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ドラゴンクエスト・ファイナルファンタジー小説投稿掲示板


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(注)最近ここをチャット代わりに使われている方がたくさんいます。
チャット代わりに使われますと、せっかく一生懸命小説等を書いた方の内容がすぐに流れて見れなくなってしまいます。
ここは小説やストーリー、詩、日記などを書くところですので、チャットはこちらにてお願いいたします。

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  RAGNAROK - 翼無き天使 (男性) - 2009年03月24日 (火) 05時43分 [888]   
 
†Report3

キルリア地方は、ザクセン連合共和国の西端部にある農業地帯で、デビルハンター協会のある首都レイアスターからは車で約半日かかる。
公共の移動手段ではその途中までしかいけない、いわゆる田舎である。

この地域は、世界最多の信者を抱えるプロメス教の、敬虔派と呼ばれることさら信仰心の強い信者が大半を占めている。
一般人にとって見ればただの熱血的信者の集まりに過ぎず、全くもって何の問題もないのだが、デビルハンター協会にとってこの事実は、非常に厄介な問題に繋がる。

言わずもがな、悪魔討伐に関してである。

プロメス教会は、デビルハンターと肩を並べる武力集団を影で保有しており、簡単に言えばデビルハンター協会とプロメス教会とで縄張り争いをしているのだ。
たかが宗教集団と言っても世界最大級。情報網は広く、多くの信者からの寄付によって活動資金も潤沢。
唯一絶対の神プロメスの名の下、神罰代行人を名乗って遙か昔から悪魔と闘ってきた。

それがプロメス教会の誇る対悪魔戦闘部隊、「エクソシスト」である。

〓〓〓

キルリア地方、ローゼンブルア村。

すでに陽も落ち始めようとしているとき、一人の少年が誰もいない閑散とした教会で跪き、手を組んで祈りを捧げていた。

「あぁ神よ。私はやっとの思いで誉れ高き神罰代行者であるエクソシストになれたというのに、未だに一度も聖戦に赴かせてもらえません」
夕日に光る十字架を見上げながら、少年は嘆く。

「私がまだ若いからですか?例え若くても、実力が認められたからこそ教皇様も私をエクソシストとしてお認めくださったのに!」
思わず絡め合わせた指に力が入った。

「これでは何のためにエクソシストになったのかわかりません!私が、私がエクソシストになったのは、力なき民を悪魔の手から守るためです!こうして毎日をただ何もせずに浪費し続けるためではありません!」
そこまで言うと少年はザッと立ちあがる。

「今日こそは、今日こそは私も聖戦に参加し、必ずや邪悪な悪魔に神罰を下して見せます!」
少年は踵を返し、決意の眼差しをギラつかせながら教会を後にした。

〓〓〓

「なぁ、その、なんだっけ、ローゼンなんとか村はまだなのか?」
草と木しかないただただ広い平原を、真紅のスポーツカーが猛スピードで奔り抜ける。
その車の助手席で、やることもなく退屈そうな顔のヴィンセントが尋ねる。

「ローゼンブルア村。あと2時間くらいね。着く頃には陽も沈んでるでしょうから、取りあえず宿を探しましょう」
アクセル全開で車を飛ばすセシリーが答える。彼女のサングラスには朱い太陽が映っていた。

「宿?ポイントはまだわかってないのか?つーか、今回はどんな依頼なんだ?」

「資料読んでないの?」

「口から聞いた方が早い」
セシリーは溜息をつき、タバコを取り出しながら、依頼の概要を掻い摘んで話す。

「依頼主はローゼンブルア村の南に位置するコルツ山の地主。コルツ山は昔から金鉱で有名なの。依頼主はその金鉱の採掘を一手に仕切ってるってわけ」

「なるほど。ところが最近得体の知れない化け物に邪魔されておちおち金も掘り出せない、と」

「そう。お抱えの兵士たちじゃ歯が立たなくてお手上げみたいね」

「それで、推定ランクA(−)の根拠は?」

「まず、通常兵器が役に立たない時点でB(−)は確定ね」

「鉛弾じゃな」

「バズーカ砲でも無傷だそうよ」

「ほほう」

「それに、そこそこ高等な魔術も使うみたいね。依頼主によると、『兵士が突然燃え上がったり、銃弾が透明な壁に阻まれる』とか」

「防御壁、バリアーか。だがA(−)には少し弱いな」

「そしてその姿は、『巨大な竜のようだった』らしいわ」

「――竜?」
ヴィンセントの声に興味の色が浮かぶ。

「そう。分類としては一応ビーストだけど、能力的にはヒューマノイドに引けを取らないわ」

「ふーん。コルツ山の悪魔竜、か。確かに、そいつはアタリかもな」
ヴィンセントがタバコを咥えてニヤッと笑う。

「でも、厄介なのはプロメス教会の連中ね。おそらく竜の噂はあの辺一帯に流れてるでしょうから、教会が気付かないはずがないわ。妙なところで鉢合わせなきゃいいけど」

「こっちの協会とあっちの教会は仲が悪いからな」

「仲が悪いと言うより、向こうが一方的に嫌ってる感じね。もう何百年も前からの確執よ」
セシリーが軽く溜息をつきながら言う。

「向こうの神様を俺たちは実質的に否定する立場にいるからな。実際、天界にプロメスとやらはいない」

「そういうこと。天界の存在を知り、天界に統括されてる私たちにとって、唯一絶対の神プロメスなんてどう考えたって信じられるものじゃないわ。それを向こうは神への冒涜だって言ってるのよ」

「まぁ、同じ悪魔狩りをする人間が、本当の神は別にいるってプロメスの存在を真っ向から否定すれば、そう言いたくもなるわな」

「にしても、あの態度はいけ好かないわ」
向こうが一方的に嫌ってるとは言ったものの、セシリーの声色にも嫌悪が見て取れた。まぁ自分たちを嫌う者をこちらは好く、というのは希だ。

