【広告】楽天市場から大感謝祭を開催中エントリーお忘れ無く

ドラゴンクエスト・ファイナルファンタジー小説投稿掲示板


ここは小説投稿掲示板だ。
ドラゴンクエストやファイナルファンタジーまたはその他(アニメ、ドラマ)などでも、楽しそうな小説やストーリー、
詩、日記などがあったらとにかく書き込もう。
他人が見ておもしろいと思った内容、自分が思いついた内容があったら、とにかくどんどん投稿してみてくれい。

(注)最近ここをチャット代わりに使われている方がたくさんいます。
チャット代わりに使われますと、せっかく一生懸命小説等を書いた方の内容がすぐに流れて見れなくなってしまいます。
ここは小説やストーリー、詩、日記などを書くところですので、チャットはこちらにてお願いいたします。

168162


ホームに戻る
ログ管理


お名前:
メールアドレス:
題名:
ホームページ:    性別:  
メッセージ:
色:                        
  パスワード(8文字以内):       クッキー: 






  第6章 1節:最初で最後 - 翼無き天使 (男性) - 2008年02月07日 (木) 18時37分 [753]   
 
 イタリア北部、街中から少し距離を置いたミラノの外れ。
「ここがヨーロッパ地域本部か……」
縦にも横にも巨大な建物。何階建てだろう。思っていたより近代的だ。ヴァチカンの総本部が古典的すぎたのか。
人の手では開けられそうにない大きな扉。その前には警備の人間。ここら辺がいかにも軍事関連施設のようだ。そういう風に見せてるわけだが。
「身分証明書を」
近づくと警備の人に言われた。コートからヴァチカンでもらった手帳を出して見せる。
「少々お待ちください」
そう言って小さな無線機を取り出した。
「こちらゲート1、開門」
「了解」
無線機から返事が来る。扉が横に動き始めた。
「人が出入りするたびにこうやって開けてるんですか?」
警備を厳重にするのは結構だが、これはかなり面倒くさい作業だ。警備の人は笑って答えた。
「いえ、この扉は滅多に開きません。あなたがここを通るのも、たぶんこれが最初で最後ですよ」
「…?」
「さ、どうぞ」
扉が僅かな隙間を作って待っていた。



  第6章 2節:危険な決意 - 翼無き天使 (男性) - 2008年02月07日 (木) 18時40分 [754]   

「本部長、前2件の任務完了報告書です」
「朝早くからご苦労様〜」
昨日はライアンの顔を見る気にならなかったので、マイヤは翌の朝一番で持ってきたのだ。
「そろそろアルトくんが到着する頃だね〜」
「…そうですね」
やや怒気を含んだ声で適当に返す。
「あれ、まだ怒ってるの?やだな〜、ただのお茶目なのに」
「用がないならこれで失礼します」
「ところが、まだ用があるんだな〜」
「…何ですか?」
「アルトくんがこっちに着いたら中を案内してあげてよ」
「なんで私が……」
「なんでって、彼はキミの……とまぁそれは冗談で」
マイヤの殺気を感じたのか、ライアンはは口をつぐんで途中で切り替えた。
「まだ他のターミネーターは誰も帰ってきてないからね〜」
「それでも誰か他の人がいるでしょう?」
「いないね〜。開発部門はディテクターの量産でごった返してるし、情報管理部門だって毎日支部から送られてくる情報の管理で大忙し。会計部門も同じ。ボクは見ての通り、ここの誰よりも忙しいのよ」
そういって書類で埋め尽くされた部屋を見渡す。本当に忙しく仕事をしてるならこの現状はあり得ないはずなのだが。
「それにアルトくんとしても顔見知りの方が気が楽でしょ?」
「それは、まぁ、そうですが……」
「それとも、承諾できない何か深〜い特別な理由でもあるのかな〜?」
そう言ってニヤッと笑う。
「……わかりました。やります」
「よろしく〜。用件は以上。アルトくんが到着するまでは自由にどうぞ〜。今は任務もないしね」
電話の呼び出し音がする。デスクの上だ。
ライアンは書類に埋もれた電話機をガサゴソと引っ張り出し、受話器を取った。
「もしも〜し。…うん。…あ、そう、もう着いたの?」
どうやらアルトが到着したようだ。
「じゃあこっちに連れてきてくれない?…はいは〜い、よろしくね〜」
受話器を置く。
「アルトくん到着したってさ」
「そのようで」
マイヤが思ったより少し早かった。
「ちょっとここで待っててよ。この際、先に話をしてから館内デートと洒落込もうじゃないか」
(こいつは……。DIC殲滅の暁にはこいつも消し去ってやる…!)
マイヤは込み上げてくる怒りを必死に押さえ込んだ。
「…何を話すんですか?」
「ちょっとね。新入りくんの決意の程を聞いておこうと思って」
「…というと?」
「アルトくんは母親をDICに殺されたんだよね?今は家族もいない」
「はい。だからDIC殲滅に関して決意も強固ですよ。責任感も人一倍のようですし」
「そう、だからこそ彼のその強固な決意は、彼に危険を及ぼすかもしれない……」
「は?」
――コンコン
「失礼します」
入ってきたのは1人の少年。黒ズボンに黒コート。髪は輝く銀。
「いらっしゃい、アルトくん。待ってたよ」


  第6章 3節:大切なこと - 翼無き天使 (男性) - 2008年02月07日 (木) 18時41分 [755]   

 とりあえず門はくぐったものの、どこに行けばいいのかわからず、受付らしきところへ事情を話したらどこかへ取り次いでもらい、そしてここに連れてこられた。
 まず目に入ったのは大量の書類。次にマイヤ。心なしか不機嫌そうだ。そしてデスクに腰掛ける男性。
なぜ白衣を着ているのかは不明だったが、この人がおそらく本部長なのだろう。
「ボクがここの本部長のライアン=クランツ。よろしくね〜」
「アルト=ナイトウォーカーです。こちらこそよろしくお願いします」
「マイヤくんはこの間会ったから知ってるよね?」
「はい」
「キミの部屋は後で好きなのを選んでね。たくさん余ってるから。この後マイヤくんが館内を手取り足取り愛情たっぷり込めて案内してくれるらしいから、ここに関するわからないことはその時聞いておくといいよ」
「はぁ…」
「本部長!真面目にしてください!」
「やだな、ボクはいつになく真面目じゃないか」
「いったいどこをそう見たらそうなるんですか!?」
マイヤはここではいつもこんなに苛ついてるのだろうかとアルトは思った。マイヤの質問には答えずライアンは続けた。
「キミにここへ来てもらったのは、ちょっと聞いておきたいことがあったからなんだ」
さっきまでとは声や目付きが変わった。
「…何でしょうか」
「キミはアデル元帥の下で修行を積んだそうだね」
「はい」
「マイヤくんの話を聞く限り、キミは殲滅者としてもう充分任務をこなしていける。パートナーを組んでの研修も必要ない」
新米は研修をするのか。知らなかった。
「そこでキミに質問だ。この殲滅者としての仕事をしていくにあたり、何が最も重要か、キミは知ってるかい?」
何が最も重要か。そんなことは誰が考えても明らかではないか。
「…DICの殲滅です」
そう、DICの殲滅。それこそが殲滅者の最も大事なこと、そしてそれがアルトの全て。アルトの使命。
「ふむ…まぁ、間違ってはいないね。それもとても重要だ。でもそれは最終的な『到達点』であって、その到達点に辿り着くために重要なことは、何だと思う?」
DIC殲滅のために重要なこと。
「…………」
「…質問を変えよう。例えば、DICがキミの力じゃ相打ちがやっとの強敵だったとしたら、キミは自分の命を落とすことになろうとも、DICを消去しようとするかい?」
「……はい」
退けば犠牲者がさらに増える。おめおめとしっぽを巻いて帰るわけにはいかない。何としてもDICは消去しなくてはならない。
「……最も重要なのは、『生きる』ことだ。戦いの果てにキミの『死』の可能性が見えるなら、キミは戦いを放棄して逃げるべきだ。DICはその後で応援を連れて改めて消去すればいい」
逃げる?DICも倒さずに?
「でもそれじゃ犠牲者が――…」
「…――増えるね。遅れた分だけ確実に犠牲者が増える。じゃあ仮にキミが相打ちでDICを消去したとしたら、その先はどうなる?そのDICに関しての犠牲者はそこで止まるね。でもキミが未来で消去するはずであろうDICは野放しだ。他の殲滅者が倒すにしても、そこには必ず遅れが生じる。僕らは先制してDICを倒すことはできないからね。その遅れをまた他の殲滅者が、そこでまた生じた遅れをまた他の殲滅者が……。遅れの連鎖が積もりに積もって、やがてキミが一旦退いて改めて倒した場合を遙かに凌ぐ犠牲者が積み上がるだろう。殲滅者が1人死ぬってことは、そういうことなんだ。キミの仕事は、DICを消去し、かつ生還することだ。DIC1体倒すために死ぬくらいなら、逃げてくれた方がキミもボクも、キミの仲間も、そして世界も助かる。おわかり?」
そんなこと、考えたこともなかった。考えたことなかったが、話は簡単だ。アルトはDICを倒さなくてはならない。この世界から消し去らなくてはならない。そのためには、生き続ける必要がある。DICを殲滅するその日まで。そういうことだ。
「はい、わかりました」
「よろしい。お話は以上。マイヤくんと楽しい楽しい館内観光を満喫しておいで」
「行こ」
マイヤがライアンに一睨み投げて、部屋のドアに向かって歩き出す。僕もそれに続いた。
「アルトくん」
「はい」
本部長がさっきの「おわかり?」の前までの真面目な顔で僕に呼びかけた。
「もう1つ覚えておいて欲しいことがあるんだよね。心の片隅にでも置いといてよ」
「何ですか?」
「『運命』っていうのは、神様が創って渡してくれるものじゃなく、自分で組み立てるものなんだよ」
わずかに微笑みながらそう言った。慈しむような、憐れむような、そんな微笑みで。

