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こちら超常現象対策室! - 翼無き天使 (男性) - 2009年09月04日 (金) 01時30分 [1055]
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【第8話】二界堂煉治の奮闘!
「幽霊部員のお前が、いったいどういう風の吹き回しだ?」 俺の横で正座している涼太が、視線は前に向けたまま尋ねてきた。 「……別に。なんとなくだ」 俺も正座のまま答えた。 ここは学校の剣道場。 俺は約1年ぶりの部活動に汗を流していた。この真夏日に防具なんてつけたら、そりゃもうグッショリだ。 「メーンっ!!」 竹刀が防具を打つ音。気迫のこもるかけ声。道場の匂い。全てが懐かしい。 そう、俺は剣道部に籍を置いている。 まぁ実際のところは所属しているだけで、練習に出たことなんて数えるくらいしかない。1年の夏前にはパッタリ行かなくなり、完全に幽霊化していたのだ。 「ほう。なんとなくで部活に来て、なんとなくで部長に実戦形式の総当たり戦を提案して、なんとなくで全勝したのか?」 自分で言うのも何だが、高校生レベルなら俺はけっこう強いと思う。 と言うのも、小さい頃から親父に剣を握らされて育ってきたから、という理由がある。 「まぁ、そんな感じ」 俺の親父は剣術家だ。 なんとも素晴らしく胡散臭い職業だが、その世界ではかなり有名だとか。道場を営む師範に剣術を指南する、つまりは先生の先生というわけだ。 そんな剣術オタクが親父なもんだから、俺も物心がつくかつかないかの頃から剣に触れ、当時はかなり熱中していたと思う。 自宅の道場で毎日のように竹刀を握って親父と手合わせ、という名のお遊びをし、小学生に上がる頃には居合にも手を出していた。 本当にスポーツ気分で、ただ剣を振ってるのが楽しくて、剣の道なんてものはこれっぽっちも志すことはなかったのだが。 そんなある日、俺の親父は母親と一緒に海外に移り住むことになった。 「この国際化の時代に乗じて、剣の道も“いんたーなしょなる”に展開するべきだと思わないかい!?はははははっ!」 とかなんとか言って、フラ〜っと海外へ消えていった。目標は剣道をオリンピックの公式種目にすることだそうだ。 それを境に、遊び相手のいなくなった俺の剣への情熱も、なんとなくフラ〜っと薄れていき、昨日に至る。 「……理由は、あの転校生か?」 でも、今日からは違う。 理由が出来た。強くならなければならない理由が。 どうしたら強くなれるのかを検討した結果、取りあえず過去に蓄積した貯金を増やすことくらいしか思いつかず、今この剣道場に座っている次第だ。 あまりに久しぶりだったので、カンを取り戻すのにだいぶ手間取ったが、取りあえず部の連中に勝てるくらいには力が戻った。 でも、こんなんじゃ全然ダメだ。 火車のスピードはこんなもんじゃなかった。打ち込みも火車のそれと比べたら……。 どうすれば……。どうすれば強くなれる? 悪霊を倒せるだけの力を。美言を守ってやれるだけの力を。 どうすれば手に入れることができる――? 「……ああ、そうだ」 俺は観念したように頷く。 「お前は友達だからな、話しておく。でも詳しくは言えない。国家機密なんだ」 「……恋の病は人を狂わせるとは言え、お前のは少し重症だな」 俺は涼太に、対策室には触れない部分だけ掻い摘んで話した。 美言にも幽霊が見えること。彼女は悪霊退治を生業とする家系であること。偶然出会った俺がそれを手伝うことになったこと。 彼女を手伝うために強くなる必要があること。 「――なるほど。ただの女の子ではないと、なんとなく感じてはいたが。まさかオカルト除霊少女だったとはな」 「ああ。俺もビックリだよ」 「しかし、なんでウチの高校に引っ越してきたんだ?」 「え〜と、つまり、彼女は、その……向こうの高校で理解ある友人に出会えなくてだな。それで……」 「それで、理解あるお前を追いかけてわざわざ転校してきたってわけか」 「……まぁ」 俺は昼休みの劇的な対面の後、美言を屋上に引っ張って問い詰めた。