「しかし、世界最大の宗教集団より俺たちの方が神の実態について詳しいとは。何とも皮肉というか、笑っちまうな」

「本当にね。未知を想像で埋めて真実ぶって見せるのは宗教の専売特許。だから宗教は好きになれないわ」

「あんた無神論者なのか?」

「その質問はナンセンスね」

「……――確かに」

〓〓〓

「司教!」
少年は勢いよく執務室の扉を開けるや叫んだ。

「ど、どうしたのかねカロッズ。ノックもしないで」
机に座った司教は、ペンを持ったまま驚いてカロッズを見つめる。

「私を今回の聖戦に加えてください!」

「ああ、そのことかね」
司教はやはり、と困った顔をした。

「カロッズ、君はまだ若い。というより幼い。実戦はまだ早いのだよ」

「司教、私はもう18です!それに私だってエクソシストの一員のはずです!」

「カロッズ、我慢だ。もう2年もすれば誰も文句は言うまい」
司教は宥めるように言う。

「2年?あと2年もこの田舎で何もせずに生きろと言うんですか!私は史上最年少でエクソシストになったんです!聖戦に参加させてもらえれば、必ず悪魔を討ち倒してみせます!」

「それだ、カロッズ。その有り余る実力が、お前を思い上がらせ、油断させ、死に至らせる。悪魔との戦いはそんなに生易しいものではないのだよ。悪魔は強く、邪悪で、狡猾だ」

「しかし……!」

「今はお前の力をしっかりと自分のものに昇華し、強い精神を養うのだ。そうすれば、いずれお前はきっと素晴らしいエクソシストになれる」

「……わかりました」

「おお、わかってくれたか、カロッズ」

「では、失礼します」
そう言ってカロッズは執務室を出た。バタンと閉めた扉に寄り掛かる。

「それでも私は、この力を神のために振るいたいのです……!」
そう呟いて拳を握りしめる。

「司教、言い付けを守らない私をお許し下さい」
カロッズは手を組み扉の前で祈ると、足早に外に出た。すっかり陽も沈み、辺りは暗くなっていた。

ひとまずは宿舎に戻ろうと歩き出すと、前方から二つの光が見えた。すぐに車だとわかった。そのまま歩き続けると真っ赤な車はカロッズの横で停止した。
運転席には車と同じ真っ赤な髪の女、助手席には男が座っていた。

「少年、宿ってどこにある?」
助手席の男がカロッズに尋ねる。

「ここを真っ直ぐ行って突き当たりを右に行くとすぐです」

「そうか。ありがとよ」

「こんな田舎に何をしに?」

「ん、なに、ちょっとしたアテのない観光さ」
男はニヤッと笑う。

「ははは、だったらここはハズレですね。何にもないところですけど、ゆっくりしていって下さい」

「ああ」

「神のご加護があらんことを」
カロッズが祈ると車は走り出した。

〓〓〓

「あの子、教会の人間だったわね」
突き当たりを曲がるところまで来てセシリーが言った。

「ああ。しかもエクソシストだ」

「!……どうしてわかったの?」

「あんたの位置からは見えなかっただろうが、左の人差し指に十字架の指輪をつけてた。エクソシストの証だ」

「あんな子供が……」
車は宿の前に停車した。

「こりゃ、本格的な対面も近いかもな」


  は、いけない - 翼無き天使 (男性) - 2009年03月24日 (火) 05時58分 [889]   

もう朝だ〜。
外が明るいよ〜。

というわけで第3話です。
プロメス教は、まぁカトリックだと思ってください。

ではでは

  あは☆ - ベールゼブブ (男性) - 2009年03月24日 (火) 09時16分 [890]   
所詮仲が悪いのも似たもの同士だから、と心理学がゆってました☆
私も某カルト宗教団体からしつこい勧誘を受けたことがありますので宗教が天敵です。ああ自己矛盾。天を語る向こうを、天を信じない私が「天」敵と。

あ。マゼンダさんからキャッチが入りました。

「18歳のボウヤなんてかわいいわね」

色々な意味でうちのマゼンダさんは相当ヤバいと思いません!!(血の涙)

では。

  実験 - 翼無き天使 (男性) - 2009年03月24日 (火) 21時46分 [891]   

やはり適度に間隔を開けた方が読みやすいのかな・・・?
でもその分長くなるしな〜。
どっちがいいのだろう。


  放浪 - ベールゼブブ (男性) - 2009年03月23日 (月) 19時57分 [885]   
   見えてきたのは大陸。その隣の小島からのろしのように浮かぶ煙が見えた。
「あれか!?」
「もう少し急いでくれない!?」
 単眼鏡を交互に渡し合うルークとマゼンダの横から船長が大声を上げた。
「面舵イッパァァァイ!!」
「アーー!!」
 船の速度が上がった。

「おお、やっと助けが来たか!!」
 真っ白な髭を携えた老人が船に駆け寄ってきた。
「って海賊か!? あああ、儂らはここで終わってしまうのか!! フローレンス、ローラ、父さんを許してくれ!!」
「あの、あなたフローレンスさんとローラさんのお父さんですか?」
 老人はルークの顔を見上げて目をしばたたいた。
「はて。娘達は海賊に知り合いがいましたかな?」
「まあ、大した知り合いってわけじゃないんですけど・・・・・・詳しくは町に帰ってから」
 ルークはアーサーに目配せをし、アーサーは陣を描いてぶつぶつと呪文を口にし、
「ルーラ!!」
 と力強く魔の言葉を放った。

「フローレンス、ローラ、連れてきたわよ!」
『パパ!!』
 双子は父の元へ駆け寄った。
「どうしてたの!?」
「よかった!! 帰ってきてくれて」
「元気にしてたか? 心配かけたね」
 父は双子の姉妹の頭を優しく撫でた。
「本当にありがとう。無事に帰ってこられてのはあなた方海賊のお陰だ。まさか船乗りが海賊に助けられるとは」
「正式にはあたしたちは海賊じゃないんだけど・・・・・・まあいいわ」
「でも、何であんな島に難破してたんですか?」
 アーサーの問いに、老人は笑いながら答えた。
「いや、船に乗っていたら突然大烏賊に船をひっくり返されてしまって、船の破片になんとか捕まって泳いでいたところ、気づいたらあの島に流れ着いてしまって。なんとか気づいてもらおうと周りの木を切り倒してはのろしを上げるのに使っていたんだが、考えてみたらあっちの方まで船を出せるのは儂の船だけだったことに気づいてな。ダメもとで上げた甲斐があったものだな」
 やはりあの大烏賊か、と一同は思ったが、ルークには一つ気になる事があった。
「キメラの翼とか積んでなかったんですか?」
 ルークの素朴な疑問にまた老人は笑った。
「お前さんも海の男ならわかるだろう、坊主。船乗りたるもの、散り行くときは船と一緒。それが海の掟というものだ」
 そういうもんですか、とルークは苦笑いをしたと同時に、老人の言葉に何か違和感を覚えた。
「えっと船長さん、この子、女の子なのよね」
 マゼンダの横やりにルークはようやっと違和感の正体に気づいた。
「女の子? だと? すまなかったねえ、気づかなかった。てっきり儂は男の子だと・・・・・・」
「ほんとですか?」
 てっきり嫌な顔をされると思っていただけに、ルークの笑顔の意味が分からなかった船乗りの老人だった。