「本部長はすごい人ですね」
マイヤの横を歩くアルトが感嘆の声を漏らした。
「まぁ、ね」
認めるのは何となく癪に障るが、事実だ。
 頭はいい。仕事もやらないだけで、おそらくやれば何でもできるだろう。でもどこかチャランポランで、無責任で不謹慎な男だと、そんなふうにマイヤは思っていた。
それは表面上だけの張りぼてだったのか。今日はライアンの心の一端を覘いた気がした。悔しいが、ライアンはすごい人間だ。
「さて、それじゃまずアルトの部屋を選ぼっか」
「はい、お願いします。……あの、あんな人が本当に変人なんですか?」
「世界屈指のね。最近変態であることも発覚したわ」
「…?」
 何にしても、新たな殲滅者は、こうしてヨーロッパ地域本部にやって来た。



  第5章 1節:新たな家族 - 翼無き天使 (男性) - 2008年02月01日 (金) 13時48分 [747]   
 
 ここはイオニア海を進む船の上。ギリシャWPKO支部を後にして、アルトは総本部のあるヴァチカンへ行くために、マイヤは地域本部へ帰るために一緒に乗船した。
昨夜の雨雲もきれいさっぱり無くなり、空は快晴。海は穏やかで太陽に照らされキラキラ輝いている。頬を打つ海風が心地いい。
このまま順調に行けば、夕方にはイタリアの港に到着するだろう。
 港に着くまではデッキでマイヤと会話をしていた。
「エターナル・フォースは2タイプに分けられるんですねぇ。知りませんでした」
アルトの銃は「武器タイプ」、マイヤの水攻撃や、アデルのは「特殊タイプ」に分別されるらしい。
「そうなの?アデル元帥の弟子なんだからもう何でも知ってるかと思った」
エメラルドグリーンの目を丸くして、マイヤは意外そうな顔で言った。
「それがそうでもなくて…。むしろ知らないことの方が多いと思いますよ」
行く先々で修行を与えられ、それをこなして行くだけで精一杯だったし、アデルはWPKOのことはあんまり詳しく話してくれなかった。きっと面倒くさかったからだろう。
 修行中、アデルはフラッとどこかへ行き、そのまま1週間ほど帰って来なかったり(もしかして任務だったのか…?)、はたまたほんの数時間で多額の借金を生み出したり、とにかく波瀾万丈だった。
「へ〜、やっぱり元帥って大変なのね〜」
マイヤはなぜか感心と尊敬の声を漏らした。大変なのはアルトなのだが。
「ねぇねぇ、アルトはアデル元帥が戦ってるとこ、見たことあるの?」
「はい、何回か」
いくつもの街や村を巡るうちに、この間のように偶然DICに当たることは何度かあった。
アデルは「これも修行だ」とか言ってバックれるから、DICの探査から殲滅までほとんどアルトがやった。
でも時にはアルトの力じゃ敵わないDICだっていた。そんなときはアデルが戦線に立った。
「で?どうだった?」
マイヤは興味津々だ。
「どうって……すごい、ですよ」
「どうすごいのよ」
すごいとしか形容しようがない。何がどうなってるのか僕だってわからないのだから。
「気がついたらDICが消えてたって言うか……本当にもう一瞬で」
あれは反則だ。
「ふ〜ん、さすが元帥ってとこね」
「マイヤは水を操れるんですか?」
「まあね。水とエターナル・フォースを練り上げて武器化するの」
「なるほど、だから水でもDICが斬り裂けたんですね」
「そゆこと」
「いつからWPKOに?」
「8歳の時に適合者だとわかってWPKOに連れて行かれたの。それから殲滅者として戦っていけるように訓練を積んで、覚醒したのは13の時。それから4年間、ずっとこの生活ね」
そういえばアデルも、「適合」しても「覚醒」までには個人差があるって言ってたな。適合は、言わば繭の状態。覚醒して初めてエターナル・フォースが発動できる。
「家族と離れ離れなんですか?」
「父と母はオーストリア支部の会計部門に勤めてるの。適合者が見つかってその人に家族がいた場合って、家族には全部説明されるじゃない?WPKOのこととか。それを聞いたら『そんなところに娘一人送れるか!』って言ってWPKOに私と一緒に入っちゃったの」
マイヤはおかしそうに笑った。少し嬉しそうにも見える。
不安だったのだろう。恐かったのだろう。家族と離れることが。家族を失うことが。
「ターミネーターになって任務をこなすようになってからは滅多に会えなくなったけど、会えるだけまだマシね。WPKOは基本的に外部の人間と接触禁止だから」
「そうなんですか。いいお父さんとお母さんですね」
「アルトの家族はどうしてるの?」
僅かな沈黙。答えればきっとマイヤは気まずい思いをするだろう。答えなくても同じことになるか。
「僕、家族はいないんです。父は僕が生まれてすぐに事故で。母は、DICに……」
案の定、マイヤは気まずそうな顔をした。自分が家族を失うことを恐れるがゆえに、実際に家族を失ったアルトが一層かわいそうに映るのだろう。
「……そっか。ごめん、変なこと聞いて」
「気にしないでください。もう昔のことですし。それに、母は今でも僕に戦う力をくれますから」
そう、約束したのだ。常しえの眠りにつく母に。絶望に浸ることなく歩き続けると。悲しみを消すべく奔り続けると。
「……じゃあ、これからは私たちが新しい家族だね」
マイヤはにっこり笑ってそう言った。
「そうですね」
新しい家族、か。アルトは自分が笑みを浮かべているのに気づいたのは少し後になってからだった。



  第5章 2節:総本部 - 翼無き天使 (男性) - 2008年02月01日 (金) 13時49分 [748]   

 予定通り、日暮れにイタリア南部の港に到着した。列車に乗って中部まで行き、マイヤとはそこで別れた。
総本部のあるヴァチカンはローマ市内の小国で、ヨーロッパ地域本部は北部のミラノにある。
「いい?アルト。絶対ヨーロッパ地域本部に来るのよ?アフリカなんかにいったら承知しないからね」
「はい、わかりました」
苦笑しながらアルトは答えた。相当忙しいんだな。
 ローマ駅に降りたアルトは、ヴァチカンに向けて歩き出した。
 ヴァチカン市国。周囲を囲む高い城壁の中にそびえ立つのは、サン・ピエトロ大聖堂。かつてキリストの使徒ペテロの墓があったとされる場所の上に、被さるようにして建立された世界最大級の教会建造物。キリスト教のことはよくわからない。でもこの大聖堂の地下深くに、WPKO総本部が存在することは紛れもない事実だ。もちろん、来るのは今日が初めて。
 サン・ピエトロ広場は民間人にも開放されていてるらしく、夜だったがちらりほらりと人がいた。中央にある巨大なオベリスクを通り過ぎ、大聖堂の前まで来た。ここまで来ると本当に大きい。
「アルト=ナイトウォーカー様でいらっしゃいますね?」
男が後ろから話しかけた。白髪の老人で、執事の様な礼儀正しさが感じられる。いつからそこにいたんだろう。全然気づかなかった。
「はい、そうですけど…。あなたは?」
「WPKOの者です」
「あ、そうですか。元老院の方々に謁見賜りたいのですが、どこへ行けば…?」
「こちらへ」
そう言って老人はアルトを大聖堂の奥へといざなった。



  第5章 3節:恋愛疑惑 - 翼無き天使 (男性) - 2008年02月01日 (金) 13時53分 [749]   