「なんでウチの高校にいるんだよっ!!つーか同じクラス!?」 「うん、転校してきちゃった♪」 「してきちゃったって、いきなり過ぎだろ!」 「言ったでしょ?向こうの学校には友達いないんだもん」 「でもお前、同じクラスって……」 「迷惑……だったかな……」 「……っ!!……そ、そんなこと、ねぇけど……」 「ホント!?よかった〜!よろしくね、煉ちゃん♪」
といった具合で、結局またいい感じにやり込められた次第だ。 「お前今、青春学生ラブストーリーのフラグが立ってるのに気付いてるか?」 「は?」 「いや、なんでもない」 涼太は一人でニヤニヤしている。 「ところで煉治。悪霊を倒すための強さを得たいなら、その道の者に教わるのが一番じゃないのか?」 「え?」 「だから、こんな汗臭い所で竹刀なんか握ってないでさ、美言ちゃんから教えてもらえばいいじゃないか。彼女強いんだろう?」 ――そうか。 その手があったか! 今まで美言を助けることばかり考えていて、彼女から教えてもらうなんて考えつきもしなかった。 あの火車の胴体を一撃で真っ二つにしたんだ。形にとらわれない実戦剣術は俺より遙かに強いはず。 「……涼太、悪いけど俺――」 「ああ、わかってる。行けよ」 俺はザッと立ちあがる。 「部長!今日はこれで上がらせてもらいます!お疲れ様でした!」 「……お、お疲れ」 呆然とする部長。俺は一礼して道場を後にした。 「ふっ、恋は盲目とは、よく言ったものだ」 「津島先輩、あの人誰なんですか?」 「あぁ、そうか。1年生は知らないんだな」 「部長や津島先輩より強い人がいたなんて驚きです。余裕で全国行けますよ、あの人」 「なに、かつて神童と呼ばれ、一人の少女に心奪われた、ただの天才剣士さ」 「……?」
◇
「室長、入りますよ」 安倍がノックの後、室長室のドアを開けて入ってくる。手には数枚の書類を持っていた。 「や〜っと調べがつきましたよ」 「そうか、間違いないか?」 千代子はタバコを片手にパソコンから安倍に目線を移した。 「ええ。間違いありません」 そう言って書類を千代子に向けてデスクに置く。 「二界堂煉治は、明月厳達(Akatsuki Gentatsu)の嫡子です。本名は二界堂秋昂(Nikaidou Akitaka)。まさか厳達が偽名だなんて思わなかったんで、苦労しましたよ」 「ご苦労」 「現在は夫婦で海外、主にヨーロッパ諸国を放浪しながら剣術を布教して回っているそうです」 「ふん、あの道楽小僧め……」 千代子はタバコを灰皿に押しつけて書類を手に取る。 「しかし、煉治があの厳達さんの息子とはねぇ。世の中、妙な因果で繋がってるもんですね」 「……これも宿命、か」 「まぁ、煉治は見込みあると思いますよ。調べたところ、中学までやってた剣道と居合の実力はかなりのもんです」 「大方、おもしろ半分で厳達にしごかれたんだろう」 「でも、所詮はお遊びスポーツ。実戦でどこまで活かせるかはわかりませんが、美言も気に入ってるみたいですし、成長すれば突っ走りがちなあいつのいいサポート役になるんじゃないですかね」 千代子はまたタバコを咥えて火を点ける。今日はこれで3箱吸いきった。 「……安倍、京都本家に紫電が完成し次第、こちらに届けるよう連絡しておけ」 「紫電計画は、かなり難航してますよ。霊魂の定着が上手くいかない上に、完成しても使い手がいないってんで凍結案まで持ち上がってます」 「馬鹿な、凍結など許さん。使い手もたった今見つかったから完成を急がせろと、本家の腰抜けどもに言っておけ」 「……煉治に持たせるんですか?今のあいつに扱えるような代物じゃないですよ、紫電は」 「棚に飾っておくよりは役に立つ」 「了解しました」
◇