「あら、ロクにお礼も貰わずに出ていくつもり?」
 夜の町を一人歩く影に、マゼンダは声をかけた。
「用は済んだだろ?」
「お礼ぐらいはさせなさいよ」
「押しつけがましいのはゴメンだ」
 ふふ、とマゼンダは笑いながら海賊の頭の方に歩み寄る。
「素直じゃないわね。まるでルーヌみたい」
「知った風な口きくな。お前達から礼を言われるいわれなどない。ただの海賊の気まぐれだ」
「あらあら。かわいいじゃない」
 笑うマゼンダの口を、海賊の大きな手が塞いだ。
「黙れ。他人に勘違いされたらどうする」
「勘違いって、なんの?」
 その手をふりほどきながら、悪戯っぽくマゼンダが尋ねる。海賊は迷惑そうな顔をしながらふんと鼻を鳴らした。
「お前と知り合いと思われるだけで不名誉だってことだ」
「こんないいオンナそうそういないんじゃなくて? 大体あなたを助けたのもあたしよ?」
「もう忘れた」
 くすくす笑いながら欠けた月を眺め、マゼンダは海賊の隣りに立った。
「月が綺麗ね。満月も綺麗で素敵だけど、欠けた月の醍醐味は周りの星。見て。月に寄り添うように輝く星を」
 海賊もそれをじっと眺め、深くため息をついた。
「一人で輝こうとする女もいるけど、誰かに寄り添って輝ける女もいるわ。どちらがお好み?」
「少なくともこれだけははっきり言える。お前じゃないということは確かかもな」
「どっちよ」
 マゼンダが笑い、海賊もやや照れ笑いを見せた。一通り笑った後でふうと海賊がため息をついた。
「どちらかというとお前のような女はそれほど嫌いというわけではない」
「素直にそういいなさいよ。でなきゃお礼も渡せないところだったわ」
 そういいながらだんだんと近づいてくる互いの顔、そして唇。遠くから聞こえるさざ波の音と潮の香りが二人の距離を更に近づける。しばらく時間が経ち、マゼンダがふっと笑った。
「あたしとキスができるなんて、あんた運がいいわ」
「一生で最悪だった」
 そう言いながらも海賊は微笑んでいた。
「それじゃ俺は帰るぜ。お前も帰った方がいい。生きる場所が海と陸じゃ違いすぎる」
「そうね。またいつか・・・・・・」
 背を向けながら海賊は手を振り、言い残した。
「会えないように気をつけるぜ」
「この天の邪鬼!」
 海賊の背中は夜の町中に消えていった。

  はひ - ベールゼブブ (男性) - 2009年03月23日 (月) 20時27分 [886]   
一ヶ月ぶりの更新がマゼンダさんのロマンスでした。果たしてマゼンダさんに春はやってくるのでしょうかねえ〜?

ではレス返し

>天使様

私も漢字はうちのPCの一発変換並に苦手です。うちのPCは一発変換で「渡しも感じは」って出てきますんで(さりげなく怒り)

私もこないだまで「豪奢」が読めなくて、出てくる度に「ごうちょ」って読んでたんですけど、よく見たら「ごうしゃ」だったというオチ・・・・・・。「奢」が「著」に見えたものでーー;

肉屋に魚をさばけ、とはつまり「紺屋の白袴」ということですか? 献身さとか職人肌を表すことわざ☆

逆にarrrを知っている人は、英語が出来る人の中だとしてもかなりマニアックな部類に入ると思われます。因みに私は英語を結構忘れてる節が・・・・・・。大学の英語の時間に「month」が出てこなかった時はショックでした・・・・・・。

では涙を呑んでまた今度っ!!

  デレ〜ン - 翼無き天使 (男性) - 2009年03月24日 (火) 05時42分 [887]   
きましたねデレデレ^^
もう、素直じゃないんだから〜

そしてルーヌが初めて?男扱いをされて
おめでとうルーヌ!
キメラの翼って飛べるんですか?
とかとかささやかな疑問を投げかけつつ、次回に期待^^
では


  RAGNAROK - 翼無き天使 (男性) - 2009年03月22日 (日) 20時35分 [882]   
  †Report2

夏は過ぎ去ったものの、やはりまだ本格的な秋というわけではないらしく、その日の昼は実に麗らかだった。
ヴィンセントはこれといってやることもなく、活動拠点として構えた事務所「KERBEROS」のだだっ広い部屋の、応接用のソファーで昼寝をしていた。

先日の討伐は全く歯ごたえがなかった。世間を賑わせていた連続誘拐殺人犯。その正体は悪魔だと言うことを彼のパートナーは嗅ぎつけた。
そんな折りに、とある大企業の社長の娘が新たな被害者となって誘拐される。殺された者は5人に上り、これはなかなかの獲物かと心躍らせていたのに。
討伐に向かってみれば、魔力もなく、自己再生もおぼつかない、でかさと数にモノを言わせて殺しを楽しむだけのとんだ雑魚ばかり。

大企業の社長だけあって報酬はかなりのものだったらしいが、ヴィンセントの心は、彼の血は、あんな戦闘では満たされなかった。
早く次の依頼なり任務なりを、相棒が持ち込んで来ないものかと夢現で考えていた。