 マイヤは出発したときとは打って変わって、かなり明るい気分でヨーロッパ地域本部に帰還した。それは念願の新入りのスカウトに成功したから。
新たな殲滅者が一人増えることは、他の殲滅者にとって大きな負担軽減となる。それにアルトはアデルの弟子で充分強いから即戦力として使える。
他のターミネーターと組んで1年間の研修を行う必要もない。もう素晴らしいの一言だった。
「本部長、任務完了しました」
マイヤは地域本部に入ると真っ先に司令室に向かった。もちろんアルトのことを教えて、こっちからも引き抜いてもらうためだ。これで完璧。
「や、マイヤくん。おかえり〜」
ライアンは相変わらず書類が散らかった部屋でコーヒーを飲んでいた。
「ディテクターの調子はどうだった?」
「便利でしたよ」
「でしょ〜?今さらながらに自分の才能にビックリしちゃうよ」
「本部長、そんなことよりお話したいことが」
「キミさらっとひどいこと言うね。ボクの大発明を『そんなこと』だなんて。それにできればボクのことは名前で呼んで欲しいな〜。『ライアン』ってね」
「…ぶっ飛ばしますよ」
「冗談だよ。で?何?」
「新しいターミネーターが見つかったんです。ギリシャで会って、今は総本部に着いた頃です」
「へ〜、よかったじゃない」
「本部長。この間、新入りが見つかったらこっちに引き抜くって約束しましたよね?」
「え〜、そうだっけ?」
「本部長!!」
「わ〜かりました。総本部へボクからもお願いしてみるけど、ギリシャで会ったんなら、マイヤくんのことだから説得やら勧誘やらしてきたんでしょ?」
「彼はヨーロッパにすると」
「へ〜、男なんだ。ふ〜ん」
「…何か?」
「いいえ別に〜。でも、本人がそう言ったなら別にいいじゃない、こっちから引き抜かなくても」
「とにかく!絶対引き抜いてくださいよ!?私最近ほとんど休み無いんですから!」
「は〜い」
(本当にやる気ないんだから、この男は!)
「名前はアルト=ナイトウォーカー。15歳です。あのアデル元帥の下で6年間修行したそうですから、即戦力になってくれますよ」
「ナイトウォーカー…?」
「はい。知ってるんですか?」
「…………ぜ〜んぜん」
両手を挙げてわからないという仕草をした。
「…じゃあ、お願いしますよ?」
「はいは〜い。…マイヤくん」
ライアンはいつになく真剣な顔でマイヤを呼んだ。
「何ですか?」
「……アルトくん、気に入ったの?」
今度はニヤッと笑いながら聞いてきた。
「はぁ?」
「だってそんなに一生懸命引き抜こうとするなんて、もしかしたらそういうことなのかな〜と思って」
「なっ、いい加減にしてください!」
「あ、別に上司の目は気にする必要ないよ?キミ達は恋愛盛りな年頃だし、組織内恋愛は大いに公認されてるからね〜。それにターミネーター間の子供ならその子もターミネーターになりそうじゃない?非常に興味深い」
「本部長!本気でぶっ飛ばしますよ!?」
マイヤは顔を真っ赤にして怒鳴る。
「それにしてもキミは本当にひどいな。ボクという男が身近にいながらつい最近出会ったばかりの少年に心を奪われるとは」
とりあえず手頃な投げる物が無かったので、手に持っていたディテクターをライアンの額に撃ち込み、壊れんばかりの勢いで扉を閉めて出て行った。
「全く、何考えてるのあの男は!変人の上に変態だったなんて!」
 廊下をものすごい速さで歩きながら、マイヤは自分の頬が妙に熱いのを感じた。きっとこれは怒りだと、そう思うことにしておいた。
「私が出会ったばかりの、それも年下に恋!?確かに性格はいいし、ルックスも人並み以上だけど……って、ああぁ!!そうじゃない!!」
すっかり動揺するマイヤ。
「そんなこと、あるわけが……」
否定はするものの、頭の片隅にはアルトの顔が浮かぶのだった。



  第5章 4節:変わるもの 変わらぬもの - 翼無き天使 (男性) - 2008年02月05日 (火) 20時21分 [751]   

 大聖堂の地下に案内されて、けっこうな深さまで降りた。よく秘密裏にこれだけ深く掘ったものだな。ヴァチカンの下に謎の組織本部、なんて民間人に知れたら大変だ。キリスト教崩壊の危機。そんなことを考えてるうちに、やって来たのは大きな扉。
「元老院の方々がお待ちです。どうぞ」
老人が促すと扉が勝手に開いた。眩しい。中で見えたのは7人のシルエットだけ。逆光で顔は見えない。
「よく来たな、アルト=ナイトウォーカー」
7人の中の一人が言った。音が反響して誰がしゃべってるかわからない。返答に困ったのでとりあえず黙っておいた。
「これからお前は、世を救済する殲滅者として闇の使徒を滅ぼす戦いに身を投じることになる」
「…はい」
「その覚悟があるか?」
「はい」
「その運命から目を逸らさず、前に進めるか?」
「はい」
「アルト=ナイトウォーカー。お前に、戦う“意志”はあるか?」
以前に聞いた、あの時と同じ質問。アルトの答えも変わらない。あの時と同じだ。
「…はい、あります」
「…そうか。ならば、これ以上言うことはない。今この時より、汝アルト=ナイトウォーカーを、世を救済する『殲滅者』として認可する」
ついになった。殲滅者に。
「正規な手続きを踏んだのち、希望する地域本部へ行き、DIC殲滅に努めよ」
「はい」
アルトは部屋を出た。手続きをして、大聖堂を出て、ヴァチカンを出た。
 WPKO機関員証明書を発行してもらい、晴れて正式なターミネーターになったわけだが、あまり感慨深い心情にはならなかった。まぁそれもそうだろう。
今までも、これからも、アルトには何も変化は無いのだから。心の中では6年前のあの日から、アデルに出会ったあの日から、アルトはずっと殲滅者だったのだから。
今日になってその肩書きを与えられただけ。
「さて、それじゃ行きますか」
ヨーロッパ地域本部へ。アルトの新しい家へ――。
 ――変わったことが一つあった。アルトには家族ができた。ともに戦い、ともに世界を救う、大きな家族が。



  続きです^^ - 翼無き天使 (男性) - 2008年02月05日 (火) 20時23分 [752]   
ベールゼブブさん、お久しぶりですね^^
セミプロとか、すごいですね^^;
私も読んでみたいです^^
頑張ってください。
では


  第4章 7節:遭遇 - 翼無き天使 (男性) - 2008年01月20日 (日) 19時41分 [743]   
   単独捜査を始めてからすでに6日。未だに犯人の目星はつかず、虚しく時間だけが過ぎていった。
「あの銀髪小僧、やっぱり怪しい。あの日以来、真夜中の町を歩き回ってやがる」
ときどき耳を澄ますように立ち止まってはまた歩き出す。ロバートはそんなアルトを幾度となく目撃した。
しかし一方で、アルトでは犯行に「多少の」無理が生じるのもロバートは認めざるを得なかった。
「くそっ、忌々しい殺人鬼め。どこに隠れてやがる…」
 そんなときだった。見つけたのは人通りの少ない道に入り込んでいく男。フードを被っていて顔は見えなかったがまだ若いと思われる。
ロバートの直感が閃いた。まずは職質をかけて少し揺すってみるかと、後を追って男に声をかけた。
「おい、ちょっと待て」
男はゆっくり振り返る。若い男には変わりないが、虚ろな目で、ずいぶん顔色が悪い。
「こんなところで何をしている」
「…別に。散歩」
嘘だ、とロバートは思った。長年の経験と勘、がなくてもこの時間帯にこんな場所で散歩は不自然だ。
「こんな真夜中に散歩だと?もうちょっとまともな嘘をつけ」
男は特に取り乱す様子も見せなかったが、ずっと黙ったままだ。まさか一発目から当たりだったのだろうか。いや、まさか。
「まぁいい。ちょっと署まで来い。いくつか聞きたいことがある」
そう言って男の腕を引っ張ったが、男はピクリとも動かない。すると今度はブルブル震えだした。
「マだそンなに腹減ッてなイんだけドな。まァイいや」
「あ?何言ってんだお前」
男はロバートの手を振り払った。そして・・・。
ロバートは目の前の現実を疑った。
男はみるみる骨格が歪み、皮膚はしわくちゃになり、いびつな音をあげ、口からは牙が生え始めた。そして再び、さっきより一回りも二回りも大きな身体を形作る。
人型だが、人ではない「何か」に。赤い両眼がギラッと光る。
「な、何だ、お前は……」
「ケケケ、探さナくてモそっちカら食わレに来ルとハ、ツイてるな」
そう言うとロバートに突然腕を振り下ろした。風切り音が聞こえた。とっさに身体をひねり、辛うじて避ける。
深くえぐれた地面。どこかで見たことがある。鉤爪で引っ掻いたような傷跡。
「…やはりお前が犯人か!」
この化け物があの殺人鬼。しかも今度はロバートを殺そうとしている。
この状況なら間違いなく正当防衛になる。いや、そもそもこれはどう見ても人間ではない。化け物だ。殺人にすらなるまい。
ロバートは迷わず銃を抜き、狙いを定めて発砲する。狙いは違わず奴の心臓に当たった。
そう、確かに当たったのだ。しかし銃弾は化け物の黒い肉体から離れ、地面に落ちる。
もう一発撃った。結果は同じ。地面に落ちる。
「どうなってる…!?」
「ケケケ、そンなもんガ通用すルと思ッてンのか?」
港倉庫のあの不自然な現場。その原因がようやく理解できた。この化け物には銃が効かない。ロバートに勝ち目はなかった。
先ほどの発言から死体がないのも納得できた。この化け物は人間を食うのだ。
あまりに非現実的な事実が一度にロバートの頭に入り込み、ロバートはパニック状態に陥った。
思考ができない。体も動かない。呆然と立ち尽くすロバートに、化け物はどんどん近づいて来る。
 雨が降ってきた。濡れた化け物の身体は、さらに怪しく黒光りしていた。そして鋭く尖った指が生えてる腕を振り上げる。
(はっ、まさかこんなバケモンがこの世界に存在するとはな。ビックリだぜ。ここで俺は死ぬのか。まだ35歳。短い人生だったなぁ。結婚だってしてねぇのによ。
こんな化け物の腹に収まってくたばるのか。まったく、やってらんねぇぜ)
生を諦めかけたロバートの耳に入ってきたのは一発の銃声だった。
放たれた弾丸は、化け物が振り上げた手に命中した。
「ガァァァッ!!」
化け物は撃たれた手を押さえる。化け物に銃が効いた。ロバートははっと我に返り、弾が飛んできた背後に振り返った。
路地には誰もいなかった。しかし雨の音の中から少年の声が聞こえてきた。
「大丈夫ですか?」
声の主は屋根の上に立っていた。軽やかに屋根から飛び降りてロバートの眼前に立つ。
黒ズボンに黒コート。右手には口径の大きい銀の拳銃。雨に濡れた銀髪。
「銀髪小僧!!」
「どうも、警部さん。ご無事で何よりです。あと、僕の名前はアルトです」
アルトはにっこり笑ってロバートに話しかける。まるで今の状況をさっぱり理解できてないかのような気楽な顔だ。
「おい小僧!こんなとこで何してんだ!」
「やだな、警部さんを助けに来たんですよ」
変わらず笑顔で返す。
「あいつは銃も効かない化け物だぞ!お前みたいなガキが倒せるような相手じゃないんだぞ!」
「大丈夫ですよ。僕、これが本業なんです。さっき僕が撃った弾はちゃんと効いたでしょう?」
確かにそうだった。アルトの放った弾は化け物の手に傷を負わせた。ロバートは化け物を見る。
アルトはロバートの横を通り抜け、化け物と向かい合った。
「こんばんは、DIC。あなたを消去します」
アルトは化け物に話しかけた。
「ケケ、『殲滅者』だナ、オ前?」
殲滅者。耳慣れない言葉にさらに混乱するロバート。
「はい。世界の秩序を守るため、あなたには消えてもらいます」
「…調子ニ乗るなヨ。サッきは油断シたが、モうお前ノ攻撃ハ受けン」
「一発目が『核』じゃなくてよかったですね」
「ほザけ」
化け物が攻撃を仕掛けた。一足飛びで間合いを詰め、鋭い爪を繰り出す。
アルトは屈んでそれをかわし、下方から銃を撃つ。化け物も素早く回避する。一撃もかすることなく、両者しばし攻防を繰り返した。
化け物の手が、脚が、縦横無尽にアルトを襲う。しかしアルトもそれをかわし、捌き、隙を見つけては銃弾を撃ち出した。
1分弱の嵐のような攻防の中、ついに化け物の拳がアルトの顔に入った。アルトは後ろに吹っ飛んだが、ヒラッと身体を一回転させて着地した。
「ケケケ、この程度カ。興醒めダナ」
「…なかなか速いですね。それだけ人を殺したってことですか」
「何なんだこいつら……」
あの動き、あの銃捌き。15歳の少年のものではなかった。
ただでさえ非現実的な出来事だったのに、そこに15歳の少年が現れ、助けられ、今目の前で戦っている。
そんな光景を見てロバートはその場に座り込んでしまった。膝に力が入らないのだ。口もあんぐり開いたままだ。
やがて立ち上がった少年が再び銃を構えた。


