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ルル - ベールゼブブ (男性) - 2009年01月19日 (月) 18時43分 [867]
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改めてルルは石の文字に向かった。先ほどの言葉を呪文のように唱え、そのうちにルルとは別の声が重なっていく。幼い少女の声に、流れる山水のように清らかな声が。やがて石の上に、ルルを大人にしたような、よく似た女性の姿が浮かび上がる。そこで、二人の声が止まった。 「私は悠久の時を刻む巫女。最後の運命を託された、祝福の巫女。これを見ているということは、私の魂が解き放たれたということなのでしょう」 その姿は半透明で、石から放たれた映像。その目は全てを見ているようで、何も見えてはいない。 「私たち姉妹は、魔王ゲルグマイアスを封印し、監視するために使わされた巫女。後世に生まれるであろう私の生まれ変わりの為、ここに私の姿を残しておきます。私は自ら困難に向き合い、苦行に耐えることを運命づけられました。きっとこれを見ているあなたは、私として引き継がれた運命に迷っていることでしょう」 一同はじっと、彼女の声に聞き入っていた。一言も聞き漏らすまいと。 「私に与えられた苦行の運命は特別な意味を持っています。それは、世界を変えること。姉たちには決して与えられることのなかった、未来を変える力。それ故に私は、過去の記憶を残されることも、未来を読みとることもなく、それでいて今だけに固執して生きることもないまま、己の運命を悠久なる時のなかで見つめる道を進んでいるのです。これを見ているのが何百、何千年後の私なのかは私には分かりません。ただ、忘れないで下さい。魔王の封印は500年ごとに少しずつ解けていることを。そしてもし魔王が復活を遂げてしまったときに、私の未来を変える力が未熟であるならば・・・・・・、姉達とその命を賭して、再度魔王を封印に追い込むことを」 ルークとマゼンダは呼吸を忘れた。アーサーはへなへなと座り込み、フォルクとミリアはその様子を混乱しながら見つめる。その中でただ一人、ルルだけが平然と構えていた。 「私は悠久の時を司る巫女。私の魂は魔王を完全に滅ぼすまで、生き続けるのです。世界の運命を握っているのは姉たちではなく、私。永久に刻む時の流れを守り、栄えある世界の為に」 そう言葉を残して、巫女の姿は消えていった。直後、石板の欠片がそっと、ルルの手に下りてきた。マゼンダがずっと持っている、あの石板の欠片が。 フォルクはそっと石に近寄り、興奮気味に言う。 「これは・・・・・・前代未聞だ!! まさかこんな仕掛けがあったなんて!! 学術的にもこの遺跡は価値があるぞ!!」 「ちょっとフォルク!!」 ミリアにたしなめられ、フォルクは黙り込んだ。 陰鬱とした、ルーク達の表情。それでもルルの表情は変わらなかった。 「あ〜、長かったわ。あたし疲れちゃった。町に戻ろ?」 「ルル・・・・・・」 ルークは少女の笑顔がいたたまれなかった。 魔王封印のため、幼い少女が命を犠牲にするかもしれない。 苦難を強いられた巫女の生まれ変わりとして、運命に抗うことはできない。 残酷な運命に、少女の心が傷つけられないはずはない。 これまで4人は死を覚悟して様々な敵と戦ってきた。だが自分たちはその都度助かり、結局死ぬことなくここまでやってきた。自分たちは決して、この旅で死ぬことはないと思ってきた。明日どうなってるか分からないのに。 だがそんな自信も考えてみれば、いや、考える間もなく、全く根拠のない自信だった。所詮、選民思想からくるエゴイズムに他ならない。 目の前の少女が、それを、良くも悪くも証明してしまった。屈託のない笑顔を浮かべる少女が。ルークの目から涙が零れた。 「やだ、ルーヌ、泣いてるの?」 ルークはしっかりとルルの体を抱きしめる。少女の華奢な胴体を折らんばかりに。 「ルーヌ・・・・・・そんな悲しい顔しないでよ。あたし、そう簡単に死んだりなんてしないわ。だって、みんながいるじゃない。ルーヌもマゼンダさんも、お兄ちゃんも。だからあたし、ここまで来れたんじゃない」 「そうだな・・・・・・。そうだよな・・・・・・」 ルークは涙を拭き、ルルを離した。 「お前は、私と先生とアーサーで守る。絶対、お前を死なせるようなことはしない。だから、お前も、絶対生きろ」 少女はしっかりと頷いた。
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打ち明け - ベールゼブブ (男性) - 2009年01月19日 (月) 19時10分 [868]