――ゴンゴン

事務所の扉がノックされた。ヴィンセントはソファーからむくっと起き上がる。

「……来たか」
この事務所を訪れる人間は限られている。人の意識を遠ざける人避けの結界に囲まれているため、訪れて来るのは訪れることができる者のみ。

ゴンゴンゴン

ノックは続く。そう言えば、どこかでこんなシチュエーションがあったなと、彼は扉に向かいながら思った。そして扉のドアノブに手をかける直前に思い出した。
そう、あの時の悪魔は、こんな感じにここで頭を吹き飛ばされたんだ。この自分に。
我ながら妙に芝居がかった登場だったと思う。そんなことを思い出していたら口元が自嘲で曲がってしまった。

「はいはい、どちら様?」
幸い扉の向こうの人物は、こちらに大型の拳銃を向けたりはしていなかった。

「――私、何かおかしなことしたかしら」
セシリー=ルーカス。ヴィンセントに「その手」の情報を持ち込んでくれる、悪魔討伐のパートナー。
真紅という色彩表現がぴったりなしなやかな髪に、びしっと紺のパンツスーツで決め込んでいて、髪の紅がよく映えた。
ヴィンセントの顔を見るなり、彼女はそんなことを言う。どうやらヴィンセントの笑みは自分に向けられたものに見えたらしい。

「いや、ちょっと思い出し笑い」

「思い出し笑い?……あぁ、さっきのノックがこの間の依頼の状況と被って、我ながら凝った演出だったと自嘲してたってわけ?」

「……いつから読心術を覚えたんだ」

「わかるわよ。あなたの考えそうなことくらい。それより、そろそろ入っていいかしら」
セシリーは返事も待たずにカツカツと中に入っていった。ヴィンセントは溜息混じりに扉を閉める。

「相変わらず殺風景ねぇ。少しは部屋を飾ったらどう?」
さきほどまでヴィンセントが昼寝していたソファーの向かいにセシリーは腰を下ろし、部屋をぐるっと見渡しながら言う。

「食って寝るだけの事務所だ。飾ったって意味ないだろ」
ヴィンセントの事務所、KERBEROSは二階建ての建物で、一階は応接室、二階は寝室になっており、風呂やトイレを除けばどちらも広い空間が一つだけという非常に簡素な造りだった。
約30坪の一階にあるものと言えば、4人掛けのソファが2つ、そのソファに挟まれて置かれているテーブル。それに隅に冷蔵庫と、割と大きめのテレビくらいのものだった。

「それで、今日はどういった御用向きで?依頼か?」
ヴィンセントもセシリーの反対側に腰掛けた。

「ええ。それもあるわ」

「そうか」

「嬉しそうね。先の依頼は不満だった?」

「ああ。弱すぎだ。ヒューマノイドの一人でも期待してたんだけどな」
人間に様々な人種・種族があるように、悪魔もまた多種多様な類型がある。猛獣や化け物と呼ばれるような姿から、ほとんど人と大差ない姿まで、その種の豊富さは人間の比ではない。
そして一般に、人に近い姿の悪魔「ヒューマノイド」は強力である。先日の依頼のような「ビースト」というカテゴリーに分類される悪魔より、知性・魔力・身体能力、いずれも遙かに高い。

「冗談じゃないわ。ヒューマノイドがこっちに来たら、被害はこんなものじゃ済まないわよ」
そう言ってセシリーはスーツの内ポケットからタバコを取り出して咥える。彼女の手がライターを探していると、ヴィンセントが指をパチンと鳴らした。
セシリーのタバコはにわかに赤く灯り、煙を立ち上げる。

「ありがとう」

「それも、って言ったな。依頼の他に何かあるのか?」

「ええ。この間の依頼の報酬よ」
バッグから小さな茶封筒を取り出してヴィンセントに渡す。厚みのある茶封筒の中には紙幣が詰まっていた。

「……これだけか?依頼主は大企業の社長だったんだろ?」

「報酬の5割が協会、2割が情報員の私の分、3割があなた。で、そこから借金返済分を差し引いたのがそれよ」

「まだあるのか。俺の借金は」

「まだまだよ。あなたいくら私から借りてると思ってるの?」

「いくらって、そりゃあ、アレだよ…………いくらだ?」
セシリーは溜息をつく。

「まずは、この事務所の土地代と建設費用、この土地の浄化・結界費用、あとDHA(Devil Hunter Association)加盟費、それにこれもずいぶん前の話になるけど、あなたが無理言って作らせた対悪魔用特注オリハルコン製50口径銃『パンデモニウム』の製造費、プラス諸々の費用を加えると……あと5億くらいね」
手帳を開いてつらつらと借金項目を読み上げる。

「ちょっと待て、そのドコサヘキサエン酸の加盟費とやらは先月の報酬で払ったはずだぞ」

「デビルハンター協会よ。先月払ったのは労災保険の代金。基本加盟費は私が立て替えたままよ」

「あと5億か。長いな」

「その自覚があるなら精を出して働くことね」

「はいはい。頑張りますよ。それで、依頼の方は?」
ヴィンセントが言うと、今度は大きめの茶封筒がバッグから出てきた。

「今回はなかなかの大物よ」

「ほう。よくこの数日で新しい依頼を拾って来れたな」

「優秀なパートナーに感謝しなさい。この依頼が成功すればあなたの借金、4分の1は消えるわね」

「まだ4分の3もあるのか」

「獲物の推定ランクはA(−)」

「A(−)?だったら協会直轄部隊のヘナチョコどもの出番だろ」

「ファルスは別件で出動中よ。だから彼らが戻ってくるまで待てって言われたんだけど」

「けど?」

「そうしたら私の取り分が減るじゃない。それに、彼らに稼がせてあげても借金は減らないしね。ごり押しで許可させて来たわ」

「許可させて来たって。すでに許可という行為の意味が崩壊している気もするが」

「ま、そんな無茶が通るのも今までの私の貢献あればこそだけどね」

「ふーん。優秀な専属情報員だこと」

「で、受けるわね?」
彼女はタバコを灰皿に押しつけながら一応、尋ねる。

「なんで否定の余地が残ってないんだ」

「受けないの?」

「いや、受けるけど。いつまでも借金があっちゃ美味い酒も飲めないからな」

「場所はキルリア地方ね」

「また遠いな。車で半日かかる」

「もう昼過ぎだし、私はこれから任務請負報告をしなくちゃいけないから、明日の朝9時に本部の派遣課で待ち合わせましょう」

「そういえば、キルリアってエクソシストの縄張りじゃなかったか?」

「そう。向こうもこの獲物に勘付いているなら、ちょっと厄介かもね」

「ほほう、なんだか色んな意味でおもしろくなってきたな」
ヴィンセントはニヤリと笑う。

「どうでもいい面倒事は起こさないでよ?」

「ああ、気をつけるさ」

「どうだか」
セシリーは溜息をついた。


  えーと…… - 翼無き天使 (男性) - 2009年03月22日 (日) 20時41分 [883]   