  第4章 8節:邂逅 - 翼無き天使 (男性) - 2008年01月20日 (日) 19時50分 [744]   

(いったいな〜もう)
 雨のせいで足が滑り、一発もろにくらってしまった。
戦闘の際は天候を常に考慮しながら動けとアデルに教えられたのに。今のをアデルに見られたかと思うとアルトはゾッとした。
知能の方はまだ大したことないけど、身体能力の方はなかなか進化している。
口の中が切れていた。鉄分の味が口内に広がる。
今の弾速じゃ避けられる。このまま戦ってもラチが明かない。避ける暇など与えず、一撃で仕留める必要がある。
アルトは銃を構えた。
「そンなに遠クから撃っテ、当タるト思ッてるノか?」
ノーマルブレット、弾速Lv.4。
「避けられますか?超高速の弾丸を」
「ケケケ、何発だッて避ケてヤるヨ。お前ノ弾の速サにハもう慣レた」
「…無理ですね。あなたは僕の『フラッシュ・ショット』からは逃げられません。この一発で終わりです」
「ケ、さッサと撃ッて来っ――……!!?」
命中。弾丸はDICの核を貫通。DIC殲滅、完了。
 その直後、地面に崩れ落ちようとしたDICにいくつもの水の刃が襲った。水とわかったのは攻撃が当たってからだったが。
この攻撃でDICは微塵に斬り裂かれ、完全に消滅した。
今のは何だ?いったい誰が、どこから……。

 ディテクターの示す位置にマイヤが着くと、そこにはDICと2人の男がいた。マイヤは屋根から見下ろす。まだどちらも生きていた。
1人は30代くらいの背広の男。もう1人は、マイヤと大して歳の変わらなそうな銀髪の少年。
驚いたのは、その少年とDICが互角の戦いをしていたことだった。
 軽い身のこなしでDICの攻撃を捌き、手に持つ銀の銃で攻撃する。しかし銃でDICは倒せない。
少年にDICの拳が一発は入り、受け身をとって立ち上がった少年は、銃を再び構えた。
何やら会話をしている様だが、この位置からでは雨音に掻き消されて聞き取れなかった。
早く助けなければ少年が殺されてしまう。これだけ雨が降っていれば、大して力を使わなくても充分戦える。
――エターナル・フォース、発動。
“水よ、我が意に従い、我が力となれ”
雨水が集まり無数の刃を形作る。水はその圧力、撃ち出す速度によってダイヤをも断つ武器に変わる。
「斬り裂け、『飛水刃』!!」
 マイヤが攻撃を放った瞬間だった。少年の撃ち出した弾丸が、目にも留まらぬ程の速さでDICを貫いた。
動体視力には自信はあったが、弾道を微かに捉えただけだった。普通の銃弾は、初速が音速より僅かに速い程度。
しかし今のは何だ?音速なんてレベルではなかった。それに弾はDICを貫通した。あの少年、もしかして……。

 屋根の上に人が立っていた。どうやらさっきの攻撃はあの人のようだ。WPKOから派遣されたターミネーターだろう。
「WPKOのターミネーターの方ですか?」
屋根から降りてきた、意外なことに女性にアルトは尋ねた。すらっと細身で、長い黒髪の美人だった。
瞳は夜でも輝くエメラルドグリーン。歳はアルトの少し上と言ったところか。怒らせたら恐いかもしれない。
「そうよ。あなたも殲滅者ね?」
「はい。アルト=ナイトウォーカーです」
「どこの本部から来たの?」
「あ、いえ、まだ正式にターミネーターになったわけじゃなくて、これから総本部へ行くところなんです」
「ってことは、新入り?」
心なしか彼女の表情が明るくなった。
「はい。よろしくお願いします」
「でもその割にずいぶん強かったじゃない。それに、誰かしら付き添いのターミネーターがいるはずだけど…?」
「それが、6年間アデル師匠に鍛えてもらってたんですけど、3ヶ月前にターミネーターを名乗るのを許可してもらったのと同時にインドネシアで失踪しちゃって……」
アルトは苦笑する。
「1人で総本部へ行く羽目に……」
なってしまったのだ。推薦状はちゃんと総本部へ届いているのだろうか。
「アデルって、あのアデル=キースロード元帥!?」
「はい」
「すごい!あのアデル元帥の弟子だなんて!私、アデル元帥の大ファンなの!」
「……はい?」
信じられない。アデルを慕う人間がこの世にいたとは。
「7年くらい前に一度ヨーロッパ地域本部で見ただけなんだけど、今でもはっきり覚えてるわ。素敵な人よねぇ」
いったいどのあたりを素敵と感じたのだろうか。
「本当にアデル元帥の弟子なの?あの人が弟子を取るなんて今までなかったことよ?」
「はい、まぁ一応……。あの、あの人のどこら辺がお気に召したんですか…?」
「どこって、あの鋭くも優しいオレンジの瞳といい、渋い声といい、ウェーブのかかった黒髪といい、タバコを吸う姿といい、全てよ!」
マイヤの興奮はそれはすごいものだった。
「もちろん殲滅者としての実力も尊敬してるわ。同じ特殊タイプだしね」
「…はあ、そうですか」
まぁ、見解の相違というやつだろう。
「ふ〜ん、そうか新入りなんだ。どこの地域本部に行きたいとか、希望あるの?」
「いえ、特に」
そもそも希望できることを知らなかった。
「じゃあ是非ヨーロッパ地域本部に来てよ」
「…どうしてです?」
「忙しいのよ。ヨーロッパは特にDICの出現数が多いの。それなのに元老院の連中は、殲滅者の数は均等分散なんて言ってるからもう天手古舞いなの」
「そうなんですか」
地域本部はそんななのに、元帥であるはずのアデルがあんなで果たしていいものだろうか。
「だから、ヨーロッパ地域本部に来て!やりがいもあるし、世界中の地域本部で設備や環境は一番いいところよ。その分、任務も多いけどね」
忙しいのは別に構わない。DICの完全殲滅こそがアルトの人生で、夢で、約束だから。
だったらよりDICに多く巡り会えるところがいい。
「そうですね。それじゃあ、ヨーロッパにします」
「本当!?絶対よ!?」
「はい」
「これで仕事が少しは楽になるわ。私、マイヤ=キリサワ。よろしくね」
「こちらこそ。日本の方なんですか?」
「母がね。父はイギリス人。あ、そうそう、最初に言っとくけど、うちの本部長は変人だから覚悟しといてね」
「大丈夫です。変人には慣れてますから」
「…?」
アデル以上の変人は、世界広しと言えどそうはいまい。
 気づけば雨は、止んでいた。

