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こちら超常現象対策室! - 翼無き天使 (男性) - 2009年08月02日 (日) 15時27分 [950]
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【第2話】あたし、天宮美言!
メールが届く。 マウスを動かして「新着メール」をクリックすると、メールの内容は調査班からの定時報告だった。 「目標は未だ捕捉できません。引き続き捜索を続行します」 という短い文面だった。 「ちっ」 御門ヶ原 千代子(Mikadogahara Chiyoko)は舌打ちして本日数十本目のタバコに火を点けた。 「室長」 ノックの後、そう言って入って来たのは源田 勝征(Genda Katsuyuki)。 「源田か。何だ」 「観測班から連絡で、霊力場に異常観測点が出たそうで。この規模からすると10日前に取り逃がした例のカテゴリーBの奴ですかね」 「ちっ、こんな時に限って現れるとは。至急状況処理に向かえ。奴はかなりの数の怨霊を吸収している。霊災に発展する前に片付けろ」 「了解」 「美言がいないんだ。油断するなよ。今度こそ必ず討て」 「任せてください。毎度毎度あんな年端もいかない娘っ子にばかり頼るわけにはいきませんからね」 「しかし、最近ウチら処理班は慢性的な人員不足。天宮家の娘の戦力は貴重でしょ、源田のおっさん」 新たに部屋に入って来たのは安倍 明晴(Abe Akiharu)。 「安倍か」 「美言はま〜だ見つからないんですか」 「ああ。かれこれもう2週間だ。一体どこをほっつき歩いてるんだ」 「まぁ、あいつに限って死んでるなんて事はないでしょ。ここんとこずっと任務漬けだったし、いい休養になるんじゃないですか?」 「ふん、休み過ぎだ」 「とにかく俺たちは現場に向かいます」 「ああ、頼んだ」 「行くぞ安倍」 「へいへい」 源田は安倍と共に部屋を出て行った。 「何をやっとるんだあの莫迦チョコ娘……」
◇
その美少女は、全くもって完全に俺の意表を突いた。 年齢は俺と同じ、もしくは±1くらい。学生か? デニムのショートパンツにタンクトップ、下はブーツのいかにも夏ですねって感じの服装。何やら細長い荷物を肩にかけている。 腰に届かないくらいの黒髪は後ろの方だけ縛ってポニーテールっぽくしてる。むむむ、なかなかの高ポイント。 ……って。 そんなこと考えてる場合じゃねぇ。 「あなた、幽霊が見えるんでしょ?」 彼女はもう一度同じセリフを繰り返す。今度は語尾に疑問符をつけて。 おいおいおい、今日はまだ一回も幽霊に遭遇してないぜ?なんで俺に霊感あること知ってんだよ。 「あ、別に隠す必要なんて全然ないよ?あたしも見えるし、もちろん触れるし、話せるし」 「な、なんで俺が幽霊見えるって知ってんだよ。誰から聞いた」 「聞かなくても、見ればわかるよ」 そう言って彼女は覗き込むように俺を見上げてくる。 か、顔が近い!つーかそのポーズ!む、胸が!谷間がぁぁぁあ! 「あなたの霊感、かなり高いね。それにあなたの魂が放つ霊力、こっちもなかなか。うん、センスあるかも」 そんなこと呟きながらしげしげと俺の顔を眺める。 俺は目のやり場に困る視線を、何とか彼女の顔に固定した。 「れ、霊力?」 「そう、霊的体力。知ってるでしょ?」 「…………」 いや、そうじゃなくて。つーか知らねーし。 「フリーの人?始めて何年?制服ってことは、高校生?年いくつ?どこの高校?」 マシンガンクエスチョン。 「待て待て、そんな一気に質問するな。つーか最初の質問、意味わかんねぇぞ。なんだフリーって」 「え?まさか、あなた民間人!?」 「まさかじゃなくても民間人だ。いったい何の話をしてるんだ。全く見えん」 「あぁ、そっか。なるほど、ふーん」 いや、だから勝手に納得するなって。
「ねぇ、霊退師に興味ない?」
「……なんだって?」 また新出単語だ。きっと辞書にも載っていまい。 「だから、霊退師。悪霊を除霊する専門家のこと。あなただってそんだけ霊力があるんだから、悪霊の1体や2体倒してるでしょ?」 なんという理不尽な先入観。俺が自身の霊力なる存在を知らされたのはほんの数秒前だというのに。 「悪霊なんて恐ろしいもん1体だって倒したことはないし、霊退師なる職業にも興味はないよ」 「え〜!もったいない!」 彼女は頬をふくらます。そんなちょっと怒ったような顔もまたカワイ……。 違う!間違っているぞ二界堂煉治!なんだかよくわからんが、俺は今明らかに危ない道に勧誘されてる! 取りあえず今までの会話でわかったのは、彼女にも霊感があって、おそらく霊力とやらもあって、そしてたぶん彼女は霊退師とかいう職種の子なのだろう。 こんな女の子が?悪霊をバッタバッタと倒すのか? にわかには信じがたい。つーかありえねぇだろ。 普通、悪霊と闘うって言ったら、お札とかを持った厳ついおっさんが念仏みたいなのを唱えたりするんだろう? 「えっと、君もその、霊退師とかいうのなのか?」 「うん、そうだよ」 あっさり。それも極上スマイル。 「そうか。それで、取りあえず話を戻したいんだが」 俺はオホンと咳払いする。 「俺にいったい何の用?」 「え?」 彼女はほんの数秒、黙考した。 「あ、思い出した!」 忘れんなよっ! 「あたし今、その悪霊を追ってるの。