約一ヶ月半ぶりですか?
気付けばこんなに間が空いてしまいました。

いやー実はアパートを変えることになりまして。
引越の準備とか地味に忙しかった、気がしないでもないなーということで第2話です。


  姐さん・・・・・・ - ベールゼブブ (男性) - 2009年03月23日 (月) 15時18分 [884]   
セシリー姐さん、弟子にして下さい^^;(何のだ)
なんか前作のマイヤさんと同じ匂いがしたもので^^;

やっぱり5億は自己破産もん(-_-;)

お引っ越しご苦労様です。


  海上の男達 - ベールゼブブ (男性) - 2009年02月03日 (火) 19時17分 [879]   
  「帆を揚げろ! 船を出せ!」
『アーー!!』
「錨を上げろ!! サンタダニエラ出航!!」
『アーー!!』
 豪快なかけ声と共に、船が港を出る。マゼンダはパイプを吹かしながら、甲板で海を眺めていた。
「本当は豪華客船で愛しの彼と並びたかったわ・・・・・・」
「豪華客船じゃなくて悪かったな」
 後ろからキャプテンがマゼンダにロープを投げた。
「何よこれ?」
「そこの柱に縛り付けるんだ」
「ちょっと待ってよ! なんであたしがそんなことしなくちゃならないのよ!?」
 マゼンダの抗議に、キャプテンが剣を出す。
「この船に乗ったからには船長である俺の指示に従ってもらおうか。でなけりゃ船から飛び込んでもらう」
「・・・・・・ル、ルーヌに任せたら? あの子の方が力仕事向きよ」
「鞭とロープの扱いならお前の方が慣れてるだろ?」
 マゼンダはふうとため息をつき、しぶしぶロープを柱に縛り付けた。
 ルークは大砲の掃除と船体の補修を命令され、しぶしぶやっているところに、マゼンダとすれ違った。
「ちょっとルーヌ!! どうなってるのよ!? なんであたしたちが海賊の手伝いをしなきゃいけないわけ!?」
「あ、やっぱり先生もですか。諦めて下さい。海に落とされたくなかったら。その分帰った後の礼が省けると思えばこれぐらい・・・・・・」
 マゼンダは少しキャプテンの背中を見やり、小声で続けた。
「礼が省けるったって、あたしはともかくあんたは王国の兵士長でしょ!? プライドってもんがないの、あんたは!?」
「・・・・・・先生、グースでメイドの格好させておいてそれはないんじゃないでしょうか?」
 マゼンダは言葉につまり、話題を変えた。
「アーティー達はどうしてるのよ? アーティーに力仕事は無理そうだし、ルルもまだ子供よ?」
「アーサーは航海士のところにいます。家が魔術師一家ですし、占いとか占星術でも手伝ってるんじゃないですか? ルルは航海の無事を添乗の神官と祝詞をあげて祈ってます」
「・・・・・・適材適所、だわね」
「そこ!! 喋ってないで仕事しろ!!」
 突然キャプテンに怒鳴られ、二人は持ち場へそそくさと戻っていった。

 その夜、アーサーは大きく伸びをしながら甲板へ出た。星が綺麗に並んでいる。しかし、一点を見つめた後、慌てて船長室に駆け込み、ドアをノックした。
「船長さん、ごめんください!」
「なんだ、やけに丁寧に慌ただしいな」
 船長は扉を開け、その美顔にうっと詰まった。
「船長の宿星である鎮星が魔星の近くに。何か嫌な予感がします」
 といった矢先、船が大きく揺れた。キャプテンも慌てて甲板へ駆け出す。驚いたルーク、マゼンダ、ルルも甲板のアーサーのもとへ駆け寄った。
「アーサー!! 大丈夫か!?」
「うん。だけど、一体・・・・・・?」
 同じく出てきた船員達が松明で灯した明かりの中出てきたのは、吸盤がいくつも並んだ長い足が何本か。いや、船を取り囲んでいるのだから何本だけではない。その足の間からぬっと現れた本体。烏賊のようなシルエットを見せ、金色に輝く目でこちらを睨んでいた。
「何だあれは!?」
 ルークが剣を構える。
「大王イカかテンタクルスかクラーゴンか。大烏賊属は大きく3つに分かれますが、あれほど大きなものは初めて見ました」
 アーサーがその金色の目を眺めながらそっと呪文を唱えた。
「メラミ」
 大人が抱えるぐらいの大きさの火球が、シルエットに向かって放たれた。大烏賊は眉間を灼かれ、叫びながら墨を吐いた。
「うわあっ!!」
 墨は船員の一人を巻き込みながら、甲板に広がっていった。
「今日はイカスミシーフードカレーでも戴くとするか!!」
 キャプテンが剣を取ったのを合図に、海賊達が一斉に影へと飛びかかっていった。
「いくぞ!!」
 ルークのかけ声と共に、マゼンダ、アーサー、ルルも動き出した。

