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こちら超常現象対策室! - 翼無き天使 (男性) - 2009年08月04日 (火) 15時11分 [956]
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【第3話】信じて!煉ちゃん!
源田勝征と安倍明晴は、任務出立前の装備チェックをしていた。 無線、GPS、除霊式を施した霊退拳銃、マシンガン、バズーカ、結界用の杭や札、その他諸々。 「なぁ、そもそもなんで美言は消えちまったんだ?」 源田がマシンガンの調整をしながら安倍に尋ねる。 「あ〜、なんでも天宮家当主、まぁ美言の父ちゃんと大喧嘩したとかしてないとかって聞いたけど」 安倍はタバコを咥えながら筆で札に字を書き綴っている。 「天宮家当主と喧嘩?そりゃまた、恐ろしいことをするもんだ」 「全くだ。そんで、争いに争って家出に至りましたとさ」 「なるほど。だが家出したからって、ここにまで来なくなる必要はないだろ」 「年頃の女の子だ。家の宿命から、任務の重責から、あらゆるしがらみから逃れたくなったって誰も責められやしないさ。親との喧嘩もそれに起因するものだろ。天宮家に生まれたばかりに、優れた霊退師であるばかりに、あいつは普通の女の子が手にする楽しみや幸せを手にできない。色々積もり積もるものがあったんだろ」 「室長も顔には出さないが、内心かなり心配してるしな」 「千代子ばあさんは美言がまだ赤ん坊の頃から見てきたからな。心ではあいつの幸せを願っても、立場上そうもいかない。あの人もつらいところだ」 「全く情けない話だ。あんな幼い娘が抜けるだけで、任務成功確率が10%も低下するんだからな」 ガチャン、とマシンガンを完成させ、スーツケースにしまい込む。 「正に霊退師になるために生まれてきたと言わんばかりの天賦の才。普段は何でもない風に笑ってるけど、その才能があいつを傷つけてる」 「ふふふ」 「……なんだよ、気持ち悪いな」 「お前、天宮家の戦力は貴重とか言って、本当は美言には闘って欲しくないんだろ。俺もお前も、あの子とはもう7年以上の付き合いだ」 安倍も札を書き終え、筆をしまう。 「……当たり前だろ。誰が好き好んであんないい子に、こんな悲惨で果てしない戦いを押しつけられる?出来るなら代わってやりたいさ。でも出来ない。おそらく、あいつは霊退師という宿命からは逃れられないだろう。いくらあいつが逃れたいと願っても、周囲の期待がそれを許さない。そしてあいつはそんな周りの奴らを見捨てることが出来ない。だから、だからこそ――」 「――ああ。だからこそ、俺たち大人がもっと強くならないと駄目だ。あの子が安心して甘えを見せられるくらいにな」 「期待してるぜ、おっさん」 「ふん、任せとけ」 二人はゴツンと拳をぶつけ合った。 「で、獲物はどこにいるんだ?」 「東京市第13外郭区だ」
◇
俺こと二界堂煉治と、謎の自称霊退師・天宮美言は、東京市第13外郭区に潜んでいるらしい悪霊を探して彷徨い歩いていた。 人の下心、もとい良心を弄ぶ卑怯極まりない作戦に乗せられて協力するとは言ったものの、いったい何をどう協力すればいいものやら。 近くに霊がいれば感知ぐらい出来ると思うが、あくまでそれは目の届く範囲程度のレベルだ。 レーダーみたいに広範囲で悪霊の居場所を探し出すなんて都合のいい能力は、生憎と持ち合わせていないのさ。 そう考えると、この自称霊退師・天宮美言が俺に協力を要請した理由もいまいち判然としないものがある。 俺くらいの能力なら彼女だって持ってるだろうし。そりゃ、ここは俺の住む区の隣だから、地理感覚は俺の方が多少優れているという話はわかるが。 なにせこの東京市って街は、世界で3番目にデカイ。巨大な二重円の超近代型都市で、外側の外郭区と内側の内郭区に分かれ、さらに内郭区は上層と下層に分かれる。 生まれも育ちも東京市の人でも、全ての街の地理を把握している人は希だ。おまけに外郭区は未だに拡大を続けてるときた。 内郭区と違って外郭区はさらに、さながらバームクーヘンのように12個の区画に分けられ、第13外郭区は俺の住む第12外郭区の横に出来た拡張区画第1号だ。 「ねぇねぇ煉ちゃん」 「煉ちゃん呼ぶな!」 「ポッキー食べないの?美味しいよ?」 天宮は一本は口に咥え、残りの入った箱を俺に差し出す。 「……甘いもの、っていうかチョコがあんまり好きじゃない」
