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第8章 11節 戦闘開始 - 翼無き天使 (男性) - 2007年09月18日 (火) 01時53分 [692]
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ルーマニア駅。 「あ〜、やっと着いた」 マイヤは伸びをして夜の冷たい外気を肺に取り込む。列車が汽笛を鳴らして去って行った。 「もう真夜中じゃない」 人気のない駅を見渡して呟く。 ここから支部のあるブカレストまでは車で飛ばしても1時間以上かかる。歩くなんて論外だ。 マイヤは迎えの車をよこしてもらうために駅の公衆電話で支部に電話した。 呼び出し音が10回。人が出ない。 「おかしいな〜。居眠りでもしてるのかしら」 電話を切ろうかと思ったときだった。電話が繋がった。 「…もしもし?」 WPKOルーマニア支部です。普通の受付ならこう言うはずだった。しかし電話に出た声は全く違うセリフを叫んだ。 「助けてくれ!!DICが……!!」 何かが潰れる音。そして沈黙。 「もしもし!?ちょっと!どうしたのよ!?ねぇ!!」 返事はない。マイヤは受話器を叩き付けるようにして戻した。 躊躇している時間はなかった。ルーマニア支部がDICの襲撃を受けている。 「あぁもう!いったいどうなってんの!?」 マイヤは駅を飛び出した。 「アルトと総くんは何やってんのよ…!」 走って行ったのではとても間に合わない。どこかで移動手段を確保しなくては。 辺りを見渡すが、あいにくタクシーはどこにもいなかった。 「どうしよう…。こんな時間じゃバスもないし…」 思案に暮れていたマイヤに1台の車がクラクションを鳴らして近づいてきた。 「ねぇねぇ、こんな夜中に何してんの?」 若い男が乗っていた。ニヤニヤ笑いながらマイヤに話しかける。 こんな時にこんなチンピラに付き合っている暇はない。たとえ暇でも付き合ってる暇はない。 無視して去ろうと思ったが、思い直して男の方へ向き直った。 「この車、貸してくれない?」 「わお、よく見たら超美人じゃん!どこ行くの?送ってあげるよ」 「これから私が行くところはとっても危険なの。だから車を貸してくれるだけでいいわ」 「おいおい、馬鹿言うなよお姉ちゃん。いいから乗れって。危険なら1人で行かない方がいいだろ?」 マイヤは大きくため息をついた。 「危険だから、あんたみたいな足手まといがいると困るの。さっさと車を降りなさい」 男の眉間がピクッと動く。 「あぁ?てめぇ何様のつもりだ」 男はエンジンを切って車から降りたものの、今度はマイヤに突っかかってきた。 ドアをバタンと閉めてマイヤに詰め寄る。 「俺が足手まといだと?このアマ。偉そうに命令なんかしやがって」 「あんたみたいな弱い男について来られると、逆に迷惑なのよ」 「てめぇ!調子に乗んなよ!?」 今度は懐からナイフをちらつかせ始めた。 「わかった、もういいわ」 マイヤはWPKOの手帳を取り出して男の鼻先に突き付けた。 「WPKO殲滅部門の非常事態特権を行使し、世界秩序のため、あなたの車を徴集します。なおあなたがこれに抵抗した場合、私はあなたを任務遂行妨害と見なし最大3ヶ月間、拘束または監禁する権利を得ますので、くれぐれも抵抗することのないように」 男は何が何だかわかんないという顔だ。 「WPKO?何わけわかんねぇこと言ってやがる。いいか?今度俺になめた口ききやがったら――……」 男の目の前をキラッと光る一筋の閃光が流れたかと思ったら、持っていたナイフの上半分がスッパリと斬れ落ちた。カランと乾いた音が響く。 男は目を丸くしてポロリと地面に落ちたナイフの欠片を見つめた。 マイヤはにっこり笑っていた。右手人差し指の先には鋭利な水のカッターが出来上がっている。 その指をそのまま口先に持っていき、沈黙を命令した。 「……――いったいどうなるのかしら?」 男はその場で凍り付いて動かなかった。 「キーを出して」 マイヤの言葉に男は我に返ったようになって動き出し、ポケットからキーを出してマイヤに渡した。 「ありがと。朝になればバスが来るわ。それとこの件は誰にも口外しないこと。いいわね?」 男は黙ってひたすら頷く。 マイヤは車に乗り込みエンジンを掛けた。発進しようとしたが、不意に窓を下げた。 「言い忘れてたけど、私、弱い男って嫌いなの」 マイヤが遠く去ってから男はその場に座り込み、ただただ呆然とするばかりだった。