 波打つ烏賊の足が、船上の数々の剣に切り取られていき、甲板に貼り付きながら落ちていった。
「お料理は得意なのよ!!」
 マゼンダが鞭に宿わせた炎で向かってくる足を灼いていく。辺りに香ばしい匂いが立ちこめていた。
「メラミ!!」
 アーサーの火炎魔法が本体を狙う。船上で漂う烏賊の焼ける匂いに食欲を刺激され、海賊達の士気が湧いた。
「イカ刺し!!」
「イカスミパスタ!!」
「シーフードカレー!!」
 一斉に沸き起こるビストロコールの中、ルークが足を伝って本体に一撃を据える。船長もそれに続き、円月刀で一気に攻めていった。大烏賊は足でルーク達を払いのけようとするが、かわされる。
「なかなかやるな!! 船長!」
「伊達に海賊はやってねえってことだ。海の荒くれ魂、見せつけてやれ!!」
『アーー!!』
 ルークの剣と船長の剣がだんだんと烏賊の体を斬りつけていく。次第に烏賊も耐えられなくなり、一気に船へ倒れ込んできた。
「危ない!!」
 ルークの雄叫びに船長は巻き込まれそうになったことに気づいたが、足場としていた烏賊の足から足が滑り、身動きが取れなくなっていた。
「船長ぉぉぉ!!」
「届いて!!」
 マゼンダの鞭が飛んでいき、船長の体をしっかりと捕らえた。マゼンダはそのまま鞭を振って倒れた烏賊の体の上に彼の体を下ろし、船長が剣で烏賊の体を刺して己の体を支えるに至った。
 船上を歓声が湧く。ルークは烏賊の体から下り、船長も剣を軸にして体を起こし、甲板へ飛び降りた。
「あたしの鞭さばき、なかなかのもんでしょ? 感謝しなさいよ」
「・・・・・・感謝してやらんでもない。お前がそこまで言うならな」
「素直じゃないわね」
 その夜は船員達の期待通り、夕飯は大烏賊の足で彩られていったが、結局大烏賊属のどれだったのかは誰にも分からなかったという。

  Arrr! - ベールゼブブ (男性) - 2009年02月03日 (火) 19時42分 [880]   
ちゃらちゃっちゃっちゃらちゃっちゃっちゃらちゃっちゃっちゃらちゃらん♪

何の曲か分かるかな〜?(爆)

ところでアメリカンジョークに

"Why are pirates so popular?"
"They just arrr!"

ってのがあるんですけど、これってbe動詞のareと、海賊特有の肯定の返事arrrがかかっているっていう理解でよろしいんでしょうか?? だとするとこの場合の訳はどうなるんでしょうかね?

「なんで海賊はそんなに人気があるの?」
「ただ人気がアーー! るだけだよん」

って感じなんでしょうかね?? それとも

「ただ海賊でアーー! るからってだけだよん」

って感じなんでしょうか? 誰か解答・意見求む。

では長々したところでレス返し。

クロネコ様>

前書いてたやつは船酔いを「魔物」に仕立て上げてました(笑)
やっぱいつかリメイクしよっかな。前作。懐かしくなってきた。とりあえずこの後のやつを消化してネタが尽きたときだな。
雷魔法は現時点ではまだ使えないのです。っていうか大王イカとかテンタクルスはまともに倒してると面倒なのでいつもザキとかザラキで一発KOしてますけどね☆

そうそう。吸血鬼は元々黒死病の象徴で、太陽に弱いとか十字架に弱いとかいうのはあくまで後付に他ならないんですよね。主にクリスチャンの妄想って言っちゃうと怒られそうだからやめとこ♪
ニンニクに弱いというのも、ニンニクの滋養強壮作用が健康を増進するからってことで、病の象徴である吸血鬼が逃げていくとされた、という説が主流ですが、元々タマネギだったって説もあるみたいですね。って・・・・・・何吸血鬼を語ってるんだ、私。

なんか、オカルト関係で大いに語れそうですね^^;

天使様>

デレはちゃんと用意してあります☆
がんばってデレさせます^^;
でもルーヌがツンデレを最近サボってるのでどうしましょう!? (主語がルーヌなことに注意)

では☆

追伸: これで暫く更新ストップします。続きは約一ヶ月お待ちを。

  アーー! - 翼無き天使 (男性) - 2009年03月22日 (日) 20時33分 [881]   
船旅は新しい展開ですねー。
っていうか「烏賊」を「イカ」って読むと初めてしりました^^;
最初読めなくて、なんて読むんだこれ!?ってなってました^^;
必至に類推してやっと……

そしてその英語。
ボクに英語を尋ねるなんて。
肉屋に魚をさばけと言ってるようなもんです(爆)
そもそもarrrなんてものは見たことすら^^;
よってボクの回答は「不明」です。


  RAGNAROK - 翼無き天使 (男性) - 2009年02月03日 (火) 04時33分 [876]   
  “この子は魔神の子だ。生かしておくことはできん”

“あなた、悪魔なの?”

“息子を、ヴィンセントを、頼む”

“俺たちは、共に生きていける。みんな平和に暮らせるんだ”

“私と共に来い。私と共に人間界を支配し、天から我々を見下ろす神々の翼を焼き堕とそう。我らで、ラグナロクを成すのだ”

“今日からお前は、デビルハンターだ”

“ここはお互い手を結ぼうじゃないか。お互いの野望のために、な”

“お前は俺が滅ぼす。必ずな”

“終わらせてこい。10000年の因果を”


†Report1

夏の暑さも衰え、少し肌寒さを感じるようになった10月の夜。今宵は運良く満月だった。
満月の夜は魔の力が高まる。最近は骨のない奴らばかりで退屈していたから、今夜の獲物に期待が高まった。
わずかに鼻歌を混じらせながら、彼は「悪夢」を担いで目的地に向かった。

「今夜はいい夜だな」

ブー、ブー

ポケットの携帯電話が振動する。

「はい」

「ちょっと、どこほっつき歩いてるのよ。私もう目的地着いてるのよ?」

「いや、あんまりにもいい夜なんで、ちょっとな」

「ちょっとな、じゃないわよ。早く来て仕事しなさい」

「はいはい。もう見えてる」
視線の先には目的地がうっすら見える。つと見上げればそこには妖しく輝く丸い月。見る者を魅了して離さない。

静寂に支配された明るい闇夜。響くのは彼の足音と陽気な歌。
この歌はいつ作られたんだろう。彼はふとそんなことを思う。そして気付く。10000年を超える大昔だ、と。
墨を流し込んだように黒く深い夜空では、彼の歌で月と星が踊る。この歌を知っているのは彼と月と星、それに太陽くらいのものだろう。