  第4章 9節:未来への架け橋 - 翼無き天使 (男性) - 2008年01月20日 (日) 19時52分 [745]   
 いったい何がどうなってるのかさっぱりわからなかった。
ロバートは裏路地に入っていった普通の人間を追いかけていたはずなのに、実はそいつは銃も効かない化け物で、殺されるかと思ったら、そこに銀髪の少年アルトが入ってきた。
アルトがとんでもない化け物銃を撃ったと思ったら、今度は水が飛んできて化け物をズタズタに切り裂いた。そして次は少女マイヤの登場だ。
いったいこの子供達は何者なのだ?ターミネーターだの殲滅者だの、ディックだの元帥だの、わけのわからない会話が英語で盛り上がっている。
「おい、俺を無視すんな!説明しろ!」
「あ、すいません警部さん。すっかり忘れてました」
「わけがわからん!説明しろ!」
「わかりました」
「事後処理部門に連絡して記憶消去プログラムにかけちゃえば?」
「説明して理解してくれるに越したことはないですよ。過去は、消せませんからね」
「…まぁ、ね」
マイヤはロバートの方にさっと振り向く。
「いい?これから話すことは、あなたの常識をひっくり返すことになるけど、全て嘘偽りない事実だから。先入観抜きで聞きなさいよ?」
「常識だぁ?そんなもんとっくの前にぶち壊された!いまさら驚くことなんかあるか馬鹿め!」
「僕たちは――……」
そしてアルトとマイヤはロバートにに説明し始めた。WPKOという組織のこと。DICのこと。ターミネーターのこと。
途中で口を開かなかったのは、聞かされた言葉を理解するのに必死で、質問するどころではなかったからだ。
信じられたといえば嘘になる。あの化け物に会ってなかったら署に連れて行って説教かましてやるところだった。
「そんなことが、この世界で本当に起こっているのか……」
「驚くのも無理はないと思いますが、全て事実です」
この世界の命運が、こんな小さな子供たちの肩に乗っている。
「はは、俺は無力だな。人類が存亡の瀬戸際まで来てるってのに、何もできやしない」
「そんなことはありませんよ。警部さんだって世界を守るために頑張ってます。僕たちはDICを倒す。警部さんは犯罪者を倒す。それだけの違いです。それでいいと思います」
「……ふん、小僧め。言うじゃねぇか」
ロバートにDICは倒せない。ならばアルトやマイヤが余計なものに囚われずしっかり戦えるように、ロバートが犯罪者を捕まえればいい。
「小僧。いや、アルト=ナイトウォーカー」
「はい」
「助けてくれて、礼を言う。ありがとう」
この子供達は、今の世界から、未来の平和な世界に架かる「橋」の「要石」。最も重要な、なくてはならない存在。
ロバートはその周りを補う「普通の石」。だが、どっちが欠けても橋は崩れる。どっちもあって、橋が架かる。世界が、救われる。
そう信じたい。

 ――ヴァチカン・WPKO総本部、元老院。
「アデルから推薦状が届いたそうですな」
「ほう、もうかれこれ7年も定期連絡を怠っているあの馬鹿者がか。一応、任務はこなしているようだな」
「久しぶりに、新たな殲滅者を見つけたか」
「ああ、何でも生まれつきその身に神の力を宿す少年らしい。6年間直々に鍛えたので、殲滅者として認可して欲しいとのことだ」
「おもしろい。して、その107番目の殲滅者の名は?」
「アルト=ナイトウォーカー」
「ナイトウォーカー……?これはこれは」
「どうやら、ただの偶然ではないようですな」
「…ふふ、運命とは、皮肉なものだな……」
「全員、異論はないですな?」
「あるわけあるまい。誰であろうと、殲滅者は殲滅者。この世界を救う存在だ」
「アルト=ナイトウォーカー……か」

「やっと片付いた〜」
ギリシャ支部の事後処理部門への連絡を終えて、マイヤは大きく伸びをした。
「警部さん、大して混乱せずに理解してくれてよかったね」
「そうですね」
これから徐々に、みんながDICの存在を理解してくれるようになればいいのだが。そう簡単にはいかないだろう。
無理に広めようとすれば世界中で大混乱になる。長い年月が必要だ。
「アルトはこれから総本部まで行くんでしょ?」
「はい、明日の朝には出発するつもりです」
「じゃあ私も一緒に行くわ。どうせヨーロッパ地域本部も総本部もイタリアなんだし」
「そうですね。よろしくお願いします」
「もっとアデル元帥のことも聞きたいしね」
「ははは……」
「それじゃ、支部に行こっか」
「え?」
「支部よ。そこに行けば宿舎があるから」
マイヤはWPKO機関員だから、彼女と一緒にいれば支部を利用できる。旅費も全額WPKO持ちだ。
アデルは居場所がバレるのを嫌って支部にも立ち寄らなかったし、請求書も切らなかった。アルトにとっては甚だ迷惑な話だが。
全く、何を考えてるのか。いや、何も考えてないのかもしれない。
 こうしてアルトの寄り道殲滅戦は幕を閉じた。



  オヒサでし^^; - ベールゼブブ (男性) - 2008年01月25日 (金) 17時27分 [746]   
コメント改訂すると言っておいてなかなか改訂できなかったどころか、そのせいで止めてしまってすみません。
というのもいよいよセミプロ活動一歩手前(まだプロ活動ではない)状態なので、なかなか時間がとれないんですよーー;今年の暮れか来年までにどこかの雑誌に投稿予定なので、見かけたらよろしくお願いします・・・ってペンネーム違うから分からんわな・・・。

とりあえず一段落ついたところですかね。
でもまだ色々なやつがごろごろと出てきて大変なことになるのを期待しています^^
いや・・・しかし強いな・・・。マイヤさん・・・。
続きがんばってください^^


  第4章 4節:屈辱の捜査委託 - 翼無き天使 (男性) - 2008年01月18日 (金) 14時33分 [740]   
   見れば見るほど怪しい少年だった。銀髪に薄紫の瞳、明らかにこのあたりの人間ではない。
身分証明書なし。同伴者なし。財布には子供が持つには多すぎる程の現金。
「名前は」
「…アルト=ナイトウォーカーです」

 何だかおかしなことになってしまった。どうやらアルトはこの事件の容疑者らしい。
アルトが銃で撃たれたら銃弾が食い込むことぐらいわかってもよさそうなものだが。
 警察署の狭い取調室に連れてこられた。目の前には厳つい中年の警部。彼の眼がもうアルトを犯人だと決めつけていた。
席に座るよう指示され、形式的な質問が始まった。まずは名前だ。
「年齢は」
「…15です」
「住所」
ぶっきらぼうな質問は続く。
「…あの、生まれはドイツで、9歳までカナダで育ちました。それからは世界中を旅していたので、今現在住んでるところは、ないです」
「住所不定、無国籍の未成年者。本当にドイツ人か?変わった髪と目だな」
「生まれたのがドイツなだけで、ドイツ人なわけじゃないです。人種が何なのかは自分でもよくわからなくて…」
本当にわからなかった。そんなことを気にしたこともなかった。
「ずいぶんギリシャ語がうまいな」
「はい、まぁ特技というか趣味みたいなものでして。言語を覚えるの得意なんです」
「9歳で世界中を旅だと?」
「…はい」
「なら保護者か何かいるだろう」
「師がいますけど、3ヶ月前にインドネシアで失踪しちゃって……」
「…………」
「…………」
非常に気まずい空気が漂う。このままでは怪しさに拍車をかける一方だ。
「この金はなんだ。ガキが持つにしてはずいぶん多いな」
痛いところを突かれた。ギリシャではギャンブルで稼いだと言ったら、犯罪になるのだろうか。
「それは…師が残した、旅費です……」
若干、というかかなり苦しい嘘をつく。
「…ギリシャに来たのは今日が初めてなのか?」
「はい。今日の日暮れにこの町に着きました」
「船でか?」
「…いえ、陸を進んできました」
船で来たと言えば、乗船記録を調べられて一発で密航だとバレる。そうなれば確実に逮捕だ。
「今日初めてギリシャに来た奴が、なんで殺人現場に来たりするんだ」
「それは、えっと、ちょっと気になりまして……」
「ちょっと気になりましてだぁ?お前が犯人だからなんじゃないのか!?おぉ!?」
警部は机をバンと叩いて身を乗り出した。
「そんな!僕は人殺しなんかじゃありませんよ!」
「ロバート警部!落ち着いてください!」
アルトに任同をかけた若い刑事が宥めた。
ロバートは再び座り直して腕を組む。
「…ふん、まぁいい。お前勾留。みっちり取り調べてやるからな」
「えぇっ!?そんな!僕は行かなくちゃいけないところが……」
「フランツ、こいつを勾留室へ連れてけ」
人生初の留置所体験をするかと思ったとき、一人の男が取調室に入ってきた。50歳くらいか。同じく刑事のようだ。
「ロバート、その子を釈放しろ」
「署長!?」
「警察はこの件から手を引くことになった」
思いもよらぬ発言にロバートは面食らった。
「…手を引く?いきなりどういうことですか!?そんなの納得できるわけないでしょう!!」
「私もわからんのだ、ロバート。上からの指示だ。この事件は、別の捜査機関に委託されるらしい」
とうとうWPKOが動いたのだ。
WPKOは国を動かす政府からDIC殲滅を依頼されている。DICを内密に消去するために国が警察のトップに、警察のトップが所轄警察の捜査に圧力をかけることくらいわけないのだ。
「別の捜査機関…?何ですかそれは?」
「わからん。私も国際的な特殊捜査機関としか聞かされてない。一応容疑者を一人取り調べていると報告したが、犯人ではないから釈放していいとのことだ。とにかく、これは命令だ。その子は釈放、事件からは手を引く。以上」
「署長!!」
署長は取調室を出てどこかへ行ってしまった。
「くそっ、いったいどういうことだ!?この町で6人も人が殺されてるんだぞ!それを特殊捜査機関だかなんだか知らんが、手を引けだと!?」
「あの……」
「なんだ!!」
「僕、帰ってもいいですか…?」


