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ドラゴンクエスト・ファイナルファンタジー小説投稿掲示板


ここは小説投稿掲示板だ。
ドラゴンクエストやファイナルファンタジーまたはその他(アニメ、ドラマ)などでも、楽しそうな小説やストーリー、
詩、日記などがあったらとにかく書き込もう。
他人が見ておもしろいと思った内容、自分が思いついた内容があったら、とにかくどんどん投稿してみてくれい。

(注)最近ここをチャット代わりに使われている方がたくさんいます。
チャット代わりに使われますと、せっかく一生懸命小説等を書いた方の内容がすぐに流れて見れなくなってしまいます。
ここは小説やストーリー、詩、日記などを書くところですので、チャットはこちらにてお願いいたします。

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  魔女の森 - ベールゼブブ (男性) - 2008年11月29日 (土) 00時18分 [783]   
   襲いかかってくる魔物。
 黒い覆面を被り、斧を持った殺人鬼(エリミネーター)や箒に乗って飛び回る魔女。
 回復役のルルがいない一行には苦しさを強いられるかと思っていたが、意外にもルイーズが回復呪文を覚えていたのでそれほど苦ではなかった。
「この森は意外に広いな」
 ルークがぼそりと呟いた。
「だね。それに魔物も多い・・・・・・ベギラマ」
アーサーの放った閃光が魔物達を包み込む。エリミネーターは次々と閃光に倒れていった。
「あたしもいくわよ!!」
 マゼンダが鞭を振るって魔女を箒からたたき落とした。
「イオラ!!」
 爆裂攻撃魔法を放ったのはアーサーではなくルイーズ。一同は驚愕の目をルイーズに向けた。
「すごい魔法をお使いで」
 アーサーがそう言いながら近寄る殺人鬼に閃光を投げつける。
「だがそれぐらいにしておけ! 回復が出来なくなったら共倒れだ」
 ルークが二人の間に割り込んだ。
「退けぇぇぇぇぇぇえええぇえ!!」
 ルークは殺人鬼を一気に斬りかかった。覆面の殺人鬼は致命傷を負って倒れた。
「あれよ!! 魔女様の家は!」
 ルイーズが赤い屋根の邸宅を指さした。一同は襲い来る魔物を倒しながら、その邸宅へと急ぎ足で近づいた。

 くすんだ赤い色の屋根と、黒ずんだ白壁。鬱蒼と繁った森の暗さと相まってなお不気味な雰囲気を醸し出す。尖塔の風見鶏に鴉が一羽、四人を見据えていた。
「ほんっと、なんで吸血鬼やら魔女やら怪しい隠遁者は人里離れた辛気くさいところを好むのかしらね。わざわざ出向くこっちの身にもなりなさいよ」
 マゼンダが毒づくや、男の声が聞こえた。
「おい、誰が怪しい隠遁者だ! ペネロペ様を侮辱すると後が怖いぞ!!」
 一同は辺りを見回したが、誰の姿も見えない。
「誰だ!? どこにいる!?」
「上だよ、上!!」
 一同が見上げるも、見えるのは風見鶏の鴉が一羽。鴉は赤い目でじっと四人を眺めている。狡猾な笑みを浮かべるように。
「俺だよ。ペネロペ様の使い魔(ファミリアー)、クロードだ」
「鴉が喋った!!」
 ルイーズが口を手で覆った。
「魔女の使い魔ですね。初めて見ました。古来魔女や魔術師には使い魔を雇う風習があって、その姿は様々に変化すると聞いています。蝙蝠や鴉、狼や黒猫など。既に廃れた古い文化と思っていましたが、ケトル族の末裔はまだ伝統を保っていたようですね」
 アーサーが言い終わる前に鴉が塔の屋根から降り、みるみる人間の姿に変わっていった。栗色の短髪に白と緑を基調とした魔導服を着た十台半ばの少年が、玄関口に立った。
「ペネロペ様に何か用か?」
「あの・・・・・・、姉が病に伏して、それで薬を・・・・・・」
 クロードはじっとルイーズを眺め、踵を返した。
「入れ。嘘じゃないみたいだしな」
 一同は少年に導かれ、中へ入っていった。扉を開けると、そこはかつての礼拝堂だったのだろうか、出鱈目な方を向いている長椅子と教壇、まっぷたつに割られたクロスが見える。一行は更に右奥の扉を入り、廊下を左、T字路を曲がった。その奥の部屋には大きな釜が煙を吐き、その前に佇む長髪の人影が両手を挙げて高らかに詠唱を繰り返していた。
「地獄の魔王、悪魔の王、彷徨える悪霊たちよ! 今ここに我誓いを立てん! 冥界に住まう死霊の王! リンポの支配者! 我が願いを聞き届け給え! スカルミリョーネカルカブリーナ、古の悪鬼(マレブランケ)、ルビカンテバルバリッチャ、今ここに、カニャッツォドラギニャッツォ、奏でるがいい、マラコーダが至高の旋律を!!」
 声が止んだ。
「客人か・・・・・・。何用だ?」
 長髪がゆっくりと振り向いた。ルークより少し年上ぐらいの、若い面もちだった。

  フヘ(鈴○ 拓かっ) - ベールゼブブ (男性) - 2008年11月29日 (土) 00時34分 [784]   
ちょっと今回怪しいです。お気づきでしょうか?色々と元ネタに・・・。
分からない方のために一応注釈を。

魔女と使い魔: 魔女の起源はケルト民族とされています。ドルイド教ですね。というわけでアナグラムとして「ケトル族」として出しました。薬屋として森に籠もっていたのが中世に入るや魔女の見方がガラリと変わってしまい、魔術による呪殺のほうが有名になってしまいました。そのさい使い魔(ファミリアー。子ども服のブランドではない)として目がたくさんあるフクロウやら、目がたくさんある狼やらを使い、偵察に使っていたとされています。
くわしくはご自分で闇の世界に入って見て下さい☆

リンポ: キリスト教における第4の死後の世界。主に洗礼を受ける前に死んでしまった赤子がたどり着く。

マレブランケ: ダンテの「神曲」に登場する地獄の案内人で、極悪人を痛めつける悪鬼。総統はマラコーダ。スカルミリョーネやカニャッツォ、バルバリッチャやルビカンテ、ついでにカルカブリーナはファイナルファンタジー4でお目見えする。それぞれスカルミリョーネ、カイナッツォ、バルバリシア、ルビカンテ、カルコブリーナ。(私4ではカルコブリーナのテーマ曲が大好きです。余談。)