「今夜は本当にいい夜だ。そう思うだろ?なぁ、ナイトメア」

〓〓〓

ディングウォール市北部。

今は誰も使っていない廃屋。夜になれば闇に紛れて見えなくなるはずのその廃屋は、今夜は明かりを灯していた。中で男達の笑い声が響く。

「今日も上玉が手に入ったなぁ」
男の一人がニタついた声で手足を縛られて横になっている女を見下ろす。女の目は恐怖に凍り付いていた。

「まだ手を出すなよ。お楽しみは金をいただいてからだ」

「あぁ、わかってるさ。だけどよ、どうせ金も女も奪って逃げるんだから問題ないだろ」

「女にはたっぷり恐怖をすり込んでやらないとな」

「へへへ。待ってろよ、金をいただいたらたっぷりかわいがってやるぜ」

――ゴンゴン

廃屋の扉がノックされた。

「……誰だ?」

ゴンゴン

「警察か?」

「ばか。警察がわざわざノックするか」

「お前、ちょっと見てこい」

「おう」
男の一人が扉に近づき、のぞき穴から扉の向こうを見る。

「……なんだ?」
のぞき穴の向こうでは、巨大な拳銃が大きく冷たい口を
開け、待ちわびた獲物を前に笑っていた。
そして、銃口とのぞき穴がほんの数十センチの間を隔てて繋がる。

「――なっ!?」

――ドゥン。

「……!!なんだ!?」
男は額に大穴を開け、脳髄を撒き散らしながら後ろに吹き飛び、絶命した。

ギィィと扉が開く。月明かりに照らされた闇夜から現れたのは、右手に銃を携え、身の丈ほどもある長大な剣を背中に担いだ彼だった。

「なんだ、てめぇは……!」

「――こんばんは。お楽しみ中に失礼。そしてさようなら」

男たちは、突如現れ不気味に笑う敵に、悪寒を感じざるを得なかった。

〓〓〓

今日は人生で最もついてない日だと、断言できる。私はそう思った。

学校の帰り道、突然後ろから何者かに襲われ、変な匂いのする布を顔に押しつけられた。そしたらどんどん意識が遠のいていき、気が付いたらこの廃屋にいた。

誘拐されたんだ。私はすぐに気付いた。犯人の男達は全部で8人。みんないやらしい目つきで私を見ていた。きっとこの男達が今騒ぎになっている連続誘拐殺人犯なのだ。
なんで今日に限って一人で下校したんだろう。そんな後悔とともに、きっと自分も陵辱されて殺されてしまう、そんな結末が目に見えた。

そんな時だった。男の一人が扉ののぞき穴を覗いたら、いきなり吹き飛んだのは。
男は、体積の3分の1は失われているであろうその頭をぶらさげて、惨めに地面に倒れ込んだ。細かい肉片が飛び散り、血液が静かに地面をはった。

助けが来たんだ。私はそう確信した。しかし、扉から堂々と一人で入ってくる姿を見て、なんて莫迦な男なんだろうと思った。誘拐犯はまだ7人もいる上に、彼らも銃を持ってる。
そんな所に単身乗り込んで来るなど、無謀もいいところだった。
現に誘拐犯たちはあっという間に彼を取り囲み、出口も塞がれてしまった。彼は誘拐犯たちが作る七角形の中央に立つ。

しかしなぜか彼は冷静さを崩さない。闇夜よりもさらに深い漆黒の黒い髪。その闇の中で輝く満月のような金色の瞳。その彼の顔からは余裕、いや愉悦すら感じられる。

誘拐犯の一人が銃を構えた。

「いったい貴様は誰なんだと聞いたんだ!」

「俺か?俺は、そうだな。言うなれば狩人ってやつだな」
彼はタバコを取り出して咥える。

「……狩人?」

「そう。人間の世界に『いるべきではないもの』を狩って、秩序と平和を守る正義のヒーローさ」
彼が指をパチンと鳴らすと、タバコに独りでに火が点いた。

「もっとも、世間じゃあんまり有名じゃないんでファンは少ないけどな」

「――貴様、デビルハンターか……!」

「連続誘拐殺人犯、通称グレムリン。なかなか上手に人間らしく立ち回ってたみたいだが、プロフェッショナルをなめてもらっちゃ困る。それにしても、グレムリンとはな。よく言ったもんだ」
彼はくっくと笑う。

「知ってるか?グレムリンってのは大昔に実在した悪魔の名前だ。あいつもなかなかの小悪党だった。お前らにはぴったりのネーミングだな。その小悪党ぶりといい、その正体といい。くくく」

「なめるなよ。デビルハンターがたった一人で何ができる」

「ふふん。じゃ、始めるか?ちなみに今夜は満月だ」

「は、そうかい。なおさらあんたに勝ち目はないな。同情するぜ」

「滅多に見れない綺麗な満月だ。死ぬ前に拝んでおいたらどうだ?」

「ほざけ!!」

〓〓〓

あぁ、これは悪い夢だ。

私の脳裏にそんな言葉がかすめる。夢に違いない。これが現実のはずがない。

なぜ彼らの身体は黒いのだ?なぜ彼らの背中から翼が生えているのだ?なぜ彼らの口には牙があるのだ?なぜ彼らの爪はあんなのも鋭く長いのだ?なぜ、なぜ、なぜ、なぜ彼らは人ではないのだ?