  第4章 5節:殲滅者派遣 - 翼無き天使 (男性) - 2008年01月18日 (金) 14時38分 [741]   
 一時はどうなることかと思ったが、晴れて容疑も解消されてアルトは警察署を後にした。危うく留置所で一夜を明かすところだった。
 イタリアとギリシャは近いから、3〜4日もあればヨーロッパ地域本部からターミネーターが到着するだろう。
彼らに任せておけば問題ないと思ったが、乗りかかった船というやつで。さっき事件が起きたばかりだから、次にDICが行動を起こすまでもう少しあるだろう。
アルトは宿を探して歩き始めた。

 いったいどうなっいるのかさっぱりだった。
「国際的な特殊捜査機関?なんだそりゃ!犯人ではないから釈放していい!?見てもない奴になにがわかる!!」
ロバートは警察署内で怒鳴り散らした。
「まぁしょうがないですよ。上の命令なんだし」
「国際組織といえど、一国家の捜査機構に圧力をかけるなんて相当な規模と権力を持ってやがる。いったいどんな組織なんだ?向こうにはもう容疑者が挙がってるのか…?」
「上は下っ端には何も教えてくれませんからねぇ」
部下の一人が悲しき縦社会の摂理を呟く。
「くそっ、ここまで来て引き下がれるか!警察には警察の意地ってもんがある。たとえ命令違反になろうとも、俺がこの殺人鬼を捕まえる!」
一人意気込むロバート。
「いいんですか?そんなことしたら減俸じゃ済みませんよ?懲戒免職になるかも」
「構うものか!人の命の方が大事だ!よし、そうと決まれば張り込みだ。奴が昼に動くことはない。毎晩毎夜、徹底的にこの町を見回ってやる。地元警察の意地をなめんなよ!!」
ロバートは燃えたぎる闘志を胸に一人、冷えた夜の都会へと駆けだした。

「あ〜、疲れた。さすがにフィンランドは遠かったわ…」
一人の女性が呻くように呟いた。
「たしかにフィンランドはヨーロッパだけど…、モスクワのロシア地域本部の方が断然近いじゃない。なんであっちで派遣しないのよ……」
キャリーバッグを引きずりながら文句を垂れる。
「ほんと、忙しすぎて嫌になるわ・・・」
 そんなやや過労気味で、彼女は陽の沈もうとしている、巨大なWPKOヨーロッパ地域本部に帰ってきた。
任務完了報告書は後回し。休むために速攻で自室に向かった。しかしそんなときに限って、任務というのは入ってくるものなのだ。
「マイヤ=キリサワく〜ん、お仕事が入っておりますのでぇ、至急ボクのオフィスまで来てくだっさ〜い」
この少し半狂乱気味なのではと思ってしまうような館内放送の主は、ライアン=クランツ。ヨーロッパ地域本部本部長、つまりはマイヤの上司にあたる。
また任務か。マイヤは舌打ちした。そもそもなぜ帰ってきたのがもうすでに本部長に知れているのだ?
「入りますよ本部長」
返事を聞く間もなく、マイヤはドアを開けて司令室に入った。
まず目に入るのは大きな一面ガラス張りの壁。しかし今は夕日を遮るためにブラインドが下ろされてた。
ここのトップが居座るにはふさわしい広い空間は、散乱している大量の書類のせいでだいぶ狭く見えた。
部屋の奥のデスク上にもまた山と積まれた書類。その書類の山に隠れるようにして本部長、ライアン=クランツが椅子に座りながらコーヒーを飲んでいた。
(まったく、どんだけ溜め込んでんのよ)
ライアンは今日もYシャツの上から白衣を着込んでいた。長身のルーマニア人。手入れの行き届いた髪と、いかにも知的そうな眼は明るいブラウンだ。
初対面の人なら「素敵な人」だと思うもしれない。27歳にしてすでにヨーロッパ地域本部本部長にまで登りつめた実力はかなりのもので、WPKO内で尊敬の視線を集めているのも事実だ。しかし、彼のやる気があるのかないのかわからないヘナっとした言動に、マイヤはときに殺意を覚えた。
「いや〜、任務から帰ったばかりでお疲れのところ悪いね〜」
「任務完了報告書の作成があるんですけど」
和やかに切り出す本部長に、凍てつかんばかりに冷たく切り返す。
「報告書は今回の任務の後で一緒に提出してくれればいいよ」
(どうせろくろく目も通さずに捺印するだけの書類でしょ!?だったら書かせないでよね!)
心の叫びが口から出そうになるのを何とか押さえ込む。
「誰か他の人いないんですか?」
「それがみんな出払っちゃっててね〜。キミしかいないのよ。仕事が早くて優秀なのも考え物だね、はははははは」
これは一応、お誉めの言葉を授かったわけだが、ライアンに言われるとなんだかイラッとくる。
「ヨーロッパは他の地域よりDICの数が多いんですから、もっとこっちに人員を集中するべきじゃないですか?」
「それがね〜、そうもいかないのよ。殲滅者の数は各地域本部に均等分散ってのが総本部の意向なんだよね〜。ボクらはそれに逆らうことはできないの。おわかり?」
「だったら、次に見つかった『適合者』は必ずこっちに引っ張ってきてくださいよ!?」
「はいは〜い。頑張りますよ〜」
全くもって頑張る気が伝わってこない。
「・・・で?今回の任務はどこなんですか?」
「マイヤくんには嬉しいことに、近場のギリシャ」
ギリシャ。船で行けば3、4日で着ける距離だ。
「これがその資料ね。詳しいことは全部それに書いてあるから、道々読んどいて〜」
そう言いながら何枚かの紙をマイヤに寄こす。
「被害者は今のとこ5人。DICの行動は典型的だね〜。一定の狭い範囲内、活動は夜、死体を残さない。まぁキミほど優秀な殲滅者なら楽勝だと思うから、ササッと行ってきて〜」
ここまであからさまに誉められると本気で腹が立ってきた。
(ササッと!?行く方の身のもなれっての!!)
「ギリシャ政府にはもうこの件の捜査中止命令を出して警察の介入は防いであるから、心おきなく殲滅してくれちゃっていいよ〜」
「わかりました。じゃあこれから向かいます」
ため息混じりにそう言って司令室を出ようとドアに向かった。
「ちょ〜っと待った〜」
「……何ですか?」
面倒くさそうに振り返る。
(一度に言え、一度に!これ以上イラつかせるな!)
「お疲れのマイヤくんに、とっておきの餞別があるんだよね〜」
そう言ってライアンが書類に山の中から引っ張り出したのは、小型の機械だった。私に放って投げる。平べったくて液晶画面がある。先端には伸縮性のアンテナ。画面のついた小型ラジオみたいだ。
「…これは?」
「よくぞ聞いてくれました。ボクの知識と経験と天才的閃きに、開発部門のみなさんのささやかな協力を加えて完成したのがそれ。名付けて『ディテクター』」
「ディテクター…?」
「その機械を中心とする半径3q以内なら、どんな微細なダークマターでも探知しちゃう優れ物!でもそれにはエターナル・フォースの力を媒介とする必要があるんだけどね〜。つまり、使えるのはターミネーターだけ」
「ふ〜ん……」
ライアンは以前は開発部門にいて、天才科学者と呼ばれた程の頭脳の持ち主なのだ、一応。
本部長となった今でも、ときどき仕事を放っぽりだして研究室に籠もり、謎の実験を行ったりしては開発部門のみんなを困らせている。書類が溜まる原因の一つだ。
「あれ、意外に味気ない反応だね。これでDICの探索がグンと楽になるのに。夜更かしの時間も少なくなってお肌に優しい、WPKO始まって以来の大革命だよ?ボクの名が歴史に刻まれるんだよ?」
まぁそれは、見方によっては人類の汚点ともなり得る。だいたい、WPKOに関することが歴史に刻まれるわけがない。
「つまり、探知できるのは擬態を解いて人間を襲うときだけなんですね?」
人間に化けているときは、ダークマターは体外に干渉しない。よって探知もできないだろう。
「うんまぁそういうことになるかな〜。不満?」
「いいえ別に。ありがたく使わせてもらいます。他に何か言うことはありますか?」
「いいえ別に。お仕事頑張ってくださ〜い」
さっき自室に置いてきたばかりのバッグをそのまま持って、マイヤは重い足取りでギリシャに向けて発った。