「襲撃を受けているのは支部のどこだ?」 駆け足で階段を降りながら天峰がジャンに尋ねる。エレーベーターは追い詰められる危険が高い。 「奴らは正面入り口から突入してきて、この棟の1階、2階はすでに壊滅状態です」 「数はどのくらいですか?」 「連絡によると20体はいるようです」 「20…!?」 組織は多くて30体だと見込んでいた。そのほとんどがここに? 「支部長、あんたは安全な場所に避難しろ」 「しかし…!」 「あんたは戦闘に関しては無力だ。何も出来はしない」 「…わかりました。私は施設内の人間を連れて避難を開始します」 「でも下にはDICが…」 「7階の渡り廊下から別棟に移動できます。そこはまだDICに襲われていませんし、そこなら地下シェルターがあります」 「では出来るだけ多くの人を避難させてください」 「はい。あなた方もどうかご無事で」 医療施設は支部の10階。現在地は7階。支部長と別れてアルトと天峰だけになった。 「それで、どうしますか?」 「決まってる。敵は消す。それだけだ」 『エターナル・フォース、発動』 アルトの右手には“デスペナルティ”、天峰の左手には“千鳥一文字”が現れた。 「征くぞ」 「はい」
「本部長!たった今ルーマニア支部から連絡が入って、DICの襲撃を受けているそうです」 アーヴィンが司令室に駆け込んでくる。 「アルトくんと天峰くんはまだそこにいるの?」 「みたいです」 「元帥は?」 「消息不明のアデル=キースロード元帥を除けば、一番近いのはミテラッド=カスパー元帥かオリヴィエ=ローゼン元帥ですけど、どちらも早くて1日かかります。」 このままでは明日にはルーマニア支部は無人の廃墟となる。 「向こうとの通信状況は?」 「ついさっき通信室がやられたみたいで、現在は全く連絡が取れていません」 ライアンは黙り込む。 「…本部長、どうしますか?」 「アルトくんたちはまだ支部にいるんだね?」 「そうです」 「…なら、彼らに任せよう」 「しかし本部長…!」 アーヴィンはさらに一歩詰め寄る。 「この事件には『ジハード』が関わっていることが明らかになったんです!あの2人が留まるのは危険です!」 ライアンは答えない。 「しかも『魔法陣』!15年前の『あの事件』と同じだ!本部長はずっと薄々気づいてたんでしょう?この事件には『ジハード』が関わってるって」 「……どっちにしろ、今は連絡が取れない。それに、この状況じゃあの2人に逃げろと言っても逃げはしないさ。そういう子たちだ」 「…そうですね。両元帥に至急ブカレストに向かってもらうように要請してきます」 「ああ。よろしく頼むよ」 アーヴィンは司令室を出て行った。 ライアンは静まり返った部屋の中で、拳を握りしめた。 「どうか、無事でいてくれ……」
「…これ、どう思います?」 アルトが天峰に尋ねる。 「最初から狙いは俺たちだったらしいな。好都合だ」 5階のメインフロア。そこにいるのはアルト、天峰、そして擬態を解き放ったDICの群れだった。 「2対20でやるにしては少し狭いな。ここを出るぞ。外に広い敷地があった」 天峰が周囲を見渡しながら言う。 「でも下に行く階段もエレベーターも奴らの向こうですよ?」 「ここは5階だな?」 天峰が確認するように言う。 「そうですけど」 「窓から飛べ」 至極当然のように言い放った。 「…下手したら脚が折れますよ?」 「折れても戦え。お前銃なんだから問題ないだろ」 「大ありですよ!」 そこへDICが口を挟む。 「おいてめぇら!なにゴチャゴチャしゃべってんだよ!俺たちゃてめぇらをとっとと始末して、上にいる人間どもを食い尽くしてぇんだよ!」 天峰が大きなため息をつく。 「DIC風情が、俺に気安く話しかけるな。反吐が出る。消してやるから、さっさと来い」 「野郎ども!ぶち殺せ!!」 アルトと天峰はガラスを突き破って飛び降りた。 決して語られることない歴史の中に記される、「ブカレスト事件」。その最終舞台が、始まった。
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ぐおぉ^^; - 翼無き天使 (男性) - 2007年09月18日 (火) 01時59分 [693]
まだ戦闘が始まらない^^; どこまで延ばす気だ!と自分で自分に突っ込んでますorz 今回の感想は、マイヤは敵に回したくないということですかね。斬られます。
だいぶ最初の方から文章を追うと気づくと思うのですが、今のこの話はアルトがフランスでの任務を終え、帰りの列車の中で思い出している回想なんです。 あんなこともこんなことも書きたいな〜とズルズル来てしまいました^^; いつになったら時間軸が現在になるのでしょう^^;
次こそ!次こそは戦闘に入る!! はず^^; では
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ほほう - ベールゼブブ (男性) - 2007年09月18日 (火) 13時14分 [694]
マイヤさん痛快^^;
とうとう刀の名称が決まったんですね^^ さすがに「ムラマサ」とか「マサムネ」だったらまんますぎますしねえ・・・。っていうか呪われてそうだし。「千鳥一文字」ですね^^壮麗な印象です。
BGMは何かけましょう!?ヴェルディのレクイエム「怒りの日」(バトロワのBGM)にしましょうか、それともドボルザークの新世界第4番にしましょうか、それとももっとストレートにワグナーのワルキューレの騎行にしましょうか!?(別にそうたいして大事じゃねえ)
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