町に戻り、ルーク達は町長にあいさつを済ませた。遺跡のことはフォルクに頼み、巫女の事は伏せることにして。 「成る程、なかなか興味深いな。古代文字が書かれた石か。学術的価値はありそうなのか?」 「大変趣深いとは思いますが、なによりも1500年前に金を溶かして壁に貼り付ける技術があったことが素晴らしいのではないでしょうか? 引き続き研究を続ける必要があると思いますが、なにせ魔物が大勢いますからねえ・・・・・・。ただ、崩れた天井にも文字が彫られてます。ここから何か分かるんじゃないでしょうか?」 そう言ってフォルクは、インキュバスとの戦いの際拾い集めていた遺跡の天井の欠片を差し出した。 「抜け目がないな」 ルークの言葉に、フォルクが目を光らせた。 「よろしい。お前がここまでやるとは思わなかった。見直したぞ。それではミリアとの結婚を認めよう」 「良かったわね」 マゼンダが二人の体を寄せさせるが、二人は浮かない顔をしていた。 「そのことなんですけど・・・・・・」 フォルクがまた言葉を濁したが、ミリアが続きを言った。 「パパ、結婚のことは見送ろうと思うの」 当然驚いたのは町長だけではない。町長はどういうことか、と尋ねた。 「あたしはフォルクのことを嫌いにはなってないはずよ。だけど、自信がなくなったの。本当にあたしはフォルクと一緒になる資格があるのかって」 「僕もなんです。今回ルーヌさん・・・・・・」 ここでルークに睨まれ、フォルクは慌てて訂正した。 「ル、ルークさん達に手伝ってもらって遺跡の研究をしている際、魔物の誘惑にお互いやられてしまって」 「いくら魔物の魔法だからと言っても、お互い他の人に惹かれてしまったんだもの。ワガママなのは分かってる。だけど、もう少し頭を冷やそうって思って。あたしたち、やっぱり軽はずみだったわ」 そうか、と町長はため息をついた。 「まあ、そう思ってくれただけでもいいとするか。本当に娘が迷惑かけました。お礼といってはなんですが、また温泉にゆっくり浸かっていって下さい。代金は私が出します」 喜ぶマゼンダとルル、そしてその横で明らかに笑顔が引きつっているルークとアーサーだった。
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La Lune de Coeul - ベールゼブブ (男性) - 2009年01月19日 (月) 20時42分 [869]
ルークは月が照らす中、温泉着に着替えて個室の露天風呂に入り、町でのことを思い返して一人ため息をついていた。 「全く・・・・・・今日はろくな目にあわなかったな。覗きには覗かれるは、アーサーに焦がされるは、ワガママ娘のお家騒動に巻き込まれるは、悪魔に襲われかけるは・・・・・・」 ふと、ルークは袖をまくった。 「しかし、私も鍛えられたものだな」 「ルーヌ、いる?」 不意に隣の部屋からアーサーに声をかけられ、ルークはぎょっと震え上がった。 「ど、どうしたアーサー!?」 青年の静かな笑い声が聞こえる。 「君、最近『ルーヌ』って呼んでも怒らなくなったよね」 「そうか? さっきフォルクにそう呼ばれたときはムカついたけどな」 「その前からずっとそう呼ばれてたの、気づかなかった?」 その口調から、いつもの穏やかな青年に戻っていることが分かり、ルークは体の緊張を解いた。明らかに遺跡で狂って笑ったときと違う。 「いちいち怒っててもキリがないからな。もう諦めた」 「そう? まあ、そういうことにしておこうか」 「そういうお前はどうなんだ?」 青年は暫く唸っていたが、答えた。 「遺跡で暴れたらスッキリした。今思えば怒るだけ無駄だったかなって思うよ。どうせ誰かさんに水浴びを覗かれた責任を取って貰わないといけないんだし」 「まだ根に持ってたのか!? あれは不可抗力だって・・・・・・!」 「忘れられるわけないでしょう。まあ、あの時も今回も本気で『川に沈めてやろうか』とか『火山の火口から突き落としてやろうか』とか考えましたけど、今となってはいい思い出」 暫く辺りが静まり返った。ちゃぷん、と水の音が聞こえてくる。 「綺麗な月だね」 アーサーが話題を変えた。ルークも湯船から立ち上がり、月を眺める。 「月は魔術を行うにあたって重要な意味を持つんだ。昔話では魔術の女神が月に住んでるって書いてあった」 「私も読んだことがある」 アーサーがくすくすと笑い出した。 「ラ・ルーヌ。月。君の名前だね」 ルークはじっと、月を恨みがましい目で睨み据えた。 「私は、その名前が嫌いだ。月は今の女そのもの。太陽という名を冠した男がいなければ自分も輝けない。だから私は男になりたかった。自分の輝きを見いだすため」 ちゃぷん、と隣から水の音が聞こえた。 「確かにね。でも本当に月は太陽の光を浴びて輝いてるだけだと思ってる? 月自身は何も役に立たないって思う?」 「そうだ」 「それって、違うと思う」 ルークは怒りに任せて生け垣を押しのけた。 「何が違うものか!!」 