では長々したところでレス返し

天使様>あれ書いてた時はまだハロウィン終わってなかったんですが、もう終わってから一ヶ月ほったらかしですね。ハロウィンは10月の終わりです。ハイ。続きは気が向いたら書くかもしれません。が、下書きノートですら完結してないので終われるかどうか・・・。
まあ、色々あってああなったんだ、とだけ言っておきます^^;
因みにアレ、昔見た夢をモチーフにして書きました。雷の中私は屋敷に迷い込んで、ふと見上げると二階の廊下を歩いていた白い女の幽霊がすーっと歩いていて、と思ったら突然床が崩れて、悲鳴を上げて落ちていくんです。もう笑っちゃって。しかもゾンビの集団に襲われていたのをいつの間にか手に持ってたモーニングスターでばったばったとなぎ倒し、白旗あげさせて・・・・・・ってもういいやww

改訂バージョン何げに見ましたんで、ここで報告しときます。

では。

  追伸でネタバレ少し - ベールゼブブ (男性) - 2008年11月29日 (土) 00時56分 [785]   
むちゃくちゃ後の話題ですが、これが終わった後のやつの予告書きます。映画ちっくなのはご勘弁。

フォールが魔王を倒し、アザトスが魔界に飛び込んでから一ヶ月経たずのことだった。

スライム族の令嬢、スラリーヌ。
「私、人間になってアザトス様と結婚したいの」

スライムの村の青年、スラドール。
「俺にはお嬢様を守る責任があります。お嬢様がアザトス様と結婚する夢を叶えるまでは」

キザなホイミスライム、ホミネロ
「何を言っているんだ! 傷心のお嬢様を娶るのはこの僕なのだよ! そうだろ? カラミーア!」

怪しいはぐれメタルの占い師、ハグルガ
「ふふふ・・・・・・秘密よ・・・・・・」

「どうしたらいいの? 私、選べないわ。アザトス様かスラドールかなんて・・・・・・」

「君には感謝してる。人間になって、どこか遠いところで暮らすのもいいな。誰かいい人見つけて・・・・・・」

「シニョリーナ、僕はいつだって君の側にいるとも!」

「結局どっちも一緒だと思うのよね。どちらにしても後悔することになるわよ」

「先に行け! 僕らは後で行く! 先に二人で幸せを噛み締めるんだ!」
「また会いましょう・・・・・・。どんな姿になっているか、お互い楽しみね・・・・・・」
「もしアザトス様と結婚できなかったら・・・・・・そのときは・・・・・・」
「さようなら・・・・・・みんな・・・・・・」

スラリーヌと愉快な仲間達(仮題)
乞わない、ご期待。
なお、予告の科白は実際のものと異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

ってか何年後の話だよ。
とりあえず期日を決めときます。来年の今頃までに書けなかったら同時進行!!(宣言)

では☆

  いやはや - 翼無き天使 (男性) - 2008年12月02日 (火) 18時45分 [786]   
ハロウィン終わってもう1ヶ月ですねー。
続きを拝見しました^^
ルビカンテはなんか聞いたことあるぞ?

今の話にも未来の話にも期待してます^^
スライム族令嬢って・・・やっぱスライムなんですかね。
スライムの令嬢か〜。う〜ん。
見たいようなあんまり見たくないような^^;


  第9章 1節:陰謀 - 翼無き天使 (男性) - 2008年11月11日 (火) 17時32分 [778]   
  「それで?今どうなってるのよ」
暗い地下の部屋。今風の洒落た服装を着こなしている若い男が話しかける。
声の先にはコンピューター画面に向かっているもう一人の男。中年でスーツ姿。眼鏡をかけている。
見向きもせずにキーボードを叩き続けながら答えた。
「ああ、今のところ送り込まれてるのは2人だけだ。もっと大勢来るかと思ったが…」
苛ついた声で続ける。
「いったいどうなってる。勘付かれたか…?」
「ふ〜ん。で?どうすんのよ」
「もう少し様子を見る。計画では少なくとも10人は送り込まれるはずだった」
「これ以上待っても来ねぇさ。やっちまおうぜ?」
「相変わらず頭の中身は少ないようだな。計画は計画通りに進行するから意味があるんだ」
「はっ、そうですか。でも下っ端殲滅者の2人も10人も変わんねぇだろ?」
「殲滅者8人の差は大きい。そのために2年も前から頭の悪い馬鹿どもの組織を世話してきたんだ」
「デュート、お前ってホント暇人だな」
「黙れ。この計画がうまくいけば10人の殲滅者を一掃できる。ヨーロッパの連中の戦力は大きくダウンし、ひいては世界の戦力を削ぎ落とす。最終的な計画も楽になる」
「2人しかいねぇだろ。計画向こうにバレてんじゃねぇの?」
「黙れと言ってる。それよりティック、そもそも何故ここにいるんだ。軽率な行動は慎めとあれだけ言っておいただろ。お前は元帥と何度も接触して顔も割れてる。向こうからも徹底マークされてるんだ」
「大丈夫だって。尾行はないし、行動にも気をつけてる」
「ふん、この間のミテラッド=カスパーとの戦闘の後にそんな言葉を聞いても全く説得力がないな」
「だ〜か〜ら〜、あれは俺のせいじゃなくて、手下がヘボったんだよ」
「確かにお前の手下は頭が悪かった。だがカスパーに見つかって戦闘を始めるお前はもっと頭が悪い」
「へいへい、そりゃすいませんね。お馬鹿さんで」
「全くだ」
「でも勝ったぜ?」
「何が勝っただ。勝ってない。やつは生きてる。殺さなきゃ意味がないんだ。そのくらいわかれ」
「おいおい、元帥を瀕■に追い込んだんだ。ちょっとくらい誉めてくれよ」
「ああそうだったな。そしてお前は左腕と右脚を吹っ飛ばされて骨折18箇所に大量出血。あと少しで修復不可能な段階になるとこだった。それに、やつらは重傷を負ってもすぐに回復する。エターナル・フォースの力でな。どうせ■ぬなら殺してから■」
「■ぬかよ。次に会ったら必ず殺すさ」
「それをやめろと言ってるんだ。まだその時期じゃない」
「へ〜い」
――トゥルルルルル
携帯電話が鳴る。
「誰からだ?」
「…部下だ」
デュートが内ポケットから携帯を取り出す。
「俺だ。…ああ。…ああ。そうか、わかった。引き続き監視を続けろ」
「なんだって?」
「殲滅者2人が組織のこのアジトを嗅ぎ付けた。人数以外は計画通りだ」
「それって計画外なんじゃねぇの?」
デュートがティックを睨み付ける。
「わかったって。それで?どうすんのよ」
「ふん、まぁ見てろ。この際2人でかまわん」
「だから最初っから俺がそう言ってんだろ?」
「それに、これ以上引き延ばしてもう一つの計画に気付かれてもつまらん。この部屋も一緒に始末しないとな」
「何それ」
デュートはドアに向かって歩き出す。その後にティックも続く。
「なぁ、俺の出番は?もちろんあるんだろ?」
「そうだな、せっかく駒が増えたんだ。使わない手はないか…」
「誰が駒だよ」
「ティック、お前にぴったりの仕事がある。来い」
「…俺の話聞いてる?」