早々に部活を切り上げ、更衣室でシャワーを浴びた後に美言を探すと、彼女は教室で数人の女子と笑いながら会話を楽しんでいた。 意外、だった。 友達がいないという彼女の言葉から、一人で寂しそうにしている美言を勝手に妄想、もとい想像していた俺は、その光景に甚だしく意表を突かれた。 ガラッと教室のドアの開ける音に、美言とその取り巻きの視線が集まる。 取り巻きの構成要素を分析した結果、4組の女子2人と2組の女子1人ということが判明した。 「あれ、煉ちゃん!もう部活終わったの?」 「お、おう」 どうする!こいつが他の奴と一緒にいるのは予想外だった。 ここで俺が美言を連れて教室を去ってみろ!転校前に偶然知り合い、彼女が困っているところをちょっと手助けしてあげたという、あながち間違いでもないが極めて無難で自然な現在の設定が崩れてしまうのは必然だ! 明日にはここにいる女子によって、俺が放課後に転校初日の純真無垢な美少女を呼び出した、なんて噂が広まってしまう! そんなアクティヴな行動は断じて俺のキャラクターではない! いや、確かに美言を異性として意識していないと言えば嘘になるがしかし!それは現段階では保留事項であるわけで! どうする!?なんとか当たり障りのない理由をつけて、美言をこの場から……。ダメだ!転校初日の女の子にもちかける用事っていったい何だ!? 一般的学園生活に基づく想像に則って話を進めるなら、まず間違いなく一目惚れからの告白とかそんなことに発展するに決まってる! あぁ、いったいどうしたらいいのだ。ここは一旦退いて、帰り際に捕まえるか? しかしこいつらと一緒に帰ったらどうする。どうする?どうする!? ――以上の脳内論争。時間にして約1.5秒。
「そっか。じゃあ一緒に帰ろ!」
「はっ?」 「えっ?」 俺と取り巻きの女子の両サイドが一斉に驚きに一文字を口にした。 「じゃあみんな、また明日ね!今日は話せて楽しかった!バイバイ!」 鞄を持ってタタッと俺の方に駆け寄ってくる。 お前……! 俺が今、必死に無難で誤解のない連行方法を模索していたというのに!なに思いっ切り水の泡にしてくれてんだよ! おまけに偶然の顔見知りという設定まで見事に完全破壊してくれたなこのやろう! 取り巻きの女子3人の介意の視線が俺に浴びせられる。彼女らの言わんとしていることは、言葉にしてもらわなくても顔を見れば大方想像できた。 右から順番に、「この二人、どういう関係なの?」、「なに?この二人付き合ってんの?」、「二界堂くんってそんなキャラだったっけ?」だ。 そんな彼女らをよそ目に美言は俺の腕を掴んで引っ張っていく。 俺はこれ以上無駄な抵抗を思慮するのを諦めた。どんなに俺が普通の関係を装っても、こいつが全て、無自覚に、しかも満面の笑みで破壊してしまう。 「わ、悪い。じゃあ、また、明日」 俺はぎこちなく引きつった苦笑いを顔に貼り付けて教室を後にした。 「……ねぇねぇ、あの二人って付き合ってるの?」 「さぁねぇ。でも明らかにただの友達じゃないよね。転校初日だし」 「転校前から知り合いだったらしいよ。なんでも、美言ちゃんが不良にナンパされてるところを二界堂くんが助けたんだって」 「え?あたしは事故に遭いそうな美言ちゃんを二界堂くんが間一髪で救ったって聞いたよ?」 「……二界堂くんってそんなキャラだっけ?」 「……う〜ん」 (第8話完)
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お久しぶりです。 - 翼無き天使 (男性) - 2009年09月04日 (金) 01時40分 [1056]
そうでもないかな? 第8話になります。 幽霊嫌いの煉治が幽霊になっているという、ギャグ半分の前半と、相変わらず美言に翻弄されっぱなしの後半です笑 中継ぎとして、なにやら煉治の新しい武器が登場する予感……。 いったいどんな武器なんでしょう。 オレにもサッパリです笑
では、9話も追々。
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なんつーか - ベールゼブブ (男性) - 2009年09月05日 (土) 14時29分 [1057]
相変わらず涼太君は面白いな☆ っていうかミコトちゃんたら^^; レンジ君、いろいろガンバレと思う今日この頃でした。
では☆
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