る。
アレンは攻める事より回避する事に専念し距離もかなり取り逃げ回った。骸骨達もそれを追うも徐々に動きが鈍くなり最終的には動きが止まり光に包まれた。様子を見ていたアレンはチャンスとばかりに攻め立てようとしたがルイナートが遮るように口を開いた。
「無駄だよ。儀式は成功したのだからな…」 すると次の瞬間骸骨を包む光が一つになり徐々にその光が薄らいで行く。其所には骸骨は一体しかいないが先程とは見た目が打って変わっていて腕は六本ありそれぞれの腕には剣が握られていた。
「そうか、此が骸骨剣士か。強そうだな。骸骨剣士よ後は頼んだぞ。」
「貴様逃げるつもりか!」
「逃げるだと…私には色々やる事が山程ある。それだけだ。また会おうアレン=エクスター!」 ルイナートはヘリコプターの縄梯子に掴まりながら言った。言い終えないうちにヘリコプターは上昇し始めた。
ルイナートが去ってアレンと骸骨剣士が虚しく立っていた。骸骨剣士は襲って来るでもなく構えたまま動こうとしない。
(腕が六本、二刀流の相手が三人分か…何処から攻めても隙はないだろうな。) アレンがふと考えていると何処からか鎧を着て走る時の「カシャンカシャン」という音がする。
(幽霊か、下らない。) しかし音は近くなっていき急かされる感じで骸骨剣士を攻める形となった。骸骨剣士は体のあちらこちらを動かし準備体操と言ったところだろう。アレンは隙を見せたと思い剣圧を飛ばしたが六本の腕を器用に使い剣圧を打ち払った。
なら、こうするまでだと言わんばかりに今度はあらゆる方向から剣圧を飛ばした。流石の骸骨剣士も何発かは回避できたが最後の一発は避けきれなくて防御した。其所に空かさずアレンの剣が叩き込まれる。しかし何本かの腕で受け止め残りの腕でアレンに斬撃を加えた。
「く…!」 アレンは腹部を斬られたが何とか傷口を押さえながら距離を取る事ができた。
「助太刀してあげよう!」 何処からともなく上から目線での喋り方をした声が聞こえて来た。
(こんな状態でもああいう奴にだけは助けられたくないな…)
アレンはそう思いつつ再び構えた。すると先程の「カシャンカシャン」という音がしてアレンの横を鎧を着た人影が通り過ぎた。そして骸骨剣士の攻撃を剣と盾で受け止めている。
「何強がっているんだ。少しは素直になってもいいんじゃないかい。」
アレンはその一言で溜め息をついた。
「ボサッとしない。相手は言うまでもなくアンデッドタイプだよ。弱点は炎か回復魔法、どちらでもいいから持っていたら使って!」
(炎か回復魔法か。と言っても風か徐々に微量回復するあれしかないな。)
アレンは何かを呟くと骸骨剣士は白い光に包まれた。骸骨剣士が少し動く度に光が蝕んで行く。
(リジェネか…) 鎧の騎士はそう思いつつ骸骨剣士から離れ距離を取った。
「よし!後は鬼ごっこをして逃げ切れば勝てたも同然だよ。さぁ逃げるよ。」 アレンが「こいつは頭がおかしいな」と思ったのは言うまでもなく呆れた表情を浮かべた。
「こりゃ分かってないな…。今、君が使った魔法はリジェネと言う回復魔法の一種で人間に使えば傷が徐々に回復してアンデッドに使えばその逆で徐々に体力を蝕み最終的には葬り去る事が可能なんだよ。と、そう言う事何だが分かったかい?」
「ああ。」 アレンは漸く状況を理解できたのか骸骨剣士から距離を取り走り出した。
骸骨剣士も二人を必死に追うもリジェネの効果で蝕まれ時折苦しそうにしている。
「ハァ、ハァ、君が陸軍大尉アレン=エクスターか。あれだけ強い魔物相手に彼処まで戦えるなんて凄いな。」 鎧の騎士は走りながらそう言った。
「一応これでも戦闘のプロだからな。」 アレンも走りながら答える 「ソルジャーと言えば戦争で使う機動鎧だよね。あれは個人で所有して早急の様な時に着れるようにはできないのかい。」
因みに機動鎧とは強固な重装備の鎧にモーター類等を取り付け通常の鉄製鎧を装備して動くよりも速く動け冷却性能も兼ね備えた機械式の鎧である。
「下らない組織に縛られているからそれは無理だ。仮に持ち出せたとしてもバレたら然るべき処分を下されるだろう。好きな時に好きな装備で戦える奴が羨ましい。」
走りながら会話をしているうちに骸骨剣士の動きがぎこちなくなってきた。
「10…9…8…7…6…」 鎧の騎士は骸骨剣士の方へ向きカウントし始めた。骸骨剣士も徐々に距離を詰めて行く。
「4…3…2…1……」 鎧の騎士はカウントしたままその場を動かない。だが骸骨剣士はもう目の前まで迫っていてアレンは助けに入ろうとしたがカウントが終わると骸骨剣士の動きが止まりみるみるうちに身体がボロボロと崩れて行った。
「やったのか…」
「そう、君の魔法のおかげだよ。」
「アンタは魔法の知識はあるのに使えないのか。」
「普通は使えないよ。どうして君が使えて僕は使えないのか分からないよ。」
「ところでアンタは俺を知っているようだがアンタは一体何者だ。」
「僕の名はツァイベル=ラディン。しがない軍事オタクだよ。サラバ!」 ツァイベルはそう言うと小走りで去って行った。
「車に戻るか…」 アレンは早歩きで歩きだし車まで戻った。
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