  2節:疑惑 - 翼無き天使 (男性) - 2008年11月11日 (火) 17時33分 [779]   

――ヨーロッパ地域本部。
「そう、根城はもう見つかったの。さすが、早いね〜」
司令室で低反発の高級特注イスに寄りかかり、コーヒーを飲みながら本部長、ライアン=クランツは受話器に向かって話す。
「これから天峰と一緒に潜入して調査を行います」
受話器の向こうからアルト=ナイトウォーカーの声が聞こえてくる。声からは少し疲労が感じられた。
「疲れてない?」
「え?ああ、大丈夫です。心配しないでください。任務に支障はありません」
「初任務なのにこんな大仕事を任せちゃって悪いね〜。本当はもっと人員を増やそうと思ったんだけど……」
「…けど、なんです?」
「まぁ、色々あってね。2人に任せちゃう結果になったのよ。で、さすがに少ないかな〜とも思ったんで、1日か2日後にマイヤくんを応援に向かわせるから」
「そうですか。でもアジトは見つかりましたから、何とかなりそうです」
「…気をつけるんだよ」
「はい。それじゃあ」
電話が切れた。
窓の外を眺める。その顔にはどこか判然としない表情が浮かんでいた。
――コンコン
誰かが司令室のドアをノックする。
「ど〜ぞ〜」
入ってきたのは開発部門部門長、アーヴィン=サンダースだった。
「本部長」
「やぁアーヴィンくん。どうかした?」
アーヴィンを見るとライアンはまた窓へ視線を投げた。
「あの、俺が言うのも何なんですけど、ルーマニアの任務、やっぱりもっと人員を増やすべきですよ」
「…そう?」
「そこらへんの街一つならまだしも、規模は一国ですよ?それに、『ジハード』との関連性だって完全には否定できないし……」
ライアンはアーヴィンの方へ向き直る。
「具体的にどの程度の人員が必要だと思う?」
「最低でも、10人は」
しばらくライアンはまた窓の方を見ていたが、唐突に切り出した。
「……おかしいと思わない?」
「…?何がですか?」
「ボクらはこの組織の存在に気づかなかった。つい最近まで。全くね。この組織はWPKOの情報網に引っ掛かりもしてなかった」
アーヴィンは黙ったままだ。
「存在に気づいたのは、ここ最近の行動が煩雑で向こうがボロを出したから。もしこれがなければ過去2年間の事件も明るみに出ることはなかっただろうね」
「本部長、何が言いたいんですか?」
「まぁ詰まるところ、どうもはめられてる気がしてならないんだよね」
「罠ってことですか?なぜ?」
「この組織の隠密性はほぼ完璧だったんだよ。だからこそボクらに発見されることなく2年間も存在してきた。それがつい最近になって『たまたま』ボロを出して、殲滅者を2人送ったらたった2週間でアジトまで探り出した。これを疑わない人間がいるかい?」
よくよく考えてみたら確かにその通りだ。みんなDICの組織を発見したという一大事に浮かれて、そんなことにも気づかなかったのだ。
「つまり、DICが俺たちを誘き寄せているってことですか?」
「その可能性もあるかもしれないと思って、人員は2人の精鋭に絞ってみたわけ」
閃刃の天峰と新入りアルト。天峰の名前は、ヨーロッパに限らずその他の地域本部でもときたま噂される程だし、アルトは元帥の中でも最強ではないかと囁かれるアデルの弟子だ。
「このことは2人に?」
「いや、まだ伝えてないよ。確証もないし、妙な猜疑心で調査に支障が出るのは好ましくないからね。調査がもう少し進んでから、話すかどうか決めるよ」
「やっぱり『ジハード』が裏に絡んでるんじゃ…?」
「それもまだわからない。総本部には報告しておいたんだけどね。返答は未だになし」
「……大丈夫なんですか?本部長の期待もわかりますけど、強いって言ってもあいつらはまだ10代の子供ですよ?」
「殲滅者に年齢は関係ないよ。大事なのは心の強さだ。彼らはその切っ掛けこそ違え、世界を救いたいという強固な心を持ってる。きっと切り抜けるよ」



  3節:潜入 - 翼無き天使 (男性) - 2008年11月11日 (火) 17時34分 [780]   
 DICの根城は、意外にも市街地の中に位置していた。もう誰の使っていない古びた廃ビル。
木を隠すなら森、そんなところだろう。
支部で天峰が手配した図面によると、上は10階、下は5階まである。だいぶ古くなっているらしく、近々取り壊される予定らしい。
なるほど確かにコンクリートはあちこち剥がれて鉄筋が顔を覗かせている箇所もある。窓もガラスがはまっている方が少ない。
フロアはゴミだらけ。タバコの吸い殻、空き缶、空き瓶。壊れたラジオ。酷い有様だ。
きっと夜は若者の溜まり場になっているのだろう。獲物を捕らえるには絶好のポジションだ。
十中八九、DICのアジトは日の光が入らない地下で、昼にDICがアジトの外に出てくることはまずないだろう。
だから明るいうちに廃ビルをガサ入れしようという寸法だ。最低でもビル内でのアジトの正確な位置は把握しておきたいし、調査、今回のようなケースでは盗聴になるが、その位置も確定させておきたい。
とりあえずは1階の捜索だ。手当たり次第にものをひっくり返す。これだけ散らかってれば誰も気づくまい。
「そうそう、天峰がツカツカ先に支部を出ちゃうんで、本部長には僕が報告しておきましたよ」
廃ビルの中を物色しながら思い出したようにアルトが言う。
「明日か明後日にはマイヤが応援に来るそうです」
「…あぁ、あの五月蝿い女か」
天峰が放置されたデスクの引き出しを下から順に調べながらボソッと呟いた。
「知り合いなんですね」
アルトはゴミ箱を倒して中身を探る。やはりゴミばかり。
「何度か会ったことはある」
「そうですか。……天峰はいつからWPKOに?」
「聞いてどうする」
「いえ、ちょっと気になっただけで」
「…お前に関係ない」
「そりゃまぁ、そうですけど」
予想通りの返答に苦笑しながら、アルトは不自然にちょこんと置いてある植木鉢に目を置いた。
茶色い安物の植木鉢。水の受け皿に乗っている。中の土は乾燥しきって植物は枯れ果てていた。
まさかこんな初歩的なことが……。
そう思いながら植木鉢を持ち上げると案の定、受け皿の上には真鍮性の鍵があった。
「おい、どこかに鍵があるはずだ。探せ」
いつの間にか姿を消していた天峰が戻ってきた。
「地下に行く扉に鍵がかかってる」
「鍵ならここに」
そう言って天峰の方へ鍵を放る。
「今回のDICは、知性が高い割にはレトロな思考回路みたいですよ」