  第4章 6節:寄り道殲滅戦 開幕 - 翼無き天使 (男性) - 2008年01月18日 (金) 14時40分 [742]   

 警察に誤認逮捕された日から6日目の夜。天気はくもり。このままだと一雨来るか。
DICに未だ動き無し。一応毎晩町を見回っているが、ダークマターは感じなかった。
アルトはDICの体から放たれるダークマターを感知することができた。意識を集中すればわずかに一定範囲内のダークマターの有無を判別できる。
 この能力に気づいたのは、アデルとの修行が始まって1年目が過ぎた頃だった。

「DICの居場所が何となくわかる、だと?」
「はい。本当に何となくですけど、DICが擬態を解いたときに放つダークマターを感じます」
「…それがお前のシックスセンスか」
「はい?」
シックスセンス。殲滅者に視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感に加えて希に現れることがあるという特殊な力、第六感。
「エターナル・フォースの適合者は、DIC殲滅能力に加えて何らかの特殊な力を発現することがある。お前のそれはシックスセンスによるものだな」
「へぇ…」
「便利で助かる。以後DICの捜索はお前に一任するか」
「えぇ!?っていうか師匠の場合はただ探すのが面倒くさいだけじゃないですか!」
「だから探す能力を得た優秀な愛弟子にこの重要な仕事を任せようと言ってるんだ。こんな光栄なことはあるまい」
「…………。じゃあ、師匠にもシックスセンスがあるんですか?」
「…ふふふ、知りたいのか…?」
「…いえ、知りたくないです。絶対」

 アデルのシックスセンスはいったい何だったのか。今でも時々気になるが、触らぬ神に祟りなしである。あの笑いは明らかに危険な匂いがした。
今日もDICを探すべく、エターナル・フォースを発動して意識を集中する。
武器を錬成するほど力を解放しすぎても駄目だし、弱すぎても感知はできない。この力加減に慣れるまでが難しい。
ダークマターが感知できても、その時はすでにDICが擬態を解いて人を襲おうとしてるわけだから、間に合わないことだってある。
迅速探査・確実消去がアルトのモットー。
これはアデルの受け売りなのだが、アデルが「迅速」の面に関してこのモットーを実践したことは少なくともアルトは見たことがない。
「……!!」
ダークマター捕捉。北西に約1q。犠牲者がさらに増える前にDICを消去しなくては。

 手に持つ小型機械の画面に小さな光が点滅してる。
マイヤから放たれる、超音波のように拡散させた微弱なエターナル・フォースは、ダークマターに接触すると打ち消し合うから、そこからDICの居場所がわかるといういう寸法だ。さすが天才科学者と言われただけのことはある。あれでもう少し自分の仕事にやる気を出してくれれば、少なくとも「まとも」な上司にはなるだろうに。
「天は二物を与えず、か」
 北東に約2,8q。
「さぁて、さっさと終わらせて休暇にしよっと」
空は暗雲に覆われ、星一つ見えない漆黒の夜だった。
「一雨来るかな。楽勝ね」

――殲滅戦、開幕。


  第4章 1節:殺人事件(仮) - 翼無き天使 (男性) - 2008年01月14日 (月) 23時52分 [737]   
   彼の名はロバート。ギリシャ共和国のとある港町で、日々町の人々の平和を守るために犯罪者と戦う、現役バリバリの自称凄腕警部。
彼がこの町にいる限り、犯罪者は町の中にのさばることはないらしい。
彼のおかげで町は平和そのもの……だった。ついこの間まで平和そのものだったのだ。
しかし、今この町は近頃連続して発生している不可解な凶悪事件に悩まされていた。
次々と人が殺されているのだ。いや、正確には「殺されているのではないか?」と予想されているのだ。
 事件現場はいずれも人通りの少ない裏道。現場にはおびただしい血痕。
地面は深くえぐれていて、石壁にも深いひっかき傷やヒビが入ってることからして、犯人は相当な怪力で、鉤爪のような凶器を使用していると思われた。
人間が生身の指でこんなに地面をえぐれるわけないし、まして頑丈な石壁にヒビなんて、論外だ。鋼鉄製の太い鉤爪でもない限り、こんな現状はありえない。
 そして事件現場の数と、事件の日以来いなくなった人の数も一致していて、ときには現場にいなくなった人の所持品も落ちていたりすることから、被害者は消えた人達だと推測された。
 これは間違いなく殺人だろう。誰もがそう思った。だが肝心の死体がなかった。どこにもないのである。
おかしいではないか。ロバートは訝しんだ。殺したならどうしてわざわざ死体を持ち帰るのだろう。邪魔ななるだけだ。
仮に死体を処分しようとしたと考えても、あれだけの血をまき散らして、地面をえぐって壁を壊せば、警察が動くのは子供でもわかりそうなものだ。
万が一被害者が殺されてないなら、どうして通報してこない?家にも帰らず事件以来ずっと行方不明のまま。
消えた被害者に最後にあった人たちはみんな、いつもと変わりなかったと話している。自己失踪の可能性は低い。
誘拐?現場の惨状からしてそれも考えにくい。誘拐ならあそこまで血が流れることはないだろう。身代金要求もない。
「ふぅむ。さっぱりわからん……」
ロバートは行き詰まった。矛盾が多すぎる。消えた人達にも特に接点はない。
署内では早くも迷宮入りが囁かれていた。
「くっそ〜、見てろ!俺が必ずとっ捕まえて、無差別殺人および死体遺棄および器物破損の罪状で監獄、いや死刑台に送り込んでやるからな!」
そう意気込んでロバートは今日も警察署へ出勤した。

 インドネシアを出発して早3ヶ月。船に乗り、列車に乗り、道行く人に乗せてもらい、アルトはとうとうギリシャに到着した。
もう一度船に乗り、イオニア海を横断したらイタリアだ。そこまで行けばヴァチカンはもうすぐそこにある。
 師匠アデル=キースロードの睡眠ガス入り煙幕をくらってから、思えば長い道のりだった。
インドネシアから船でインドまで行き、そこから世界鉄道を乗り継ぎながらインド、パキスタン、イランを横断。トルコを経由して現在のギリシャに至る。
 アルトはアデルの弟子とはいえ、まだ正式にWPKOの人間ではないので、各国の支部に世話になることもできないし、WPKO宛に請求書も切れないから交通費も宿泊費も全額自腹になる。
トルコに着いたところでとうとう一文無しになり、ヒッチハイクして旅人や行商人に同乗させてもらいながらここまで来た。ちなみにトルコ―ギリシャ間は密航だった。
しかしこんな旅路もアデルとの修行の6年間に比べれば大したことはなかった。密航はお手の物だ。「金を稼いでくる」などと言ってカジノに行き、借金作って帰ってくる奴がいないだけまだ快適な旅だったと言える。
 そしてギリシャの地を踏んだアルトには今、旅路には有り余るほどの額の金がある。船内のギャンブルで稼いだ金が。
アルトにカードゲームで勝とうなど無謀もいいとこだった。ダテにアデルの借金の連帯保証人をやっていたわけではない。
挙げ句の果てにはカードはイカサマがあったかもしれないから、全財産を賭けて、といってもすでに向こうは一文無しだったが、正々堂々射撃で勝負なんて言い出す始末。
これには思わず笑ってしまった。船上から物を投げて打ち落とす簡単な射撃ゲーム。結果は火を見るよりも明らかだった。
そして挑戦者たちの身ぐるみを引っぺがして悠々と下船。久々にまともな食事と宿がとれそうだ。
 それにしてもこのギリシャ、美しい町だ。地中海特有の白壁の町並み。エメラルドグリーンの海、透き通るような蒼天。
といっても今は夜だからわからないが、夜は夜でまた趣がある。趣があるが、少し気になるのは警官の数。かなり多い。ここから見えるだけでも7人。
事件でもあったのだろうか。
アルトは調査に乗り出した。