一体なんなのだ、この「化け物」は。

悪魔。悪魔だって?そんな莫迦な。
彼を取り囲んでいた誘拐犯は、みるみる人外の化け物に変貌していった。身の丈は2メートルに及ぶだろうか。足の爪が地面を抉り、鋭い牙がぎらりと光る。そしてその黄色い目玉はみな彼を捉えていた。

「さぁ、小悪党かどうかじっくり確かめてもらおうじゃないか」

「ひひ、すぐにグッチャグチャのミンチにしてやるぜ」
彼は手に持っていた拳銃をしまうと、背中にかけていた巨大な剣を掴んだ。

「せいぜい楽しませてくれよ?最近退屈してたんだ」
そう言うと彼は剣にむかって何かを唱え始める。

「――拘束制御魔法陣アポカリプス、第一および第二限定封印解除。目前敵の認識後、その完全抹殺までの間、グラウンド・ゼロ発動――」
彼の剣に、何か文字のような光が浮かび上がり始める。

「こ、こいつ、一体何を……」

「構うな!やれ!」
悪魔たちは一斉に襲いかかった。

「――目標、認識」

〓〓〓

死ぬ。彼は死ぬ。私はそう思って目を瞑った。

あの鋭い爪で、牙で、ボロ雑巾のようにズタズタに引き裂かれ、血液を、肉を、臓物を撒き散らし、無惨な姿で地面に投げ捨てられるのだ。

悲鳴が聞こえる。液体の飛び散る音。何かがグシャッと音を上げて地面に落ちる。腕か脚あたりだろう。

また悲鳴。何かが空を斬る音。血が飛び散る。肢体が落ちる。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴――。

体が震える。もう何が怖いのかわからない。死ぬのが怖いのか。助けに来てくれた彼が殺されるのが怖いのか。血が怖いのか。千切れた手足が怖いのか。無惨な肉塊が脳裏に焼き付くのが怖いのか。飛び散った脳髄が怖いのか。潰れた目玉が怖いのか。
クラクラする。目を閉じた暗い世界がさらに深い闇になる。

音が、止んだ。

私が恐る恐る目を開けると、そこには綺麗と思えるほど滑らかに赤い絨毯が敷かれていた。しかし絨毯の上にはとても綺麗とは言えない肉塊がゴロゴロ転がっていた。

ある肉塊は頭から股まで斬り裂かれ、ある肉塊は左肩から右脇腹まで袈裟斬りにされ、ある肉塊は頭と胴と脚に斬り離され、ある肉塊は五体を斬り飛ばされ、ある肉塊は細斬れにされ、ある肉塊は魚のように三枚におろされている。

彼はそんな肉塊と共に真っ赤な絨毯の上に立っていた。

「なんだ、もう終わりか?」

彼は生きていた。血を滴らせる剣を悪魔に向けて。

「お前も一端の悪魔なら、脚や腕の一本や二本くらい修復して立ちあがれ。使い魔を出して、魔術を使って、闘え」

「こんな莫迦な……!俺たちがたった一人のデビルハンターに……!?貴様、一体何者だ!」
悪魔は切り落とされた右腕の付け根を抑えながら叫ぶ。左足も無かったので地面に座り込んでいた。

「言ったろ?俺は悪魔を狩る正義のヒーローだってな」

「――どうやら片付いたみたいね」
突然、廃屋に一人の女性が入ってきた。細身の体型にグレーのスーツ。髪は血とは違う、鮮やかな紅だった。
ここの惨状にも全く驚かず、カツカツと歩を進める。

「あら、まだ一人残ってるじゃない」
彼女は悪魔を前にしても少しも動じず、タバコに火を点けた。

「ああ。これから止めを刺すところだった」

「なんなんだ……。なんなんだ貴様らはぁぁ!!」

「ただのデビルハンターよ。それ以外の何者でもないわ。もっとも、彼を殺したいなら悪魔の軍隊でも引っ張ってくることをお奨めするわ」

「そういうわけで、さようならだ」
彼は剣を振り上げる。

「――だから月を見ておけと言ったんだ」

一閃。

〓〓〓

「大丈夫?怪我はない?」
悪魔たちを全員倒した後、彼女はそう言って私の口に貼られたガムテープを剥ぎ、身体を縛るロープを解いてくれた。

「あなたたち……いったい」

「難しいと思うけど、今日見たことは忘れなさい。その方があなたの幸せのためよ」
そして彼女は立ちあがって携帯電話を取り出した。

「――あ、私です。依頼は完了しました。はい、もう大丈夫です。娘さんもご無事です。はい」
パチンと携帯を閉じてまたスーツにしまった。

「すぐにご両親が来るわ」

「この有様を見たら気絶するんじゃないか?」
彼が地面に落ちている腕を足で転がしながら言う。

「そんなこと言ってる暇があったら、早く始末しなさいよ」

「はいはい、了解」
やがて複数人の足音が聞こえてきた。

新たに廃屋に入ってきたのは、両親と数人の護衛だった。母が血の気の失せた真っ青な顔で私の所に駆け寄る。
父と護衛は、目に飛び込んだ惨状に呆然としていた。

「あぁ!よかった!本当に無事でよかった!」
母は涙を流しながら私にきつく抱きつく。

親子感動の再会もどこ吹く風で、彼はまた不思議な呪文のような言葉を呟いて、悪魔の残骸を綺麗さっぱり消してしまった。
それが済むと、とっとと廃屋から去ろうとする。

「――あの!」
私は彼を呼び止めた。

「……あの、助けてくれて、ありがとうございました」
深々と頭を下げる。両親も私に続いた。

「礼を言われる筋合いはないぜ。俺は依頼をこなしただけだ。礼を言うなら、高い金払って俺に依頼したあんたの親に言うんだな」
そう言うと彼はまた歩き出す。

「報酬の件はまた後ほど」
そう言って彼女も彼の後を追った。

「あの!」
私は再び彼を呼び止める。どうしても聞いておきたいことがあった。

「お名前を、教えてもらっても、いいですか?」
彼女は忘れろと言ったけど、きっとそれは無理だろう。だったら、助けてた命の恩人の、せめて名前くらいは知っておきたかった。

「――俺はヴィンセント=トライガン。デビルハンターだ」



  まぁ - 翼無き天使 (男性) - 2009年02月03日 (火) 04時42分 [877]   

改訂版というか、なんかもう別物^^;
実は一部分、あるマンガの影響を非常に強く受けているところがあります。
っていうかまぁぶっちゃけパク……
でもいちおう変えたり付け加えたりしてるんで、オッケーかなーみたいな^^;

まぁそんなことは気にせず、多少なり暇つぶしの道具になればと思います。
ではでは

  改訂版ですな - ベールゼブブ (男性) - 2009年02月03日 (火) 15時49分 [878]   
前回よりドラマティックな仕上がりですね
いろいろ伏線がありそうで楽しみです^^
はてさて、どんな展開が待ち受けているのやら。







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