地上とは打って変わって、地下の方の内装はかなり整備されていた。取り壊し寸前のビルとは思えない。
薄暗いが照明もちゃんとある。しかし電気が通っていることがそもそもおかしい。ここは廃ビルなのだから。
「鍵が閉まってるってことは、みなさんお出かけですかね」
人に擬態したDICがぞろぞろと街中を徘徊しているかと思うとゾッとする。
地下1階から徐々に下へ。最初は特に何もなかったが、地下4階から様子が変わってきた。
パソコンが置いてあるし、テーブルにイス、テレビまである。
生活感が出てきたのだ。あんな化け物たちが人間同様の生活を送っているとは。
「アジトはここで間違いなさそうですね」
「ああ」
天峰がパソコンの置いてあるデスクの引き出しを開ける。
アルトはテーブルやイスの下、見つかりにくい場所に米粒よりも小さい高性能盗聴器を設置していく。
「見ろ」
天峰が書類の束をテーブルに放る。
「これは……」
「人間を狩るマニュアルだ」
方法、場所、時間帯、その後の処理、組織内の連絡方法など、細かなことが指示されている。
「この組織は、何者かの命令で動いている…?」
書類から目を離さないままアルトが呟く。
「かもな」
「それしかないでしょう。でなきゃこんなもの作ったりしませんよ」
「決めつけるな。証拠はまだない」
天峰がパソコンの電源を入れる。
「…ちっ、パスワードが要るな」
「ちょっと貸してください」
そう言ってパソコンを自分の方へ向けてキーボードをカタカタ叩く。
「ハッキングして侵入します。2分ください」
「…殲滅者の上にハッカーだったとはな」
「悪用はしてませんよ?昔ちょっと銀行の預金口座を水増ししただけです」
アデルの借金を消すための苦肉の策だった。だからマフィアはやめておけと言ったのに。
「充分犯罪だ」
「逮捕するならアデル師匠にしてくださいね。でも天峰は警察じゃないですから大丈夫です」
「殲滅者は任務遂行上必要であるなら民間人・機関員を問わず最大3ヶ月間拘束する権限がある」
「ははは、まさか。……本当ですか?」
コンピューターへの侵入成功。
「メールを調べろ」
受信メール、やはり何者かからの指示が送られてきてる。
差出人は「Dute」。何者だ?人間か、それともこいつもDICか。
「証拠が出たな」
「そうですね」
「組織の目的がわかるようなものを探せ」
「え〜と、指示を伝えるメールばかりですね。日時、場所、目標とする人間、その人のデータ。差出人は全て『Dute』」
何かのコードネームだろうか。このデュートも組織の一員だろうか?だとしたらこいつがリーダー?それとも全く未知の存在なのか。
「相当な情報網を持ってるみたいですね、このデュートは」
これはもはや個人の領域ではない、一国の捜査機構にも匹敵するかもしれない。
かなり綿密な計画の下にこの2年間の犯行は行われてきたらしい。しかし、それならなぜ我々にバレた?
デュートが詳細な指示を組織に出す。組織がそれに従って計画的に人々を襲う。それを2年間。200件以上。
いったい何のために……?
「送信メールは、その報告です。その他にルーマニアに点在すると思われる仲間と連絡を取ってます」
「位置を割り出せるか?」
「はい、出来ますけど僕がやるより本部にデータを転送してやってもらった方が早いと思います」
「そうか。場所を特定したら各場所に暇な殲滅者を派遣するように伝えておけ。その方が犠牲者の数が少なくなる」
「わかりました」
「俺は他を見てくる」
言い終わるや否や天峰が足早に去って行った。
アルトは携帯電話を出してヨーロッパ地域本部にかける。
呼び出し音が2回。
「WPKOヨーロッパ地域本部です」
受付の女性の声が出た。透き通るような声だが機械的だ。
「殲滅部門のアルト=ナイトウォーカーです。至急本部長へ取り次いでもらえますか?」
「認証IDをお願いします」
アルトは機関員証明書に記載されている数字とアルファベットの羅列を読み上げる。
「認証しました。本部長に取り次ぎます。少々お待ち下さい」
数秒の沈黙の後、今度は聞き慣れた男の声が聞こえてきた。
「やぁアルトくん。なにか進展あった?」
「はい、まぁ色々と。アジトは報告した廃ビルの地下4階です。目的はまだ掴めていませんが、この組織は何者かからメールで指示を受けて行動してるようです。指示内容は綿密で、かなりの情報網を持っていますね。メールの差出人は全て『Dute』という者です」
「デュート……」
「送信メールからルーマニア各所に散らばったDICの居場所がわかりそうなので、そっちにデータを転送します。場所を割り出したら出来るだけ早急に殲滅者を派遣して欲しいんです」
「オーケー。じゃあ情報管理部門の端末に送ってよ。今何人か任務から戻ってきてるから、割り出し次第派遣するよ」
「ありがとうございます」
「アルトくん」
「はい」
「まだ確証はないからこれはボクの推論になるんだけど…」
ライアンはやや声をひそめて言う。
「今回の任務は、敵の罠かもしれない」
「罠…ですか?」
「そう、あまりにことが簡単に運びすぎている。今まで存在すら気づかなかった組織がひょっこり現れ、アジトはあっさり見つかり、その隠密性の高い行動とは逆に情報の管理は杜撰だ」
「確かに、そうですね。本部長は罠の可能性が濃いと?」
「まだ、わからない。でも妙だ」
「それで、どうしますか?」
「今は何も。ただ用心して行動してちょうだいよ」
「はい、それじゃあ」
アルトは電話を切ってポケットにしまった。
「罠、か」
確かに国一つの規模となったら普通はもっと多くの殲滅者で当たってもいい。
ライアンがあえて2人に絞ったのはそういう理由があったのか。
「な〜んだ。やっぱ気づいてんじゃねぇか」
突然後ろから声が聞こえた。振り向くと部屋の入り口に若い男が寄りかかって、サングラスを左手で弄んでいた。
誰だ?いつからそこに…?
カジュアルな今風の服装、DICのそれと似ている深紅の瞳、銀のピアスがキラリと光る。
「お目当ての連中はもう戻って来ないぜ?」
「あなたが…デュートですか?」
そう聞くと若い男は吹き出した。
「おいおいおい、あんな堅物と一緒にすんなよ。って見たことねぇか」
「じゃあ、あなたは何者ですか?」
「…さぁ、誰でしょうか…?」
男の顔には不敵な笑みが浮かんでいた。