「え〜っっ!!!」
突然の絶叫に俺はビクッと彼女から一歩遠のく。 つーか口のポッキー地面に落ちたぞ。 「チョ、チョコが嫌い!?」 「嫌いって程じゃない。好んで食べないだけだ」 「そんな……!なんて不幸な人生……!」 「……おい」 オーバーリアクションだ。 チョコを食べた後の、あの口にいつまでも残ってるような感覚がいまいち好きになれない。 「それより天宮」 「もう!あたしのことはみーちゃんって呼んでよ」 「断固拒否する」 「え〜、じゃあせめて名前!天宮って名字、あんまり好きじゃない」 好き嫌いが発生するような名字じゃねぇだろ。 「ね、天宮って聞いてピンとくるものないの?」 「なんだそりゃ。別にないけど?割とどこにでもありそうな名字じゃんか」 「……そっか。そうだよね!」 「そっちも煉ちゃんってのやめろ」 「え〜、かわいいじゃん!」 「かわいくなくていいの!」 「だって二界堂くんじゃ長いし、煉治くんじゃ家電製品みたいだし」 「…………っ」 この野郎、俺が気にしていることをよくも抜け抜けと。 「だから煉ちゃん!ね、いいでしょ?」 くっ、まただ。今までその絶対強制スマイルでどれだけの人間を屈服させてきたんだお前は。 「……勝手にしてくれ。つーか、そんな話をしたいんじゃなくてだな」 俺は会話を正しい方向へ持ち直す。 「悪霊を探すんだろ?どんな場所に悪霊が溜まりやすいのかとか、なにかしら情報がないと案内しようがない」 ついでに天み、み、美言自身のことも、色々聞いてみたいぞ、なんて心の中で呟いてみたりする。 何者なんだこの女は。なんで霊退師なんて危ない仕事してるんだ。そういう家系か? だったら付き添いくらいいてもいいもんだ。まだ俺と同年代、未成年だろ。しかも女の子。 その辺りまで突っ込んで聞いてみていいものか。 いやしかし!そんなところまで根掘り葉掘り聞いてしまうと、気が付いたら後戻りできないところまで引きずり込まれていたなんてことに! そうだ、俺はあくまで悪霊の発見に一時的に協力するだけ。 いくら可愛くても美言は悪霊退治を生業にする人間。俺とは住む世界が違う。 悪霊を見つけて無事に倒したら、その後はどうなるんだろう。 手伝ってくれてありがとうそれじゃあさようならお元気でアディオス、って後腐れなく終わってしまうのか? ……いやいや待て待て!今なんか俺、このままあっさり美言と別れてしまうのを残念だ的なニュアンスで話を進めてないか!? 俺は幽霊とか悪霊とか、そんなものには関わりたくないのに。平和に暮らしたいのに。 なのに……。 「――ちょっと煉ちゃん、聞いてる?」 「……――あぁ?」 「あぁ?じゃないよもう!今あたしの話全っ然聞いてなかったでしょ!そっちから聞いたのに!」 「お、おう。悪い」 「もう!だからね、悪霊は人の負の感情、嫉妬とか憎しみとか、まとめて怨念って言うんだけど、その怨念を吸収したり、妖気を取り込んだりして強くなっていくの」 「なるほど」 「つまり、人の怨念が溜まりやすい場所や妖力の強い場所に悪霊は住み着くってわけ」 「具体的にはどんな所だ?」 「うーん、妖気が強い場所っていうのは限られてるから、東京市内なら怨念が溜まりやすい場所に的を絞った方が得策だね。例えば、自殺の名所とか、殺人現場とか。他には使い捨てられた廃屋とか廃駅とか廃工場とか。それに地下は障気が溜まりやすいから下水道もチェックポイントだね。あとは悪霊の種類によって特定の場所を好んだりもするかな。海とか山とか」 要約すれば、暗くてジメジメして薄気味悪い所ってことか。