アーサーは驚いてルークのほうを向いた。ルークはぎょっとして生け垣を戻し、生け垣越しに平謝りを始めた。 「すまない!! つい頭に血が上って・・・・・・!! 本当にすまない!!」 「そんなに死にたきゃ、本当に地獄を見せてやりましょうか?」 「すまない!! この通りだ、謝る!! 勘弁してくれ!!」 ルークは必死に土下座をしていたが、返ってきたのは愉快そうな笑い声だった。は? とルークは顔を上げる。 「冗談だよ。もう二回も見られてるんだから。で、どう違わないって?」 「あ・・・・・・いや、その・・・・・・月はいつも青白い顔をしていて、死にゆく人間みたいに弱々しい。まさしく女そのものだ。男は女に手弱女を求める。男は女に何もできないようにして、女をいいなりにし、虐げてきた。だからそんな女になりたくはなかった」 暫く夜の静寂が、水の音だけを残して辺りを支配していた。その長い静寂を、アーサーがうち破る。 「でも、月が自分で輝いていたら、夜がなくなる。そうなったらどんな動物も――人間もそうだよ――眠れなくなってしまう。それに、月の満ち欠けが太陽のお陰で出来ているからこそ、暦が作られた。結構人間の役に立ってない?」 それに、とアーサーは続けた。 「太陽がなければ自身も輝けない。それって、人間全部同じじゃないかな? 誰だって一人じゃ輝けないんだよ。僕だって、君の光に照らされているに過ぎないんだ」 ルークははっとした。また、辺りが静まり返った。 「ねえ、ルーヌ」 また、アーサーが呼びかける。 「そっち行ってもいいかな? やっぱり女性だからダメ?」 「ばっ・・・・・・馬鹿言え!! 覗かれてブチ切れたお前の言えたことか!?」 アーサーはまた、くすくすと笑い、大きな水音を立てた。 「そうだよね。それじゃこのまま上がっちゃおうか」 「待て」 足音が止まった。 「いかがわしいことをしない条件で来てもいいぞ」 アーサーは盛大に吹いた。 「面白いことを言うね。例え君を襲ったとして、僕が腕力で君に勝てると思う?」 「それこそ魔法で・・・・・・」 またアーサーが吹いた。 「魔法っていったって、僕が使えるのは今のところ攻撃魔法と守備力増強魔法だけだよ?」 「なんでもいいから早く来い!! ただの冗談だ」 アーサーは笑った後で、屋根に飛びつき、屋根を伝っていった。幸い腰に巻いたタオルが長く、目のやり場に困ることはなかったはずだが、月明かりに照らされた青年の白い肌に、ルークは見ていられなくなった。青年は伝っていた屋根から飛び降りる。 「そんな無茶しなくても」 「この方が早いだろ?」 そっと、青年が少女の向かい側に座る。 「っていうか、私が行けば良かったな。温泉着着ているんだから誰に見られても大丈夫だった」 「そうだね」 青年が笑った。少女も、初めて青年に心からの笑顔を見せた。
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全くもう!! - ベールゼブブ (男性) - 2009年01月19日 (月) 22時21分 [870]
せっかく珍しいルーヌとアーサーのいい感じな所を書きたかったのに、キー押し間違えて台無しにしてしまうとはっ!! マジうちのPCときたら空気読めないったら!! (何か文句ある?)
あと、最近かなりのスピード更新なことにお気づきかと存じます。いや、大学のテスト期間が近いってのと、ちょっとある都合で来月の真ん中あたりから約一ヶ月雲隠れしてしまうからってのとで、書ける内に書いておきたいのです。 つくづく私は切羽詰まってネタが搾り取れる人です。
ではレス返し
クロネコ様>
メタルギア・ソリッド! どっかで聞いたことがあると思ったら、以前同じくここで小説を書いていらした方でお好きな方がいました。今元気でやってるのかなぁ・・・・・・。
天使様>
マゼンダさんも恐怖キャラだった事実を忘れさせる兄妹です(笑)そのせいで最近マゼンダさんの影が薄くなりかけているため、現在ムチで首くくられそうです。誰かタスケテ・・・・・・。
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うほほ - 翼無き天使 (男性) - 2009年01月21日 (水) 20時32分 [871]
ルーヌとアーサーがいい感じですな^^ ようやく仲直りできたようで、何よりです(笑) これからみんなで一致団結してルルの過酷な運命に立ち向かうわけですな。 頑張れ〜!
私事ですが、RAGNAROKに何となくノってきた(?)ので、もうちょっとしっかり設定を組んで再投稿したいと思います。 ↓のはか〜なりテキトーなもんで^^; 期待は乞わない方向でよろしくお願いします(笑) ではでは
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