  4節:火柱 - 翼無き天使 (男性) - 2008年11月11日 (火) 17時36分 [781]   
 世界鉄道・ルーマニア行き。
そこの特別待遇個室で殲滅者・マイヤ=キリサワがふくれっ面で座っていた。
「まったく、あのヘタレ本部長め。帰ってきて早々任務だなんて……」
久しぶりに両親と休暇を楽しんで帰ってきてみたら、さっそくライアンから指令が飛んできた。
今回の任務は、最近ルーマニアで発覚したDICの組織による大量虐殺の調査に先行した天峰・アルト部隊の援護。
「援護ったって、チームは総くんとアルト。何を援護するってのよ…」
DICの組織ということで、かなり異例の事態であるらしいが、あの2人に援護などいるのだろうか。
 アルトの実力は自分自身の眼で確かめた。もう一人に至ってはあの「閃刃の天峰」だ。
向かうところ敵無しといっても過言ではないだろう。
「あ〜あ、あと1日この走る鉄箱に缶詰か〜」
マイヤは退屈そうに伸びをする。
「これで無駄足だったらどうしてくれようかしら、本部長」
そう呪いの言葉をつぶやいて、しばし仮眠に入った。

アルトはエターナル・フォース「デスペナルティ」を錬成し男に向けて構えた。
なぜそうしたのか自分でも解らない。ただ、男の笑みにとてつもなく不吉なものを感じた。咄嗟の反応だった。
「あなたは何者なんです?なぜここに?お目当ての連中って、何か知ってるんですか?」
依然として不敵な笑みを崩さない男に、アルトは聞き直した。
「そんなこと聞いてどうすんだよ。それより少年、もうお仲間が一人いたろ?どこ行ったのよ」
「なぜそれを…!?」
知っていた。2人なのも、ここにいることも。
アルトは銃を握りしめた。手に汗を感じる。なぜだ?丸腰同然の男に銃を向けて、なぜこんなに緊張してる?
「ははは、俺を撃つのか?」
この男はどういう形であれDICの組織と関係があるのは間違いない。それともDICなのか?
「あなたはDICの仲間なんですか?」
「だから〜、なんでさっきからそんなどうでもいいこと気にすんだよ。少年たちはもうすぐ死ぬんだぜ?」
「どういうことですか?」
「そのままの意味だよ。もうすぐここは木っ端微塵。少年たちは地の底で御陀仏さ。だから少年のお仲間がどこ行ったのか知りたいんだけど?」
その時だった。
「!!」
突如現れた天峰が、男の背後から攻撃を仕掛けた。しかし寸前で気づいた男はサッと身を剃らせてかわす。
「おいおい、いきなり物騒だな」
男はさも楽しそうに言う。
「…こいつは何者だ」
男と距離を取った天峰が、視線は男から離すことなくアルトに聞いた。
左手には剣を持っていた。片刃で独特の反りがある日本古来の剣、「刀」だ。これが天峰のエターナル・フォース。
「わかりません。でもDICの組織と繋がりを持ってるのは確かです。って天峰、知らずに斬りかかったんですか?」
「直前の会話は聞こえてた。なんであろうと敵に変わりはない」
「ははは、敵は即斬る、か。少年のお仲間は、まぁこっちもまた少年だが、なかなか血の気が多くていいね」
男は服の埃を払いながら言う。
「だがお相手してあげられないのが残念だ。少年たちとドンパチ始めるとデュートのやつにどやされるんでね」
「この男はビルを爆破するつもりです」
「ビルに爆弾はない。仮にあるとしてもここにいたらお前も巻き添えだ」
「ご心配なく。ちゃ〜んと逃げるよ」
「逃がしませんよ」
アルトは照準を合わせる。
「いろいろ聞きたいことがありますからね」
「あ〜、いろいろ答えてあげたいところだが少年。時間だ」
男は腕時計を見ながら笑う。
「少年、目つきの悪い方ね。確かにここに爆弾はない。でも事実としてこのビルはもうすぐ爆発する。なぜでしょう?」
男は両手を広げながら天峰に問いかけた。
「ふん、知るか」
天峰は刀を構える。どうやら尋問は強制的に行うようだ。
「答えは、魔法陣だ」
瞬間、床が光る文様を描き出す。アルトと天峰はその「魔法陣」のど真ん中にいた。
「!?」
「Adios」

 炎は「破壊」の象徴。
破壊において、炎より速いものは存在しないからだ。人でも、物でも。
全てが灰燼に帰すその様を見て、人々は炎を畏れ、崇め、ときに神とさえしてきた。
 それは突然現れた。なんの前触れもなく、男の眼前に立ちはだかった。
もはや取り壊される寸前の廃ビル。灰色のこの建物は一瞬にして焔色の柱に変わった。
全てが、飲み込まれた。紅蓮の焔は留まることなく空へと駆け昇り、黒煙を噴き上げた。
いったい何が起こったというのだ。
これは現実か…?
「神よ…」
呆然とこの火柱を見つめる男は、これしか言うことができなかった。



  第9章です。 - 翼無き天使 (男性) - 2008年11月11日 (火) 17時43分 [782]   

もうドバッと。
次の10章で再投稿も大方終わりですねー。
思えば後半はだいぶ修正されてますね・・・。
ちょうど今辺りが・・・。

また暇な人はお付き合い下さい。
忙しい人が見るとキレたくなるような内容なので・・・
では


  (第8章)4節:月のように 星のように - 翼無き天使 (男性) - 2008年11月09日 (日) 15時46分 [775]   
 