まぁ大方予想通りだ。 「そうだな。俺の知る限りこの13外区に自殺の名所はないし、殺人、自殺ともにここ最近耳にしたことがない」 「ふむふむ。じゃあそれは外していいね」 「下水道は東京市内中の地下に張り巡らされてるから、可能性としては考えられるかも知れない。廃駅は、ないな。廃工場なら1つ2つ心当たりがある」 「おっけー。じゃ、一つ一つ調べて行こ!やっぱり煉ちゃんに頼んで良かったよ〜!」 「その前に一つ聞いておきたいんだけど」 「ん?なに?」 「よしんば悪霊を見つけたとして、その後どうするんだ」 「どうするって、そりゃ除霊するけど」
「――その背中にしょってる刀でか?」
出会ったときから気になってはいたが、極力気にしないようにしていた。 布袋に包まれた細長い荷物。美言との会話と経験から、それは日本刀、もしくはそれに類するものだと見抜いたからだ。 「驚いた。煉ちゃん、日本刀とか好きなの?」 「見慣れてるだけだよ。昔、剣道と居合をかじってたからな。最初は木刀か竹刀だと思った。でも霊退師となれば話が違ってくるだろ」 背中にしょってるのは悪霊を倒す武器だと考えるのが妥当な発想だろう。 「へぇ〜!煉ちゃん剣道と居合やってたんだ〜!」 いや、今メインはそこじゃねーから! 「帯刀許可は持ってんのか?」 「うん、大丈夫だよ」 「……本当に?」 「本当だってば!今は、持ってないけど」 「……美言、歳は?」 「え?17だけど」 まさか、そんな。 美言は大きな矛盾に気付いていない。 「東京市条例で、未成年はいかなる理由があっても真剣を所持できない。お前が日本刀を所持できるはずがないんだよ」 この状況だと、彼女は許可の有無か年齢のどちらかに対して嘘をついていることになる。 「一体どうなってる。どうして嘘をつくんだ」 「嘘じゃないよ!あたしは本当に17だし、許可証も本物!」 「いや、だからそれじゃ矛盾してるぞ」 「うう〜」 美言は説明するか否かを逡巡するような困った顔をする。
「……わかった。悪霊を除霊したら全部話す。だから、それまであたしを信じて。絶対に、煉ちゃんを裏切るようなことはしないから」 「…………」
――ああ。
ひょっとしたら俺は。
悪霊も霊退師も一切関係なく。
まだ出会って2時間足らずの彼女に。
完全に惚れてしまったのかも知れない。
だって俺は。
絶対に裏切らないという彼女の言葉を。
一瞬だって疑わなかったから。
「……わかった。信じるよ」 「煉ちゃん。ありがとう」
◇
「こちら状況処理班。異常観測点周辺の住民の避難は完了したか?」 源田が車に備え付けてある無線に向かって話す。 「こちら状況補助班。周辺住民の避難完了。現在、異常観測点の周囲50mに簡易結界を展開中」 「了解した。こちらはあと10分で現場に到着する。結界完成後は結界の外で待機」 「了解」 「いよいよだな」 助手席の安倍がタバコに火を点ける。 「ああ、今度こそケリをつける!」 (第3話完)
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えっと… - ティファ・ロックハート (女性) - 2009年08月06日 (木) 06時58分 [957]
すごいリアクションしてますね、彼女は。 もしかして、甘い物好きじゃないの?と思いながら読ませて頂きました。 面白いです、ボソっ…私の方にもコメント頂けたら嬉しいです。 頑張って下さい。
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久々ですねぇ - ベールゼブブ (男性) - 2009年08月06日 (木) 13時50分 [961]
わお! なんかまた新しい面白いのが!! とりあえず全部読みました。 なんか世界観もそうですけど、美言ちゃんが面白すぐるww
それでは☆
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