ほんっとちょこまか逃げる奴で、この街に逃げ込んだのは確実なんだけど。そこからの足取りが掴めないからどうしたもんかな〜ってブラブラしてたら、たまたま霊感強い人を見つけて、あ、それあなたね、それで何か知らないかな〜って思って話しかけたってわけ」 「……それマジ?」 「え?マジじゃなく聞こえる?」 彼女は純粋な疑問の顔を俺に向ける。疑う理由がどこにあるの?と言わんばかりだ。 まさか。そんな。 そんなタイムリーで悪霊がこの街に潜伏してるなんて。 危険だ。一刻も早く帰宅しよう。悪霊?冗談じゃない。誰が好き好んでそんな奴らに関わったりするものか。 「そ、そうか。じゃあ悪霊退治頑張って」 俺はぎこちない笑顔で彼女からジリジリ後ずさる。 しかし。 立ち去ろうとする俺の手を彼女がキュッと捕捉する。小さくて柔らかい。少し冷たい手。 「なっ!?」 「……ねぇ、手伝って?」 正直に告白すると、俺の心の撤退命令はこのとき相当揺らいだ。マグニチュード10くらい。 「ううっ」 「あたし、この街よく知らないの。地理的にも曖昧だし、悪霊が溜まりやすいポイントもいまいち把握してないし」 「いや、でも……俺は」 どうする俺!?生存本能は全軍撤退命令を告げている!でも良心という名の鎖がぁぁあ!それに困ってる女の子を見捨てて一人危険なところに送り込むのは男としてどうなんだ!? でも一緒に行ったら死ぬかも!悪霊だよ悪霊!?人を呪い殺しちゃったり取り憑いちゃったりするんだろ!? 「迷惑……かな」 彼女は俺の手を握ったままうつむき加減に呟く。 これが、トドメだった。 くそっ、なんて!なんて卑怯な作戦……!この手を振りほどける男がいたら手を挙げろ!俺がぶっ飛ばしてやるぜこんちくしょうっ!
「…………はぁ。わかったよ、付き合ってやる」
「ホント!?ありがとう!」 パッと顔をあげて満面の笑み。小悪魔っぷり3乗のスマイルは俺の心臓に深く深く刺さった。 「ただし!さっきも言ったとおり俺は霊退師とは縁もゆかりもない、超のつくかどうかはちょっと怪しいけどとにかく一般人だ。あんたはプロの霊退師なんだろ?だったら俺の命はあんたが保障してくれ。それを条件に、悪霊の捜索に協力する」 「うん、いいよ。まっかせなさい!」 軽っ! 「それじゃさっそく行こ!」 彼女は俺の手を握ったまま歩き出す。 「おい、そろそろ手を離せ」 いや!本当は満更でもないんだけどしかし!ここは周りの目を考慮して泣く泣く。ここ商店街だし。 「あ、ごめん。そういえば、名前まだだったね」 「あぁ?ああ、そういえば。二界堂煉治だ」 「ふーん。にかいどうれんじ。じゃあ煉ちゃんだね!」 「はぁ!?」 「よろしくね、煉ちゃん!あたしは天宮 美言(Amamiya Mikoto)。みーちゃんって呼んでね!」 「呼ばねぇよっ!」 「あ、ポッキー食べる?親睦の証に」 「いらんっ!」
ああ、幽霊なんて関わりたくなかったのに。 どうしてこんなことなったんだろう。
天宮美言。
きっとこいつに振り回される星の下に生まれたんだ、俺は。 (第2話完)
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語りが上手です。 - ティファ・ロックハート (女性) - 2009年08月02日 (日) 19時05分 [951]
完璧にオリジナル小説ですね、それは。 最後まで読みましたが、興味深い話です。 私の作品も、引き続き宜しくお願いします。
翼無き天使さん 私もまだまだですね、貴方のを参考に私も頑張ります。
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コメどうもです^^ - 翼無き天使 (男性) - 2009年08月02日 (日) 22時06分 [953]
まぁ一応オリジナルということになるのかな? モチーフになった漫画はいくつかあります。 FF、DQ要素は一切ありませんが^^; まぁこれからもヒマがあれば読んでみてください。 では
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素晴らしいです - 漆黒の騎士 (男性) - 2009年08月03日 (月) 09時55分 [954]
どうも漆黒の騎士です。 全部拝読しましたがオリジナルで話の展開、人物のやりとり等全てにおいてバランスが取れていて素晴らしいです。
ド素人同然の自分は足下にすらも及びませんがこれからも宜しくお願いします。
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どうもです^^ - 翼無き天使 (男性) - 2009年08月04日 (火) 00時29分 [955]
コメありがとうございます^^ 素晴らしいだなんてもったいない言葉^^;
漆黒の騎士さんのアークブレイドも楽しく読ませてもらいましたよ。 特に総司令が実は反政府組織のリーダーだった、のくだりはちょっと「おっ」と思う展開でした^^ リジェネの魔法が出てくるということは、FFっぽい世界観を想定してるんですかね。 近代技術と魔法の共存は、私のかなり好きな部類の世界ですね^^
続きを是非とも読みたいです^^ 私も頑張ります。
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