 銃口から放たれた高速の6連クイックドロウは、寸分狂わず振り下ろされたDICの右腕に命中した。
右腕は付け根付近から千切れ飛び、地面にドサリと鈍い音をあげて落ちた。
「がぁっ!?だ、誰だ!?」
アルトは後ろに飛び退いたDICと、少女の間に割って入る。
やはりできない。目の前で人が殺されそうになっているのに、それを見過ごすことなどできない。
「こんばんは、DIC」
例えリスクがあっても、後から後悔することになっても、今、たった今この場で苦しんでいる人を見捨てることなど、アルトにはできなかった。
「…あなたを、消去します」
「ちっ、殲滅者か……。予定より早いじゃないか」
バーストブレット、弾速Lv.3。
「……っ!?」
「『ブラスト・ショット』!!」
轟音と共に飛び出したプラズマのような銃弾。
核を狙った一撃だったが、DICはとっさに体をひねって避けようとし、左腕に命中した。弾は着弾後に爆発し、DICの左腕を吹き飛ばした。
「ぐぁぁっ!!」
「…僕、ちょっと自分自身に腹が立ってましてね。八つ当たりみたいで申し訳ないんですが、容赦しませんよ」
迷うことじゃなかった。揺らぐことじゃなかった。
でもアルトは迷い、揺らいだ。アルトの迷いのせいで、アルトの揺らぎのせいで、危うく少女の命を落とすところだった。
とどめを刺すべく銃を再び構えた。
「…両腕ふっ飛ばされたんじゃ、殺すに殺せねぇ。一旦退かせてもらうぜ」
「…逃がすと思いますか?あなたにはここで消えてもらいます」
「そいつは、どうかなっ!」
DICは口を大きく開くと、青紫の煙を吐き出した。
「毒…!?」
(まずい!後ろには…)
恐怖で身動きの取れない少女を抱え上げ、高所に跳び上がった。
霧が霧散してなくなると、DICの姿も消えていた。
逃がしたか。怒りに震える天峰が容易に想像できる。死ぬかもしれないとアルトは思った。
 少女はアルトにしがみついて泣いていた。少女の震えが、少女の嗚咽が、アルトの心に深く食い込んだ。
もう少しで彼女を冷たい骸にしてしまうところだった。
少女をそっと降ろす。まだ足に力が入らないのだろう。その場にペタンと座ってしまった。
「…すいませんでした」
しばらくして、ある程度落ち着きを取り戻した少女に、アルトが持つ言葉はそれしかなかった。
「…え?」
「……僕、あなたが襲われてるところ、ずっと見てたんです」
「……」
少女は何が何だかよくわからないといった顔をしてる。
「あなたをすぐにでも助けることができたのに、助けようとしませんでした。あなたの命が危ないとわかっていたのに、見て見ぬふりをしようとしました」
そしてあなたを、見殺しにするところでした。
「……本当に、すいませんでした」
「……どうして謝るんですか?」
少女は不思議そうな顔で訪ねた。
「え?」
「…事情はよくわかりませんけど、それでもあなたは、最後には私を救ってくれました。命の恩人です。私は、とても感謝してます」
「……ありがとう」
「変な人ですね。それはこっちのセリフですよ?」
少女の笑顔は、月のように明るく、星のように煌めいていた。


  5節:未来の可能性 - 翼無き天使 (男性) - 2008年11月09日 (日) 15時52分 [776]   

 それにしても天峰はどこに行ったのだろうか。無線ではすぐに行くと言っていたのに。
アルトが作戦を無視して独断で少女を助けに入った後も、ついに姿を現さなかった。
少女に事の説明をしている間も来なかったし、彼女を家に送り、しばらく街を探したけど見つからない。無線も電源が切られてる。
天峰に何かあったのか?偶然他のDICに遭遇?いや、それはないか。
 空も白み始めた頃、ついに諦めて一度支部に戻った。
電源が切れてると言うことは、自ら無線が入らないようにしてるわけだから、襲われている可能性は低いだろう。
ライアンにも事の経過を報告しないといけない。ライアンだったらどうするのだろう。やはり天峰に賛同するのだろうか。
 借りていた一室のドアを開けると、鋭い眼光がアルトを貫いた。その眼は言葉にせずとも自らの怒りを雄弁に語っている。
天峰だった。ただ椅子に座ってるだけなのに、部屋には彼の憤怒のオーラが満ち溢れてる。
アルトはドアを開けたまま立ち尽くす。とてもこの空間に足を踏み入れる気にはならなかった。
(これは……死ぬ、かな?)
「…………………………で?」
押し潰されそうな無言のプレッシャーの後、天峰が口にしたのはその一文字だった。
「…すいませんでした。作戦を無視して被害者を助けに入り、DICは…取り逃がしました」
DICを取り逃がしたことは別として、少女を助けたことに、悔いはない。
「……お前のその行動が、任務完了を遅らせるかもしれないと、犠牲者をさらに増やすかもしれないと、思わなかったのか?」
声はいたって普通だった。でもそれが逆に彼の怒りの程を表している。怒鳴ってくれた方が幾分マシだったかもしれない。
「……思いました。でも――…」
それでも、そうなるかもしれないけど。
「…――僕には、目の前にいる人がDICに襲われているのを、見過ごすことはできません。断じて」
「…………」
「天峰の考え方は、正しいと思います。それでも僕にはできません。僕は弱くてわがままな人間ですから、未来の被害者を救うための、今の被害者の死に、耐えることができません。未来も今も、どっちも救いたいんです。どっちも守りたいんです」
未来は常に不確定。そしていくつもの分岐がある。狭く険しくても、アルトが望む道はきっとあると思う。
「…そうやって先のことを考えず、目前のことばかりに目を奪われ、今も未来もどっちも救うなんて手前勝手な儚い夢を追い求めてると、結局は屍だけを積み重ねることになるかもしれないんだぞ」
「…はい、そうなるかもしれません。でも努力してみるだけの価値はあると思います。それに、決して夢では終わらせません。僕は今も未来も救う『現実』を掴んでみせます」
そう、運命は神様が与えてくれるものじゃない。自分で組み立てるものなんだ。
「……だが現状は変わらん。作戦を放棄してまで戦ったにも関わらず、運良く逃亡してくれたDICも追跡しないで根城は未発見。お前の夢はすでに破れつつあるぞ」
反論の余地なし。そこは真摯に受け止めるしかない。
結局の所、少女が助かったことはアルトの心を満たしただけで、状況は悪化してる。
「…どうする気だ?」
「…それは、その……。どうしましょうか」
長い沈黙。天峰から溜息が漏れる。
「……もういい。聞くだけ無駄だった」
そういうと天峰は立ち上がり、依然として部屋と廊下の境界に立っているアルトの方へ歩いてきた。
いよいよ殺されるかと思ったが、あっさりアルトを通過して廊下を進む。
「…何ボーッと突っ立ってる。行くぞ」
「行くって、どこへです?」
「…DICの根城だ。他にどこがある」
アルトは耳を疑った。
「え、でも、さっき……あれ?」
話を要約すると、天峰はすでにDICの根城の場所をつかんだらしい。
「じゃあ、さっきのは嘘だったんですね」
「…嘘?」
「根城は未発見って…」
「…それはお前の話だ」
「え〜と、つまり?」
「ちっ、頭の悪い奴め。お前が消し損なったDICは俺が追跡した。お前が現れ、手傷を負ったことでかなり警戒してたがな」
「じゃあ、天峰はあの場にいたんですね?」
「…ああ。お前がDICに突っ込んだ後だがな。お前が作戦をぶち壊しにしたからと言って、俺までDICの前に顔を出す必要はない」
もっともな話だ。
「まぁその、結果オーライで何よりです」
「…勘違いするな。今回の結果はたまたま幸運が何度も重なっただけだ。こんなことが何度も起こるわけがない。俺はお前の考えは認めない」
「…………」
「…お前の考えはただの理想に過ぎん。机上の空論。絵空事。非現実的な阿保の考えることだ。俺はそういう奴が嫌いだ」
「そ、そこまで言いますか……」
しかし現段階では否定はできなかった。
「……だが、自分の信念すら貫けない奴はもっと嫌いだ。お前の理想、実現させて見せろ」
「はい、そのつもりです」
「…ただし、今度俺の足引っ張ったら即刻あの世に送ってやる」
「ぜ、善処します……」
なんとか首は繋がったようだ。
 すでにブカレストには朝日が訪れていた。少々冷や汗をかいたが、アルトは嬉しかった。
少女の笑顔を、失わずにすんだから。