  第4章 2節:わかる人 わからない人 - 翼無き天使 (男性) - 2008年01月14日 (月) 23時54分 [738]   
 事件に進展無し。今日もまた収穫のない捜査の1日が終わった。
これだけの人員を割いて捜査しているのに目撃者1人見つからないことに、ロバートは腹立たしさを感じずにはいられなかった。犯人も知能派ということか。
イカれた殺人者と知能派のミックスほど厄介なものはない。犠牲者はすでに5人。3ヶ月で5人である。早く捕まえなければ犠牲者はどんどん増えていく。
前回の事件からもう2週間たっていた。いつ次の事件が起きてもおかしくない。
「ロバート警部!奴が出ました!」
部下の一人が駆け込んで来た。
「どこだ!」
「西区の港倉庫の近くです。大量の血痕を港の人間が見つけて通報しました。死体はないそうです」
西区。事件現場の位置もバラバラ。全てにおいて共通点はない。死体を残さないという手口以外は。
「またファントムの仕業か…」
犯人の全く手掛かりを残さない犯行から、新聞や週刊誌では「幽霊」“PHANTOM”という通称で騒がれていた。
「警部、現場に向かいますか?」
「当然だろ!」
6人目の犠牲者。ロバートは怒りに息を荒げながら扉を出て行った。

 景色は綺麗だし、料理もおいしい。ギリシャは本当に良いところだ。
 情報収集をしつつ腹ごしらえをするなら、行くところは一つ、居酒屋だ。
情報収集は酒場というのが定石。しかしアルトはまだ未成年なので、完全なバーやパブなどではなくレストランも兼ねているような小さな店舗に入った。
要は多種多様な人が集まり、会話を行う場所であればいいのだ。
「ここの料理はおいしいですね」
カウンター席に座り、羊肉のグリルを口に運びながらマスターと覚しき男性に話しかけた。
当然ギリシャ語だ。覚えておいて正解だったとアルトは思った。
まずは何気ない会話から切り出すのが情報収集の基本。白髪の口ひげを蓄えた気さくそうな人だった。
「そう言ってもらえると嬉しいね」
「僕ギリシャに来たの初めてなんです。町の景色も綺麗だし、いいところですね」
「旅人さんかい?」
「ええまぁ。今はイタリアを目指してるんです」
嘘ではない。ヴァチカンはイタリアの中だし。でもこの歳でヴァチカンに行くなどと言ったらたぶん怪しまれるだろう。
「そうかい。お若いのに大変だね」
「いえ、もう慣れてますから」
それはもう嫌という程に。
「ここは本当に良い町なんだけどねぇ。最近妙な事件が立て続けに起こっていてね。みんな怯えてるんだ」
「へぇ、そうなんですか」
向こうから切り出してくれるとは。願ってもない。
「怯えてるなんてもんじゃねぇぜ。みんな完全にビビっちまって、夜に出歩く人間が一気に減っちまったんだ」
同じカウンターに座っている無精髭を生やした男が話しに入ってきた。かなり酔っている。
話に乗ったらいろいろしゃべってくれるかもしれないと思い、アルトは話を合わせた。
「どんな事件なんですか?」
「なんでもよ――……」
 話を整理するとこうだ。5人の人間の失踪。5件の殺害が行われたと思われる血まみれの現場。死体はなし。人間離れした力による鉤爪のような傷。
ここまで聞けば考えるまでもない。DICだ。
 これだけ騒ぎになっていれば、ギリシャ支部が聞きつけて、ヨーロッパ地域本部にターミネーター派遣要請を出してると思うのだが。
でも解決は早いに越したことはない。早ければそれだけ犠牲者の数も減る。
それにアルトもすぐにターミネーターになるのだ。ここでDICの1体や2体、倒しても問題ない。
「なんだか外が騒がしいね…」
マスターが窓から外を覗く。
 レストランに若い男が新たに1人入ってきた。カウンターに座る。
「いらっしゃい。外が騒がしいけど、何かあったのかい?」
マスターが彼に尋ねた。
「またファントムの野郎さ。すぐ近くの港倉庫だよ。今回も死体はないらしいぜ」
「またか…。これで被害者は6人だね」
「まったく、冗談じゃねぇぜ。とんだ殺人鬼が現れたもんだ」
酔った男が再び会話に入り込む。情報収集はもう充分だった。
「マスター、どうもごちそうさまでした。おいしかったです」
「今日は宿をとるんだろ?」
「はい。そのつもりです」
「気をつけるんだよ」
「はい、ありがとうございます」
「殺人鬼に殺されんなよぉ〜」
代金を払って、店を出た。たしか、この近くの港の倉庫だと言っていた。
これ以上被害者を出させはしない。そう決意してアルトは港倉庫へ歩き出した。


  第4章 3節:容疑者アルト=ナイトウォーカー - 翼無き天使 (男性) - 2008年01月14日 (月) 23時55分 [739]   

 西区港倉庫の裏路地。今回の事件現場はそこだった。
今回も今までと同様、死体のない現場に血まみれの地面。あちこちにひっかき傷。
勢いで現場に来てしまったものの、おそらくわかることは今までと大差ないだろう。
「くそっ、何なんだこの野次馬どもは!」
ロバートは群がる人々を掻き分けながら現場へと進む。
「ロバート警部、血の乾き具合からして、さほど時間は経っていないと思われます。それとこんな物が落ちてました」
部下が寄こしたのは小さな拳銃だった。あちこちに血が付着している。まだ完全に乾いてない。
「犯人の凶器か?」
「おそらく被害者の物じゃないでしょうか。今まで事件で銃が使用されたことはありませんし、ファントムを怖れて銃を所持する者も少なからずいます」
「ふむ」
ロバートも納得する。
「例え犯人の物でも、これはおそらく凶器になってないと思われます」
「…どういうことだ」
「この程度の大きさの銃なら、人間を撃った場合、ゼロ距離でもない限り弾は貫通せずに体内に残ります。ところが現場には、この銃に装填可能な6発分の薬莢と弾丸が血痕の付近に全て落ちていました。つまり、弾は誰にも当たってないんです。弾丸に血液の付着もありませんし」
「弾丸は全て地面に落ちていたのか?」
「はい」
「ふぅむ。つまりこういうことか?被害者は犯人に襲われて、身を守るために銃を発砲。ところがそれは犯人には一発も当たらず、かといって周りの倉庫なんかの壁にも当たらず、そのまま地面に落ちた…」
「不思議ですね」
「んなことあり得るか!」
「しかし弾丸は変形してますから、何かしらには当たったはずです」
「それじゃああれか?被害者が撃った弾は全て犯人に当たったが、弾丸は体内には食い込まず、地面にポトポト落ちた…とでも言う気か?もっとあり得ん。化け物じゃあるまいし」
「ですよねぇ。あ、でも服の下に鉄板でも仕込んでおけば…」
「頭撃たれたらどうすんだ。即死だぞ」
「そうか。被害者は6発も撃ってますしね……」
「とにかくこの銃と弾丸、あと薬莢は鑑識に回せ」
「はい」
全くわけがわからなかない。銃が効かない?そんなことが起こり得るはずがない。
発砲したのが犯人でも被害者でも、当たったのなら弾丸と薬莢の数にズレが生じる。外れたのなら弾が地面にポトリと落ちてるわけがない。
それに、またしても死体がない。なぜ持ち去る?未だに容疑者すら挙がってこない。
「ちっ、このままじゃお宮入りだぞ……」
ロバートは歯ぎしりしながら呟く。
そんな焦るロバートに銀髪の少年が目に留まった。見ない顔だった。
「なんだあの小僧は。勝手に現場に入りやが……」
ロバートの頭の中で何かが閃いた。いや壊れたといった方が正確かもしれない。
「怪しい、怪しいぞ!犯人は現場に再び戻るというケースもある。証拠隠滅か!?こちとら何の手掛かりもないんだ。こうなったら怪しい奴は片っ端から任同かけて、何が何でも犯人を見つけ出してやる!!」
閃きとは程遠いやけくそ状態であった。
「おい!フランツ!あの小僧に任同をかけて署まで引っ張ってこい!」
「はい?しかし警部、まだ子供ですよ?」
フランツは戸惑いながらロバートと少年を交互に見た。
「いいから連れてこい!何の手掛かりもないままじっとしてられるか!怪しい奴は片っ端から取り調べる!」
「りょ、了解しました」

 DICに通常の武器は通用しない。不思議なことは何もない。銃を撃って、DICに当たり、そして地面に落ちたのだ。
さっきの刑事の予想は見事的中だった。しかしDICを知らない人にはこの考え方ができないのも無理はなかった。
ダークマターで構成されているDICにダメージを与えることができるのは、エターナル・フォースを宿す殲滅者だけだ。
 警察ももう引き上げるようだったので、アルトは少し現場を覗いてみようと思い至った。現場を囲むロープの下をくぐって、血だまりの所まで行った。
死体がないのはDICによって捕食されたから。何をどう考えてもこれはDICの仕業で間違いない。
 不意に後ろから声をかけられた。振り返ると目の前には若い刑事がいた。
「あ、すいません。勝手に現場に入っちゃって。すぐに帰ります」
何気ない風を装ってその場を去ろうとする。しかし刑事はアルトを引き止めた。
「ちょっと署まで同行してもらえるかな」
「…………はい?」
なんとも不吉な予感がした。







Number
Pass

ThinkPadを買おう!
レンタカーの回送ドライバー
【広告】楽天市場から大感謝祭を開催中エントリーお忘れ無く
無料で掲示板を作ろう   情報の外部送信について
このページを通報する 管理人へ連絡
SYSTEM BY せっかく掲示板