  引き続き - 翼無き天使 (男性) - 2008年11月09日 (日) 16時04分 [777]   

続編となります。
まぁここら辺は一度投稿してるんでサラーっと呼んじゃってください。
丁寧に読まれると何か綻びが出てきそうだし^^;

アルトの独断専行と天峰のプッツンです。
まぁなんとか目的は果たしてあーよかったねって感じですね。


  第8章 1節:敗北 - 翼無き天使 (男性) - 2008年11月08日 (土) 20時48分 [771]   
 
 冷たい。体に力が入らない。出血も酷い。生命の流れ出る感覚。死の感覚。どんどん迫ってきてる。
――足音。近づいてくる。あいつは何者だ?あの強さ、不死身としか思えない。
(天峰は、どうなった?)
一緒に戦っていたはずだ。
首をかろうじて動かすと、地面に横たわって微動だにしない天峰が視界に入った。
「…天峰?……天峰!!」
血の味が広がった口を懸命に動かし、天峰を呼んだ。それでも動かない。
「無駄だよ。そいつはもう死んでる」
この現状を作り出した男、足音の正体はもうアルトのすぐ近くまで来ていた。
「…嘘だ。この程度で…天峰が、死ぬはず、ない」
「少年。人は死ぬもんだぜ?少年ももうすぐ死ぬ。俺が殺す」
男はさらにもう一歩アルトに近づき、その場にしゃがんだ。
闇にぼやけていた顔がはっきり見える。そこには笑みが浮かんでいた。この状況を楽しむような無垢な笑み。
「まぁ、なかなか頑張った方だよ、少年。そっちに倒れてる方もな。けっこう楽しめたぜ」
「あなたは…いったい…?」
呼吸が苦しい。意識も朦朧としてきた。
「わからないか?少年たちとは因縁浅からぬ仲なんだけどな」
「…DIC、なのか…?」
「まぁ、少年たちはそう呼ぶな」
「…どういうことだ」
「驚きか?俺にDICの特徴がないのが。言っとくけど、擬態なんてしてないぜ。あんなもん下等な奴がすることさ。これが俺の素の姿」
姿が人間のDIC。
「真実を教えてやってもいいが…、謎を残したまま死ぬってのも、またオツなもんだよな」
そう言うと、男はゆっくり右手を振り上げ、アルトの心臓に向けて構えた。
手が蒼い光を帯び始める。またあの攻撃だ。
「そういや、まだ聞いたなかったな。少年、名は?」
「……アルト」
「アルトか。いい名前だ」
「あなたの、名前は…?」
「俺?…まぁ、それくらい教えてやるよ。俺はティック=エルシェント。少年を殺す男、さ」
「ティック…エルシェント。あなたは、僕が…消去、します」
「…はは。いい夢を、少年」
右手が振り下ろされた。



  2節:犠牲の選択 - 翼無き天使 (男性) - 2008年11月08日 (土) 20時49分 [772]   

――約2週間前。
ルーマニアの首都ブカレスト。WPKOルーマニア支部の一室。
アルトと天峰はテーブルの上に資料を広げ、これからの計画を考えていた。
天峰はいつも通り不機嫌そうな顔で資料を読み返してる。
 DICの組織を潰すに当たり、大事なことは何か。
いたって単純。根城を見つけることだ。組織である以上、必ずどこかに拠点がある。
「調査報告書を見る限り、ここブカレストが一番DICの被害が多いですね。227件中93件です」
2年間にわたる膨大な資料の束をパラパラとめくりながら、天峰に話しかけるともなく話しかける。
「…だろうな。首都だけあって人も多い」
世界鉄道に乗ってルーマニアに来るまでの3日間。いくつかの口論を経て、ようやくチームらしい会話が成り立つようになった、気がするアルト。
しかしまだ天峰個人のことはほとんど知らない。自分から話すようなタイプではないのは明らかだ。そのうち知る機会もあるだろう。
「やはり根城は都内にあると考えるべきですね」
この被害件数から考えて、DICの数は20、いや30はいるか。
でも全部が全部この街にいるわけではあるまい。範囲はルーマニア全体。多少なり各地に分散してるだろう。
「どうやってDICの拠点を探しますか?」
天峰は資料から視線を離さず答えた。
「…根城を探してDICを消すだけじゃ任務を完了したとは言えん。組織の目的を調べる必要がある」
「『目的は何ですか?』って聞いて、答えてくれるわけないですしね」
「…活動範囲はこの街に絞る。現段階でここ以外の街での犠牲者は、見捨てるしかない。ここで粗方始末をつけた後、残党を消す」
「……仕方ない、ですよね」
心苦しいが、国全体をカバーするのは不可能だ。まずは一刻も早く、DIC組織の根本を絶つ。
「それで、根城はどうやって探しますか?」
「DICに案内してもらう」
「……それはつまり、跡をつけるってことですか?」
「…他にどういう解釈の仕方がある」
苛ついた眼がアルトをとらえる。普通に考えればそういうことになるわけだが、そこには大きな問題がある。
当然、天峰もそれを承知の上で言ってるのだろう。
「僕らがDICを見つけることができるのは、擬態を解いたとき、つまりは人を襲ってる時です」
「…だからなんだ」
「DICの跡をつけるためには、見つからないようにしなくちゃいけません。襲われてる人はどうするつもりですか?根城を探すために、助けることができる人を一人、見殺しにする気ですか?」
「…早期解決のためには、それが最良だ」
「僕は、そんな作戦には賛成できません」
それが最も効率的な方法だとしても、賛成などできない。しらみ潰しに調べていく方法だってある。
「…ここで手間取ると、他の街での犠牲者が増える可能性がそれだけ高くなる。…多少の犠牲は仕方ない」
「でも――…!」
「…――それともしらみ潰しか?何日かかると思ってる。そんなことやってるうちに目の届かない所でどんどん犠牲者が増えるかもしれない。一人の犠牲で早急に解決できるんだ。安いもんだろう」
アルトは思わず椅子から立ち上がった。
「人の命を、なんだと思ってるんですか…!?」
「…遠くの人間の犠牲は許容できるのに、近くの人間の犠牲は許容できないのか?考えるべきは犠牲者が遠いか近いかじゃない。多いか少ないかだ。俺は少なくなる可能性が高い方を選ぶ」
反論の余地はなかった。少しも。天峰の言うことは論理的で合理的で、そして正しい。
でも、それでもアルトは、目の前で人がDICに殺されるのを黙って見ていることなど、賛成できなかった。
「…それがお前の意に反するなら、強いはしない。ここで待ってればいい。足手まといは邪魔だからな。俺が片付ける」
自分でもわかっていた。天峰の作戦が最も効率的で、最終的な犠牲者も少ないであろうことは。しかしそれは、同時にアルトの誓いを破ることでもある。母への誓いを。
「…………わかりました。……やります」



  3節:それは正しいのか - 翼無き天使 (男性) - 2008年11月08日 (土) 20時51分 [773]   

 それから2週間、DICに動きはなかった。今日も夜の大都会を見回る。
この間のギリシャと違って、ここは深夜でも街が静まり返ることはない。人の悲鳴は街の喧騒に掻き消されて、誰かに届くことはないだろう。
そうして100人近い人間がこの街から姿を消したのだ。
 アルトはディテクターがなくてもDICを探すことが出来る。だから天峰と二手に分かれてDIC探索に出向いた。見つけたら無線で連絡し合うことになってる。
なかなか動きを見せないDICに焦燥を感じる自分と、どこか安堵する自分がいた。2つの矛盾した感情がアルトの中で渦巻き、何とも言えない悶々とした気分にさせる。
DICを早く見つけて解決したい。しかし見つけたときは、アルトの目の前で人が死ぬときだ。DICに殺されるときだ。アルトの誓いが、破れるときだ。
――本当にそれでいいのか?
何度も心の中で自問した。でも答えはすでに揺るぎないものになってしまった。
――仕方ない。
そう、仕方ない。より多くの命を救うための小さな犠牲。それが答え。アルトはそれを否定したい。でもそれがこの状況で導き出された最良策。
「……!」
とても嫌なものに触れたような、心を浸食されるような感覚。誰かの命が危険に冒されている信号。
「…来たか」
ダークマター捕捉。DICが現れた。すぐ近くだ。走りながら無線を取り出す。
「天峰」
「…なんだ」
「DICを見つけました。場所は…革命広場から、南に1qくらいの所です」
アルトは地図を見ながら言う。
「…すぐに向かう。…わかってると思うが、手は出すなよ」
「……はい」
――アルト、本当にそれでいいのか……?

 長い髪、色白の肌、端麗な顔立ち。しかしその顔には恐怖の表情が浮かんでいた。
少女は走った。手荷物を捨て、靴が片方脱げていることにも気づかず、息を切らしながら懸命に走った。
迫り来る恐怖から逃げるために。
それでも逃げ切れない。執拗に迫ってくる。どんなに走っても振り切れない。自分の位置もわからぬままに走り続け、ついに袋小路にぶつかり、道は途絶えた。
「ククク、追い詰めた。追いかけっこは終わりだ」
「誰か……誰か助けて…」
彼女の悲痛な叫びは誰にも届かない。涙を流しても誰にも見えない。届いてるのはアルトだけ。見えてるのはアルトだけ。助けられるのは、アルトだけ。
しかしアルトに助けることはできない。いや、できるのにやらない。助けられるのに助けない。
――なぜ?どうして?
――より多くの命を救うため。より被害を少なくするため。
仕方のないことなんだ。どうしようもないことなんだ。
仕方ないから助けない。どうしようもないから助けない。それは、本当に正しいのか……?
彼女はその場に座り込んでしまった。疲労と混乱、そして恐怖が彼女の体を蝕み、動きを奪う。
DICは攻撃の態勢に入った。月明かりに鋭い爪が照らされる。
まだ間に合う。助けられる。彼女の命を救える。
隠れてここに立っている自分は、本当に正しいのか?
アルト=ナイトウォーカー!お前は後悔しないのか!?
「いや…、助けて……お母さんっ!!」
生を望む少女の言葉。
アルトが引き金を引く理由は、それだけで充分だった。




  またこっちに戻ってみたり・・・ - 翼無き天使 (男性) - 2008年11月08日 (土) 20時57分 [774]   
どーも。
再び「TERMINATER」の方を^^
ラグナロクの方はまた気が向いたら・・・(いつだ?)

いきなり「冷たい。体に力が――」とか言われても何が何だかって感じですよね^^;
話を整理すると、アルトの初任務編です。
天峰とペアでルーマニアのブカレストに向かってオリャーってなってグハーってなったとこです(?)^^
そしてなぜこうなったかを徐々に紐解いていくという・・・。
暇でしたらお付き合い下さい^^
では


  森と湖の観光地、美しき東城を愛する人々に贈る - 烏丸芳文 (女性) - 2008年10月26日 (日) 01時46分 [770]   
 

美しき東城を愛する人々に愛唱されたいと望みます。


東城を舞台とする3曲から成る歌曲集「美しき東城の乙女」
  1)一目ぼれ   2)小さき駅   3)メフィストフェレス

    作詞・作曲;  烏丸芳文
    編 曲 ;  渡辺千峰(elegant waves)
    唄   ;  naomi☆susie

最初の 1)一目ぼれ は 歌詞とメロディを完成した当時、ある女流ピアニストに
「ロマンチックで気品に溢れる格調の高い歌曲ですね!歌詞の詩は、かの天才
詩人バイロンやハイネにもひけをとりませんよ!」と褒められた事もあります。
3曲共に美しい歌曲だと自負致しますが、作詞・作曲者として敢えて言えば、
2曲目の 2)小さき駅 が音楽的に最も好ましいと思っています。「悲歌」であり
ながらメロディラインの美しい軽快な曲です。どうぞジックリご試聴下さい。

*1 「小さき駅」はJR東城駅
*2 「メフィストフェレス」はゲーテの代表作小説「ファウスト」にも登場する西洋の
悪魔です。主人公ファウストは悪魔メフィストフェレスと契約し、「死後の魂」を
  引き渡す事を条件に「若さ」を手に入れます。若さを手に入れたファウストは
  忽ちうら若き乙女マルガレーテとの恋に落ちます。

 以下よりご試聴下さい。

 1)一目ぼれ    ⇒ http://karasumamusic.web.fc2.com/hitomebore.html

 2)小さき駅     ⇒ http://karasumamusic.web.fc2.com/eki.html

 3)メフィストフェレス ⇒ http://karasumamusic.web.fc2.com/mephisto.html


烏丸芳文     







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